腹ペコ毒蟲【新版】   作:アンディライリーのうさぎ

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43話 ウニ頭

 久しぶりに自らの口で食べた呪霊は、美味かった。ヒトの肉とはまた違う。

 

 等級が高いほど栄養価も高くなる。呪霊を虫の毒で痺れさせ、おどり食いをする彼女はふと考えた。

 呪霊はそもそも呪力でできている。呪霊を食べている自分はつまり、呪力を食べている、ということになる。

 もしかしたらこの摂取した呪力を、『腹凹』の力は自分のエネルギーに変換しているのかもしれない。

 

 彼女は着実に力をつけて行った。

 

 

 任務を積極的に引き受けても、当然、暇な時間が出てくる。

 そういう時は山登りに行き、虫どもに呪霊のハントをさせた。

 

 歌姫や硝子の誘いを断り、ひたすら呪霊を食らう。硝子も硝子で、小難しい勉強をしている。医者になるためのハウツーだそうだ。

 

 勉強漬けならぬ呪霊漬けが功を奏し、年内のうちに1級へ昇格することができた。

 昇格祝いも提案されたが断った。櫻は呪霊を食べる用事があったからだ。

 

 

 合間合間で、義母や院長、灰原の墓参りに行った。一度、灰原の墓参りに行った際、彼の妹と思しき少女にも出会った。櫻は気づけば膝をついて、その少女に目線を合わし、謝罪していた。少女は困惑したが、何かを察すると彼女に頭を上げるように告げ、兄の墓参りに来てくれたことを感謝した。

 

 

 ごはんの味がしなくなった。

 

 

 食べても何の味もしない。彼女の唯一の癒しでもある食事が、苦痛に変わった。

 

 考えてもみてほしい。味のしない食べ物を食べることを。甘さや辛さも感じられない。その食事をはたして、苦痛と思わずにいられるだろうか?

 

 それでも食べなければならなかった。なぜなら、最後に会った七海が、彼女にきちんと食べるようにと言ったからだ。

 だから、食べなければならない。

 

 

 

 猛烈な飢えに襲われたのはふとした場面である。

 

 任務帰りに街中を歩く中、赤ん坊を抱っこしていた母親とすれ違ったとき。

 

 ふわりと香ったミルクの匂いに、彼女の口内が唾液で充満した。口もとをとっさに隠し、路地裏に逃げた。よだれがボタボタとアスファルトに垂れた。心臓が早鐘を打つ。

 

 あの赤ん坊を、頭から──いや、足からでもいいかもしれない。食いちぎって、咀嚼して、飲み込んで、腹を満たしたい。

 おぞましい欲望がおさまるまで、彼女はじっと物陰に座りこんだ。

 

 

 

 五条に、「呪力が禍々しくなっている」と言われた。と同時に、呪霊を爆食いしていることに注意を受けた。

 

 曰く、体の構成が呪霊に近づいているとか、何とか。

 

 薬も過ぎれば毒となる 。

 

 まさに今の彼女はそれだった。五条の見立てでは、以前のような食事ペースであれば問題ないが、このまま今のペースで呪霊を食べ続けると、肉体が完全に呪いへ転じるらしい。

 

 ーーーーだからなんだというのだろうか? 彼女は呪霊を食べなければならなかった。

 

 わかりました、と明らかにわかっていない口調で返事をした櫻に、五条は唇を噛んだ。長い手が伸びて、彼女の腕をつかむ。五条の顔は怒っていた。でも彼女は呪霊を食べなければならなかった。

 

 手が、五条の指が滑るように、ゆっくりとはずれた。

 

 

 

 朝が来ても夜が来ても、体のだるさが消えない。ずっと押入れの中にいるような気がする。目の前に朝日があるはずなのに、その朝日の喜びを全身で感じることができない。陽を浴びて灰になる吸血鬼の気持ちかもしれない。

 

 そんな時でも食べなければならない。食事だけは続けてきた。

 

 ただ、一日くらいなら抜いてもいいだろうと思ってしまった。七海の言いつけを破ってしまった。彼女は罪深さを感じた。

 

 

 

 一度食べなくなると、その苦痛から逃れようと食事を抜く回数が増えた。また以前のように痩せて、歌姫たちに迷惑をかけてしまう。そうは思いつつ、食事を抜いた。

 

 

 

 そして、櫻は気づいた。

 

 食事を抜く自分の体が、何の変化もしないことに。気のせいかもしれない。ああ、きっと気のせいだ。

 

 一週間何も食べずとも、体に変化はなかった。水を抜いてみても、呪霊さえ食べていれば体は健康に維持されていた。

 

 ならば、寝なくても平気なのかもしれない。いや、そもそも最後に眠れたのはいつだろうか?

 

 夜になってベッドに横になり、目を開けたままじっと天井を見つめて、長い長い時間を過ごした後に朝日が昇る。

 どうやったら眠れるのだろうか? 彼女はわからなくなっていた。

 

 

 

 五条が二児のパパになったらしい。

 

 まだ10代にも関わらず小学生の子ども? 火遊びしすぎじゃないだろうか。子どもの名前が気になった彼女は五条に尋ねに行き、実の子どもじゃないということを口すっぱく聞かされた。いやそもそも、結婚したわけでもねぇし、禪院家に引き取られる前にブロックしただけだし、というようなことを説明された。

 

 子どもの一人はあの口元に傷のあった男の血縁らしい。

 その子どもも強いのか、彼女は気になった。今の彼女は強さを求めているから。

 五条は、やがて自分を超えていく世代だと語った。

 最強を超えていく世代。

 

『最強』は、五条悟だろう。

 彼女の頭は混乱した。

 

 

 

 五条にパシらされ、伊地知が車の免許を取りに行った。

 櫻はまだ特級に至れていない。さすがに周囲は彼女の異変に気づいている。一応人前で食べるようにはしているが、それでも明らかに減った食事の量に対し、彼女はまったく痩せない。

 

 体質が変わったんじゃないかと、彼女は誤魔化す。歳が経つにつれ、必要な一日の摂取カロリーが変わってくるのと同じだと。

 

 

 

 自分の肉は、あまり美味しくない。

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「パイセン、ちょっと頼まれ事してくんね?」

 

「いやです」

 

 五条が伊地知に車の免許を取らせに行ったことが記憶に新しい櫻は、即断り去ろうとした。しかし、「まぁまぁまぁ」と190センチが通せんぼしてくる。

 

「後輩の可愛い頼みだと思ってさ」

 

「あなたは可愛くない後輩ですよ」

 

「まぁまぁまぁ」

 

「それで押し通せると思うなよ」

 

 だが結局、彼女は無理やり押し通されてしまった。

 曰く、今度の任務に連れて行ってほしい人物がいるらしい。現場での経験を積ませたいのだそうだ。はて誰だろうかと首をかしげた彼女に、五条は語った。

 

 

「生意気ながきんちょだよ」

 

 

 

 

 

 そして、任務当日。同行することになったのは、小学校低学年ほどの少年だった。ウニ頭の髪に、長いまつ毛。整った顔をした少年はしかし、口元を横に引き結んでいる。

 

 はじめて会った彼女は「あっ」と声を上げた。少年の顔が禪院甚爾とそっくりだったからだ。

 

 

「……はじ、めまして。伏黒恵です。五条さんからあなたのことは聞きました」

 

 

 恵は櫻に視線を合わせようとする。だがだんだんと眉間に皺がよっていき、視線を下に向けた。恵からすると、安倍の顔は胸に隠れて見えないのだ。

 それに気づいた櫻はしゃがみ込む。恵は一瞬ギョッとし、後ろに二、三歩後退してから尻もちをつく。

 

「大丈夫?」

 

「だっ、大丈夫です…!」

 

 櫻は伏黒の年齢を聞いた。7歳だそうである。若ェ…と彼女は内心でごちた。

 

「安倍さんは五条さんのいくつ先輩なんですか?」

 

「二つだよ。ちなみに彼は私のことを、伏黒くんにどう説明していたの?」

 

「……「大食いの宇宙人だよ」…って」

 

「ふふっ、あの小僧」

 

 五条は、本当は恵に、「いろいろとデカいお姉さんだよ」とも語っていた。「デカい」とは何のこっちゃと彼は思ったが、確かに安倍はデカい。五条には及ばないが、女子の平均をはるかに超える身長である。

 それと、あと………いや、これは恵の名誉のために言うまい。

 

 

 それから任務となり、櫻は使える場面で恵の力を借りた。これも五条からリクエストされたことだ。なるべく恵の能力を活かしてほしい──と。注文の多い男だった。

 

 任務は滞りなく終わった。車に乗り帰っている途中、彼女の隣に座っていた少年の腹が「きゅう」と可愛らしい音を立てる。チラリと櫻が視線を向けると、恵は俯いて顔を真っ赤にしていた。

 

「あっ、私のお腹の音が鳴っちゃったみたい」

 

「……えっ?」

 

「すみません。レストランか定食屋、探してもらえません?」

 

 櫻は補助監督に頼み、見つけたファミリーレストランで食事をとることになった。

 恵は目をパチクリさせている。視線をさまよわせていた彼は、消え入るような声で「ありがとうございます…」と話した。

 

「育ち盛りの時ってお腹が空くよね。私も超空腹の時は、田舎のヤンキーが鳴らす車みたいな音が出てたから」

 

「えっ?」

 

「さぁ、伏黒くんは何を食べる? 私は………パフェでも頼もうかな」

 

「……パフェだけでいいんですか?」

 

「うん。今日はそこまでお腹が空いてないから」

 

「そう…ですか」

 

 伏黒は食べ過ぎたら夕食を食べられなくなるからと、軽食を頼む。

 頼んだ品物がきた後は、ポツポツと会話をしながら食べた。

 店を出る頃には日も落ち始めていた。

 

 伏黒は思った。五条が「宇宙人」と表現した要素を安倍から感じられなかったからだ。むしろ五条より思いやりがある。安倍の認識は、まともな大人、という印象だった。時折「えっ?」と思う発言はあったが。

 

「今日は…その、ありがとうございました」

 

「こちらこそ、ありがとう。もしかしたらまた一緒になることがあるかもしれないから、その時はよろしくね」

 

「…はい」

 

 紅い瞳が弧を描く。宝石をはめ込んだような瞳だった。顔も人形のようである。

 その顔が織りなす表情の一つ一つがどこか作りものめいていて、伏黒の目をひく。

 五条とはまた違った造形の美しさだった。

 

「……? どうしたの、じっと見つめて? 私の顔にクリームでもついてた?」

 

「あ、いえ…何でもないです」

 

 

 後日、恵は五条から「どうだ、宇宙人だったろ?」と聞かれた。恵はイラ立ちを隠さず、彼女が五条よりよっぽどまともな大人だと告げる。

 それに五条は、なぜか「お前ウソだろ…!?」みたいな顔をしていた。

 


 

・夜蛾&歌姫&七海→常識と道徳のステータスが大幅に上昇。

↪︎発生EVENT『頭痛の伏兵』『歌姫は苦労人』『天然モンスター』

・灰原&硝子→人間強度UP。

スキル『かわいい後輩』獲得。任務時、特定のキャラが同行すると、全ステータス補正+10%。

↪︎発生EVENT『燃えてる…』『イイ湯だなっ♩』

・五条&夏油→余計な知識吸収。悪童補正。

スキル『陰キャ』獲得。陽キャが二人以上いる場合、精神力の減り上昇。冷静沈着な行動を心がける。

↪︎発生イベント『U.F.O.』『呪霊玉』

あなたの性癖。

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