それでは第四話です。
「何だろう。」
外が騒がしい。
それと同時に部屋のドアがバンっと開かれた。
「ヒナ、壊理、出てこい。行くぞ。」
何だろう。周りで組員が慌ただしく動いている事といい、治崎の顔が怒りで歪んでいる様に見える。
「英雄症候群の罹患者共め……。」
英雄症候群の罹患者とは、治崎がしばしば語るヒーローに対する蔑称だ。と言う事はつまり……ヒーローに摘発された?今逃げ出せば、壊理をこの地獄から逃す事ができる?
いや、ダメだ。短絡的に動けば要らぬ痛みをえりに与えるだけだ。
そもそもこの地下室は隠されているはず。ヒーローが見つけられる保証は無い。そもそも出口の構造も分からない場所で、この地下を知り尽くしている治崎達から逃げ仰る可能性は低い。とりあえず、今は治崎に従っていくしか無い。
「騒がしいな。ちゃんと役に立っているのか?奴らは……。」
治崎の後ろの男は答える。
「言いたか無いですが、八歳會は終わりですね。」
その言葉を治崎は否定する。
「いや、この完成品と血清があれば、俺たちは再び返り咲く事ができる。1日2日で治る様な完成品じゃ無い――完全に個性を消す事ができる。」
赤色と青色のケースを取り出す。
その中には、ヒナが『再現』した個性破壊弾も入っているだろう。
「しかし、期間が問題ですね……一ヶ月で抽出できるのが一つ。『再現』で二つ出来やすが同じくらいの期間を空けなければならない。実質3個が限界ですから。」
「それも素人が碌な設備も無いままやってるからだ。ちゃんとした設備と環境を整えれば、もっと量産も可能だろう。
だから――少しは働け出向組……!」
治崎は忌々しい様子で、そう言った。
「はぁーい。」
「任せとけ、オーバーホール」
いつのまにか後ろに立っていた、制服をきた女子高生と全身タイツの男は、ゆったりとした足取りで向かっていった。
もしかしたら、ヒーローは結構近くに来ているのかもしれない。
少し希望が見えた。もしもヒーローが来ているなら、もしかしたら助かるかもしれない。
いや、しかしこのまま待っていても治崎は逃げ仰るかもしれない。そうなったら私たちの地獄は変わらない。壊理を逃したあと、私が時間を稼いでおけば或いは……
「壊理、聞いて。」
静かに、治崎に聞こえない様に囁く。
「私が治崎達を止める。多分私たちの後ろの通路からヒーローが来てるから貴女はヒーローのとこに行って。」
「お姉ちゃんは、どうするの?」
壊理の瞳が不安げに揺れている。
「私は、隙を見て逃げるよ。私の力、知ってるよね。もし逃げられなくても、壊理がヒーローを呼んでくれたらそれだけでも十分逃げ出せるよ。もしかしたら倒せちゃうかもね。だから壊理になら出来るよね。」
壊理はこくんと頷く。
「よし、じゃあ……走って!!」
急に大声を出した結果、治崎達の視線が私に向く。
壊理は脇目もふらずに走り出した。
「行かせるわけ無いだろう。」
壊理が倒れる。立とうとしても立てないのか、困惑した様子だ。
「なんで?なんで立てないの?なんでこんなにぐらぐらしてるの?」
壊理を守ろうと走り出そうとするが、いつのまにか現れた三人目の男が壊理の頭に銃口を突きつける。
「詰みだ、ヒナ。俺がお前の策に気づかない訳無いだろう?」
治崎の蹴りが、私の顔に入った。私の体はそれだけで容易く飛び、地面に打ち付けられる。
「お姉ちゃん!!」
「ゲホっ、ゴホっ、ふっ……ゲホっ!」
「お前の目は、いつも何かを狙ってた。でも、あえて放置していた。何故か分かるか?」
私の髪を治崎は乱雑に掴み、顔を地面に叩きつけた。
「お前が最高のタイミングだと思った時に、叩き潰す為だよ。」
意識が、朦朧とする。脳が揺れたのか、景色が回る。
「ぐわぁ!!」
「その子に何してる!」
知らない人の声が聞こえた。
その方向に目を向けると、赤いマントのヒーローが、壊理を抱えていた。
「ふふ……」
「何がおかしい……状況は変わってない。壊理!こっちに来ないとこいつを――」
治崎が喋る前に、渾身の力で顔面に拳を叩き込む。
「ぶっ!!この、調子に乗るな!!」
投げ飛ばされるが、これで良い。少しの隙さえあれば、『再現』できる。
「これで、終わらせる。」
背中を壁に叩きつける。けれど、これで良い。これなら踏ん張りが効かなくても、この武器を使える。
「終幕イシュ・ポシェテ」
デストロイヤーから放たれた無数の弾丸が、治崎に叩き込まれた。
「うおおおおおおおおおおおお!!!?!?」
いきなりの事に驚いた治崎だが、すぐに個性で壁を作る。でも関係ない。この間に彼が二人を片付けてくれれば、壊理が逃げる時間だけでも稼げるなら、ここで止まってなんていられない。
「うあああああああああああああああ!!!!」
気合いの雄叫びをあげ、弾を撃ち続ける。
そして、遂に弾切れを起こし、すぐに装填し直そうとするが治崎の個性で体を貫かれて、今度こそ動けなくなる。
「はあ、はあ、はあ。暫くそこでそうしてろ!あいつを始末したら、たっぷり折檻してやる。」
そんな言葉が聞こえ、私の意識は闇に堕ちた。
「私のミスでした。」
列車の中、誰かが私に語りかけていた。
「私の選択、そしてそれによって招かれたこのすべての状況。」
これは、聞き覚えがある。遠い昔の様な、昨日の様にも感じる不思議で懐かしい声。
「結局、この結果に辿り着いて、貴女の方が正しかった事を悟るだなんて……。
今更図々しいですが、お願いします。――先生。」
どこで聞いたのだろう。知らない声なのに、デジャブの様に感じる。
「私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。きっと貴方は、同じ状況で同じ選択をされるでしょうから。」
先生なんて呼ばれた記憶は――
「大事なのは、経験ではなく、選択。貴方にしか出来ない選択の数々。」
そうだ、このセリフは――
「責任を負う物について、話した事がありましたね。あの時の私には分かりませんでしたが……今なら理解できます。」
何故、今になってこのセリフを思い出しているのだろう。
「大人としてに責任と義務、そしてその延長線上にあった貴方の選択。それが意味する心延えも。」
記憶がフラッシュバックする。
青い記憶ブルーアーカイブ。キヴォトスでの出来事。ヒナと混ざり合うまえの誰かの記憶。
「ですから先生。私が信じられる大人である、貴方になら、この捻れて歪んだ終着点とは、また違った結末を……」
そうだ、これは、この記憶は――
「そこへ繋がる選択肢は、きっと見つかる筈です。」
青い空の様な色の髪の少女が見える。
「だから先生、どうか――この絆――私たちとの思い出……過ごしてきた全ての日々を、どうか……――覚えていてください。」
――連邦生徒会長。そうだ、これは私とヒナわたしが混ざる前の記憶だ。
「大切なものは、決して消える事はありません。」
連邦生徒会長の視線が確かにこちらを捉えた。
「大丈夫です。ですから、行きましょう先生――いえ、空崎ヒナさん。
貴女達の、
時間は少し進む。
ナイトアイは見ていた。
治崎の個性で自身が貫かれる光景を。
未来を予測して、次の一手に対し適切に対処していったが、それでも予知という個性の性質上、ただの無個性にも等しい力しか持っていない。
人の限界を超えて、回避できる程の身体能力は、有していないのだ。
「なっ……!?」
だからこそ、ヒナが自分を突き飛ばした事に驚愕した。
完全に意識を失い、予知した未来に干渉する筈の無い存在イレギュラー。
治崎ですら驚愕に僅かに目を見開く。
ナイトアイに向けて放った攻撃は、ヒナの腹部を貫く――事は無かった。
ゴッと硬質な音が響き、ヒナが吹き飛ばされていった。
「痛く無い。」
壊理が、治崎に向かおうとしている。けれど少女は止める。
「大丈夫だよ、壊理。お姉ちゃん、頑張るから。」
壊理の隣に、黒服が現れる。
「クックック、お困りの様ですね。治崎さん。」
胡散臭い笑みを浮かべ、異質な雰囲気を醸し出す彼に、この場にいるヒーロー全員が警戒する。
「黒服……?何故ここに、いや、良い。そんな事より壊理をよこせ。」
「ああ、すいません。お断りします。」
「何?」
黒服の視線がヒナに向く。ヒーローも自然とヒナの方を見る。
「このまま何もなければ、私が手を出す事も考えましたが、個性とは異なる未知の異能……『神秘』とでも言いましょうか。――それが、今正に、花開き、世界に現れたのですから。」
ヒナの頭の上に、禍々しくも、神秘的な輝きを放つ、円状の物が現れた。
それは、かつて存在した過去にある筈の物。
意識の具現化。生命の象徴。
――ヘイロー
かつて、神秘渦巻く街に存在していた異能である。
此処まで読んで頂き、ありがとうございました。