地球。
あの夜から月日が経ち、パンは体調を崩して病院に入院していた。
医者の診断で、妊娠していることがわかった。
俺はパンのお見舞いに病室へやってくる。
「コソット様」
ベッドにはお腹の膨れたパンが横たわっている。
「大きくなったな」
「はい、順調に。この分だと、もう直ぐ産まれるみたいです」
「そっか」
「お医者さんは女の子だと言ってました」
パンに似て気が強いのだろうか……。
「この子、コソット様の能力を受け継ぐのでしょうか」
パンはお腹に手を置いて言った。
「え?」
俺の能力を受け継ぐということは、生物の体を乗っ取り、その生物の洗脳ができるのだろうか。そして、21号や、俺が持っているあらゆるスキルを手に産まれてくるのか。
「ぐっ!」
パンが苦痛に顔を歪める。
「どうした?」
「お腹が痛い……!」
俺はナースコールを押す。
看護士が飛んできた。
「どうしました?」
「お、お腹が……」
看護士は通信機で医師を呼ぶ。
医師はパンの状況を見て陣痛だと判断した。
パンは必死に痛みを堪え、赤ちゃんを産み始める。
長時間の痛みの末、無事に赤ちゃんが誕生した。
「おぎゃあ! おぎゃあ!」
赤ちゃんが元気よく泣く。
「コソット様、私たちの子ですよ」
「ああ」
「名前、つけないといけませんね」
「そうだな。ピーチなんてのはどうだろう?」
フルーツだからピーチは安直すぎるか。
「いい名前ですね。今日からこの子はピーチです」
新たな生命ピーチ。
彼女は一体どんな子に育つのか。
「コソット様、退院の手続きをしてもらえますか?」
「え、今は体力が落ちてるから休んだらどうだ?」
「私、元気ですよ?」
「サイヤ人だもんな」
その時、ピーチが喋る。
「サ・イ・ヤ・人?」
「え?」
「カアアアア!」
ピーチが爆発波を放ち、辺り一帯を吹き飛ばした。
「やめなさいピーチ!」
「どういうことだ?」
ピーチは床に降りて立ち上がった。
「久しぶりだな、紛い物よ」
「え?」
「この俺を覚えていないのか?」
「まさか……! お前はベビーか!?」
「思い出したようだな。意識体だけになった俺はこの赤子の意識に乗り移って生まれ変わったのだ」
「なん……だと……?」
パンが驚く。
「なんですって!?」
「ふん。貴様など恐るるに足らん」
ピーチは目を丸くした。
「ほおう?」
「喜べベビー。貴様の全宇宙ツフル化計画はこの俺が着々と進行させている」
「なぜだ。敵であるお前がなぜ俺に協力する?」
「別にお前と敵対するつもりはないんだが、結果的にそうなってしまっただけだ」
それで、と続ける。
「お前はその体から出て行かないのか?」
「それがこの赤子の意識と結合してしまって出ることができないのだ。仕方がないので、今から私はピーチとして、パパとママの娘として暮らすことにするわ」
一体何をしにきたんだこいつは。
「あんた、私たちに従ってくれるの?」
「子どもが親の言うことを聞くのは当然じゃなくて?」
それはそうなんだが……。
「それと、私のことはピーチと呼ぶこと」
「わかったよ、ピーチちゃん」
だがパンは納得いかないようで。
「コソット様、こいつを受け入れるんですか?」
ピーチはパンを円らな瞳で見つめる。
「そんな目で見つめないで……」
困惑するパン。
「ママは私のことが嫌いなのね」
ピーチはそう言って目に涙を浮かべる。
「う……」
「パン、諦めろ」
「でも……」
パンは受け入れることができなかった。
「ピーチ、お前の能力はなんだ?」
「私の?」
ピーチはジェル化する。
「ジェル化はできるみたいね。たぶん、細胞に侵入することもできると思うわ」
「私のピーチがベビーだなんて嫌だわ」
「ママ……」
ピーチは悲しそうな表情でパンを見る。
「あんたなんかにママなんて呼ばれたくないわよ! ピーチを返しなさい!」
「酷い。私、ピーチなのに……」
「ピーチのフリしないで!」
ピーチは俺の後ろに隠れる。
「ママ怖い……」
こいつ、もしかしてピーチの意識も混ざってるのでは。
「私、無理だから」
「ママ……?」
「ママって呼ばないで! 次呼んだら殺すわよ!」
「パン、いい加減にしろ!」
「……!」
パンは俺の怒号にびっくりする。
「コソット様……」
「教えてやる。こいつにはピーチの意識も混ざってる。完全なベビーではないぞ」
パンはピーチを見る。
「本当に、ピーチもいるの?」
「そうだよ、ママ。私、ピーチだよ」
「嘘よ……。信じられないわ」
俺はピーチの方を向きながらしゃがんだ。
「いいかピーチ。お前はベビーとしてママの信用を取り戻せ」
「パパが言うならやってみる」
「ところで……」
辺りはすっかり瓦礫の山になっていた。
「ごめんなさい、パパ。私、サイヤ人って言葉に反応してつい……」
「案ずるな。お前のせいじゃない」