腹ペコ毒蟲【新版】   作:アンディライリーのうさぎ

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額に傷のある人がスマートに暗躍する系の話が見た………あっ、原作で暗躍しまくっとるか。いや、ナナミンは殺さんでくれ……(頭抱え)


13話 cv:石田章彡

 呪術高専に入学する生徒は少ない。年度にもよるが、基本的に3〜4名のことが多い。

 その年の東京校の入学者はなんと一人だけだった。

 

「ボッチだ……」

 

 広い教室の中央にポツンと置かれた机。そこに座るのは長身の女である。

 住まいも高専の寮に移した彼女は、今年度の入学者の人数を聞いて驚いた。内心、はじめての学校(小・中はずっと不登校だった)ということもあり、緊張していた。だが緊張もクソもなかった。何せボッチなのだから。

 

「まぁ、いいか」

 

 高専は生徒が編入してくる場合も多くはないが、あるらしい。いつかは同級生ができるかもしれない。

 

 お昼になると、櫻は早速学食に向かった。全メニューを食べきりたいところだったが、さすがに時間的な問題と、調理人の疲労的な問題があった。そのため、その日はメニューの4分の1を食べ、翌日に持ち越す。

 

 

「あの子が、今年の一年…」

 

「これまた、随分と面白そうな子が入ったね」

 

 

 妊婦のごとき腹をさする彼女を、二人の生徒が見つめていた。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 後輩である。庵歌姫にとっての、初の後輩である。しかも話を聞くところによると、入ってくるのは女子らしい。

 彼女はガッツポーズした。

 

 呪術高専は一般の高専とは異なり、生徒が呪霊退治の任務を請け負う。

 そんな環境下であると、友だちと休日にお出かけ──なんて流暢にできる時間がない。あったとしても、そもそもともに出かける友人がいない。

 同級生の男たちとは会話はするが、友人というほどでもない。

 

 ならば、歌姫の先輩である冥冥はどうだろうか? 

 

 話すことも多く、仕事を共にする機会も多い。昼食も時折一緒に食べる。

 

 だが、“友人”かと聞かれると微妙なラインだ。歌姫的に冥冥のクールな雰囲気も相まって、“先輩”という意識の方が強い。

 

 彼女を「私の友だちです」と言うのは、畏れ多ささえある。

 

 

(一緒に、一緒に休日にカラオケ行って遊ぶような友人が欲しいのよ……ッ!!)

 

 

 そんな歌姫は、早速食堂で見かけた一年に会いに向かった。

 そして歌姫の様子を見た冥冥は、面白そうなものが見れそうだと、彼女に付いていくことにした。

 

 

 

 

 

 一年の生徒の名前は、『安倍(あべ)櫻』と言う。高専にはスカウトで入ったらしい。

 

「デカいわね、色々……」

 

 後ろの扉からこっそりと中の様子をうかがう歌姫。当の生徒は教室の中央に座っている。

 

 身長は遠目だが、おそらく180センチはある。制服はスカートが長いこと以外は特にイジっていないようで、ぴっちりとした服が殊更に体のラインを浮き彫りにしている。同性の歌姫でさえ、その冒涜的なラインに「すごっ…」という感想しか出てこない。

 

「歌姫、固まっているがいいのかい?」

 

「……ハッ!」

 

 冥冥に声をかけられ、歌姫は我にかえる。

 時刻はお昼時。歌姫は食堂へ一緒に行く体で一年を誘おうと考えていた。

 

 

(自然に声をかけるのよ、庵歌姫(わたし)! 「アナタが新入生の一年生? …あっ、私先輩の庵歌姫って言うの。昨日アナタのことを食堂で見かけてね、気になったの。よければ一緒に行かない?」────そうして仲良くなった私たちは休日に、カラオケに行ったりショッピングに行ったり、ゲーセンに行ってプリクラで『ウチらズッ友♡』って撮ったりするのよォ──ッ!!!)

 

 

 歌姫は華のJKと呼ばれる時期に、そういった青春の1ページを飾りたいのである。

 

 

「あの………お昼ご飯、一緒に行かない?」

 

 

 しかし現実は難しいもので、歌姫は脳内で用意しておいたセリフをほぼ飛ばしてしまう。

 

 その姿を哀れに思ってか、冥冥が「彼女は庵歌姫。私は冥冥と言うんだ。昨日食堂で君を見かけてね。先輩後輩だが、同じ女同士、交流を深めたいと歌姫は思ったみたいだ」とフォローしてくれた。冥冥様様である。

 

 それに長身の後輩はこう言った。

 

 

「あっ、私これからお昼ご飯を食べに行くので、ご飯無理です」

 

 

 後輩は、ご飯をご飯で断ったのだった。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 まるでそれは、「かわいいでちゅね〜〜!」と野良猫に近寄ってくる人間のように。

 

 櫻は突然近づいてきた庵歌姫という生徒を警戒した。

 

 

 クールな生徒の『冥冥(メーメー)』曰く。庵歌姫は櫻と交流を深めたいらしい。

 つまり、仲良くなりましょう──ということである。

 

(彼女が私と仲良くする“メリット”って何?)

 

 女同士で交流を深めたいというのなら、すでに庵歌姫は冥冥と親しくしているだろう。わざわざそこに自分も入れる必要があるのだろうか? 

 

 櫻はわからなかった。歌姫が何か、自分を利用するために近づいてきた可能性もある。

 

 そのため彼女はご飯の誘いを、ご飯で断った。

 

 

「では、食堂が私を待っているので失礼します」

 

 

 一応向こうは先輩なので、頭を下げてから食堂へ向かう。

 後方では何やら冥冥のものと思われる笑い声が、廊下に響いていた。

 

 

 

 

 

 この件が、歌姫の意地に火をつけてしまったらしい。彼女はちょくちょく櫻の前に現れるようになった。

 

 歌姫も飯を飯で断る後輩に、はじめは「何なのあの子!?」と思った。

 

 だがやはり教室で一人ポツンとしているところを見ると、どうしても気になってしまう。

 さらにボッチの櫻をそれとなく気にかける夜蛾が、小中は学校に通えていなかった──と説明すると、歌姫は口元を覆った。

 

 あの長身の後輩はずっと不登校だったのだ。何か事情があったのかもしれない。

 

 そしてそれが起因して、孤独を愛するぼっち(モンスター)になってしまったのかもしれない。

 

「私がアンタのはじめての友だちになってあげるわ……!!」

 

 かくして、庵歌姫は安倍櫻の攻略に挑んだ。

 

 

 その結果、冥冥に先を越されることになった。

 お昼時になり、いつものように一年の教室へ遊びに行くと、なんだか親しそ〜にしゃべる二人の姿があったのだ。「メーメーさん」「安倍君」などと呼び合ってもいる。歌姫はまだ、妙に緊張して苗字に「さん」づけをしてしまうというのに。

 

 彼女は、裏切りに似たショックを覚えた。

 

「やあ、歌姫」

 

「(パクパクパクパク……)」

 

 櫻は冥冥に差し出されたと思しきお菓子を食べている。

 

 なるほど。ハングリーな後輩の攻略方法は、食べ物だったわけである。

 

 

「……ね、ねぇ、あっ……櫻さん。実は私おすすめのお好み焼き屋があるんだけど、今度二人で行っ────「行きます!!」────………じゃ、じゃあよろしくね」

 

「おや、私は抜きかな? 寂しいものだ」

 

「と、とんでもない! 冥さんもよければご一緒にどうぞ!」

 

 

 そして休日に、華のJKとはほど遠いお好み焼き屋に行くことになった三人。

 

 こうして女同士で出かけるのが久しぶりだった歌姫は、大いに休日を満喫した。

 お好み焼き屋以外にも、ショッピングやカラオケに行った。

 

(たっっっのし〜〜〜!!)

 

 これである。歌姫がやりたかったのは。このアオハルな感じである。

 

 

 それからすっかり日も暮れ、暗い時間になった。冥冥は途中で任務が入ったため、今は櫻と歌姫の二人だけだ。

 普段は冥冥を交えての三人だったが、こうして二人きりになるのははじめてだ。

 歌姫はチラリと後輩を見る。「あまりオシャレには興味がなくて…」と言っていた櫻の手には、紙袋がたくさんある。先輩二人が着せ替え人形にして選んだ服だ。歌姫チョイスのかわいらしいものや、冥冥チョイスのかなり際どいものまで。他人の服を選ぶのは、自分の服を選ぶ時とはまた違った楽しみがある。

 そして会計の時にかなりの額になってしまい、歌姫は焦った。しかし櫻は「食費よりは全然安いですし、大丈夫ですよ」と、カードで買っていた。中学生のころたまに呪霊退治(アルバイト)をすることがあり、金はそこそこあるらしい。

 

「今日はありがとう。とても楽しかったわ」

 

「いえ、こちらこそ服を選んでいただきありがとうございました」

 

「……ねぇ、思ったんだけど、別に話す時は敬語じゃなくてもいいわよ?」

 

「ですが、庵さんは先輩ですし…」

 

「呼び方も苗字に「さん」って堅苦しいじゃない。アナタ、冥さんのことは「メーメーさん」って呼んでるのに」

 

「メーメーさんは、呼び方を間違えた際に笑って、「面白いね、その呼び方で構わないよ」とおっしゃられたので…」

 

「……言ってご覧なさい、『歌姫』」

 

「ええと…」

 

「言わないと、帰さないわ」

 

 進路を塞ぐ歌姫に、櫻は頰をかいた。

 冥冥も歌姫も美味しいものをくれた人だ。だから、“イイ人”ではあるのだろう。

 だがそんなイイ人だからこそ、近づきがたい。櫻は結局、根底はバケモノなのだ。

 

 

「私は、あなたと友だちになりたいの」

 

 

 そう言う歌姫の意図が、櫻はわからない。坊に言われた時も、わからなかった。

 バケモノの自分と、仲良くするメリットとは何だろうか。

 

 思わず、彼女は話してしまう。

 

 ずっと胸にあったしこりに、耐えかねたように。

 

 

「……どうして、貴女は私と友人になりたいのですか?」

 

「櫻と仲良くなりたいからよ」

 

「ですが庵さんが私と仲良くなって、得られるものはあるんですか?」

 

「得られる……もの?」

 

 

 歌姫の表情がきょとんとした。そのあと、真っ直ぐに櫻を見て、ニッと笑う。

 

 

「あなたと友だちになれたら、私がチョ〜嬉しいからよ!」

 

「嬉……しいんですか? 私はその…気持ち悪いですよ?」

 

「何言ってんの! 悔しいけど……アンタってすごい綺麗だからね」

 

「はぁ……そうですか」

 

「アンタ、自分に関して色々と自覚が足りてないのよね……」

 

 

 街で歩いている時も、三人並んでいると周囲の視線は冥冥、または櫻が独占していた。それに女としての敗北感をちょっぴり味わった歌姫である。

 

 

「あなたが友だちになったら、私の人生がきっともっと楽しくなる。逆に櫻も私と一緒にいて楽しいって思えてくれたら、さらに私は嬉しくなるわ」

 

「それが…“友だち”、ということですか?」

 

「人にもよるだろうけど、私の定義はそんなものね」

 

「一緒にいて、楽しい……」

 

 

 今日歌姫たちと共に過ごした櫻ははじめてのものを食べたり、はじめてのものを見て、とても楽しかった。

 だが自分一人でそれを体験したら──と考えてみると、食べる時しか心が湧かないだろうと思う。

 

 食べる時以外も、すっと楽しかったのは………。

 

「歌姫先輩」

 

「…何かしら?」

 

「私、今日はずっと楽しかったです」

 

「……ふふ、そう」

 

「だから………そのっ」

 

 歌姫と、友だちになってみたい。

 しかし、なってもいいのだろうか? 櫻は何せ、人間の味を知っているバケモノだ。そんなバケモノが友を作っていいのか? 

 死んでしまった母や兄のように、振りまいた自分の毒で不幸にしてしまわないだろうか? 

 

 そう考えてしまうと、出そうとした手が止まってしまう。その手にふいに、手が重ねられた。イマジナリーフレンドのものだ。

 

(ナナ、ミン………)

 

 彼女のイマジナリーフレンドは優しく微笑んでいた。まるで「いいんですよ」とでも言うように。

 

 それに背を押された櫻は、意を決した。

 

 その決心は、自分の意思で自分の道を決めたことがとんと少ない彼女の、大きな一歩だった。

 

 

 

「私も歌姫先輩と、“お友だち”になってみたい……!!」

 

 

 

 こうして櫻にはじめて、イマジナリーフレンド以外の友だちができた。

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