きょむたび   作:きょむきょむプリン108世(税込)

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というわけで旅に出るよ

 

 

 

「どういうわけなんです?」

 

「そういうわけだよ」

 

「そっか……」

 

おひさまぽかぽか、旅日和。

 

あからさまに “旅するぜ!“ といったふうな服装をした二人がぽてぽてと道を歩いてゆく。

 

「ちょっと聞いてもいい?」

 

「なんだい」

 

「どこここ」

 

「草原だね」

 

「……まぁ、そうだね。草原だね」

 

左を見れば、景色の上半分が空、下半分が草。

 

右も同じく。

 

前を見れば地平線まで真っ直ぐ続く道と、やっぱり空と草。

 

後ろは見ないよ。過去は振り返らない性分なのさ。

 

「草原なのは分かるよ。どこを見ても草。草、草、草。ぜーんぶ草だもの」

 

「なにわろてんねん」

 

「笑ってないよ……」

 

緑豊かな自然はいつだって心持ちを穏やかにしてくれる。

 

しかしどうしたことか、二人のうちの片方は妙にしみったれた表情をしていた。

 

「……ねぇ、違ってたらごめんなんだけどさ」

 

「うん?」

 

「もしかしてだけど、今って迷ってたりする?」

 

「人とはいつも迷っているものだよ。そう……人生という名の道に、ね」

 

「今ちょっとそういうの要らないかも」

 

「草」

 

「笑い事じゃないよ……」

 

そう、草。景色があまりにも草。ずっと草なのだ。

 

笑えるとかではなく、そのまんまの意味でここまでずっと草にまみれた道のりだった。

 

目的地はそこそこ栄えた貿易都市的な街のはずなのに、街の “ま” の字だって一向に見えてくる気配がない。

 

「どれくらいの時間歩いてきたっけ」

 

「二時間くらいだね」

 

「街までどのくらいで着くって話だったっけ」

 

「一時間くらいだね」

 

「どこここ」

 

「草原だね」

 

「迷ってる?」

 

「諸説あるね」

 

「ないよ……」

 

見えてきたのは迷子の “ま” の字だけのようだ。

 

この二人が迷()かどうかだけは諸説あるかもしれない。

 

「まぁまぁ落ち着いてくれたまえよ」

 

「なんか腹立(はらた)つな」

 

「巨人軍の監督がなんだって?」

 

「言ってないよ。言ってないし今の監督は原辰(はらたつ)○じゃなくて阿部○之助だよ」

 

「草」

 

「こいつシバいたろかな」

 

「草だけに(シバ)…ってコト?!」

 

シバいた。

 

「前が見えないねェ」

 

「ちょっとはたいただけなのにそんな大袈裟な」

 

「まったく、これだから脳筋ゴリラは」

 

シバきまわした。

 

「乱暴はよしておくれよう」

 

「余計なこと言うからだよ」

 

「まぁまぁ。話を戻すが、迷っていると断ずるのはまだ早いと思うんだ」

 

「というと?」

 

「だってほら、我々はしばらくの間この一本道を辿って歩いてきたじゃないか。つまり、この道を遡れば少なくとも分岐点までは戻ることができるというわけだよ」

 

「それはそうだけども」

 

「きっとその分岐点辺りで道を間違えたんだろう。そこまで戻ってから来た道と違う道に進めば、今度こそ街まで辿り着けるはずだ。至極単純な話さ」

 

「単純な話かなぁ」

 

とはいえ、他に選択肢がある訳でもない二人は、ややもっさりとした足取りで来た道を戻ることにした。

 

過去を振り返る事も時には大事なんだよ。教訓になるね。

 

 

 

・・・・・・ ⏱‪ ・・・・・・

 

 

 

ほんのりくたびれた様子の二人が、けれど汗をかいて不快感を滲ませた様子も無く立ち止まる。

 

相変わらず気温は程よく、分岐点に打ち立てられた看板の上で囀る小鳥の鳴き声も相まり、なんだか陽気な雰囲気じゃんね。

 

「さて、ようやく分岐点まで戻ってきたね」

 

「うん、分岐点だね」

 

「誰が見ても分かるくらいには紛うことなき分岐点だ」

 

さっさと進めばいいものを、謎のトリプルチェックを挟んだ二人は、立ち止まったまま神妙な顔つきをしていた。

 

そんな二人の目の前には二つに分岐した道。

 

「えーと、最初に来た道とも今来た道とも違う道を進めば街に着くだろうという話だったよね」

 

「ああ」

 

「それで、どっちが最初に来た道だったっけ?」

 

「……」

 

「……」

 

「「…………」」

 

まぬけの “ま” の字〜。

 

小鳥のピョーという鳴き声が、どこか腑抜けた空気をさらに際立たせるように拡散していく。

 

「あ、そこの鳥がとまってる看板に行き先が書いてあったりしないかな」

 

「当然確認したよ。“薄毛の悩みならボーボー屋” と書いてあったね」

 

「店名ダサすぎだしこんな所にその立て看板があるの意味わかんない」

 

「名前のセンスはともかくとして、こんな()()な情報よりも行き先の情報が欲しかったところだね」

 

「旅人がみんな方向感覚に優れてると思わないで欲しいよね」

 

「旅をするのに方向音痴なのはまぁまぁ致命的ではないだろうか」

 

「なんでちょっと他人事なの? ……というか、旅の主導はむしろそっち側だった気がするんだけど」

 

「えー」

 

「んー?」

 

「あー」

 

片方が目を逸らし、もう片方がその視線の先に移動する。それを四回繰り返して元の位置。

 

それから一拍置いて二人同時に小さなため息をつく。

 

「ま、ここでぶつくさ言ってても仕方ないか」

 

「そだね」

 

「正解の道はふたつにひとつ。無事に目的地に辿り着くか、盛大に送り出されたところにのこのこ逆戻りするかだ」

 

「後者はあまりにも嫌だなぁ。どんな顔したらいいかわかんないや」

 

「笑えばいいと思うよ」

 

「笑えないよ……」

 

そんなこんなで長々と逡巡しつつもとりあえず進んでみることにした二人。

 

進む道はかの有名なクラピカ理論に従い右に、と見せかけて左の道を進むことにしたようだ。

 

何に対してのフェイントなんだろうね。

 

 

 

・・・・・・ ⏱‪ ・・・・・・

 

 

 

「さっきもあったけど上の時計の絵文字は何なんです?」

 

「時間経過のメタファーだよ」

 

「そっか……」

 

そよかぜさらさら、旅日和。

 

なんとなく “あれからもう一時間ほど歩いたぜ!” といったふうな表情をした二人がぼてぼてと道を歩いてゆく。

 

「ちょっと聞いてもいい?」

 

「なんだい」

 

「どこここ」

 

「草原だね」

 

「……」

 

「……」

 

「え?」

 

「え?」

 

「えー、と。さっきの分岐点で左の道に進んだ、よね」

 

「進んだね」

 

「来た道を戻ったりとかしてない、よね」

 

「してないね」

 

「……どこここ」

 

「……草原だね」

 

「……」

 

「……」

 

「「…………」」

 

───二人の旅はまだまだ続く! まだ見ぬ街にいつか辿り着くと信じて!

 

「ご愛読ありがとうございました! じゃないんだよ」

 

ナレーションにツッコミを入れるな。

 

 

 

なお、この後なんだかんだで日が暮れるギリギリには街に辿り着くことが出来ました。おめ。

 

 




この小説では世界観的に存在しないはずの固有名詞がぼちぼち出てきますが、気にしたら負けと心得て下さい。常識を疑いましょう。
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