音響士   作:かげかげ

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余談 受け継がれた力

 

 これはおうかが生まれる前の出来事である。

 

 ある深い森の中、巨大な熊型のノイザーが倒れ、少しずつ消滅し始めており、その側に錫杖を持った一人の狛犬の男性と熊型のノイザーと同等の大きさの狛犬が居た。

 

 「ハッハッハッ!!余裕たったな満月(みちつち)?」

 と大声で笑う狛犬の男性、天犬 天(あまいぬ てん)が巨大な狛犬、満月に話す。

 

 呼ばれた満月は呆れ顔をしており、

 『お主は先走りし過ぎだ。もう少し周りの状況を見ろ』

 と喋り、後ろへ視線を向ける。

 そこには、天の部下達なのかゼーゼーと息を切らして倒れていた。

 天が部下の事を気にせずに単独で先頭を走っていたから、部下達は置いていかれないように必死に追い掛けていたからだ。

 

 ところで、この巨大な狛犬の名前が「満月」と呼ばれるのは、白い毛皮を纏ってるが、胸にまるで月が満ち始めているように生えていたので、天はそこから「満月」という名前にした。

 

 「ノイザー倒せればいいだろ~心配し過ぎだ~」

 天はガハハっと笑うが、満月はそんな天の余裕そうな姿にイラッとし、『このバカ犬』と言う。

 

 「何だとこの獣臭い!!」

 『は??何を言うこの単細胞!!』

 

 と天と満月がお互いに罵り合い始まった。

 こうして喧嘩するのは良くあるが、それでも彼らは仲良しであり、共に戦う相棒でもあった。

 

 ……だが、喧嘩は激しくなる事もあり、その場合そこの地形が変わってしまうほどの大喧嘩になってしまう為、よく部下達が「喧嘩止めましょうよ!!」「もしこれで被害出たら上に報告しますよ!!」とストッパーになってくれるのだ。

 

 しかし、こうも喧嘩しまくると例え天の部下でもストレスが掛かりまくるので、たまに爆発する事もある。

 

 「「「いい加減にしろこのバカ犬ども!!」」」

 

 ……たった今部下達のストレスが爆発した。

 

 こんなやり取りをしているが、それでも元気に活躍している彼ら「狛犬支部」であった。

 

 

 

 ……この時の天にとってはまだ幸せであった。

 

 

 

 約10年後、天は結婚し、娘が産まれた時に、現代へ最大の脅威が埋め点くそうとしていた。

 

 その脅威的な敵に天と満月達は立ち向かうが……

 

 「なんで俺達の攻撃が効かないんだ……!?」

 

 天は驚愕していた。

 最大の脅威は黒い巨竜のノイザーで、狛犬支部の皆は全員で攻撃を与えたが、巨竜には全然効いてなく、例え先鋭である天の攻撃でも効かなかった。

 

 そして、巨竜の身体には黒いモヤを纏っており、音響士であれば耐えられるが、木々や花、ビルなどの建物が黒いモヤに触れると、まるで生きてないと感じられるほど黒くなり、機械もショートし壊れていた。

 

 まるでこの世界を黒くし、崩壊させてしまう程であった。

 

 「天さん!!攻撃が通用しない原因分かりました!!」

 「あの黒いモヤが私たちの音の力を遮断し、攻撃がなかった事にしてるんです!!」

 

 パソコンを必死に打っている部下の女性は声を荒げながら話す。

 それを聞いた天の部下達は、高まっていた闘気が下がり始め、もうダメだと諦めてしまう者、恐れて逃げ出してしまう者が出始めていた。

 

 「まだ諦めるな!!ここで諦めたら後ろの住人達に被害が出る!!」

 天は鼓舞しようと叫ぶが、こんなの勝てる筈ないという考えが頭の片隅に産まれており、その足は震えていた。

 だが、それでも後ろには妻や産まれてきた娘、おうかがいるのだから、それでも立ち向かおうと錫杖を構える。

 

 『……おい、天、勝ちたいか?』

 

 急に側にいた満月が話し始める。

 勝ちたいかと聞かれたので、「そうだが…どうしたんだ満月?」と急に話し始めてきた満月に聞き返す。

 

 『……我の力ならこの状況を打破出来るかも知れん』

 

 そう満月は驚きの事を話した。

 それには天はびっくりし、何とかなることに喜び始めていた。

 「え!?満月いけるのか!?それならお願いしたい!!」

 

 お願いしたいという天の返答に、満月は目を細め、重要な事を話し始める。

 

 『そうか……なら、我の全てを使い、あのノイザーを消さなければならんな』

 

 「……おい、どういう事だよ満月?」

 

 自身を犠牲にあの巨竜を倒すという発言に、天は困惑していた。

 それに対し満月は自分が消える事を気にしてなく、真面目に天の質問に答える。

 

 『そのまんまの意味だ、我の全てで消滅させ』「そういう事じゃないんだッ!!」

 

 これ以上聞きたくない。

 今までこうして共に戦った相棒が簡単に自身を犠牲にするのが、天には辛すぎて、聞き入れる事が出来なかった。

 

 「どうして……どうしてそんな簡単に犠牲になろうとするんだよ……止めてくれよ」

 と天の目から涙がポロポロと流れ、まだ認められることが出来なかった。

 

 「まだ満月を犠牲にしなくて勝てる筈なんだ…!!」

 

 『いや、ない。間に合わない。』

 

 天は苦しくなりながらも、何とかしようとするが、満月は冷たく突き放す。

 冷たく突き放された天はショックを受けていた。

 

 『もしもこれからあれを倒すのならば、もう後ろの人達が助からない。そこにはお主の妻や娘がおるんじゃろ?』

 『ここで決めないと大切な者が沢山の消えるぞ』

 

 満月に事実を言われ、天は何も言い返せなかった。

 もう満月の犠牲にしないとこの状況を壊す事が出来ないんだ。

 

 天は呼吸を苦しみながら整える。

 これから話す事は、満月とのお別れを意味する。

 満月はこんな危機的な状況だけど、天を優しく見つめ、これから天が話す事を待つ。

 

 天はまだ呼吸が苦しいが、初めよりは落ち着き、涙を浮かべながら覚悟を決める。

 

 

 「……満月……頼む」

 

 

 『……承知した』

 

 天の最後の頼みに、満月は答える。

 満月は大きく遠吠えをし、その身体から光の波動が飛ばされ、段々と満月の身体が透けていた。

 

 少しずつ世界を黒く崩壊しようとした巨竜に光の波動が当たると、苦しみ始め、その巨竜の身体は段々と消滅し始める。

 そして、巨竜が通った道は、光の波動のお陰で元の色に戻り、活気を取り戻し始める。

 

 

      「満月ッッッ!!」

 

 天が身体が消えていく満月へ手を伸ばす。

 こちらへ必死に手を伸ばす天に、満月は最後の言葉を送る。

 

 

  ……我はお主と出会えて良かった

 

  どうか幸せに生きてくれ、我が大切な友よ

 

 そうして満月の身体は消え、巨竜も同時に消滅した。

 黒くなっていた世界の一部も元に戻った。

 

 ……一匹の狛犬の犠牲によって。

 

 天はその場で大声で泣きながら、満月の名前を呼んでいた。

 

 そして、この時から錫杖の力を使えなくなっていた。

 

 

 やがて月日は経ち、さらに10年後……

 

 あの後から狛犬支部の評価はかなり上がった。

 だが、あの巨竜の恐ろしさが原因で、支部のメンバーは減り、やがて天の狛犬支部は無くなった。

 

 天は道場を開き、自身の武術を伝えていく師範代として活動していた。

 ただ、あの頃の大声で笑う事は全くしてなく、常に険しい顔をしており、笑わなくなったのは、きっと満月が犠牲になった事、巨竜には全然歯が立たなかった事に対する悔しさや後悔であった。

 

 娘のおうかは少し大きくなり、父親である天に教わりながら、着々と力を付け始めていた。

 

 一通りの特訓をし、今お昼休憩となった。

 この道場は家として使われて、これから妻が料理を始め、おうかはゆっくりと休んでいた。

 天は一人、外にある桜へ目を向けて、

 「……よくここで満月と一緒にご飯食べていたな」

 と懐かしく思い出していた。

 だが、自分自身の力不足で満月が犠牲になったことを思い出すと、胸が苦しくなってしまっていた。

 

 そう懐かしんでいると……

 

 「わぁぁぁぁあ!!」

 

 おうかの叫び声が聞こえた。

 叫び声の場所は、色んな武器がある武器庫で、そこには錫杖も飾られて置かれていた。

 

 「おうか!?」

 天はもしかしてうっかり武器庫へ入り込み、怪我をしたのではないかと思い、急いで走り出す。

 

 「大丈夫か!?」

 と天は武器庫の扉を蹴破り、おうかの無事かと心配する。

 だがおうかは怪我をしてなかったので杞憂だった。

 しかし、おうかは何かを抱えていて、「可愛い~!」と言っている。

 

 おうかは父親が丁度来たので、目をキラキラしながらその抱えているのを見せてくる。

 

 「父上!見て見て!ワンちゃんいた!」

 

 「満……月……?」

 

 おうかが抱えたいたのは、小さな狛犬であった。

 狛犬だった為、天は目を大きく見開き、その小さな狛犬に触れる。

 

 小さな狛犬は「ワンッ!」と可愛く鳴き、初対面である天には警戒してなく、胸元を簡単に確認出来た。

 満月には胸元に満ち始める月の模様があるが、この狛犬には無かった。

 満月じゃなかった事に天は「そうだよな…違うよな…」と残念そうにしていた。

 

 「父上?」

 おうかは父親の様子が可笑しかったので、心配して天の顔を覗いてくる。

 こちらを覗き込んで来るおうかに、心配させないように天はすぐに気持ちを立て直す。

 

 「ところでおうか?その狛犬はどうしたんだ?」

 と天はおうかへ聞いてみる。

 するとおうかは壁に飾られてる錫杖に指を指して、「なんかあれに呼ばれたの」と答えた。

 

 「錫杖に……?」

 「うん!」

 天は疑問になるが、おうかは元気よく頷いた。

 そして、何故この武器庫へ入ったのか話し始めた。

 

 「休んでる時にね〜『おうか、おうか』って呼んでくる声聞こえたんだ」

 「呼ばれた声を追ってここに入ったんだ。そして、あのしゃくじょう?から聞こえて、おうか触れてみたの」

 「触ってみた瞬間、ブワァーっと違う所に飛ばされてね!そうしたら目の前に真っ白ででっかいワンちゃんがいたの!」

 そう話すおうかの目はキラキラしている。

 

 おうかの話を聞いた天は気になる言葉を見つける。

 (錫杖から声が聞こえた……でっかいワンちゃんって事はまさか……!)

 と、天はおうかの話をじっくりと聞こうとする。

 

 「それででっかいワンちゃんは急に『お父さんは元気か?』と言ってきたから、『うん!元気だよ!』と言ったんだ!」

 「そうしたらでっかいワンちゃんは『そうか』って言って、姿は白くて何も見えなかったけどなんだかホッとしてたんだ!」

 「そして、でっかいワンちゃんの身体からこのワンちゃんが出てきて、『これからはそのワンちゃんがおうかの友となるから仲良くするんだよ』って渡されたの!」

 とおうかは言うと、その小さな狛犬はワンっと鳴いて前足を上げて返事をした。

 

 つまり、この小さな狛犬は満月の一部から誕生した狛犬で、次の錫杖の使用者はおうかへと引き継いだのだ。

 

 まさか消えた筈の満月がおうかへと新たな友を送り、天の様子を気にしていた事に嬉しかった為、天の目から涙が溢れそうになる。

 だが、おうかの前だったので、泣くことを我慢した。

 

 「そうだ、おうか、その子の名前は何にするんだ?」

 と小さき新たな狛犬に名前を何にするか聞いてみる。

 そう聞かれたおうかは「う~ん」と考え、閃いた。

 

 「うん!この子、すごいモチモチしてるから『モチマル』にする!」

 と決めると、モチマルと決められた狛犬は「キャン!」と喜んで鳴く。

 

 

 こうして天と満月の物語は終わり、これからがおうかとモチマルの物語が始まるのだった。




  「登場人物紹介」
天犬 天 (あまいぬ てん) 神族
  狛犬の男性であり、「狛犬支部」のリーダー。おうかの父親でもある。
  とても明るく、大雑把な性格であり、相棒である満月とは良く喧嘩もしていた。
  巨竜の出来事で、満月が犠牲になったことが原因で笑わなくなった。だが、おうかが満月と出会えた事により、少しずつ元気を取り戻し始める。

 満月(みちつき)
  神聖を得ている楽武に潜んでいて、かなり神に近い存在の狛犬であり、今までの使用者と共に戦い抜いた大狛犬であった。
  天犬 天の最大の友であり、良き相棒であった。
  巨竜の脅威が迫っていく中、自身を犠牲にし、現実界を救った。
  おうかがある程度大きくなり、錫杖自身がおうかの事を次の使用者と認められ、モチマルを渡すために少しだけ復活した。
  天が元気だと聞いた時は、安心して笑っていたという。

 モチマル
  満月がおうかへ渡した新たな狛犬。
  可愛い見た目であるが、しっかりと狛犬らしく雷を落とせるという。
  おうかが一般音弾の応用でモチマルを大きさせて、その背中に乗る事が出来る。
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