後悔。それは、文字通り後から悔いることを表す言葉、おそらく全ての知的生命体が一度は体験したことがあるだろう。
…あの時ああしていれば、あんなことを言わなければ…過ぎた過去に思いを馳せ時間を無駄にする…そして、後悔を重ねてしまう。
……生きている限りこの感情と付き合い続けることになるなら…いっそのこと。
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zzzzzzzzzzz…
「…お……だ……!」
zzzz…ん?…婆ちゃん…?今日は学校休みだし、お昼には起きるから…もう少しだけ寝かせてくださzzzzz
「なん………こんな………」
なん…?ああ、ナンね。買い物ならあとで行くから…
「危険………早く………起きて………!」
危険…?大丈夫だよ…PUは10連チケで当たるから…嘘じゃないから…
「仕方ない…よし!」
だから婆ちゃん、俺…引くよ。ユニr
「起きろ!」
「コォッッッッ!?」
━━━━突如、お腹あたりに走る鋭い痛み。これは…ボディブローか。
「オォォォォッーーーー!?!?」
「え…だ、大丈夫?!」
痛みに飛び起きた俺に、心配する声が聞こえる。
「ーーーー………大、丈夫だ…問題ない」
「よかった…!さっきから呼びかけてたけど全然起きなかったから、てっきり死んでるんじゃないかと…」
「だからって、ボディは…ないだろうが……………あ?」
知らない天井だ…何処だここ?俺の部屋の窓は割れてなかったし、俺が寝ていたのはひび割れてカチカチのタイルの上なんかじゃなくてふかふかのベッドだった筈だ…寝ている間に爆弾でも投げ込まれたのか?
「…いや、ならなんで俺は無傷なんだよ…もしかして誘拐…ええ?」
ここ絶対家じゃないってぇ…
「…貴方はここに住んでた訳じゃないの?」
「誰がこんな廃屋で生活できるんだよ…秘密の隠れ家じゃあるまいし」
「隠れ家…確かに。この辺は開けた地形で秘匿性に欠ける。それにこの建物自体もボロボロで、籠城戦をしようにも弾丸の貫通を容易く許してしまう」
「えぇ…気にするとこそこかよ…てかあんた誰だよ」
「近くの大通りの方が…ん?」
自然に会話してたから忘れてたけど、俺はこの人の名前すら知らない。
少なくとも、ボロボロの服を着た白髪の女の子の知り合いはいないはずだ。忘れるはずもない。
「私?私の名前は白洲アズサ…そうか、家主じゃなかったのか」
「白洲アズサ…知らない名前だ」
少女は、背中の羽根を手ではたきながら名乗った…羽根?
「…匿ってもらおうと思っていたんだけど」
「匿うって…いや、それよりもアズサさん。腰のそれって…」
「腰…?拳銃のことか?」
「…物騒な物持ってんな…羽根だよ羽根。コスプレかなんかか?」
「こすぷれ…?何のこと?」
俺の言葉に首を傾げるアズサ。羽根のことよりも先に拳銃に反応…そもそも拳銃を持っていることもおかしいな?
「あー…その羽根は本物なのか?」
「…これ?」
「…わーお」
アズサは羽根をパタつかせ、本物だとアピールしている…もしかしてこの子にとっては羽根が生えていることは当たり前なのかもしれない。
「………ちに………」
「…かく………」
「ん?」
廃屋の外から声が聞こえる。姿が見えないから多分だけど…大人の声だと思う。そういえばまだここが何処なのか知らなかったわ…ちょっと聞いてみるか。
「この声………」
「よし、そうと決まれば早速…すみませr」
廃屋の外へと歩き、声を掛けに行こうとしたその時、
「…っダメ!」
アズサの声と共に突如として黒く染まる視界。
「(アズサさん!?あんたいきなり何を)」
「(ごめん。ちょっと静かにしてて)」
背後に感じる冷たい地面とは反対に、暖かく柔らかい感触が身体を押しつぶす…[声にならない声]うぉぉぉ!たかが女の子1人、腕力で優しく押し返してやるっ!
[肩を掴もうとする]
「(…今はダメ。まだ危ないから)」
押し返して…!
[必死にもがく]
「っ、(あんまり動かないで。ちょっとくすぐったいから…)」
押し返して…
「(うん、今は大人しくしてて)」
[咽び泣く]
自分よりも小さな女の子に押し倒されて、身動き一つできない…俺はッ、こんなにもッ、弱いッ…!
「…この………いるの……」
「多分……さっさと……」
「………逃げ…………探せ……!」
俺が自信を失っている間に、話し声が近づいてくる…何だ、探せ…?俺の上にいるアズサに聞いてみるか。
「なあ、アズサさん」
「(静かに…まだ近くにあいつらがいる、小声で話して)」
「(…わかった。それで、アズサさんが言ってた危ないのって…)」
「(…ああ。外の奴らだ)」
そうらしい…それだけ?
「(アズサさんは…狙われてるのか?それはどうして?)」
「(うん、私は狙われてる。理由は…私が逃げ出したからだ)」
逃げ出した…?まあいいか。それよりも気になることがある。
「(なあ、そいつらは俺にとっても危険なのか?)」
俺の問いかけに対し、アズサは小声で答えた。
「(…うん)」
そっか…じゃあ、俺は朝起きたら知らない廃屋にいて、よくわかんない内に命の危険に巻き込まれていると………[咽び泣く]
「(アズサさんが狙われるのはわかる。だけどなんで俺まで狙われるんだ…)」
「(それは…あいつらの狙いが、ヘイローがある子供だから)」
「(…ヘイロー?)」
なんだそれ?
「(ヘイローってなん…)」
「通りの奴らが言ってたのは…この辺か?」
アズサへの問いかけを遮る様に、廃屋の外から声が聞こえてきた。
「(!こっちに近づいてくる…)」
タイミング悪いなぁ…ここは廃屋です!人っこ1人いません!だからこっちくんな!
「でもな〜あいつらすぐ嘘つくし、多分適当言ってるだけかもなー」
…どうやらアズサが逃げてくところを見て、告げ口したやつがいるみたいだ。余計なことを…
「大体なんでオレがこんなことしなきゃ…」
「チッ…オイ!そっちに商品…白髪の餓鬼は!」
「あー…いんや、見当たんねぇ。ここにはいねぇぜ、兄弟」
「(…奴の仲間が合流したみたいだ)」
「(………商品?)」
「クソッ!…あの餓鬼、商品の癖にちょっと目を離した隙に脱走しやがって…捕まえたらただじゃおかねぇ!」
「(白髪の餓鬼。これって多分アズサさんのことだよな…?)」
大人の声から察するに、逃げ出したアズサを追ってきたんだろう。
「(…なあ、商品ってどういうことだ?)」
人身売買。海の向こうならいざ知らず、日本ではニュースでも聞かないような、非日常的な言葉が頭を過ぎる。
「(…あいつらの言う商品は、私だ)」
「(………は?)」
…奴らが徘徊してなければ、声を上げてしまったかもしれない。
「(どういう、ことだよ…?)」
「(…スラムを歩いていた時、いきなり奴らに攫われたんだ。奴らは私を売り飛ばす為に捕まえたと言ってた…そして今日、買い手が見つかったと聞いた私は逃げ出したんだ)」
「(…なんだよ、それ)」
アズサに嘘をついてる様子はない…笑えねぇ、まじもんの拉致じゃねぇかよ。
「(子供が…そんなことが、あるのかよ)」
「(………スラムには子供がたくさんいる。中でもヘイローがある子供は特別頑丈だから、良い値段が付くらしい。私が狙われたのもそれが理由だろう)」
人の命をなんとも思わない所業に吐き気がする。聞いただけの自分でこうなのに、当事者であるアズサの声に抑揚はない…正直言って何にもわからない。ヘイローだとか子供を売るだとか、聞きたいことが山ほどある…けど、
「(なんで…そんな風に言えるんだよ…)」
「(………)」
「(あんたの命だろ…どうしてそんなに…!)」
「(…ここでは、よくある普通のことだ。それが偶々私だった、それだけのことだ)」
それだけのこと?これが普通…?
「(っ………冗談じゃない)」
朝食を食べる前で良かった…きっと、吐き戻してしまっただろうから。
「(………私が引きつけてる間に、貴方は逃げて)」
吐き気を堪える俺の耳に、聞きたくない言葉が聞こえてくる。
「(逃げろってアズサさん…あんた、何を言っているのかわかってるのかよ)」
「(わかってる)」
「(ッ分かってないだろ…!あんた一回逃げたんだろ!捕まったら今度こそ…!)」
「(元々、巻き込まれた貴方には関係ないことだから)」
「(…それは)」
…アズサの言葉は正しい。俺は巻き込まれただけの被害者で、少し会話しただけの他人で、わざわざ加勢する理由もない。
それに、相手が拳銃以上の武装をしていたら?この子に腕力で負ける俺がいたところで、良くて肉壁、普通に足を引っ張るだけだろう。
それに、もし捕まったら俺も…だから、アズサが言っていることは正しいはずだ。
「(………勝てるのか?)」
「(…勝つのは難しい、と思う)」
期待とは裏腹にアズサの答えは楽観できる様なものじゃなかった。それはつまり、言われた通りに俺が逃げ出せば、俺は助かるかもしれない。けどこの子は…
「(アズサさん)」
「(何?)」
「(俺が奴らを引きつける。その間に逃げてくれ)」
「(…え?)」
小声だが、アズサの驚く声が聞こえる。
「(これでも体力に自信はある。あんたが逃げる時間くらいなら余裕で稼いでみせるさ)」
俺とアズサは他人だ。でも、少しの会話でもわかったことがある。
「(俺を囮にして逃げ出せば、捕まることはない…俺もあんたも子供だし、ヘイロー?もあるんだろ。条件が同じなら連中もあんたを諦めて引き上げてくれるかもな)」
アズサは会ったばかりの俺の心配をし、当たり前の様に人が死ぬ場所でも優しさを失ってない強い人だ。
「(それにまだ捕まると決まったわけじゃない。うまくいけば2人とも無事に逃げられるかもしれない)」
それに、アズサはこの場所に詳しい。たとえ彼女1人を犠牲にして助かっても、彼女の様な親切な人と会えなければ俺はここで行き倒れるだろう。
「(だからあんたは気にせずに…)」
「(…貴方は優しい人だな)」
アズサは唐突に呟く。
「(…急になんだ。俺は優しくなんて…)」
「(ううん。貴方は私に巻き込まれただけの被害者だ。なのに、さっきあったばかりの私を心配し、身代わりになろうとしている)」
「(それはあんたもだろ。それに、心配なんて…)」
そうだ…俺は心配なんてしてない。これはそんなものじゃない。
これはただ
自分と同じくらいの小さな少女を見捨てる嫌悪感で、
拳銃を持つ少女に恨まれるかもという猜疑心で、
…人が死ぬ姿を見たくない。そんな小さくて臆病な気持ちが、見せかけの心配を言葉にしている。
「(……逃げる為に貴方を利用する。それは生き残る方法としては正しいのだろう)」
「(…そうだ、だからアズサさんは)」
「(でも)」
アズサはそこで言葉を切り、俺の上から退いたアズサの顔を改めて見ることになる。
「(その正しさは、私のことだけを考えた正しさだ)」
「(私は…私の代わりに貴方が死ぬことを許容できない)」
俺を見下ろすアズサの顔に、諦めの色は見えなかった。
「(ここではよくあることなんだろ…なら気にしなければいいじゃねぇかよ)」
俺は吐き捨てる様に告げる。そうだ…人が死ぬことは珍しくないなら、俺のことなど気にしなければいい。
「(…それがここでは当たり前だとしても。私は嫌なんだ)」
アズサは手元の拳銃に弾薬が入っていることを確認し、割れたガラス窓越しに外を見る。
「(…アズサさんは怖くないのか?)」
「(…勿論、怖い)」
立ち上がった少女へ問いかける。返ってきた言葉は否定ではなく肯定。少女は気丈に振る舞っているが、拳銃を握る手は微かに震えていた。死を恐れていないわけじゃないんだ。
「(奴らに逆らった子供がどうなったか、知らないわけじゃない)」
「(でも、たとえどんなに怖かったとしても)」
「(…それは私が諦める理由にはならないから)」
「(…そっか)」
アズサは手持ちの武装の確認をして、今にも外に出ようとしている。
「(アズサさん)」
「(…何?)」
「(拳銃、他にもあるか?)」
「(…え?)」
どうせなら、俺も命を賭けよう。