腹ペコ毒蟲【新版】   作:アンディライリーのうさぎ

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三章はだいぶ平和です。そしてヒロイン?の登場はまだまだ先です(絶望)


14話 歌姫は苦労人

 はじめてイマジナリーフレンド以外の友人ができた櫻は、“友だち”が何たるかを知った。

 

 それは家族とはまた別の、人間が持つ繋がり。

 

 これまで“友人”を持つメリットが分からなかった櫻は、なぜ人が友人を持つのか理解した。

 物事を通して感情を共有し合ったり、取り留めもないことを話したりする。例えば最近流行りのメイクは──など。

 

人間(ヒト)が拠り所とする場所なんだわ)

 

 赤一色だった彼女に、歌姫の色が新しく足された。

 それだけで、彼女の人生がまた違った景色になる。その感覚を櫻は「いやだ」とは思わなかった。

 

 むしろ、()()()と思った。

 

 

 しかし自分の人生に新しい色が足されていく度にふと、彼女は思い出してしまう。

 

 すっかり真っ赤になってしまった血の如き海と、深淵に包みこまれた空。それが櫻の『生得領域』である。さらに海の底にはおびただしい数の虫たちが沈んでいるのだ。

 

 側から見れば悍ましい光景である。しかし櫻はその世界に安心感を覚える。まるでそれは、羊水の中に浸かる赤ん坊のような心境なのかもしれない。

 

「私が、普通の人間だったらよかったのに」

 

 そうすれば、誰かを“好き”になっていく度に深まっていく自分の暗い影に、怯えることもなかった。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 歌姫によく遊びに連れて行かれ、冥冥からは時折高額なツボや水晶を買わされそうになる。その都度、歌姫は櫻と冥冥の間に割って入った。

 

「アンタねぇ……! 怪しい人から「これご利益があるんだけど、買ってみない?」って言われたり、食べ物を与えられてもホイホイついていくんじゃないわよッ!!」

 

「その“怪しい人”というのは、もしや私のことかな?」

 

「メーメーさんはイイ人ですよ、歌姫先輩」

 

「冥さんが冗談のつもりだとしても、この子は本気で受け取っちゃうからダメですよ!!」

 

「フフ…それは少し違うよ、歌姫」

 

「えっ?」

 

「私はオマエの反応が面白いからやってるんだ」

 

「尚のこと悪いですよ!!?」

 

 

 

 そんな二年間もあっという間に過ぎ去り、櫻は4級から2級になった。

 

 呪霊の索敵を行える彼女は任務で重宝された。また後方支援以外にも虫の毒で呪霊の動きを鈍らせる戦闘面でのサポートや、逆にハンマーを振りまわして攻撃もできる。そのオールマイティーさも評価に加えられた。

 

 高専に隠れながら、依然と呪霊のヒョイパクは続けている。

 あくまでこっそりとなので、力の上昇は非常に緩やかだ。

 

「メーメーさんは卒業したらすぐに術師になるって言ってたな…。しかもフリーの」

 

 比較的近年に5年制から4年制に移行した呪術高専。本来なら5年目に当たる一年は自由に過ごせる期間となるが、先輩である冥冥はすぐに呪術師になると宣言していた。

 

「私ももうすぐ三年生になるのかぁ…」

 

 時間が過ぎるのはあっという間だった。任務をして、勉強をして、また任務をして。休日が休日にならないこともザラにあった。それもこれも、“呪霊の探索”を可能にする能力の影響だ。この虫の捜索方法なら、術師側の犠牲も限りなく最小限にできる。

 

 まぁ仕事が多いのは悪くなかった。稼げばその分だけたくさん食べられる上、任務地で呪霊をヒョイパクもできる。

 

「早く1級を倒せるようになりたいなぁ……どんな味がするんだろ」

 

 彼女の食欲はとどまることを知らない。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「あの………今からでも京都校に転入ってできませんか?」

 

 

 櫻は学長にそうお願いした。

 というのも、来年度に五条家から五条悟が来るという噂を聞いてしまったのだ。その噂は本当のようで、彼女は頭を抱えた。

 

(二度と俺の前に姿を現すな、って言われてるしな…)

 

 同じ学校ならば、どんなに避けても顔を合わせてしまうことはある。その“二度目”を破ったら、消し炭になるかもしれない。

 歌姫には申し訳ないとは思うが、消し炭になるのは彼女もごめん願いたい。

 

「私、死ぬなら食べ過ぎて死にたいんです…」

 

 彼女の願いはもちろん却下された。

 落ち込んだ彼女に歌姫が、「また変なモノでも拾い食いしたの?」と声をかけてくる。歌姫は櫻の悪癖(ひょいパク)を何度か目の当たりにしたことがあり、心配しているのだ。

 

「実は……」

 

 櫻は幼少期、家の都合で五条家と見合いの話があったことを話す。

 

「家の都合って…それも五条家とってことは……アンタ呪術家系の出だったの? スカウトって聞いてたから、てっきり一般家系かと思ってたわ」

 

『安倍家』の件は本家の手回し(火消し)が迅速だったため、表立って噂は広がらなかった。知る人ぞ知る、程度の話だ。歌姫はこの噂を耳にしたことがなかった。情報に聡い冥冥は、もしかしたら知っていたかもしれない。しかしそれを話すメリットが冥冥にない以上は、口にすることはない。

 

「一応呪術家系ではあったんですけど、色々あって、家族だった人たちは死にました」

 

「あっ………その、ごめんなさい」

 

「いえ、すでに折り合いはつけているので大丈夫ですよ。そもそも私は養子だったので」

 

「………」

 

 おやつ……ではなく、お通夜のような空気感になってしまった。

 櫻は「もうホント、マジで俺っちは気にしてねぇっすよ」と、まったくフォローになっていないフォローをする。

 

「……ハァー。こっちが重い気分になってるってのに、当の本人がこの様子じゃね…」

 

「話の続き、いいスか?」

 

「ええ、いいわよ」

 

 櫻は端的に、次会ったら首が飛ぶかもしれない──という話をする。その理由は坊の「友だちになってほしい」という気持ちを蔑ろにしてしまったからだ。

 

「改めて坊ちゃんの気持ちになって考えてみると、その一言を言うのが、とても難しかったと思うんです。当時の私はしかし、向こうがなぜ私と友人になろうとするのか、分からなかった」

 

「アンタって結構、人とズレてるところがあるからねぇ。私が止めなかったら大事になっていた場面がどれほどあったことか……」

 

「美味しいものをくれる人の全員が全員、“イイ人”な訳じゃない…って話は信じられませんでした」

 

「これじゃあ私がアンタの友人じゃなくて、お母さんみたいじゃない…」

 

「歌姫ママッ!!?」

 

「ママじゃないわよ!!」

 

 天然の宇宙人と、自分をからかう先輩に挟まれた歌姫は苦労人ポジである。

 

「まぁ、過剰に心配する必要はないんじゃない? どっちも子どもの頃の話なんだし」

 

「でも出会った瞬間に首チョンパされたら……」

 

「発想が怖いのよ、発想が。なんなら私が間に入ってあげるわよ。「この子は“友だち”というものを、食べられるものだと思っていました」──って」

 

「歌姫先輩ッ………!! ────友人は食べられたとしても、食べない方がいいですよ」

 

「ンなことは分かってるわよ!! たまには私がボケたっていいじゃない…!!」

 

「ボケた…? 介護なら、この私に任せてください!!」

 

「アンタはそれを本気で言ってるんだものね……」

 

「いいえ、これはボケです」

 

「分かりにくいわっ!!!」

 

 呪術師という職業がなくなったら、二人でお笑い芸人になるのもあるかもしれない。

 疲れ切った歌姫の頭の中で、一瞬そんな血迷った考えが浮かんだ。

 

 

 

 かくして時は流れ、冥冥はフリーの術師になり、櫻と歌姫が進級した頃。

 

 クセの強い一年が三人入学した。

 

 一人目はもちろん、すでに最強をほしいままにしている五条悟。

 次は紅一点の稀少な反転術式の使い手、ニコチンガール家入硝子。

 そして最後に、一見すればひと昔前の不良に見える呪霊操術の使い手、夏油傑。

 

 

「こういうのは後回しにするんじゃなくて、先にこっちからカチコミに行った方がいいのよ」

 

「我々二人では到底敵いません!! 相手の戦闘力は♾️(ムゲン)です! ()()()だけに!!」

 

「カチコミって、本当に戦うわけじゃないわよ! つーかたとえが寒いのよッ!!」

 

 要は、歌姫は当時の櫻の事情を説明するつもりなのだ。

 

 友人が何なのかわからず、その友人というものに自分と五条悟がなる理由がわからなかった櫻。

 しかし彼女は歌姫を通して、友人が何たるかを知った──というふうに。

 

「まぁ私が前に立つから、安心しなさい」

 

「漢前です、先輩…!」

 

「そこは美人と言いなさい、美人と」

 

 一年の教室の扉の前に立った歌姫は、一呼吸おいてから扉を開けた。何気に彼女も緊張している。向こうに御三家である五条家の寵児がいるからだ。

 

「ちょっといいかしら?」

 

 中には談笑する男二人の姿と、携帯をいじる女の姿があった。

 五条以外の二人の視線が歌姫に集まる。櫻は彼女の後ろに背を丸めるようにして隠れ、中の様子をうかがっている。

 

「えっと…先輩ですか?」

 

 黒髪の生徒がそう言った。「ええ、そうよ」と続けた歌姫は、五条に話があると告げる。

 

「パイセンが俺に何の用っすか〜?」

 

 頬杖をついて、いかにも怠そうな様子で話す五条。「これがあの五条家の寵児なの…?」と歌姫は眉を寄せた。仮にも先輩に対して、態度が不遜なのだ。

 

「後ろのこの子が話があるのよ、アナタに」

 

 ニコチンガールと黒髪の男の視線が合わさった。「これはもしや…」という雰囲気である。櫻が歌姫の後ろに隠れ、チラチラと中を見ている様子も、その「もしや…」の疑惑に拍車をかける。

 

(これは()()だね、硝子)

 

(夏油みたいに性格はクズでも、やっぱこの顔に寄せられる女はいるんだな)

 

(ひと言余計だよ)

 

 目配せで会話しあった二人。その間、めんどくさそうに席を立った五条は歌姫の前に立つ。それから廊下を出て行った。

 

「……あれ?」

 

 歌姫の背後霊になっていた後輩がいない。彼女が後ろみると、教室の前に立ち櫻は誰かを凝視していた。まんまるに開いた紅い目がガッツリと見ているのは、黒髪の生徒である。

 

「突っ立ってないで、行くわよ」

 

「……はい」

 

 そんなやりとりのあと、教室の中は夏油と家入だけになる。

 

「長身の先輩の方さ、夏油を見てたけど、知り合いなの?」

 

「いや、初対面のはずだよ」

 

 まさか、告白の相手は五条ではなく夏油だった? ──と、硝子は首を傾げた。

 

 当の五条はしばらくして戻ってきた。

 早速二人して「告白されたのか?」と問いただしてみるが、どうやら違うらしい。五条は思わず「ハ?」という顔をした。




【味噌そぎ】
・不登校理由
> どうせいじめられて、呪詛師適性が高まるだけに決まっている。(本文より)
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