白洲アズサに愛を込めて   作:爪ワッサン

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個性溢れる同居人達 

 

ヴァニタァァス!!

 

ヴァニタァァタァムゥゥ!!

 

窓の外から聞こえてくる喧騒をBGMに俺たちはアリウスの廊下を歩いている。普通なら外の連中と同じで訓練所に向かう時間なのだが、今日は別に予定があった。

 

「……後で俺たちだけ居残りとかないよな、サオリさん」

 

前方で俺たちを先導するサオリに問いかける。理由があろうと教官達なら平然とやるだろうが、今日からはサオリが訓練担当だ。アリウスの大人と違いサオリの方針がわからない以上は安心できないが、果たして…

 

「その心配は不要だ。今回のようにやむを得ない事情があるのなら基本的にそのような処置は取らない」

 

「ならいいんだが……」

 

「……この先を進めば私たちの部屋だ」

 

向かっている先はサオリの…正確にはサオリ達の部屋だ。道中暇だった俺が質問したところサオリにも3人仲間がいるらしく、全員の面倒を1人で見ているらしい。……この劣悪な環境で俺と同じ年齢にも関わらず年下の面倒を見る余裕があるとは。サオリって凄いな……

 

「サオリ達の仲間はどんな人たちなんだろうな…」

 

「…詳しくは知らないが、悪い奴らじゃないと思う。アツコさんの話に嘘がないならだけど」

 

秤アツコ。俺が病室で出会った少女。つい最近ベアトリーチェの調整とやらが終わってしまいアツコは病室に現れることがなくなった。せっかくアズサ以外の友人ができたのに会えなくなり少し悲しかったが、不思議と縁が繋がってまた会える事になった。……どちらもベアトリーチェが原因というのが癪だが。

 

「アツコ……確か、ショウマの友達だったか?」

 

「ああ、一月ほど会えていなかったが……元気にしてるだろうか」

 

アズサと共にベアトリーチェに悟られずに会話できる手段として、日夜手話の練習をしていたが……ここに来てまさか役に立つ日が来ようとは。人生何があっても不思議じゃないな……朝起きたら異世界にいたとしても不思議じゃないし、ミサイルに巻き込まれて数日で完治するのも珍しくない……俺の人生波瀾万丈過ぎるだろ。

 

「……先ほど説明したが、アツコはマダムに会話を禁じられている。お前が以前のように話しかけたとしても、アツコは言葉を返すことはできない」

 

「ああ、わかってる。ただ、会話ができないならサオリさんはどうやって意思疎通してるんだ?」

 

「基本的に手話を用いた方法で会話している。勿論、アツコと会話できるようお前達にも後日教えよう」

 

教える気満々のサオリには悪いが、既に手話は学んでいるんだよな……まあ、あとでアツコと会話する時にバラすから今はいいか。そんなふうに道中話しながら歩いていると、一つの部屋の前でサオリが足を止めた。

 

「…ついたのか?」

 

「多分……サオリさん。ここが目的地か?」

 

「…そうだ。ここが私たちの部屋だ」

 

目の前の部屋は出発前に説明された通り、今まで住んでいた部屋との違いはないように見える。扉付近にトラップも仕掛けられていない、アリウスのありふれた部屋だ。

 

「お邪魔します………」

 

「……広いな」

 

中は思ったより綺麗で、俺たちの住んでいた部屋よりも整った印象を受ける。窓もひびが入っているが割れてないし、床に空いた穴の数も少ない。ワンルームに6人は狭くないかと思っていたが、存外広いじゃないか。

 

「…あ!お帰りなさい…サオリ姉さん…」

 

「ただいま……あとヒヨリ、人前ではリーダーと呼べ」

 

「あ……そ、そうでしたね……すいませんサオr…リーダー」

 

サオリと話しているヒヨリと呼ばれた水色髪の少女。アツコ曰く、雑誌集めが趣味らしい。しかし、姉さんか……血が繋がっているようには見えないが、義理の姉妹なのだろうか。

 

「……遅かったね?リーダー。もうみんな起きてるよ」

 

「あ、ミサキさん……もう大丈夫なんですか?」

 

「…別に大した怪我じゃないし、心配しなくていいよ…それで、リーダーが朝から私たちを置いて外に出て行った理由が、後ろの2人?」

 

「…すまない。事前に起こしておくべきだったな」

 

「……気にしてないよ。ただ、朝起きてリーダーがいなかったから………」

 

「…ミサキ?」

 

「………なんでもない」

 

明らかに何かある様子を隠して、ミサキと呼ばれた少女は黙ってしまった。……至る所に包帯が巻かれている様子から察するに、かなり酷い怪我を負っていたのかもしれない。どことなく棘がある発言もいまだに傷口が痛むからか?

 

「?…なんでもないならいいが……ミサキの言う通り、この2人を迎えにいくため少し出ていた。マダムの命令で、2人は今日から私たちの新しい仲間となる」

 

「新しい……?」

 

「仲間……?」

 

2人のこの反応は…もしかしてサオリは事前に伝えてないのか?

 

「……急すぎない?リーダー」

 

「私もそう思うが……朝マダムに呼び出された時に伝えられたんだ……すまない」

 

朝一で呼び出されたのかよ……なら伝える時間なんてあるはずないか。……ベアトリーチェって他人の事情とか気にしないよな…本当、なんであいつがアリウスの頂点に君臨してるんだよ。

 

「……まあ、いいか。今日からお世話になる罪前ショウマだ、よろしく頼む。こっちは相棒の──」

 

「──白洲アズサ。よろしく」

 

「…ショウマくんとアズサちゃん、ですか……私、槌永ヒヨリと申します……よ、よろしくお願いします……私なんかによろしくされても迷惑ですよね……へへっ…」

 

「…戒野ミサキ……まあ、よろしく」

 

やたらと悲観的なヒヨリとダウナーで無関心のミサキか……癖が強いが、悪い人たちじゃなさそうだな。

 

「──それで、後ろに立ってるあんたがアツコさんか?」

 

[………驚いた。気づいてたんだ?]

 

背後に振り返ると黒い仮面をつけた少女が立っていた。おそらく本当に驚いているのだろう。彼女視点俺に伝わるはずのない手話で思わず問いかける程度には。

 

「話してる最中、廊下から足音が聞こえたからな」

 

[すごいね、ショウマ]

 

「アリウスで過ごしてれば誰でもこうなるだろ」

 

[そうなん……?………!?]

 

会話の最中に手の動きがぶれるアツコ。……俺と普通に会話できている事に気付いて驚愕しているようだ。自然に会話してると後からびっくりするよな。わかるよ、俺も以前似たようなことがあったから。

 

「ショウマ……お前、手話ができたのか」

 

「ショウマだけじゃない。私もできるぞ!」

 

「……まあ、そういうことだ。黙ってて悪かったな」

 

「……いや、大丈夫だ。ただ、少し驚いただけだ」

 

「とりあえず中に入ろう」と言うサオリの言葉と共に、アズサも部屋の中へと向かった。……そういえばずっと玄関に立ってたのか俺たち。

 

[いつから手話ができるようになったの?]

 

「いつから……一月前だな」

 

[一月前……それって──]

 

「ああ、具体的に言ってアツコさんと会えなくなってからだな」

 

[────]

 

あの日に丁度新聞が切れたからな……他にやることがなくなったアズサに俺が手話の練習を提案したんだ。最初は暇つぶしのつもりだったが、こうして役立つのなら練習した甲斐があったな。

 

「……?アツコさん、大丈夫か?」

 

俺の言葉を聞いてから動きがなかったアツコ。ひょっとして体調が良くないのかもしれない。

 

「具合が悪いならサオリさんに伝えるが……」

 

[──………ううん。大丈夫。早く中に入ろう?」

 

そう告げるアツコの動きは過敏で嘘をついている様子はない。……多分考え事でもしてたのだろう。

 

「……これで全員揃ったな」

 

サオリが部屋の中全体を見渡して呟く。この後はおそらく訓練の時間だろう。今日からはサオリが担当すると聞いていたが、いつもより過酷じゃないといいな……

 

[サオリはスパルタだから期待するだけ無駄だよ]

 

「そうか……さらっと心読んだな?」

 

[さっきのお返しだよ]

 

「後ろから驚かそうとしてたあんたに言われたくないな…」

 

「……随分と仲がいいんだな?」

 

「[あ]」

 

会話に夢中になっていたせいで、サオリに見られていたことに気づかなかった。……久しぶりに再開したせいでちょっとハイになっているのかもしれない。

 

「はぁ………それじゃあ改めて、これから訓練所に移動する。装備の確認をしておけ」

 

サオリの言葉を聞いて、全員が支度を始める。……今日から訓練の相手はサオリになるのだろうけど、どれほどの実力なのかはわからない。並の教官程度なら楽に倒せるが……サオリの様子からは大人の教官特有の慢心が感じられない。同じ子供だからこちらを見下してないのだろう。まあ、例え慢心せずともアズサが負けるとは思えないが。

 

「ショウマ、閃光弾の残りはあるか?」

 

「ちょっと待て……あった。はいどうぞ」

 

「ありがとう。ショウマの装備は大丈夫か?」

 

手に持ったショットガンの薬室を確認し、弾が込められていることを確認する。背負っている盾も特に凹んでたりするわけじゃないから、今すぐ壊れる心配はない。ナイフも刃こぼれしていないし……よし!

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

「なら早く行こう。サオリ達は先に訓練所で待っている」

 

アズサと共に部屋を出る。……さて、今の所アリウススクワッドに不審な点は見当たらない。ベアトリーチェに対しての忠誠心も感じられないため、彼女達は──アツコを除いた3人は普通のアリウス生徒なのだろう。

 

……つまり、俺たちの仲間にできるかもしれない。アリウスを脱走するためには今の俺たちでは力が足りない以上、同じ考えの仲間が必要だった。ベアトリーチェの目を盗んで少しずつ仲間を増やそうと思っていたが、まずはスクワッドをどうにかしなければそれも不可能だ。

 

そして、スクワッドは味方にした方がいい。あのベアトリーチェが指名したサオリと、そのサオリに鍛えられた3人は確実に協力な仲間となるはずだ。…それに。

 

「……アツコ?どうしたんだ。忘れ物か?」

 

[2人が遅いから迎えに来たよ。もし迷ってたら連れて来てってサオリが言ってた]

 

「迷ってなんかいないが……まあ、いいか。一緒に行こう」

 

それに……せっかくできた友人を敵に回したくない。それが俺の本音だ。

 

 

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