ダンジョンに呪術師が転生するのは間違っているだろうか   作:矢瑠気雑子

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6話 ─気持ち─

「セレン君って鍛冶師だったのかい?」

 

「鍛冶師ってほどではないけど、前世では呪具っていう呪いを込められた武器やちょっとした小物なんかを作ってたんだ」

 

「凄いじゃないか!なんだか君が作ったものを見てみたくなったよ!」

 

「もしかしたら…ちょっと待ってな。…【おいで】」

 

まるでなにかの詠唱かのように呟いたその瞬間、セレンの両手の薬指以外の指に黒い指輪がはめられていた。

 

「おわっ!?急に指輪が!これがセレン君が作ったやつかい?」

 

「そうだな。名は虚蔵(きょぞう)。一応それぞれ収納術式が組み込まれてるから物を運んだり武器庫になってる。まさかこの世界で使えるとは思っていなかったからよかった」

 

「術式…っていうとこっちの世界でいう魔法っていうことだよね!凄いよ!セレン君は物に能力を付与できるのかい?」

 

「そうだな。呪具の作製は俺の術式と相性がいいんだ。元々うちの露月家ってのは呪術界においてまあまあ特別な立ち位置にいてな。その中でも呪具の作製やノウハウがうちにあったんだよ」

 

「なるほどね!いや~それにしてもこんな凄いものが作れるなんて本当に凄いよ!あまり他の人たちには知られない方が良いとは思うけど、ヘファイストスならボクも神友だし、きっと協力してくれるはずだ!」

 

「悪いな。明日は神ガネーシャのところへ行くから、もしよければその時に神ヘファイストスへ頼んでもらえると助かる。退屈かもしれないがあまり必要以上の外出はしないでくれ」

 

「君ってやつは本当に…!ボクはこんなに君に心配してもらえて幸せだよぉ~!うん、わかった!セレン君のためにもしっかりヘファイストスに頼んで使わせてもらえるようにするよ!」

 

「フフッ、ああ、頼んだ。それじゃもう眠いし寝るか」

 

「そうだね、明日も忙しいだろうし早めに休もうか!」

 

「ん、それで寝床だが…」

 

ふとヘファイストスに拠点が決まるまでの間あてがってもらった部屋を確認すると、ベットとソファが一つずつしかないことに気づくセレン。

他所のファミリアがどうなのか知らないが、主神と一緒というわけはあるまいと踏んだセレンはソファに横になるとその行動にヘスティアは露骨に頬を膨らませる。

 

「なんでソファで寝るんだよ!?一緒にベットで寝ようよ!」

 

「いや、主神と一緒はまずいだろ」

 

「そんなことはない!ボクは君と一緒に寝たいんだけどダメかな?ほ、ほら、初めてできた家族だし、少しでも仲良くなりたいな…とか、ちょっと一緒にくっついて寝たりするのに憧れがあるっていうか…」

 

なにやら自身の指をいじりながらモジモジしているヘスティア。チラチラと頬を染めながらこちらの顔を窺う様子はどこか小動物を連想させる。

そんなヘスティアの様子にうーんと考えるセレンは、しばしの思考の末、やや大きなため息を吐くとソファから起き上がった。

 

「…仕方ない。ほら」

 

「きゃっ!あわわ!!ちょっとせ、セレン君!?」

 

ヘスティアの前で屈むとそのまま彼女を抱きかかえた。所詮お姫様抱っこであるそれに、彼女はわかりやすく動揺し、顔だけでなく体全体が紅く染まり体温も上がっていた。

ただ突然のことで照れと恥ずかしさと嬉しさで感情の制御が出来ず、セレンの上で暴れていた。

 

「暴れると落ちるぞ」

 

「う、うぅぅ…」

 

流石に落ちたくないからか落ち着きを取り戻したヘスティアは、震える手を思い切ってセレンの首へと回した。

その行動には流石に驚いたセレンだったが、ギュッと目をつぶり何かを耐えようとしている彼女の様子に、これも神の気まぐれか、と納得して甘んじてそれを受け入れた。

 

「…ヘスティア、いい加減ベットに着いたから降ろしたいんだが?」

 

「ひゃいっ!ご、ごめんよ!今すぐ降りるね!」

 

そうしてゆっくりベットへ寝かせるとセレンの不意を突いてグイっと彼の首に回していた手を使って自身の胸へと抱き寄せたヘスティア。

流石に抵抗できなかったセレンはまるで傍から見たらヘスティアを押し倒したような形になる。

 

「…何してるんだよ」

 

「えへへ、ちょっとはしゃいじゃってね」

 

「…はぁ、お転婆な主神だな」

 

「…幻滅したかい?」

 

「そんなことはない」

 

「…良かった」

 

そのままヘスティアの横で彼女に背を向けて寝転がるセレン。ヘスティアの視界には彼の大きな背中と綺麗な白銀の髪が写っていた。

鍛えられたその背中に刻まれた自身の眷属の証を愛おしそうに、そして嬉しそうに微笑むと、ヘスティアはまるで大切な宝物に触れるかのように、優しくその背中を撫でた。

どこか平均よりも熱を感じるそれは果たして彼の体温なのか、それとも自分のものなのか彼女は判断できなかった。

そのままヘスティアは彼の方へと寄り添い、背中に抱き着くようにその手をまわした。

 

「…さっきからどうした?」

 

「ごめんよ、寝れないよね」

 

「別にそれはいい。だが何かあるなら言ってほしい。正直、女の子の心を察しろとかは前世から苦手なんだ」

 

「へへ、神であるボクを女の子扱いしてくれるのかい?」

 

「正直、神だなんだと実感できてないからな。今の俺の目にはヘスティアもヘファイストスもただの女の子に見える」

 

「それはなんだか嬉しいな。神と人の差を気にして存在が少し遠く感じるってのは珍しくないし、実際にそういう関係になっちゃうのは、ちょっと寂しいなって思ってたから」

 

「…そうか」

 

「…ねぇセレン君」

 

「なんだ?」

 

「…ボクの眷属で本当によかったのかい?」

 

「……」

 

「ボクには何もないんだ。君になにか上げることはできない。お金もないし、この世界の事に関しても詳しいってわけじゃない。それに比べたら、他のファミリアだったら、他にも眷属がいてお金もあって色んなことを教えてあげられて、何不自由ない暮らしができたかもしれない。少なくとも、こんな何もないなんてことは全くない」

 

「そうか」

 

「君はさっき、ああ言ってくれたけど、でもどうしても不安なんだ。

下界に降りた時、何回も子どもたちを勧誘したんだ。ボクの眷属にならないかって。

…でも無名の神の眷属になるもの好きなんていない。みんなに断られて、どうしようってなってね。もうお先真っ暗さ。それで、ヘファイストスのところに泣きついて君と出会うまではぐーたら生活。…笑えるだろ?

本当にね、ボクはダメな神なんだよ。自分に自信もないし、君に迷惑や苦労を掛けてしまう。

…ボクは君の人生を、可能性を潰してしまうんじゃないかって怖いんだ。

…ごめん、情けないね。……幻滅しちゃったかい?」

 

本当に不安なんだろう、背中から感じるヘスティアは震えていて、か細く、すぐに壊れてしまうんじゃないかと思うぐらい不安定だとセレンは思った。

恐らく、自身のステイタスも気にする要因だったのだろうか。ヘスティアから聞くに、最初からあれほど多くのスキルを発現する者はまずいないらしい。なればこそ、そんな潜在能力の高い者を腐らせない環境が整っているファミリアに行かせた方が良いのではないか。色んな不安や葛藤がヘスティアに巻き付いているのだろうことを容易に想像できたセレンは、この世界に来て間もない中で何回目かの溜息を吐くと、体の向きをヘスティアのほうへ向ける。

彼女と目が合う。

サファイアのように輝く大きな瞳は、何かを耐えるように潤んでいた。

その姿は神というより、見た目に合った、年相応の不安に駆られる少女のようで、セレンは前世で愛した二人の女の子を思い出した。

一人は家の人間で唯一大切にしたいと思った最愛の妹。

そしてもう一人は、自分の全てを捧げても守りたいと思った最愛の女性。

 

(身体の弱かった妹は常にだったが、硝子がこの眼をした時は、2回だったか。最初は、傑が高専を出ていった時、そして2回目は宿儺と戦う前の時だったか。…どうやら俺はとことんこの眼に弱いらしい)

 

なんてことを思い出しながらも、仕方ないと諦めセレンはヘスティアを抱き寄せては頭を優しいリズムでポンポンと撫でた。まるで泣きじゃくる赤ん坊をあやすように、安心感を与えるように優しく。

 

「俺は、前世で愛した女性がいた。その子とは死ぬ前に子どもを授かった。まあ抱くどころか見ることもなく俺は死んだが、それでも未来に希望を残して死んだ。悔いがないといったら嘘になるが…それでもまあ満足した。

それから俺は気づいたら魂だけになり、広い空間に独りだった。

その後なんやかんやあって黒く暗く深い闇の底へと堕ちていった」

 

優しい声音で話すセレン。ヘスティアは彼の胸に抱かれながら、その聞き心地の良い彼の声を、大切な彼の想いをしっかり聴こうとギュッとさらに身を寄せた。

 

「でもそこで、一つの燈が闇を照らしてくれた。それは暖かく優しい明りだった。その燈はまるで俺を護るかのようにその暗い世界を照らしてくれた。嬉しかったんだ。孤独でしかないあの世界は常に寂しさを感じていたのに、その燈は俺が欲しかったものを与えてくれたんだ。そして声が聞こえた。迷子の子どもを導くような声が。俺はその声を頼りに歩き進んだ。俺を救いだしてくれるナニカがその先にあると確信していたんだ。そうして歩いた先で俺を待っていたのは、君だった」

 

「……ボク?」

 

「ああ。目が覚めた時、ヘスティアを視て分かったんだ。俺を呼んでいたのは君だったんだって。そこで色々話を聞いたうえで、迷惑をかけたくなくて一度は離れる選択をした。だが、闇派閥の騒動でヘスティアの事を感じて、俺は選択した。この世界で、ヘスティアの傍にいようと。

俺は前世で死ぬとき、親友たちに約束したんだ。後でまた会おうって。会って、いろんな話をしようって。まあ気づいたらこの世界にいたから、多分俺がこの世界で死ぬまではあいつらとは会えないんだと思う。

だったら今はこの世界を全力で生きようと思った。そしてこの世界で生きるなら、俺はヘスティアと一緒にいたいと思った。

君の眷属になり、この子と一緒にこの世界を生きてみようと。

ヘスティアという誰よりもあたたかく寄り添ってくれる優しい神だから、俺は眷属になりたいと思えた。ヘスティアだからだ。だから……」

 

セレンは少し体を離しヘスティアの目をまっすぐ視る。しっかりと想いを伝えるために。

 

「"なんか”なんて言うな。ヘスティアだから俺はここに戻ってきた。俺はヘスティア以外の眷属になるつもりはない。それにさっきも言ったが、俺はもう救われた身だ。救ってくれた(ひと)をなんかとか何もないとか言われたら、俺は悲しい。だからもうそれは言わないでくれ。もし、何もないことを気にしているなら、これから増やしていけばいい。最初からなくてはいけないものなんてない。ここから紡いで行けばいい。

俺らだけのものを作ればいい。そうしていくのが家族(ファミリア)というものなのだろ?」

 

優しく微笑みながら話す彼にヘスティアは眼が離せなかった。どこまでもまっすぐで力強く、優しくて暖かみを感じさせるその瞳には、今はヘスティアしか映っていない。その事実にヘスティアは自身の中で知らない感情が溢れ出る感覚に襲われる。

愛しさなんかはあの柱を見た時にすでに感じていたが、今こうして溢れ出てくる感情の名は、処女神である彼女だからこそまだわからない。

ただ、どうしても今は彼の子の視線を独り占めしたい、自分だけを見ていてほしい、そしてもっとくっついて彼の体温を感じたい。

もっともっと彼を知りたいと、ドロドロとしたモノが溢れる。

 

ヘスティアは自身の頬が濡れていることに気づくも、そんなことを気にせずギュッと力強くセレンを抱きしめる。

自分が良いんだと言ってくれた彼の存在を深く刻むために。

 

(セレン君は前世は結婚してたんだよね…仕方ないとはいえ、少し羨ましいというか、しちゃいけないけどちょっと嫉妬しちゃうな…。ダメだ、…もうその子はセレン君には会えないからと良くない考えが出てきちゃう。セレン君の傍にいればいるほど、ボクの中がどんどん彼を欲しちゃう。もっともっとって…。やっぱりボクは主神失格だね…)

 

「ほら、寝るまでこうしてやるから、安心して寝ろ。寝て起きたら夢でしたんてことはないから」

 

「うん、ありがと」

 

(セレン君の大きな手がボクの頭を優しく撫でてくれるたびに、胸の奥が何かを訴えるように強く跳ねてる。多分これはそういうことなんだと思う。ボクはこの子に運命を感じてる。出会って間もないけど、初めての事だけど直感で分かる。セレン君の奥さんには申し訳ないと思う。許してほしいとは言わない。ただ、この世界に来てくれたセレン君の事は想わせてほしい。…初めて会った時からボクは彼に…セレン君に恋をしてるんだ)

 

自分の感情を素直に認めたヘスティア。身体がしっかりと熱を帯びるも、その感覚はどこか心地良い。ヘスティアは天界でも有名な善神。だがそんな彼女の心は少しばかり傾いていた。恋をしているのだ、ちょっと意地悪になるぐらい仕方ないというものだ。

 

「……ねえセレン君」

 

「ん?」

 

「僕のファミリア(家族)になってくれてありがとう」

 

「ああ、こちらこそありがとう」

 

「これからいろんなことをしようね」

 

「ああ」

 

「いろんなところに行って、いろんなものを見て、たくさん笑って、たくさん泣いて一緒に紡いでいこうね。ボクたちの物語を」

 

「ああ、一緒に紡いで行こう。よろしく、ヘスティア」

 

「…うん!こちらこそだよ、セレン君」

 

改めてセレンへと抱き着くヘスティアは。体格差ですっぽり彼の身体に埋まるヘスティアは幸せそうな笑顔で眠りについた。

 

 

 

 

そして翌日、先に目を覚ましたヘスティアは重い瞼を上げてもなお視界が暗いことに不思議に思い身体を起こそうとした。

 

(…あれ、動かない?)

 

少しも動かない自身の身体に疑問を持つと、頭の上からなにやら声が聞こえたため、ヘスティアはなんとか上を向こうと身体を動かす。

すると目の前には気持ちよさそうに眠るセレンの姿があった。

そこで昨日の事を思い出すヘスティア。

初めてできた眷属であり、初恋の相手が目の前にちゃんといる、昨日の事が夢ではなかったことに安堵と同時に嬉しさやら恥ずかしさやらいろんな感情が混ざっては溢れていた。

モゾモゾと身体を動かしてなんとか起き上がると、慈愛の籠った視線を向けながらセレンの頬をそっと撫でた。

それからしばらくして触りすぎてしまったのか、くすぐったそうに声がもれたセレン。

その様子にクスリと笑うヘスティアは、好奇心からかもう少し続けようとすると、突然、セレンの大きな手がヘスティアの手を掴むと、グイっと引き寄せられた。

 

「ちょっわわわ!」

 

余りの力強さと速さに抵抗する暇さえもらえなかったヘスティアはポスッと音を立てながらいつの間にかセレンの抱き枕状態になっていた。

まだ寝ぼけているのだろうセレンはぎゅっとヘスティアの身体に回した腕に力が入る。

そうすれば自然と密着度が増すその体制にヘスティアはというと…。

 

(ふぁぁぁkふちぷあvじゃじr!!)

 

言葉にできないほどのテンパりを見せていた。処女神である彼女は当然、異性に抱きよせられたこともないわけで。しかもそれが恋をしている相手からであれば彼女の脳内は一瞬にして許容範囲を超える。

 

(…でもこれは…病みつきになるかも)

 

徐々に落ち着いてきたヘスティアは現状のあまりの幸せにまともな思考は出来ない。そう諦めたヘスティアは考えるのをやめてこの幸せを堪能しようと自身の手もセレンへと回してもうひと眠りするのだった。

結果、二人の睡眠はヘファイストスが起こしに来るまで続いたのであった。後にヘスティアのだらしない顔を思い出してか不意にクスクス笑うヘファイストスの姿がヘファイストス・ファミリアで噂になったのであった。

 

 

 




ヘスティアの圧倒的すぎるヒロイン力をだ応したものかと悩む作者です。
他のヒロインともこれからどんどん積極的にやっていきたいと思いますのでよろしくお願いします!


次回から本格的にアストレア・レコードに入っていきたいと思いますので応援の程よろしくお願いします!

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