ダンジョンに呪術師が転生するのは間違っているだろうか 作:矢瑠気雑子
私の余裕が出来次第、コメントの方もお返事していきたく思います!
今回は区切りの問題で少し短いですが、どうぞ!
「…本当に良かったの?」
「うん、良いんだ…あの子にとっては文字通り第二の人生だ。後悔のない人生を歩んでもらいたい」
時は数時間前に遡る。
ヘスティアが世蓮をファミリアに勧誘した時、その答えは残酷にもすぐに出た。
「…誘いは嬉しいが、断らせてもらう」
「え……」
「ちょ、ちょっとセレン!あなたちゃんと考えたの!?」
「ああ、ちゃんと考えたからまあ聞いてくれ」
世蓮はヘスティアとヘファイストスをそれぞれ落ち着かせてから、答えの理由を説明する。
「まず確認だが、ファミリアとは主神と眷属がほぼずっと一緒にいる、いわば家族のようなもので間違いないか?」
「…そうね。基本的には入ったファミリアに永続的に所属することになるわ。やむを得ない事情とかがあればその時は
「そうか、まあつまりはそれが俺にはできないということだ」
「で、できないってどういうことだい?」
「お前らは俺と同じように異世界から来た者は知っているのか?」
「ぼ、僕は知らないか…な」
「私も聞いたことがないわね」
「ということは俺という存在自体がイレギュラーだということだ。ならば今後俺がどのようになるかは分からないということ」
「ど、どういうことだい?」
「いくつかの懸念材料があるということだ。例えば俺の存在が突然この世界からはじかれる可能性」
「…はじかれるですって?」
「いわば世界が異物として認定し消えるかもしれないということだ。何があるかわからないというならこの可能性も存在するだろう。俺は中途半端に神ヘスティアの家族になるつもりはない」
「せ、セレン君、君は…」
「そして次に、お前たち神が未知というものに飢えており、それを満たすためならどんなことでもする可能性があるのだろ?」
「…否定はできないわね。私たち神が下界に降りてくる理由はさまざまよ。でもほぼ大半の神がその胸に抱くのは…永劫の時を生きる私たち神が知らぬ、前代未聞の完全未知。それが
「そうか。やはり傍若無人だな。ならばやはり答えはNOだ」
「理由を聞いても?」
「先ほどの理由と一緒だ。神ヘスティアに迷惑をかける。恐らくだが、下界にいる神々が焦がれている〈未知〉は俺が当てはまるだろう。お前らが知らぬ世界で生き、この地に生前の記憶を持ってやってきた者。聞いただけで興味が出るだろ。つまり俺の身元がバレでもしたら他の神たちは自分たちの眷属を使ってでもちょっかいをかけてくる。そんななか、この世界での戦いも知らぬ俺一人で神ヘスティアを守り抜くことは難しい。だからこそそんな責任は取れないから、俺はここを離れこの世界を見てくる。もしこの世界が俺の新しい人生になるのなら、まずはこの世界を知りたい、知ってそのうえでこれからの事を考えていきたい。だから俺は神ヘスティアの眷属にはなれない」
俺はまっすぐにヘスティアへと目線を合わせた。彼女たちから聞くに、俺が気絶しているところを彼女たちが保護しここまで面倒を見てくれたらしい。正体不明の相手に対してここまでしてくれたのは正直言って感謝しかない。ただ、だからこそ、これ以上迷惑はかけられないと思った。生前の力が出せるのなら、まだ少しは守れるかもしれない。だが、それは正直難しい。不確定要素が多い状態で恩人、いや恩神を危険に合わせたくない。それに俺はこの世界をもっと知らなければいけない。
無知は命取りだ。知識や情報とはそれがあるのとないとで全く違う。この世界の常識と俺の常識が少しでも違えば、地の利があるこの世界が有利だ。だったら、俺は少なくともこの善意の権化みたいなやつらとは離れた方が良い。
「…あなた、それって」
「せっかくのお誘いなのに悪いな」
「…ううん、僕も突然こんなこと言ってごめんね」
「いや、正直誘いは嬉しかった。ありがとう」
「…ぼ、僕の方こそ君と出会えて嬉しかったよ!ケガとかには気を付けて、何かあったらいつでも会いに来ていいからね!」
「ああ、ありがとう。…それじゃ、すぐに出るよ」
「…うん、わかった。何度も言うけど気を付けて。…いってらっしゃい!」
ゆっくりとヘスティアの手が世蓮の方へと差し出される。わずかに震えるその手を、世蓮は優しく包み返した。
「…あぁ、行ってきます」
手をつないだ瞬間、わずかに世蓮の表情に変化があったが、それに気づいた者はいなかった。
それを最後に世蓮はヘスティアたちの部屋から出ていったのだった。
そうして時間は世蓮が出て行った数時間後へと戻る。
「でも、…あなたは本気だったんでしょ?」
「…ああ、本気だったよ。こんな気持ちは初めてだったから。でも、それがあの子を縛って良い理由にはならないよ。なんかね、意外と安心というか嬉しかったんだ。この世界を見てみたいって言ってくれたことが。あの子がこの綺麗で楽しい世界を楽しんでくれようとしてくれているのが、…僕はすっごく嬉しかったんだ!」
「…ばか。……そんな笑顔、神じゃなくてもわかるわよ」
「あははは…でも、あの子の前ではちゃんとできてただろ?」
「えぇ、いつも通りのヘスティアだったわ」
「それならよかったよ!…なんか安心したらお腹すいてきちゃったや!」
「…確かにそうね!外に行きましょ。ジャガ丸くんでよければ奢るわよ」
「本当かいヘファイストス!やっぱり持つべきものは親神だね!」
「はいはい、ほら、行くわよ!」
「わわ!ちょっとまってよヘファイストス~!」
二柱は仲良く外へと買い物へ出かけて行った。
だが彼女たちはすぐに思い知らされることとなる。
今のオラリオがどのような時代を迎えているのかを。数分前まで自分たちがいつもの平和な日常だった場所が一瞬にして戦場になることを。
そして、自分たち神が知らぬ異界から来訪せし人間の、異質ともいえるその力を。