白洲アズサに愛を込めて   作:爪ワッサン

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主人公の年齢は原作開始時点でサオリと同じになります。


嘘つきだけが会えるお姫様

 

「起きてショウマ。もうすぐ訓練の時間だ」

 

聞き慣れた声に名前を呼ばれ、目を開ける。

 

「………………おはようアズサさん」

 

この一年で何度もアズサに起こされたせいか、だんだんと自力で起きれなくなってきたような気がする。

 

「うん、おはようショウマ。三十分後に訓練所に集合だから、今のうちに顔を洗っておいた方がいい」

 

布団の代わりとして被っていた布を傍に退けて体を起こす。思いっきり体を伸ばすとパキポキと気持ちのいい音がなる。……すっかり床で寝ることに体が慣れてしまった。

 

「……四時はやっぱ早いって……ベアトリーチェはなんでこんな早朝を訓練の時間に設定してんだよ」

 

訓練の時間はベアトリーチェが起きる時間と合わせてあるそうだ。年寄りは早く起きると婆さんが言っていたが……あの見た目で結構年取ってるのだろうか。

 

「顔洗うか…」

 

「ついでにシャワーも浴びておいた方がいいと思う。…時間が空いてるのは今くらいだと思うから」

 

アズサの言う通りアリウスで自由に動ける時間は限られていて、早朝か就寝前の短時間しかない。そして、貴重な時間を割いて浴びるシャワーからはなぜか冷水しかでないという地獄…当然風呂も水風呂。もし冬にシャワーを浴びてしまったら、いくら頑丈なキヴォトス人でもワンチャン死ぬと思う。……キヴォトス人にヒートショックが起こるのかは疑問だが。

 

「アズサさんはもう浴びたのか?」

 

「うん、お陰で目が覚めた………っくしゅん!」

 

「…大丈夫か?」

 

「っ大丈夫、このくらい私は、平気…っくしゅん!」

 

「…ティッシュ、いるか?」

 

「…うん」

 

比較的暖かい気候にもかかわらずこれだ。アリウスでの生活はありとあらゆるところが不便で快適ではないが、その中でもシャワーの水冷たすぎ問題だけはベアトリーチェを殺す理由になると俺は信じている。

 

「…ありがとうショウマ…私は先に訓練所に行くから、早く来てね」

 

「いってらっしゃーい………」

 

アズサはそう言って部屋を出て行った。寒いのによくやるよ…まあ、時間までに行かないと罰があるしな。急ぐのも仕方ないと思い、シャワー室へと足を運ぶ。

 

ベアトリーチェの生徒会長就任宣言から一年。俺はこの学園に対しての認識を改めていた。

 

最初、俺は学園を名乗るのだから学生らしく授業でもするのだと思っていた。私兵に相応しい態度だとか言っていたし、国語で言葉遣いを矯正させられたり、数学で弾道計算を学ぼうだとか……少しおかしいがそこまで過酷ではないだろうと。しかし、それは間違いだった。

 

「遅いぞ貴様!部隊に迷惑をかけるな!」

 

「す、すみません教官!よく眠れなかったので…」

 

「…体調管理を怠った言い訳にしては笑えないな。マダムの設定した時間割が間違っていると?」

 

「!違います、私が悪いんです!マダムは間違っていません!」

 

「そうだ、貴様が間違っている。なら、どうすればいいかわかっているな?」

 

「!?許してください!!わ、私昨日もご飯食べてなくて、今日も食べられなかったら…!」

 

「──子供が意見するな」

 

「……ぁぁ………」

 

膝から崩れ落ちる子供の姿をつまらなそうに一瞥した大人は、そのまま別のグループの所へと向かった。無理なスケジュールに適応できずに体調を崩す子供。その子供を理不尽にしかり罰を与える大人。…俺がアリウスに来てからこの光景は日常となっていた。

 

「………ショウマ」

 

「……あまり期待しないで「わかった!」くれよ…て、聞いてないし」

 

その言葉を待っていた、と言わんばかりに俺の言葉を遮って走り出すアズサ。向かう先には先ほどの子供がいて、駆け寄ったアズサは懐から何かを取り出している。

 

「…はぁ、はぁ、大丈夫か?」

 

「……あなたは…」

 

「私の分をあげる。それを食べて」

 

「…え?そ、そしたらあなたが食べる分が無くなっちゃう…」

 

「大丈夫だ。私は燃費がいいから」

 

「ねんぴがいい…?」

 

「うん、だから大丈夫だ」

 

この一年の間、アズサのようにこのやり方を受け入れずにベアトリーチェに反発する子供もいた。突然現れた大人に対して心を開く子供は1人もおらず、時に単独で、時に大勢でベアトリーチェを襲いに行った。

 

しかし、所詮は子供ということか武装した大人達を相手に誰1人として勝つことはできず、一方的に蹂躙された。そうして反抗の意思を見せた子供は大人達に地下牢へと連れて行かれ、反省したと思われるまで幽閉される。

 

不思議なことだが、地下牢からは幽閉されている子供の怒鳴り声が聞こえてくるのに、こちらからの声は地下牢に聞こえないようになっている。地下牢にどんな技術が使われているのかは知らないが、幽閉されている間、中にいる子供はずっと1人で過ごすことになる。

 

三日に一回の食事の配給も顔を合わせることなく扉越しに行われるため、暗闇の中で子供は孤独に苛まれ続ける。そうして数日も経てば声も聞こえなくなって、様子を見に来た大人はいつも、慈悲を請う子供の姿を見ることになる。

 

僅か数日の間で人格を歪められる。そんな想像を絶する地獄を体験したいと思う者がいるはずもなく、次第に反抗する子供はいなくなって、アリウスの子供達は大人に対して従順になった。

 

意見せず、逆らわず、常に大人に対して従順で、未来に希望を抱かず自分で考えることを放棄した子供。それこそが奴の言う相応しい私兵で、そういった子供を作り出すのがこの学園の目的だ。…もしアズサの行いがバレてしまえばアズサも同じ目に遭う。止めるべきだと思い、アズサと話したが…

 

「「私は、人を助ける後悔を選ぶ」…か」

 

あの日の俺と同じで、アズサは既に選んでいた。なら俺がそれを否定することはできない。それに、

 

「やっぱり受け取れません!」

 

「でも、お腹空いてるんじゃ…」

 

「優しいあなたがお腹を空かせるくらいなら、2、3日食べずとも平気です!」

 

「なっ…それでは死んでしまうぞ!!」

 

「あなただって!」

 

「私は燃費がいい!!」

 

「ねんぴってなんですか!」

 

頑なに自分の考えを曲げないアズサのことだ。いくら言葉を交わそうと説得は不可能だろう。……けど、あんまり騒いでると…

 

「この辺りか………ん?あれは…」

 

アズサ達の大声を訝しんだ大人が現れた。…まあ、あれだけ叫んでいたんだ。そりゃ来るよな……仕方ない。アズサに頼まれたんだ…精一杯誤魔化すぞ…!

 

「貴様ら何を騒いで──」

 

「いたたたたたた!!!!」

 

「な、なんだ…貴様?」

 

「お、お腹が痛い…凄く痛い…し、死ぬかも知れない!!」

 

「は?何を言って─」

 

「…だから…病室へ連れて行ってください」

 

「何故貴様の言葉に従わねば──」

 

「─俺が死んだら、貴方に責任取れますか?」

 

「……貴様………!!」

 

相手がただの子供ならばそのまま撃たれておしまいだろう。けど、俺はベアトリーチェの被験体だ。他の子供と違って雑に扱うことは許されない。万が一俺が本当のことを言っていたら?こいつにそう思わせればこっちの勝ちだ。

 

「………チッ!さっさとしろ!」

 

「あ、歩けないので背負ってくださいね」

 

「……貴様ぁ……!!」

 

渋々俺を背負う大人は、アズサ達とは反対方向にある保健室へ向かって歩く。これで時間は稼げるはずだ。そう思い静かにしていると、背中に視線を感じた。振り返るとアズサがこちらへグッドサインを向けている……こんなことでしか役に立てない。そんな俺を惨めに思うよ…

 

 

→→→→→→→→→→

 

 

「あーいってぇ……早く治してくれぇ!!」

 

「…今から医療班を呼ぶ。貴様は安静にしていろ!」

 

俺をベッドに寝かせて、大人は扉を閉めていった。足音が遠ざかっていく……割となんとかなったな。

 

「…毎回これで成功するのはなんでなんだ…?」

 

いくら替えが存在しないとはいえ限度があると思うが…

 

「きっと、貴方が大切にされているからだと思う…私もそうだから」

 

「被験体としてだけどな…………いつからいたんだ」

 

「最初から。ねぇ、あれってお姫様抱っこって言うんでしょ。ヒヨリが見せてくれる雑誌にあったんだけど……貴方って女の子だったんだね?」

 

「………あんた、わかってて言ってるだろ」

 

「ふふふ」

 

俺の寝かされているのとは反対のベッドで小さく笑っている少女。その顔はいつもカーテンに遮られているため見たことがない。……なんでお姫様抱っこだとわかったんだ?

 

「カーテン越しの影の形を見て予想したんだ」

 

「ナチュラルに心を読むなよ、エスパーか?」

 

「ふふふ…どうだろうね?」

 

こいつ…俺を笑ってやがる…!初めて話した時から、この子と話しているとなんか調子崩れるんだよな…

 

「……なあ、あんたはいつもどこにいるんだ?」

 

「?アリウスの中だけど…それがどうしたの?」

 

「……そうなのか。いや、そういえば外であんたの声を聞いたことがないなって」

 

俺がこのくだらない作戦を実行するようになってから、何回かこの病室で話している少女。アリウスで過ごす中で、彼女の声を外で聞いたことがなかった。

 

「…マダムは、私に話すことを禁じているの」

 

「なるほどな……それじゃあ、ここで話すのもマズイんじゃないか?」

 

「それは大丈夫。ここにいる間は調整中みたいだから」

 

調整中…?もしかして彼女も俺の首輪みたいなものをつけているのだろうか?

 

首輪といえば、これに関しても進展があった。ベアトリーチェの言うとおりこれは何をしても壊れなかった。銃で撃っても傷一つつかない。もう諦めようかと思った時に思いついた。

 

この体が成長するにつれて、首輪のサイズは合わなくなるはずだ。いつか必ず交換しなければならない時がきて、そのために首輪が外される瞬間。俺はその時を狙う。そこからどうやって逃げるかは…アズサと一緒に考えるか。

 

「………ねぇ」

 

考え事をしている最中、少女が話しかけてくる。……なんか不満そうだな。

 

「どうかしたか?」

 

「私、さっきから貴方に話しかけてたんだけど」

 

「あー…ちょっと考え事をしてて」

 

「別に……気にしてないよ……ただ」

 

そう言うがどう考えても気にしてる声色だな……

 

「……私が声を出して会話できるのは貴方だけだから…」

 

「…そうだったな」

 

少女が何故話すことを禁止されているのかはわからない。ただ、確かなのはそのせいでこの子は苦しんでいるということだ。…ベアトリーチェのせいで話すことができない、か…その辛さを俺はわからないが…

 

「………なあ、あんた確か外の世界について知りたがってたよな」

 

「……え?」

 

俺が何を話すのか察したのか、カーテン越しに困惑する声が聞こえる。今だけは俺もエスパーを名乗れるかもしれないな。絶対に少女は驚いた顔をしている。花京院の魂を賭けてもいい。

 

「ここにいる間だけだが、俺が知ってることならなんでも話せる」

 

「……いいの?もしバレたら貴方は…」

 

少女の言う通り、バレたら俺でも流石にやばいのは確かだ。……でもまあ、

 

「あんたのためじゃない。俺が暇だから話すんだ。それに会話するならお互い興味のある話の方がいいだろ?」

 

あいつに怯えたせいで、少女との会話が楽しくなくなるのはもっと嫌だ。

 

「……ふふ、そうだね」

 

先ほどまで感じていた暗い雰囲気がなくなった。…ようやく笑ってくれたか。

 

「それじゃあ、早速いい?」

 

「おう」

 

覚悟は決めた。なら問題ない。…さてと、まずは何を聞かれるかな…

 

 

 

「──さっきのってツンデレってやつだよね」

 

「──話はここで終わりだ」

 

この後めちゃくちゃ会話した。

 

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