ダンジョンに呪術師が転生するのは間違っているだろうか 作:矢瑠気雑子
ヘスティアたちと別れ一時間ぐらい経った。
俺は現在、周囲を散策しながらオラリオを出るために壁門へと向かっていた。
現在、オラリオは暗黒期という、闇派閥という殺人集団が跋扈している平穏とはかけ離れた時期らしい。
確かに、ところどころで瓦礫の山があったり大小のけがをしている者たちを多く見かける。
それよりも、周囲の人間をよく見てみると動物の特徴を持った者や耳が尖がっている者など様々な人種がいることに違和感しかないな。
改めて、俺は異世界とやらに来たのだと実感させられる。
実際こうして周りの人間を見渡しても、例え一般人でもわずかに感じられた呪力が全く感じられない。
その代わりなのか、一部の者たちからは呪力とは別の力─ヘスティアたちがこの世界では魔法というものがあるらしいから、おそらくは魔力というものなのだろう─それを感じる。
後はまた別の力、これはおそらくヘスティアたちのそれと同じことから、神の力なのだろうか、なにやら根本的に違うものを感じる。
不思議としか言いようがないなこれは。
悟がいたら大喜びだったろうさ、あいつこういう未知的なやつ好きだったし。
そう考えるとあいつはこっちの神々とウマが合うのかもしれない。
…それより、先ほどから妙な視線を感じる。
俺自身もそうだが、それよりも深く、言うなれば魂か、それを覗かれている気がする。
特に害は感じないが、なぜか妙に熱っぽいというかなんか不思議な感覚。
少し索敵範囲を広げてみるか…
世蓮が自身の力で周囲の感知を始めたその瞬間、オラリオの各地で爆発が起きた。
そのあまりの数と威力に大地は揺れ、建物はいくつか崩れ落ちた。
一瞬にして街は悲鳴と爆発音による地獄の合唱を始めた。
一体誰が、そんな疑問は誰一人として浮かばず、それどころかすぐに元凶へとたどり着いた。
「闇派閥が出たぞぉぉ!」
「全員逃げろぉぉ!」
誰かがそう叫んだ瞬間、どこから現れたのか白装束を纏い武装した集団が手あたり次第に市民へ斬りかかっていた。
「ぎゃああぁ!」
「た、助けて!命だげばっ!」
「ギルドへ迎え!避難が最優先だ!」
「冒険者は何をしてんだよ!?」
「おい!アストレア・ファミリアはまだか!?」
皆が必死に叫んでいる。絶望を、恐怖を、悲しみを、憎悪を、様々な負の感情を晒して叫んでいる。大人はもちろん、女も子どもも問わず、近い者から順に命を散らしていく。
先ほどまでなんとか保たれた平和だったモノが、一瞬にして壊された。
周囲を覆うは噎せ返るほどの血と火薬の臭い。爆発によって焼かれた人間の臭い。
視界はただ赤く、ただ黒く、そこに美しさはなかった。
その地獄絵図を目の当たりにした世蓮は一体何を思うのか。それは…
「闇派閥なのに白装束って、なんか違うな」
全く別の事だった。
この目の前に広がる地獄を彼は全く気にせず、我関せずといった表情で歩み始めた。
(別にこいつらがどうなろうとどうでもいい。
冷めていた。ただ純粋にどうでもよかった。この人たちは俺の大切な人たちじゃない。
…俺は、人には大切だと思える人には上限があると思っている。自身の心の中にある大切な人しか座れない椅子があって、そこに座る人だけが、どうしてもなにがあっても大切にしたいと思える人。
その数は人によって上下あるが、少なくとも俺の椅子にはこいつらは座っていない。
大切にしたいと思える椅子にはいない。
だったら別にこいつらはどうでもいい。
目の前でどれだけの悲劇が起きようが、どれだけの地獄が世界を塗り替えようが、今の俺にはどうでもいい。
白装束が血走った眼でこちらに向かってくる。
数々の命を奪ったのであろう手に持つ獲物は鮮やかな赤で染められていた。
それをどうするのだろうか。もしや、こいつは俺を殺そうとしているのだろうか。
力の差も測れず、無策にもこちらへと突っ込んでくる。
ああ、世界は違えどこれほど馬鹿な奴はいるんだな。
それにしても世界はどうしてこうも残酷なのだろうか。
なぜ、こんなにも愚かで馬鹿な奴は生きて、傑や七海、灰原や学長は死ななければいけなかったんだろうか。
ああ、本当にどの世界も…冷たくて大嫌いだ。
一人の闇派閥は目の前に起きた光景にただ唖然としていた。襲撃地点にいる一般人を皆殺しにすることが今回の任務であった。そしてその任務は途中までは完璧だった。建物を破壊し目に見える人を手あたり次第に切り刻んだ。
そして残る生存者が、鍛えられてはいたが、明らかに手ぶらで田舎臭い青年が一人。
念には念をと全員で全方位からの殺戮を図った。
だが結果は…
「…お前ら、一体何?」
身体には一切傷どころか返り血一つつかず、7人いた闇派閥を一瞬にして死体へと変えた。
本当に一瞬だった。洗練されたその動きは美しく、刹那に一人から武器を奪うと一振り、にしか見えない剣裁きで、瞬く間に全員が首を斬られたのだ。
おかしい。あの力はあまりにも異質だった。
なんせあの死体の中にはレベル3が二人いたのだから。
一般人とレベル1冒険者だけでも力の差は赤子と大人と同じような差がある。ならばレベル3だったら?
一応この都市の冒険者の情報は頭に叩き込んでいるため、あの人物が冒険者ではなく一般人だということはわかっていた。なのに、なぜこうもあっさりと…
「反応がないならもういい」
最後の一人も同じく首を斬り、この付近での闇派閥の暴動は終わった。
辺りに生存者は世蓮を覗いて誰一人いない。
ほぼ都市の端っこだったからか冒険者の援軍が遅れたのだろうか。
いや、そんなことはどうでもいいか。
それよりもまだあちこちで騒動が起きている。
ここよりも規模が大きいのだろうか、今もなお爆発音が鳴り響いている。
まあどうでもいいか。一応索敵範囲は広げてみるか
範囲をオラリオの半分を占めるぐらいまで拡大する。いくつか強い気配があるが、別にどうでもいいか。
さて、もうそろそろこのオラリオを出るか。
そう思ったその時、俺の索敵に見知った暖かさがかかった。
冷たく醜いソレに囲まれている一つの陽だまりのような燈。
これが果たしてなんなのかはわからない。
…いや、俺はこれを知っている。
そうだ、これは先ほども感じたものだ。確か…
『いってらっしゃい!』
ああ、そうだった。この暖かさは彼女の…。
どこまでも深く暗く冷たい世界を灯したあの燈を俺は大切にしたいと思えた。
…あの暗闇の世界で俺の歩くべき道を照らしたあの燈は、俺を救ってくれたのなら、それは返さないとダメか。
それに彼女の眼は、どこか不思議と硝子を思い出させる気がした。
ああ、なんだからしくもなく妙なドロッとした感情が出ている気がする。
これがなんなのかはよくわからないが、とりあえず…
索敵範囲に入っている彼女の位置を確認する。二人の闇派閥がジリジリと彼女に近づいている。
なぜ逃げないのかはよくわからないが、急いだほうがいいか。
「…決めた」
世蓮は一瞬にしてその場から消えた。その足元には強く踏み込んだのか、地面が大きく抉れていた。
時は少し遡り、ヘスティアとヘファイストスが買い物に出かけていた時の事。
出先で突如として闇派閥の襲撃に合い、ヘスティアとヘファイストスは避難を開始した。
だがその道中、彼女たちの前に逃げ遅れた少女を発見し、ヘスティアは一目散にその少女の下へと駆け寄った。
「うわぁぁん!おがあさぁぁぁん!!」
「大丈夫、大丈夫だよ、すぐに冒険者が来てくれるさ」
ヘスティアが少女を抱いて落ち着かせようとなだめる。だが、それを闇派閥がみすみす逃すわけではなく、その場にいた闇派閥が数人彼女たちを取り囲んだ。
「ははっ!何が大丈夫なんですか女神さま!あんたらはここでおしまいです」
「われらの礎になれ!哀れな女神よ!」
闇派閥が二人、その手に持つ武器でヘスティアたちへと襲い掛かった。到底躱すことが出来ないその攻撃にヘスティアは少女を護るために身を挺して盾になる。
(…セレン君!!)
先ほどまで一緒にいた人物を不意に思い出した。どこか運命を感じた不思議な雰囲気を纏う綺麗な人間の青年。
もし叶うならばもう一度会いたかった、そう胸に抱きながら、ギュッと目をつぶり覚悟を決める。
いつまでたっても来るはずの痛みがやってこない。そっと目を開けるとそこには先ほどまで会いたいと願っていた人物。
運命というものが本当にあるかはわからないけど、それでもそうであってほしいと思った相手。
「…おい、うちの
ヘスティアの視界に映るのは、闇派閥が振り下ろそうとしていた武器を持つ腕を、たやすく止めている世蓮の姿だった。
その光景を見るヘスティアの眼はどこかきらきらと輝いていてただずっと世蓮を眺めていた。
まるで時が止まってしまったかのようだった。
その視線に気が付いた世蓮はどこか不思議そうにヘスティアへと声をかけた。
「おーい神ヘスティア。そんなに視られてもちょっと恥ずかしいんだけど」
「…あぁごめんよ!またこんなすぐに会えると思ってなかったからつい…ん?それより君今なんて…」
「それよりこいつらはどうしたらいい?殺していいのか?」
「…ダメだ。どこの神の眷属なのかも聞かなきゃいけないし、いろいろと闇派閥には聞かなきゃいけないことが多いんだ。だからなるべく生け捕りなんだけど…」
「わかった。ならば死なない程度に抑えよう」
「待ってくれセレン君!こいつらはどっかの悪神から
「…いや、これぐらいは別に今の俺より弱い」
「…え」
世蓮は抑えている手を放すと瞬時に闇派閥二人の頭を鷲掴みに勢いそのままに地面へと叩きつけた。
そのあまりの威力に頭が地面に埋まり地響きが鳴る。
「さて、とりあえず二人ダウンだな。残りは5…6人か。神ヘスティアはケガはないか?」
「う、うん。僕もこの子も君のおかげで無事だよ。ありがとう」
「なら良かった。さっさとこいつらを処理して今後の話をしよう」
「今後って…そうだ!君さっきなんて言ったんだい!?」
「さっきって…ああ、主神の事か。そのままだよ、俺はあんたのファミリアに入る」
「…ふぇ?」
「ふっなんだその顔」
「え、だって、僕の、ふぁ、ファミリアに…」
世蓮の話にあわあわと見るからに慌てているヘスティア。だがその表情はどこか赤みがかっていて、先ほど以上に目を輝かせていた。まるで恋する乙女が運命の出会いを果たしたかのような。
そんな彼女を見た世蓮はそっと目を閉じる。
この選択をすることによって起きるであろう可能性の未来を考える。
生半可なものではないだろう、様々な厄介ごとが目の前に降り注ぐはず。それでも、あの燈がこれからも未来を照らしてくれるのなら、この力を彼女のために使うのはいいのかもしれない。
少し寄り道してしまうかもしれないが、多分彼等なら許してくれるだろう。
自分勝手で悪いが、こうして新しい世界に来たからにはなにかあるはずだし、彼女との縁はどこか大切にしたい。
だから、選択しよう。俺は…。
世蓮はゆっくり目を開けると、その場に跪いて目線をヘスティアに合わせる。まっすぐにヘスティアを視るその力強さに彼女はさらに頬を赤らめるも、ゆっくりと深呼吸をして彼をみつめる。どこか期待を込められたその瞳は熱を帯びていた。
「…ああ、これからおそらく俺の事で迷惑をかけたりするだろうさ。それだけ俺はこの世界で異質だから。
だからもしそれでも良ければ、俺を神ヘスティアのファミリアに入れてくれるか?」
「……本当にいいのかい?」
「ああ、いいんだ」
「…僕のところでいいの?」
「ああ、ヘスティアのところが良いんだ」
「…君以外誰もいないよ?家もなにもないし、僕が君にあげられるものもないんだよ?」
「ならこれから二人で始めよう。それに、もう貰ってる。とても綺麗で暖かい、優しいものを」
「本当に…本当に僕なんかで「…ヘスティア」ふぇ?」
「俺じゃダメか?」
「…ううん、そんなこと…そんなことない!僕は君がいい!セレン君が良い!これから君といろんなことをしたい!いろんなものを観たい!辛いことも悲しいことも楽しいことも嬉しいことも幸せも全部、僕は君と一緒に感じたい!僕の初めては全部君と一緒がいい!君ともっと…これからもずっと一緒にいたい!」
「あははそっか、それならよかった。ならあらためて…」
「うん、セレン君。僕のファミリアに入ってくれますか?」
「ああ、今日これより俺は神ヘスティアの眷属になろう。この世界での露月世蓮の人生すべてを捧げるよ。
貴方に敬意を、神ヘスティア」
世蓮は差し出されたヘスティアの手をそっと添えて優しく口づけをした。その姿はまるで一国の姫に忠誠を誓う騎士のように、その光景を見た者も皆が一枚の絵画のように観えていた。
「それで、これで俺は神ヘスティアの眷属になったのか?」
「…へ!?あ、ううん実はまだなんだ。実際はセレン君の背名に僕の血を使って
「なるほど。ならそれを早くやるためにもあいつらを片付けるか」
そう言うと世蓮は立ち上がり向きを残りの闇派閥へと替え、自身の右手を前に差し出す。人差し指を立ててはそれをクイクイッと動かしては嘲笑うような笑みを浮かべた。
完全に挑発。数など関係なくこちらの方が圧倒的に上だと言わんばかりの態度。
そんな世蓮の行動に当然闇派閥は御乱心だった。
「舐めてんじゃねぞクソガキが!」
「たかが二人不意をついて倒せただけでいい気になるな!」
「都市内の冒険者リストにはいなかった。まだそこそこ動けるだけの一般人だ。確実に殺すぞ」
「他の奴は後だ。まずはあいつを吊るす」
「…あぁ」
「了解!」
「おお、ご丁寧に一人ずつ喋っていただいて。最後の言葉がそれでいいのか心配だ」
「ふん!減らず口を!最後に聞いてやるよ。貴様は何者だクソガキ」
「自分の最後を悟なんて…まあいいか。殺しはしないけど、負かされる相手の名前ぐらい知りたいよな…」
前世の名前だった露月世蓮はいったんお休みだな。
この世界にいると選択して決めたのなら、この世界の名を名乗るか。
「俺はヘスティア・ファミリアのセレン。セレン・アラツキ。どうぞよろしく、そして…さようなら」
今この瞬間、オラリオにて異世界から来訪した元最凶の異端児がこの地に名を刻んだ。
終わり方が…なんかいいのが出てこず締まりが悪くなりました…
これからもこんな感じのがあると思いますが暖かく見守っていただけると幸いです!
それでは次回もよろしくお願いします!