スレイブエミヤと英霊エミヤ   作:晃晃

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強襲

アーチャーに襲われて数日。俺は、この七番組寮で、和倉優希の後輩として、料理担当を任されていた。昼下がり、ここ魔都には昼夜という概念はないのだけれど、いつもより空が曇っていた。

 

「よし、できたかな。味見味見っと。」

 

七番組のメンバーとはかなり仲を深めたと思う。特に、優希とは気が合った。彼は人当たりがよく、優しい。だからこそ、この七番組で尊敬されている。料理こそ、俺の方が得意だが、それ以外の家事の手練れは明らかに優希の方が凄かった。

 

「あ、士郎さん。できました?俺にも味見させてください。」

 

こんな大人数に料理をふるまうのはいつぶりだろう。基本、桜が来る前は一人が多く、藤ねえと食べるくらいだったから。だからこそ、今俺は自分を保てている。いつもなら、料理をすることはなんともないが、今だけは俺にできるのはこれくらいだ。

 

「んー!おいしい!」

 

優希が幸せいっぱいに喜んでいる。優希も俺の様に、ただ家事担当だけだと思っていたけれど、それは全くの間違いだった。優希は羽前京香の奴隷、スレイブだった。最初聞いたときは、冗談か何かかと思ったが、そうじゃないらしい。

 

「なあ、優希。お前、人間だよな?」

 

羽前京香の能力によってスレイブ状態という強化された状態になるらしい。本当に人間なのか?

 

「士郎さん?急にどうしたんですか?俺は京香さんのスレイブっすよ。」

 

「いや、ごめん。変なこと聞いちゃった。忘れて、忘れて。」

 

先日、七番組近くでの醜鬼たちの襲撃で、スレイブ状態となった彼を見た。

 

いつも愛想よさそうな彼だが、とてつもない怪力を得て、醜鬼を一方的に屠った。どっちが怪物か分からないくらいに。その強さゆえに、この七番組に所属しているらしい。

 

そう、この世界では女性だけが、異能を持つ。だからこの世界にとって男性はカスみたいなものである。優希が最初の魔防隊に属する男子となる。

 

「なあ、優希。七番組に最初入ったときどんな感じだった?」

 

「うーん、今よりも冷たい目で見られてましたね、最初は彼女たちの信用がとにかく低くて。」

 

俺は思わず苦笑いしてしまった。俺も優希のように衛宮邸で女性が多かったから、男子だけというのは実に大変なのだ。

 

「でも、士郎さんが入ってきてほんと嬉しかったですよ。」

 

そういわれ、少し胸が熱くなった。セイバーを失い、アーチャーにも襲われて今、このざまとなっている。その言葉だけでも俺の心は軽くなった。

 

 

 

昼食をいただいた後、組長たちが周囲の醜鬼討伐に向かうと聞いた。俺はまだ正義の味方の何も為せていない。ここで戦わなければ、俺は俺を保てそうにない。

 

「俺も一緒に戦わせてくれ。」

 

「ダメだ。」

 

即答だった。でもここで折れるわけにはいかない。正義の味方は誰かを助けることなんだから。

 

「なんでダメなんだ。俺には一応戦うこともできる!俺には投影魔術が―」

 

強い覚悟を見せつける。これで押し通すしかないと、そう思ったとき。

 

「思い上がるなっ!!!!」

 

返答は爆音の罵声だけだった。

 

「ここ数日お前の話を聞いていて、思ったんだ。お前はずっと誰かを助けることに囚われている。ずっと!私が醜鬼と戦ってお前とあった日も、無理に私を助けようとした。お前の戦いは自分の安全を考慮してない。自分の身を守れない奴に誰かを守るなど不可能だっ!」

 

戦えない。守れない。それだけで絶望だった。どんどん目の前が暗くなっている気さえした。

 

「確かに、俺は、まだ守られてばっかりだ。でも―」

 

「その言葉を何回繰り返せばいい!何度も言わせるな!今はお前の出る幕じゃない!このま言い続けるなら、切り捨ててでも止めるぞ!!!」

 

今日一番の怒号だった。あまりに強い気迫が彼女にはあった。

 

 

「京香さん、ちょっと言い過ぎですよ。」

 

優希のおかげで彼女は荒れ狂うような罵声を止めた。

 

優希がそっと彼女の肩に手を置き、静かに言った。

 

「それでも、僕たちは士郎を信じるべきです。」

 

彼女はその言葉にハッとし、荒ぶる感情を押し殺すように深く息をついた。

 

彼女の言っていることは正しかった。あのアーチャーが言っているように俺がしていること、しようとすることは偽善なのかもしれない。でも―

 

胸の奥で、どす黒い疑念が渦巻いているのがわかる。それでも、その小さな炎を消したくはなかった。自分を支える唯一の信念なのだから。

 

「俺は、正義の味方になりたいんです。」

 

言ってしまった。普通誰かに言うなんて、俺はずっとしてこなかった。それは自分の信念を薄めてしまうと恐れていたから。俺の信念をはっきり伝えないとこの人は分かってはくれない。

 

唐突に言ったからか、二人とも明らかに驚いている。俺の過去を話すのは今まで本当になかった。でもここで言わなければ、あの地獄から見送られた意味がなくなってしまう。そう、あの大火災の記憶。

 

視界、すべてが燃えていた。

 

悲鳴と、助けを求める声が耳に届き、俺はずっとその耳をふさいで、崩れる瓦礫をよけ歩き続けていた。

 

そうやってすべての声を無視して、あの大火災をギリギリのところを衛宮切嗣に助けられた。あの時、救われたのは俺の方ではなかった。本当に救われたのはその男の方。

 

その男の顔があまりに嬉しそうだったから、俺もそうなりたいと思った。そして、その爺さんの理想を俺は引き継いだ。

 

爺さんは、こう言っていた。

 

「子供のころ僕は正義の味方に憧れてた。」

 

「ヒーローは期間限定で大人になると名乗るのが、難しくなるんだ。」

 

そう爺さんは自分自身は諦めた、とも言っていた。確かに、衛宮切嗣という男の取りこぼした理想をまねているだけ。けど、もうこれ以上無関係な人間が死んでいくの見るのは嫌だ。そう思ったから。俺は誰もが幸福な時間。誰も涙しないという理想を十年前から抱いてきた。

 

ずっとそれで悩み、俺の信念すべて彼女に話した。すると、彼女はポロポロと涙を流し始めた。

 

「あ、あ、ごめん。こんな話するんじゃなかった。」

 

少し、言い過ぎたか?

 

彼女は出た涙を拭き、また怒鳴る。

 

「泣いてなんかない!ただお前の過去が似ていて、それを思い出したんだ。」

 

基本、魔防隊に入るのは魔都災害経験者が多いと言う。彼女もそれだったのだろうか。

 

「私も幼い頃魔都災害の経験があってな。火に包まれ、村のほとんどが醜鬼にやられたんだ。その気持ちはよく分かる。地獄から一人だけ生き残ってしまったという、罪を背負い、生き続けるのだからな。」

 

彼女はすこし、呆れた口ぶりで、

 

「一緒に戦いたい。その気持ちは本当だ。だが、総組長命令だ。お前を戦わせることはできん。魔防隊の命令は絶対遵守。破ることは規則違反になる。だから、本当にすまない。

 

「私には士郎に戦ってほしくない。私も同じように助けられなかった命をたくさん見て来た。誰よりも人を助けるために動いてきた!私自身、自分で言っていることと、現実を見てなんども絶望した。だからこそ、士郎には自分の命を大切にしてほしい。」

 

彼女の声は震えていた。まるで士郎にそれ以上言葉を返されることが怖いかのように。彼女の悲痛な本音が出た。これが彼女なりの同情なのだろう。

 

そう言葉を残して行ってしまった。絶望した俺には、優希が慰めの言葉をかけていた気がしたが、何一つ聞こえなかった。体は勝手に自室に向かった。

 

 

 

その時だったのかもしれない。本当に力が欲しいと願ったのは。そのあとから、俺のできることを、常に頭から離れずイメージするようになった。

 

「イメージするんだ。彼女の過程を、俺にできることを今やるしかない。」

 

俺は彼女の日本刀をイメージする。その技巧まで行きついた過程、技術、経験を。最初の投影は一瞬しか持たないナマクラだ。でも今は違う。彼女の刀を投影できる気がする。

 

俺はさらに刀のイメージを膨らませる。素材、工程、年月を。そこにいたるまでをひたすらに想像し、それを具現化する魔術。それが投影魔術だと思う。

 

投影―(トレース)

 

 

ドーーーーン!!!

 

揺れ。地面が、その大きな揺れと共に建物が破壊する爆発音した。俺は集中が途切れ投影を中断。

 

「どうした!?」

 

京香さんがどこからか叫ぶ。おれは、自室から破壊音のした場所へ走り出していた。そこには、京香さんから見せられていた、見た目は人間の姿をした神が、そこにいた。人間のような姿は美しく、和服を着ていたが覇気は明らかに強者そのものだった。

 

爆風の中心に立つその姿は、圧倒的な存在感を放っていた。神と呼ぶほかに言葉が見つからない。淡い光を纏いながらも、その気配は鋭く、周囲の空気をねじ曲げているかのようだった。

 

その瞳は無機質でありながら、全てを見透かすかのような冷徹さを宿し、こちらを見下ろしている。それだけで心臓が締め付けられ、呼吸が苦しくなるほどだ。

 

「この八来神、漆黒が和倉優希をもらっていくぞ。」

 

特徴的な黒髪、そして神の先は蛇のよう。いや蛇そのものだった。ギリシャ神話に登場する怪物そのものとさえ感じた。

 

低く響く声が耳を貫いた瞬間、地面から何かが湧き上がるような感覚に襲われる。まるで存在そのものが、この場の理を狂わせているようだ。

 

誰もが恐れを抱き、動けなくなってしまうほどの威圧感。だがそれ以上に、目の前の“神”から感じたのは、圧倒的な隔絶感だった。この世界の何者とも異なる存在。

 

この者は――俺たちが挑むべき相手などではない。そう本能的に理解した。

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