「おい、お前!優希を放せ。」
神かなんだが知らないが、悪が明確なのは確かだ。俺は優希を必ず助ける。でも、このままだと、確実に俺の方がやられる。なら、京香さんと優希を無理にでも近づかせ、優希をスレイブ状態にする。それが最善策だろう。
「ん?なんだ?この男以外にもいたのか?」
この神、優希を目的なのか?なんのために?でも、今はそんなことを考えていても分からない。
俺は腹いっぱいに力をいれ、叫ぶ。
「京香さんっ!!優希とスレイブ状態に!!」
次の瞬間、頭上から飛び出す姿を眺めていた。京香さんがすでに近くにいたようだ。空中を舞う姿は、月夜の光で照らされ、蝶のように動きに軽やかさを感じる。このままいけば、優希に届く。そう確信した時、
「そうはさせんよ。」
その神は、京香さんよりも素早く、まるであれはライダーを俊敏な連想させる動きだった。
かなりの距離を取って、屋外へ。あの神、足も速いのか。
「ちっ。逃げられたか。」
「京香さん。あっちに行きました。」
俺は神の方に指差し、京香さんと神を追う。
どうして神がこの寮に。この寮には結界が張ってあったはず。つまり何らかの能力で、入ってきやがったてことか。
「京香さん。あの神、やばい能力を持ってるかもしれない。油断するなよ。」
「ああ。」
彼女の返事だけで、安心感があった。俺は、胸に感じる温かい信頼と呼ぶべきものが、確かにあった。
「衛宮邸では、圧倒的に一人の時間が多かったからな。」
日常か。こんな緊急事態で、いろんな記憶が呼び起させる。
彼女と過ごしたのはほんの数日だが、確実に俺と彼女は関係を深めていた。ふと、先日のことを思い出す。
§
「士郎、ちょっといいか?」
京香さんが声をかけてきたのは、衛宮邸の居間だった。昼下がりの陽が障子越しに柔らかく差し込む中、彼女は少し困ったような顔をしていた。
「どうした?」
俺が手を止めると、彼女は少し視線を逸らしながら言った。
「料理、教えてくれないか?」
思いがけない申し出だった。彼女がそんな風に頼ってくるのは珍しい。戦場では冷静で頼れる存在だが、こうした日常の中では少し不器用な一面もあるらしい。
「料理か。何を作りたいんだ?」
「何でもいい。ただ、衛宮家の味ってやつを知っておきたくてな。」
「なら、一緒に作るか?」
彼女が目を見開いた。少し驚いているようだったが、すぐに口元に笑みを浮かべた。
「ああ、頼む。」
俺たちは台所へ向かった。冷蔵庫を開け、材料を見ながら簡単なメニューを考える。京香さんは包丁を持つ手がぎこちなく、玉ねぎを切るのにも少し苦労していた。
「そんなに力を入れると危ないぞ。」
俺が手を伸ばして彼女の手元を直すと、彼女の顔が少し赤くなったのが分かった。
「悪いな。戦場では刀を振るう腕には自信があるんだが、これは勝手が違う。」
「まあ、これも慣れ...かな?」
結局、俺がほとんどの調理を担当することになったが、京香さんは真剣な顔で俺の手元を見つめていた。その姿が、なんというか、妙に新鮮だった。
「士郎、こんな風に人と一緒に過ごすのは、初めてか。」
料理が出来上がり、二人で食卓に座ったとき、彼女が静かに言った。他の組員はいない。
どうやら、休日として日本に戻っているらしい。
「朱々がいないから、ちょっと静かだな...」
彼女は少し俯き、箸を持つ手を止めた。
「お前のそういうところ、羨ましい。自分の居場所を持っていることが。」
どうしたのだろうか?他の組員がいないからいつもと雰囲気がどこか違う。
「俺は、ただの家庭料理を作ってるだけだよ。それでも、誰かと一緒に過ごせる時間が大事だと思ってる。」
「そうか…。」
彼女の声には、どこか哀愁が漂っていた。その日は、いつもより少しだけ長い夜になった。
§
俺はあの日の彼女の表情を思い出し、胸が少しだけ熱くなるのを感じた。彼女と俺は、戦場だけでなく、こうした日常の中でも確かに繋がっていたのだと、今更ながら実感した。
「なんで今こんなことを思い出すんだ?」
何かがいつもと違う気がした。違和感。
すると、京香さんがいきなり立ち止まり、ん?神。あいつも動きが止まった。どういうことだ?
「京香さん、神が止まりやがったぞ!」
京香さんがゾンビのようにのろのろとこちらに向かってくる。周囲の暗闇が深まり、彼女の動きだけが妙に際立って見えた。俺は気が動転し、足が床に縫い付けられたかのように動けない。ただ彼女の姿を見つめることしかできなかった。
彼女の顔はどこか虚ろで、生気が感じられない。それなのに、彼女の視線はまっすぐ俺を捉えていた。
そして、彼女は俺の眼前まで寄り―
「んっ!」
突然、唇に熱い感触が走った。思考が追いつかない。何が起きているのか理解する前に、俺の心臓が激しく鼓動し始める。
唇から伝わる彼女の体温が、現実感を伴って俺を包み込む。しかし、その背後に漂うのは妙な違和感だった。彼女の行動はまるで彼女らしくなく、どこか操られているように感じた。
俺の目が彼女を捕らえた瞬間、さらに信じられないことが起きた。
「士郎…」
低く囁くような声。けれど、その声の響きは彼女のものではない。京香さんの顔に見えたものが一瞬揺らぎ、まるで別の何かが彼女に宿っているように感じられた。
口の中に侵入してきた熱は、彼女のものだと思うにはあまりに不自然だった。その行為が本物の京香さんの意志でないことに気づいた瞬間、俺は急いで彼女を押しのけた。
「やめろ!京香さんじゃない!」
俺が叫ぶと同時に、彼女の目がカッと見開かれた。唇に触れていた感覚は急に冷たくなり、彼女の体はその場に崩れ落ちた。
瞳を開けると、さっきの京香さんは消えていた。
「・・・郎、しっ・・・ろ!」
朧げな声。男気のある、信頼感のあるしっかりと背中が見えた。
「士郎、しっかりしろ!!」
その時が意識ががはっきりした。そこにはさっきの京香さんはおらず、体はボロボロで、俺を守っていた。あれは、一体・・・
「あのままだったら、いい夢を見させてあげたのに。何がダメだったんだろう。」
「士郎、気をつけろ!あの神には幻覚を見せる能力もある。」
しかも、京香さんが戦闘でこんなにも焦っているところは初めて見た。普段冷静沈着な彼女が、その余裕を失っている。それだけで、あの神が纏う狂気と威圧感が尋常ではないことがヒシヒシと伝わってくる。
俺にはどうすることもできない。投影すらまともに使えず、ただ立ち尽くすだけの自分が恨めしかった。この状況が続けば、敗北どころか全滅すらあり得る。
「俺には何もできないのか…?」
その思いが頭をよぎるたび、心に重くのしかかるのは、アーチャーの言葉だった。
――「自分のためではなく誰かのために戦うなど、ただの偽善だ。お前が望むものは勝利ではなく、平和だろ。そんなもの、この世のどこにもありはしないというのにな。」
アーチャーの冷笑が、今も耳にこびりついている。
「違う、それは…そんなはずはない…!」
俺は無意識に否定する。その声は弱く、掠れていた。頭の中に、過去の記憶が一気に流れ込む。じいさんの言葉が蘇る。
――「誰かを救うということは、誰かを助けないということなんだ。」
助けられなかった命の重み。その現実を、じいさんは何度も俺に語った。人を救うことの意味と覚悟を、俺はその背中から学んだはずだ。それでも俺は、じいさんの言葉に背きたかった。どんなに矛盾していても、誰一人見捨てたくなかった。
遠坂に助けられた。セイバーにも。そして、京香さんにも。何度も命を救われた。
だからこそ――
「だからこそ、こんなところで死ぬわけにはいかない…!」
力強く言葉にした瞬間、胸の奥に小さな灯火がともる感覚があった。俺が守りたいもの。そのために、今俺が何をすべきか。
今まで使われていなかった、魔術回路が開く。
「――
激痛が腕全体を走る。敵にやられて死ぬくらいなら・・・
かすかに震える手で、何度も試みた呪文を唱える。意識を集中させる。想いを力に変える。失敗しても、失敗しても、それでも俺は――
「俺は…正義の味方になるんだ…!」
その時、俺の中に潜む何かが弾けた。まるで、過去の自分を否定するように。そして、未来の自分を切り開くために。
その瞬間、手のひらに伝わる感触は、ただの剣のものではなかった。それは、俺のすべて—過去の経験、未来への決意、そして今この瞬間の思いが詰まった、俺そのものの意思が形となったものだった。
「刀・・・剣、これはどっちもだ!」
その言葉を発した瞬間、俺の心の奥底から力が湧き上がるのを感じた。アーチャーの双剣、京香さんの日本刀、それらが交じり合い、俺の手の中でひとつになった。片方は長剣、もう片方は短刀。どちらも俺にとって欠かせないものだ。
その言葉を発した瞬間、俺の心の奥底から力が湧き上がるのを感じた。アーチャーの双剣、京香さんの日本刀、それらが交じり合い、俺の手の中でひとつになった。片方は長剣、もう片方は短刀。どちらも俺にとって欠かせないものだ。
神の姿が見えた。彼女はその闇に包まれているが、その瞳には俺を試すような冷徹な光が宿っていた。しかし、今の俺はもう違う。
俺は深呼吸し、剣を握りしめた。その瞬間、心の中に一つの確信が生まれる。
—これが、俺の戦いだ。
「お前の闇には、もう負けない。」
その言葉と共に、俺は剣を前に構える。アーチャーのような冷徹さと、京香さんのような柔軟さが融合し、今までの自分にはなかった強さを俺に与えていた。
神が狙いを定め、再び動き出す。しかし、今の俺にはその一撃も恐れはしない。闇の中でも光を見つけ出す覚悟を決めたからだ。
剣を振るう。闇を切り裂くように、全身全霊で。
未来に繋がる一歩を踏み出すその瞬間、俺は強く、確かに感じた。
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