スレイブエミヤと英霊エミヤ   作:晃晃

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女狐

「来たぞ。マスター!」

 

「遅い。アーチャー。」

 

流石に、遅かった。さきの戦闘はすぐ終わらせるつもりだった。しかし、あの男と言い合ったせいで、遅れを取った。

 

「いやすまない。距離が離れすぎていたのか、あるいはこの異質な世界のせいなのか。居場所が割り当てるのに時間が掛かった。」

 

念話が使えなかった。それだけでも、この夜に包まれた世界の異常さがよく分かる。今回ばかりは私の千里眼が役に立った。

 

流石の凜も、考え込んだ様子だ。情報が無さすぎる以上、こうなるのは仕方ない。

 

「ねぇ、アーチャー。仮面の付けた怪物を見た?」

 

幸い、凜はまだ襲われていない。あの化け物どももには群れる性質があるということか。

 

「ああ。キャスターの召喚したものかと思ったが、魔力は感じなかった。キャスターは関わっていないようだ。」

 

私も最初は女狐がやりかねないと思い、この世界の最初にキャスターを探していた。

 

「私がこの世界にいる以上、怪物だけではなく、サーヴァントもいる可能性は高い。」

 

キャスターと関わっていないなら、あの怪物はこの土地から自然発生している考えるのが妥当。ますます、謎だ。

 

二人とも、考えるための沈黙が続いた。夜の静けさが耳を刺す。

だが、その一瞬、背後で空気が不自然に揺れた。

 

その時、膨大な魔力を感じた。この世界では魔力を感じない。ということは・・・

 

「逃げろ!凜!」

 

最速で凜まで詰める。この刹那にも満たない時間で、彼女を抱き、来るべき攻撃を安全圏まで走り切る。

 

魔力弾が、地面をえぐる。岩石が四方までぶっ飛んでいった。

 

空気の振動から私の鼓膜が破そうなくらい、鼓膜を震わせた。

 

「あら、お嬢さん。こんばんわ。」

 

凜は息を呑んだ。あまりの突然さに自身の魔術の詠唱すら忘れていたほどだ。

 

この声は…女狐か。声の方向は空中か。すぐに干将莫邪を投影し、臨戦態勢となる。

 

 

そこには蝶のよう、いや、蛾のように舞うキャスターが。セイバーはどこだ?

 

あの時、衛宮士郎が令呪を奪われた。セイバーのマスターはキャスターになっているはずだが。

 

「セイバーがいない。どうつもりだ?女狐。」

 

「私が話しかけたのはお嬢さんのほうでしてよ。アーチャー。」

 

実に不敵な笑みだ。まさに裏切りの魔女と言える。必ず何かを企んでいるに違いない。

 

「私は、お嬢さんと交渉に来たのよ。」

 

目的は凜か。凜は驚いた顔をしている。それもそうか。だが、女狐を信用するわけにはいかない。

 

「交渉か。どうせ、この事態のため同盟を組むと言うつもりだったのだろう?」

 

私が口を挟むと、女狐に睨まれた。

 

「いい加減なさい、アーチャー。でもまあいいわ。今はお嬢さんとの交渉でしてよ。あなた達に良いことを教えてあげるわ。聖杯戦争はまだ続いている。」

 

やはりそうか。なら、この転移もある程度は説明が付く。

 

「それを伝えてどうするつもりだ。私たちは交渉に乗るつもりなどない。そうだな?凜」

 

「ええそうよ。キャスターのような外道と組む気はないわ。しかも見たところ、あなた一人じゃない。無謀な戦いをするなんてありえないわね。さあ、ここで仕留めるわよ、アーチャー。」

 

「減らず口を。」

 

あの女狐は挑発が有効なようだ。今にもキレる寸前だった。

 

急なサーヴァント戦。相手はキャスターか。唐突な奇襲だ。攻撃してもすぐ撤退する可能性がある。なら今打てる手は、

 

「もしかして、やる気なのかしら。健気なこと。それでもあなた達に勝ち目はないわ。」

 

その時、地面からあのゴツゴツとした化け物が暗闇から生えてきた。この化け物は特にキャスターの魔力を感じる。あの化け物さえもキャスターは魔力で従えるようになったというのか。

 

「女狐め、かなり魔力をため込んだな!」

 

だが、打つ手は変わらない。アルスター伝説に登場する剣、その螺旋剣を矢の形をイメージし、投影。

 

そして弓を引き、狙いを定める。

 

ここで女狐が逃げても、下の怪物に矢が当たる。そう考え、力いっぱいに引いた弦を解放。

 

当たれ!

 

偽・螺旋剣(カラドボルグ)!」

 

 

放つ瞬間高速に達した矢が空気を震わせる。一瞬、矢と空気が止まったように感じるが、それは矢のエネルギーが、周りの空気をなくし真空状態に達する。

 

そのエネルギーはいづれ空気に伝わり、空気を裂く。

 

その風速は普通の人間なら、耐えられない。

 

矢が完全に首筋を捉えようとしたとき。空気中の流れが凍りつき、世界が止まった気がした、この感覚は。

 

 

外したときのそれだ。

 

「やはり、逃げたか。所詮は女狐。臆病者だな。」

 

外れた矢は地面へと方向を変え、数秒後に大爆発を起こした。下の化け物に命中し、ほとんどが肉片になった。

 

だが、それでも前線の怪物を倒せていない。

 

投影開始(トレース・オン)。」

 

またもや干将莫邪を投影し、数十体の化け物と距離を詰める。その双剣は化け物をお互いが引き合わせあうような剣筋をしている。

 

怪物を切り刻む。相手のサイズはまるでバーサーカーを思い出す。

 

そしてこの間数十秒。切り刻まれた肉片だけが残った。

 

 

「化け物に魔力はあるとは言えこの程度か。なめられたものだ。」

 

女狐め、焦ったな。この世界に飛ばされ、キャスターに陣地はない。

 

「凜。キャスターも陣地を失い。かなり焦っているように見える。だから、交渉を持ちかけたのだろう。だが、実に面倒なことになった。化け物をキャスターが操れるときた。この程度の数なら、問題ないが、増えると本当に面倒だぞ。」

 

凜にキャスターを優先的に狙うことを薦める。セイバーとアサシンはいるだけでまだ見ていない。いるとしたら、アサシンに関しては、門ごとこの世界に移動したなどという、おかしなことも起きよう。そうなれば、またキャスターが陣地を作ることになる。そしてキャスター自身も聖杯戦争はまだ続いていると言った。つまり、この状況から聖杯が存在している可能性が極めて高い。

 

「そうね。アーチャーの言う通りよ。でも、なんでこんなすぐに化け物を操れるようになるのかしら?」

 

凜が眉間に皺を寄せた。これだから女の激情はと、つい、私は呆れた。

 

「その化け物とやらは現地人に醜鬼と呼ばれていた。災害などとも言っていたな。でも、キャスターが言っていたように聖杯戦争は続いている。こんな世界に飛ばせられるのも聖杯なら可能だ。」

 

「やっぱり、聖杯だと考えるほうが妥当か・・・にしても、アーチャー。今日の調子いつもと違う気がするのだけれど。」

 

いきなりぶっこんできた。そんなに私はおかしかっただろうか。

 

「いや、異世界でも調子はいつも通りだ。魔力もしっかり使える。問題ない。凜、どうしてこんなことを聞く?」

 

「いや、勘というか、アーチャーの雰囲気がいつもと違ったかなと思って。ごめんなさい。私の勘違いだったわ。」

 

思い当たる節が一つある。私がおかしかったのは、ついさっきの件のことだろう。

 

あの男は俺にこう言った。

 

『俺はまだ戦える!たとえセイバーと失っても、一人になったとしても。』

 

あの言葉を思い出すだけで、手が力む。ああ、忌々しい。

 

あの男、そう衛宮士郎のことだ。この男はセイバー失った敗北の身。それなのに、まだ誰かを救うために戦おうとしている。俺の元凶そのものと言ってもいい。隣にいた女に助けられたようだが、あの男の運命は変わらない。

 

そう俺の目的は変わらない。

 

 

 

その後私は凜と今後の方針、いや、ほとんど情報集め、交換に走ることになった。

 

「ねぇ、士郎は見かけたの?」

 

「いや、見ていない。かなり遠くにいるのかもしれない。だが、凜。あの男にもはや利用価値はない。肩を入れすぎてはいないか?」

 

「なんでよ。私たち同盟を結んでるじゃない。」

 

そういえば、凜に伝えていなかった。

 

「いやそれがな。ここに飛ばされる前に衛宮士郎はキャスターによって令呪を奪われた。だからあの男に勝機はない。だから、同盟はなかったことにしないか?」

 

すごく、すごく、嫌なもの見る目に変わった。どうやら、同盟破棄の提案は軽率だったようだ。

 

「アーチャー。今は緊急事態よ。もしかしたら士郎も巻き込まれているかもしれないじゃない、だから助けるのは当り前よ。」

 

「この状況でも君らしい答えだな。ふん、了解した。これからは人を探し、もし他サーヴァントキャスター以外と遭遇したら、撤退。醜鬼との戦闘はできるだけ回避。そして現地人を見つけたら、話を聞き出そう。」

 

「それで行きましょ。」

 

この新たな土地で私の知らない聖杯戦争が始まった。

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