それでも楽しんで頂けるなら幸いです
2nd season第一話 病院にて
ピ、ピ、ピ、
一定の間隔で電子音が響く。
ベッドの上で、ヒナが身体中あちこちに線を繋げられ、顔や腹部にガーゼや包帯が巻かれている。しかし、所々赤黒く染まっていて、傷の深さが窺い知れる。
特に酷いのは腹部だ。大きな管の様な物で繋がれているのがわかる。
治崎に貫かれた腹部の傷だ。
「ヒナちゃんはかなり酷い容態だ。医者の話によると、明日を迎える事は出来ないそうだ。」
集中治療室の外で、相澤が容態を緑谷に告げる。
「そうですか……。」
緑谷がグッと拳を強く握る。血が滴り落ちる程強く握っている。
それを咎める様に、相澤は緑谷の肩に手を置く。
「お前一人の所為じゃない。そもそも、肝心な時に居られなかったのは俺も同じだ。」
「わかってます……けど、僕にもっと力があれば……」
「自惚れるんじゃない。」
入り口からメガネの男――ナイトアイが入っている。
「あの場にいた誰もが、奴にいい様にしてやられていたんだ。貴様一人でできる範疇を超えている。
そして、責められるべきは私も同じだ。幼子に助けられて、あまつさえ命を拾った……ヒーロー失格だ。」
その場を重苦しい空気が支配する。誰も、何も口を開けない。
だが、その空気を壊す様な声が病室に響く。
「“……あの、多分ヒナちゃんの事、助けられるかもしれない。”」
バッと声のした方向に振り返る。そこにはスーツを着た男性1人と何処かの学校の制服を着た少女が三人と軍服の様な服に身を包んだ少女が1人——背丈こそ、今横になっているヒナより少し大きいが瓜二つの見た目の少女だった。
突然の事態に狼狽えるよりも先に、3人は警戒体制に入る。流石の対応だが、スーツ男性——先生は、慌てて手を上に突き出して戦闘の意思がないことを告げる。
「はあ……だからいったじゃないですか。先生。」
「“あはは、ごめん。戦うつもりできた訳じゃないんだ。ただ、ヒナの事で気になって。”」
叱りつける様な、何処か呆れも含んだ物言いで先生にそう言った少女、天雨 アコはジト目で先生を見つめる。
だがその服装が奇抜すぎて3人は思わずツッコミを入れた。
「「「へ、変態だ!?」」」
「な、何を言ってるんですかあなた方は!?」
その叫びにアコは羞恥心から喚き散らす。
奇抜すぎるそのファッションとアコの天然な姿は、3人の毒気を抜いた。
「……はあ、それで、ヒナちゃんを助けられるかもと言ったな。何をするつもりだ。」
相澤は怪訝な顔で先生を見つめる。
「“私の切り札……これを使います。”」
そう言って先生は大人のカードを取り出す。
「何の冗談だ?まさか金で解決するって訳じゃ無いよな?」
苛立たしげに言葉を発する相澤に構わず、茶髪の眼鏡を掛けた少女が前に出る。
「“このカードの力……それと、此処にいるチナツの力でヒナちゃんの傷を何とか消すことができると思う。”」
大人のカード……それは奇跡を呼び起こす事ができる異能である。
「本当に——そんな事が可能なのですか?」
ナイトアイの疑う様な……どこか希望を見る様な瞳に先生は頷く。
「“本来なら、不可能だけれど——『神秘』を宿した状態のヒナちゃんになら、きっと届く筈だよ。”」
その場にいた緑谷、相澤、ナイトアイの三人は困惑しながらも、不思議な説得力によって、先生とチナツの治療見守ることにした。
「“いくよ、チナツ——”」
「はい、先生!」
先生はカードを輝かせ、チナツは注射器を取り出して、ヒナの腕に刺す。
すると、ヒナの体が淡い光に覆われて、傷がみるみるうちに治って、最後には綺麗さっぱり無くなってしまった。
「……ふう。良かった。」
「“そうだね。これで役目も終わりみたいだ。”」
先生達の体は、徐々に薄くなってきていた。
「何故、体が薄く……?」
先生はカードを胸ポケットに仕舞い、答える。
「“役目が終わった……だから、元の世界に帰されてるんだと思います。”」
先生はフッと笑って緑谷達を見る。
「“あなた達とはまた会いそうな気がする。だから、またいつか——“」
先生はそう言うと真っ先に消えていった
「ヒナ委員……じゃ無い!ヒナちゃんの事、宜しくお願いします。」
チナツは、心配そうな視線をヒナに向け、消えた。
「アコちゃん!落ち着いて——」
「これが落ち着いてられますか!私が変態——」
銀髪の少女は、アコを羽交い締めにしながら消えていった。
そして白髪の少女——空崎ヒナは、ヒナをじっと見つめて、そのまま消えていった。
——斯して、壊理とヒナを救う物語は、幕を下ろした。
しかし、悪意の胎動は、止まる事を知らずに、絶えず廻り続ける。
彼女と言う存在が、果たしてどの様な爪痕を残すのか。
——この物語は、一体どの様に転ぶのだろうか。
「くっくっく……素晴らしい。彼らは一体何者なのでしょうか?」
暗い部屋の中、モニターの光だけが彼の体を照らしている。
右目に当たる部分を中心に、日々が広がった真っ黒な顔。その罅の中から、真っ白な淡い光と黒い煙が溢れていた。
そして、全身真っ黒なスーツに身を包んだ姿——ヒナは彼を、『黒服』と呼んでいた。
「察するに、あの少女の持つ『神秘』がヒナさんの中の『神秘』を活性化させた……しかし、それだけでは足りなかったから、彼の持つ『カード』の力によって増幅……しかし、あの力——何処か、既視感を感じる。私はあの力を知っている?」
黒服は、それが何か、検討が付かなかった。
しかし、彼は直感的に理解していた。その力の根源に近しい——いや、全く同じ力を持つ存在が誰なのかを。
そして、病院に忍び込ませた小型ドローンから送られてきたデータを見て、彼は更に確信を深めた。
「クックック……本当に、貴女には興味が尽きませんよ。
ねえ——空崎 ヒナさん?」
そう言うと彼はモニターに背を向け、暗闇の中へ溶け込む様に消えていった。
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