ダンジョンに呪術師が転生するのは間違っているだろうか 作:矢瑠気雑子
設定とか少し無理やり感あるところもあるかもしれませんが、良ければ暖かく見守ってもらえると嬉しいです!
それでは初回結構長く書いてしまいましたがどうぞ!
12月24日─この日、数多の強者の血痕が新宿を染めた。現代最強はその人生に幕を閉じ、雷神もまた、己の全力を賭して史上最強─両面宿儺に挑んだ。だが、宿儺はそれを容易く食らった。宿儺にこれまで挑んだ者たち、大地を司る特級呪霊、五条悟に並ぶ才能の原石、次代を担う呪術師たちら全てを宿儺は喰らいつくした。
絶対的な強者。
決して誰も隣に並ぶことを許されなかった、それほどの力を持ってしまったが故の孤独。
五条悟ですら彼に愛を教えることは出来なかった。
ならば誰なら教えられるのか。
「憑霊の餓鬼が倒れ、目障りな小僧も限界を迎えた。五条悟が敗れた後はてっきり貴様が来るものだと思っていたが…まさかここで来るか、
乙骨の致命傷により彼の領域が崩れた。4本あるうちの一本を欠損させ、その鍛えられた強靭な肉体にはいくつもの傷があった。それでも宿儺の表情からは疲労感が感じられないどころか、むしろ笑みがこぼれていた。
新しい玩具を与えられた赤子のように、彼の眼は輝いていた。最強をそうさせる原因が、彼の目の前にいる。
やっと呪い合える。本日二度目の期待感。
「…こっちにも色々とやることがあったんだよ、宿儺」
「なんだ、あの反転術式の女との別れでも告げてきたか?」
「別れでもなければ硝子でもねえよ。なんでも恋愛に結び付けようとして頭お花畑かお前。全力で
「ケヒッ!そうか。五条悟も貴様も弱者に気を使わなければいけないのは気の毒だな」
「その弱者から学べることもあるし、そもそもあいつらは弱者じゃないよ」
「フッ、偽善者め。思ってもいないことを平然と吹くな」
「おいおい、俺の何を知ってるんだよ。俺はまあまあ優しいよ」
「そう道化を演じるな。貴様は偽善者だ、露月世蓮。五条悟を
「はっ!随分と俺を買ってくれてんだな、呪いの王様が。なら、もう話はこれくらいでいいか?」
「…ああ、良いだろう。貴様のその眼を見ればわかる。欲望と願望の籠った眼だ」
「はは、やっとだ。やっと俺はまた…頼むぞ宿儺。…悟と同じであってくれ、俺に全力を出させてくれ…俺を楽しませてくれ!俺と呪い合ってくれ!!!!」
「来い!露月世蓮!!」
「あはっ!あははははははははははははは!!!」
今ここに、五条悟に並ぶ最強─いや、現代最凶の特級術師・露月世蓮が両面宿儺に挑む。
地面を抉るほどの脚力で、まるで瞬間移動のように一瞬で宿儺の目の前まで接近する世蓮。一瞬にして彼の間合いに詰められた宿儺は、己の抱いた違和感の正体にすぐ気づいた。
(…!呪力が感じられん!)
その正体、それは世蓮から感じるはずの呪力が全く感じられなかったこと。以前にも、宿儺は世蓮の戦闘を虎杖越しではあるが見ており知っている。術式は使っていなかったが、確実に呪力は纏っていた。禪院真希のような天与呪縛で呪力がないわけではない。だからこそ不意を突かれて接近を許してしまった。
一体どのようなカラクリがあるのか、分析しなければといけないと思考していたその瞬間、新たな違和感が宿儺を襲った。
(!呪力が爆発的に膨れあがっ…!)
世蓮が宿儺へ拳をぶつけるその瞬間、摩訶不思議にも世蓮の呪力は爆発的に膨れ上がり、その拳は空間を歪ませ黒い火花を咲かせた。
「黒閃!!」
「ガハッ…!」
速度が合わさったその一撃に、宿儺は血を吐き出し数m吹き飛ぶも、くるりと空中で体制を整えた。
いち早く世蓮の姿を捉え、その姿に何かしらの変化がないか分析する。
背中まで伸びた美しい銀長髪に宝石のような紫色の眼、人形のように整った容姿はまるで天女のようで、一目では男性とわかる者はいないだろう。だが、その鍛えこまれた肉体が彼をいやでも男でありその中でも圧倒的強者だとわからせる。その彼の肉体を凝視する宿儺は、彼の手─正確には指先から滴る赤い液体を見つけた。
「…なるほどな。貴様、自傷行為による呪力解放の縛りを設け身体能力を上げていたか。
恐らく、他にも細かな縛りを科して疑似的な天与呪縛の女と同等の力を再現。
それにその指輪、呪具であると同時に仕込み針のような細工をしていつでも己の指を切れるわけか。面白い。それに狙いの物は得れたようだな」
「あはははは!疲れてんのかぁ宿儺!ここからが本番だぞ!」
「いいぞ魅せてみろ!貴様の全てを!」
「…術式解放──千變万化」
荒月世蓮と両面宿儺。二人の戦いはもはや天変地異と言っても過言ではないほど大規模なものだった。空からはまるで雨のように雷が宿儺めがけて降り注ぎ、大地が一瞬にして火の海へと変わったかと思えば、刹那の間に白銀の世界をその地に権限させた。そんな終末といえる世界の中心で嗤う人物がいた。
呪いの王VS現代最凶。両者ともにギアは上がり、戦場範囲を拡大し続けている。
最早味方の事など考えていない世蓮は、自身の術式の中で出せる広範囲、高威力の技を見境なしに使っている。
その光景はまさしく現代最凶という名にふさわしいと、その光景をただ見ているだけしかできない虎杖たち。
その彼らの瞳には、このまま勝てるかもしれないという期待と、次元が違いすぎることへの恐怖が込められていた。
割合は違えど、ほとんどの者が同じような思いを抱いている中で、その姿をモニター越しに見守る家入硝子だけは、別の感情を抱いていた。
(…ったく、あんなに楽しそうな顔しやがって。なにが悪いだあのアホ。…
ツゥーッと彼女に頬に雫が伝う。瞬きをすることも忘れ、ただ最愛の男の
「……馬鹿やろう…」
その彼女の横にはストレッチャーの上で眠る一つの人影。
美しい白髪に整ったその容姿は安らかに眠っている。先の戦闘で切断された肉体は綺麗に繋がっており、いつ目覚めてもおかしくない状態だった。
だが、今は決して目を覚まさないと誰もが分かっている。
これは縛りだ。
ある人物が倒れて初めて、彼の意識は覚醒する。
自死をトリガーに発動する術式効果と縛り。その呪術的センスは現代までにおいて並べるものはおそらくいないだろう。
「…もうそろそろ時間か。…おい宿儺、最後に見せてやるよ。あの世の手向けにしてけや」
お互いに疲弊しボロボロの状態でなお嗤う両者は、この楽しい時間が残り僅かだということをわかっていた。
故に、この瞬間に全力を出す。
残りの呪力全てを使って、己の世界をこの地に顕現させる。
同時に互いが掌印を組んだ。
「「領域展開」」
世界が塗り替わる。
果たして顕現する世界はどちらの心象風景なのか。
この最強VS最凶の決着は…。
「…ああ、終わりか。まあ悔いはないかな」
自身の傷だらけの身体を見下ろす。五体満足、だけど呪力も血液ももうない。
体感で死がもう目の前まで来ているのが分かる。
ある程度消耗してるからといって、あの完全体宿儺相手に五体満足なのは結構頑張った方じゃないか。
まあ、欠損してもすぐ反転しなきゃいけなかったんだけど。
…なんかあっという間というか、意外と早く死ぬな俺。
悟の馬鹿野郎、俺は最強だとか言ってた割にすぐ死にやがって。
ったく、これで
『貴様は偽善者だ、露月世蓮。五条悟を
宿儺の言葉が頭の中で木霊する。
……クソが。お前に言われなくともわかってるんだよ
…自覚はあった。俺は…悟を孤独にした。
押してはいけない背中を押してしまった。
傑が俺らを置いてった時に、それがどれだけ残酷で悲しく寂しいことなのかを学んだはずなのに。
俺には二人に並ぶ覚悟がなかった。
だから代わりとして、償いとしてひたすらに任務を受けた。
休息なんて捨ててただひたすらに、呪霊も呪詛師も限らず殺した。
それでも、この罪からは逃れられなかった。
当たり前だ、俺には役割がなかったのだから。
傑のように
悟のように生徒たちが生きる
そんな決意もなにもなかったから。
だから、最後ぐらいは俺も選択することにした。
俺が死んだ後の事は全部硝子に任せてあるし、何かあったらあのバカがなんとかするだろ。
さて、優太が犠牲になって怪物にならないように、「見つけました」…あ?
「…随分とはしゃいでたな。年甲斐もなく」
「…はは、最後にこれは最高だな、憂憂に感謝だ」
「そうだな、そしてお前は私へ死後もずっと懺悔しながらも感謝しろ」
「…わかってる。ごめん」
「謝罪はいらん。もう割り切ったことだ。お前の残してくれた財産のおかげで、私も
「…いい子は未成年喫煙しないとお「ふっ!」ぼべばっ!!…おい、俺一応瀕死なんだけど!?」
「…そんなことを言える奴が瀕死なわけあるか。せっかくなら本当の瀕死を味わってみるか?」
「おい…洒落になってないからやめろ」
まさか瀕死状態の相手の腹思い切り殴るとは思わなかった。もしかしたら宿儺よりおっかないぞ
「…本当にやるのか」
「……あぁ、硝子やみんなが生きる未来には、まだあのバカが必要だ。本人がどれだけ満足していたとしても今はまだ駄目だな」
「…私の、私たちの未来にはお前が必要だ。なのに、お前は、世蓮は私たちの前からいなくなる。
…五条を独りにしたのに、今度は私たちを独りにする」
「…っ」
硝子の頬を静かに伝うそれを、重くだるい腕を上げてそっと指で拭った。
彼女の美しく触り心地の良いその肌を、まるで壊れ物かのようにそっと、けれど脳裏に焼き付けるように触れる。
「……ごめん、こんなこと言いたいわけじゃなかった。世蓮の想いも覚悟も全部わかってる。
その方法しかないって、私を、みんなを、未来を護るためにはこの選択しかないって。
私が悪い、私はまだ選択できてなかった。覚悟が出来てなかった」
「…硝子」
「世蓮、夏油、五条、あんたら三人がバカやってるあの日常をただ眺めてるのが好きだった。あんたらは平気で私を巻き込んで、灰原や七海、歌姫先輩にも無理やり絡んで、それを冥さんが面白がって、それを夜蛾先生が上手く逃げた冥さん以外の私たちを怒って、そんな毎日が大好きだった。でもあの日、夏油が出ていった日を境に、みんなバラバラになって、こんな簡単に日常が壊れるんだって思った。
怖かった。
どんどん私の日常が壊れていくのが」
「…うん」
「五条や世蓮、高専の子たちが、みんながこの戦いでいろんな選択をしていく中で、私だけがなにも選択できてなかった。置いてかれてた。覚悟が出来てなかった」
「うん」
「…でも、……今やっと私の番だ」
「…ああ」
「私はあんたが選択し護り残したここにいる全員、誰一人もう死なせない。そして皆と一緒に私の中にいるこの子の未来を、世界を護る。それが最後まで残った私がする選択であり、覚悟だよ」
決意を固めた強い眼が俺を見ていた。
この強い眼を俺は知ってる。悟も傑も何かを選択した時よくこの眼をしてた。
なんなら乙骨も宿儺もしてたな。
最強と呼ばれる者だけが持つ、それを象徴させる眼だ
はは、なあ悟、傑、やっぱり俺らの学年は
「…ありがとう硝子」
「ふっ、いい女だろ?誇れ」
「…ああ、世界一いい女だ」
「…うるさい、ばか」
「はは、幸せ者だな俺は」
本当に幸せ者だ。本当に……
さて、もうそろそろ時間だな。あの
自身の指にはめている指輪に呪力を流すと、まるで眠りから覚めたかのように光り輝く。
指輪にもともと溜めていた俺のマックス量以上の呪力が流れてきた。
なにもしていなければ、この呪力なら反転を回してもう一戦、全快でできるだろう。
だが、そんな選択肢は最初からない。
俺は呪力を自身の急所たる胸の中心──心臓に集める。
これから行うのは俺の術式の解釈を最大限広げて創った、一回限りの大技。
領域展開を除いた生得術式の奥義である極ノ番に似ているであろう技。
膨大な呪力エネルギーが胸の中心に集まると、金色に輝きその光が収束して一つの球体へと形を変えた。
キラキラと溢れながら輝くその球体を両手でそっと優しく包む。
どこか安心感を抱かせてくれる、とても優しい暖かさだ。
準備は整った。もういつでも
「…綺麗だね」
「これは要は膨大な正の呪力エネルギーを凝縮したようなものだからこんなに光ってるんじゃないかね。
初めてやるからどんな風になるかわからなかったが、そんな表現が一番近い気がする」
「なるほどね、納得」
「それじゃ…もうそろそろいくよ」
「…うん」
「悟が起きた後の事は任せた。一応話はしておくけど」
「わかった。あのバカを速攻で戦わせて、さっさと終わらせてもらうよ」
「はは、頼んだ」
「……ねえ、世蓮」
「…ん」
「…たくさんの幸せをくれてありがと。私はあんたと出会ってからずっと幸せだった」
「ああ、俺も硝子に会えてずっと幸せだった」
「…今もそしてこれからも、私は世蓮のおかげで幸せだよ。だから安心して」
「ん、良かった。それなら安心だ」
正の呪力を包んでいる手をそっと握ると、大量の光が漏れ溢れ、部屋を満たしていく。
「硝子……大好き、愛してる」
「…獄ノ番─
強い光が世蓮達がいる部屋を包み込むと、世蓮は全身の力が抜けていき、そのまま意識を手放した。
目を覚ますとそこはどこかの空港だった。
だだっ広いその空間に本来いるはずの人だかりは全くなく、ただ一人フラフラと散歩するように歩いていく。
「ここが死後の世界なのか?死後って空港なのか?それとも天国生きの便と地獄生きの便でもあるってか。現代に寄りすぎだろあの世は…ん?どっかから声が」
ぶつぶつと文句をたれながら先に進んでいくとなにやら人の声がしてきたため、そちらへと足を進める。
やたら騒がしい…けれどなぜかその騒がしさがどこか
「学長ー!呪術師に悔いのない死なんてないんじゃないんですかぁ!?」
はは、いた。
あの馬鹿野郎だけでなく、なんだか懐かしい顔ぶれがこんなところでも揃っていることがなんだか嬉しい。
どうせなら驚かせてやろうか。
俺は術式を使ってあの馬鹿どもの前に一瞬で移動した。
「面白い話をしてるじゃないか、俺も混ぜろよ…馬鹿ども」
─世蓮が来る少し前─
「……楽しかったな」
「宿儺は僕に全てをぶつけることができなかった。そこを申し訳なく思うよ」
「……妬けるねぇ、でも君が満足したならそれで良かったよ」
「……満足ね」
「…………背中を叩いた中にお前がいたら満足だったかもな」
「……ははっ」
「でも私の分も世蓮が叩いてくれただろ?私の分はあいつと一緒に乗せたさ」
「あー…いやあいつは叩いてねえな」
「……マジ?」
「マジのマジ」
「なんで?」
「知らねえよ。行くときに硝子の隣にいたの見えてたし、俺が死ぬと見越してなにか準備してたわけでもなさそうだったし」
「…うーん、謎だね」
「まあいいけどさ、なんか二人には申し訳ないことしちゃったな」
「…また何か二人に迷惑をかけたのかい?君は学生の頃から私たちに色々と面倒をかけてきたけど、まさかこの歳になってもそんな子どもみたいなことを…」
「ちげぇよ!二人残しちゃったことにだよ!高専時代からの付き合いがどんどん減っていくのはきついでしょ。
硝子はともかく、世蓮はああ見えてちょ~寂しがりなんだからさ」
「硝子も十分寂しがりだと思うけど…まあそうだね、世蓮は気を許した相手にはとことん甘かった」
「そーそ、それに俺と似て…いや、俺以上に対等な存在に飢えてた気がする」
「…君以上にかい?」
「あぁ、俺以上に。あいつさ、気づいてないのかもしれないけど、傑が高専出ていった後、俺と接するときめちゃくちゃ申し訳なさそうというか、なんか一線引いてたんだよね」
「引いていたってどうして?」
「多分俺を
「何って、世蓮は別に友人に対して粗相をする奴じゃないだろ。悪ふざけにはいつも乗ってたが。そんな彼が君に負い目を感じている状態で戦うって…まさか」
「そ、あいつあろうことか俺が気づくまで
「十種影法術の虎の子か。聞いた能力であれば、確かに世蓮は相性がいいね。手数が多い術式であれば有利な気がする。それで、そのあとはどうしたんだい?」
「もちろん問い詰めて本気で殺り合ったさ。あいつが抱えてるもん全部吐き出させてね」
「そうか…結果は?」
「もちろん俺の圧勝!…てなわけでもなく、ほぼ相打ち。かろうじて俺が勝ったけど、そもそも俺の術式と世蓮の術式はこっちに分があるからね。ただ、領域の押し合いになったら無理。あれは多分
「!!…君にそこまで言わせるとは、私の親友たちはみんな化け物だね。悔しさすら感じるよ」
傑はどこか悔しそうに自身の手を握る。
「…私からしてみれば、あなたたち全員漏れなく化け物でしたよ。比べれば比べるほど自分の弱さが浮き彫りになって嫌になる」
「僕はそんな先輩たちが頼りになってありがたかったけどね!」
「七海も灰原も私からしたら、十分頼りになってたよ」
五条、夏油、七海、灰原といったかつての高専生たちが空港で揃っていた。
かつての話からそれぞれの生前の話、色々な話が繰り広げられていた。
「学長ー!呪術師に悔いのない死なんてないんじゃなかったんですかぁ!?」
悟は自身の前に座る夜蛾学長にそう告げる。みなが死後の世界でわずかな休息を楽しんでいる。
そんなところに、本来では招かれざる人物が来た。
音もなく突然と現れたその人物に、皆はただ唖然とするほかなかった。
「面白い話をしてるじゃないか、俺も混ぜろよ…馬鹿ども」
美少女と見間違う程の中性的で整った容姿と美しく長い銀髪を靡かせるその姿はどこか神秘的な雰囲気を纏っている。
「…なんでお前がここに来てるんだよ!世蓮っ!」
「なんでって、負けたからに決まってるだろ」
その世蓮の言葉に皆がただ唖然とした。まさか本当に…そう皆が心中に思う。
それを世蓮自身が皆の表情で察したのか、苦笑を浮かべた。
「いやいやそんな『まさかお前が!?』みたいな顔するけど、そりゃ昔の最強さんなんだから全然負けるよ。
現に現代最強さんも油断してザックリいかれたでしょ」
お手上げです、というように両手を上げて降参ポーズをする世蓮に、少しばかりイラつく悟。
「あんなノーモーションで空間ごと斬る斬撃なんて誰が予想できるんだよ!いくら縛りでうまくやったからって、そんなの空間司ってるパル●アさんも涙目でしょ!?」
「お前パ●キアさん舐めんな、あんなのパルキ●さんならノーリスクで打てるわ。
きっと彼ならやってくれるわ」
「…君たちはこんなところでなんて言い合いをしてるんだい…」
世蓮と悟、両者のまるで小学生のような言い合いに頭を抱える傑だったが、どこかその表情は暖かさや懐かしいものを見るような感情が含まれていた。
そんなのお構いなしに今もなおくだらない言い合いをしていた二人だが、突如悟の方から爆弾が投下された。
「それにお前!硝子はどうしたんだよ!子ども孕ませて死ぬってあいつが許さねえだろ!?」
"子ども”その言葉を聞いた瞬間、傑や七海、灰原に夜蛾までもが世蓮に詰め寄っていた。
「世蓮!まさか君は硝子との子どもを作ったにも関わらず、おめおめ死んだって言うのかい!?」
「世蓮さん、私はあなたがそこまで非情な人だとは思いませんでした…」
「ち、違うよ七海!世蓮さんにもなにか事情があったんだよ!うん、きっとそうだ!…と思う」
「…世蓮、呪術師ならばいつ死んでもおかしくないが、硝子との未来を見たのならお前は無理に戦わなくても良かったんじゃないのか」
4人が世蓮を見る。なかなかな言われように少し心が痛くなる世蓮だったが確かにどんな理由が在れどその選択をしたのが自分であることに変わりはないため、甘んじてその言葉を受け入れていた。
「まあ確かに硝子は俺との子を身ごもってるけど、これはもう硝子と話はついてるよ。いろいろ話してこの結果が最善だと思ったから。はぁー…やっと
「本題ぃ?ここに来て本題もくそもねえだろ」
「それがあるんだよ悟。俺が賭けたのはここからだから」
「「「「「…賭け?」」」」」
世蓮のその言葉に皆が一斉に首を傾げた。一体何だと。こんな死後の世界に来てまで賭けることなんかあるのかと。
考えられるのは、まだ生きている高専生たちになにか残してきたとかそういうことだろうか、と予想する。
それぐらいしかできないとある種の固定概念が共通認識になった。
だがそこで悟はあることを思い出した。
獄門疆の封印から解き放たれ、久しぶりに生徒たちと顔を合わせた時に、ある生徒が纏う雰囲気が劇的に変わっていたことに。
その生徒の名は禪院真希。天与呪縛で呪力を一般人程度しか持たない子。京都校に呪力量があまり多くない双子の妹がいる。
呪術において、一卵性双生児は同一人物として扱われる為に『何かを得るために何かを差し出す』という利害による縛りが双子では成立しない。
そのために妹が選択したのが、─姉である真希の呪力を全て引き取った上で自らの命を擲つこと─である。
そしてその呪力と自死の縛りによって、本来彼女ができるはずのないはずの高度な呪具の錬成を可能にしたのである。
その結果、双子という弊害がなくなった真希は、本来の可能性としてあった完全な
(世蓮の術式は俺が知るどの術式よりも
「まさか……お前!?」
「…ああ、悟。これからお前を蘇生させ、
"蘇生"その言葉を聞いた全員がその衝撃からか勢いよく立ち上がると、驚愕の表情を浮かべていた。
「蘇生って一体どういうことだい世蓮?君の術式は確かに様々な事象を引き起こすことに達けているのは知っているけど、死者を生き返らせるなんて理の外にある現象を引き起こすことが出来るのかい?」
「まあ正直簡単じゃなかった。自死の縛りにより増幅した呪力+コツコツと呪具に溜めてた俺の三か月分の正の呪力を掛け合わせてやっと可能にしたものだからな」
「まさかお前…それで宿儺に負けたわけじゃねえよな?」
「いや、どうかね。正直完全でも相打ちが良いところだったんじゃない?お前が負けた瞬間にこのプランをやるってのは硝子と決めてたから、そんな可能性の話とか考えてなかった」
「…なんで」
世蓮の話に純粋に戸惑う悟。なぜ自分のために自らの命を捨てるのか、世蓮には硝子や子どものために生きなければならない理由があったのに、と。
理解が出来ないというその悟の表情を察したのか、世蓮はめんどくさいという感情を前面に出しながら盛大に溜息を吐くと、悟の頭をガシガシと乱雑に撫でた。
「もうあまり時間がないから細かくは言わないけど…」
力強くまっすぐ悟の眼を見る世蓮。まるでなにかを訴えるように彼は真剣にでもどこか諭すように話た。
「お前は未来を育てる選択をしたんだろ。いろんなことを教えるために先生になったんだろ。だったらその責務を最後までやれ。未来を選んだ奴が過去に縋るな。俺は硝子とその子どもの未来のために、傑は呪術師の未来のために未来を選んでこの結果になった。なのにお前は一人ダラダラと過去を選んであとは託すだぁ?どこまで自分勝手だよ馬鹿野郎が。だから俺はお前を生き返らせて無理やり未来を選ばせる」
「…勝手過ぎんだろ」
「勝手で結構!むしろお前がそれを言うか。そもそも、虎杖は死ぬ覚悟が出来ていたのにお前が若者だから~とかなにかあっても僕がいるから大丈夫とか言って今の結果を招いたんだろ。生徒たちに勝つさとか言って。なら責任取って勝ってこいよ。勝って、最後まで生徒の面倒見て、呪術界を変えて、硝子たちが安心できるようにしてくれよ。勝手に俺と傑の想いもお前に託してるけど、それはまあついでってことで。
まあいろいろ悟には押し付けてきたから少し申し訳なさが残るが、まあいいでしょ。
というわけで、さっさと生き返ってあの多眼カイ○キー倒してきな」
ポンポンっと再度軽く悟の頭を撫でた世蓮。
その身体は内側から淡く光りはじめると悟はどこか泣きそうな顔で世蓮を見上げていた。
世蓮の身体はまるで光輝く綿毛のようにポロポロと崩れ始めていく。
「あはは!何をそんな捨て犬みたいな顔してるんだよ。これは俺が選択したことなんだからお前はさっさと行ってこい。俺は先にいってるから各々ゆっくりしてこいよ」
世蓮は悟だけでなく傑や七海、灰原、夜蛾を順番に見る
「夜蛾セン、あなたが俺の先生でよかった。いろんな大人と出会ってきたけど、俺はあなたが一番好きな大人でしたよ。悟や硝子がアホやってたら拳骨の呪いでも降らしてあげてください。ほんとお世話になりました」
「ふん!こっちはだいぶ手を焼かされた。が、お前らは俺が見てきたどの呪術師よりも優秀でありそれと同時に誰よりも運命に縛られていたと思っていた。色々と背負わせたな、不甲斐ない大人で悪かった。
今まで、よくやってくれた。ありがとう、ゆっくり休め」
「灰原、正直俺はお前が呪術師に向いているとは思えなかった。お前はいつまでも可愛い俺の後輩だ、だからこそもっと早くに残酷にでも前線を退かせるべきだった、悪かったな」
「いえ!僕は僕がやりたいようにやっただけですし、露月さんには妹の事で色々お世話になったのでこちらが感謝をすることはあれど謝られたりってのはないですよ!頼りになる優しい先輩でした!今まで本当にお世話になりました!」
「七海、お前には苦労を掛けたな。何度も助けられたのに俺はそれを少しも返すことが出来なかった。不甲斐ない先輩で悪かった」
「灰原も言っていましたが、私も貴方には大変お世話になりました。確かに五条さんの悪ふざけに乗っかる時はかなりめんどくさかったですが、それでも貴方は影で私たちのサポートや危険な仕事を積極的に引き受けてくれていたのを私だけでなく、多くの呪術師や補助監督の皆さんが知っています。信頼も尊敬もしています。なので世蓮さん、本当に今までありがとうございました。ゆっくりお休みください」
「傑、お前には色々と迷惑をかけたりかけられたりとあったが、まあ面白かったよ。お前がなんであんなことをしたのかって理由も、お前の根っこの優しさを知っているからこそ
「…私はどんどん前を行く君たちに劣等感を抱いていた。隣に並んでいたはずなのに気づけば離れていく君たちの背を私は直視することが出来なかった。そしてなによりこの終わりのない戦いに一体なんの意味があり、誰のためにやっているのだろうかと疑問を持ってしまった。勝手に孤独だと思い込み、感傷していたんだよ。
今思えば、私が相談すれば君も悟も話を私に手を差し伸べてくれただろう。ただそれを勝手に切り捨てたんだ。
過去を捨て拒絶し諦めた。そんな私は、君たちから親友と言ってもらえるようなそんな良い人間ではないよ。
だから世蓮が謝ることはない」
どこか切なそうに、その胡散臭い前髪野郎は嗤った。苦しそうに、悲しそうに、どこまでも壁を作る彼に世蓮の堪忍袋の緒が切れた。
「…いい加減にしろよクソ前髪…」
「…え?」
「いい加減にしろって言ってんだよ悲劇のヒロイン気取り野郎!なにが『君たちから親友と言ってもらえる人じゃない』だよふざけんな!お前何様だ?教祖様歴が長すぎて自分が神にでもなった気でいんのか?!てかこのムードで否定してくんなよ時間ねえんだよばーか!」
「な、な…」
「言語機能おかしくなってんぞ教祖様!いいか!時間がねえから手短に言うけどな、まず大前提でお前は俺らの知る親友の夏油傑だ。どこまでも弱さに寄り添い守り暖かい優しさを向ける高専から変わらない夏油傑だ。過去を切り捨てたから親友でもなくなったってどんなルールだよ阿保らしい。いつまでも壁作って逃げてんのはお前だろ!
もう死んでるんだし、何よりお前が出ていっても俺らは一度もお前を親友
だからお前次第だ傑!お前は俺らとどうなりたいんだよ!?」
"どうなりたい”か…私は村を消し高専から消えたあの日、もう私は彼等とは関われないと思っていた。当然だ、
特に世蓮は私が出ていってから、宣戦布告で高専に訪れるまでの数年間、一回も顔を合わすことはなかった。
そして宣戦布告を行い迎撃を防ごうと生徒たちを呪霊で囲んだ瞬間、任務帰りだったのだろう空からゆっくりと降りてくる世蓮は私の放った呪霊を全て一瞬で祓いきった。まさに一瞬だったそれに改めて力の差を見せつけられた気がした。あの時の私を見る世蓮の眼はどこまでも鋭くそして冷め切っていて、だけどどこか別の感情も感じられた気がしていた。あの時の私は、もう戻ることはないと割り切っていたから、気づかなかったが今になってあの時の疑問が晴れた。
彼は、世蓮はあの時もまだ私を親友だと思っていてくれてたのだろう。思えば死ぬ間際に悟に言われた言葉もそうだ。悟も世蓮も、彼らを捨てた私の事を、あの青い日々と変わらず親友だと想っていてくれていた。
私が一方的に目を背け逃げていただけで…。
だから許されないと思っていた。もうこんなことを望んではいけないと思っていた。
でももし、一つ許されるのなら私は…
「私は…許されることなら君たちとまた親友でいたい。隣で並び合い笑っていたい」
「…ん、許すも何も最初から親友のままだし、別に何も変わんないな。お前の声が聞けて俺は満足だよありがとう」
大粒の雫を流す傑の頭をガシガシと乱雑に撫でる世蓮。本来ならあの青い日にやらなければいけなかったこと。見れなければいけなかった光景が約十年後に見れた、それだけで世蓮は満足そうに笑った。
「んじゃ最後に悟。って言ってももう色々言ったから少し。
「…もういいってそれ。押し付けたとか託すとか。宿儺戦前の手合わせでも嫌って程謝られたしそんなこと気にする器でもないしね。だから、今度は別の事を言ってよ」
「…はは、敵わないな」
「当たり前でしょ?だって最強だから」
「そうだな。…悟、今までありがとう。先に待ってるから、硝子と傑と一緒に後から来てくれ。そしていろんな話を聞かせてくれ。待ってる」
「…はいよ。このGLG五条悟に任せなよ。だから、先に待ってろよ世蓮」
「…ああ、またな親友ども」
崩れていく身体はまるで光の粒子のようにキラキラと輝いて天高くまで登っていく。
導かれるように、一つの道を作って
軌跡を残して登っていく
その方角は果たして北か南か
まるでそれは運命のように輪廻の輪に乗り
呪いのように廻っていく
長い話を読んでいただき誠にありがとうございました!
これ以降は一話ずつの量を少しずつ減っていくと思いますのでよろしくお願いいたします。