【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
今回はイザークと赤服のじゃれ合いを書いてみました。
上官としてのクルーゼは一流ですし、あんな境遇じゃなければとつくづく思います。
第10話 クルーゼの微笑み
青いジンに乗る傭兵サーペントテールのパイロット叢雲劾(むらくも・がい)は抗戦を挑んできたジン相手に苦戦していた。
対MS装備をして来なかったのは今回の仕事がザフト軍補給基地を破壊するものだからだ。
そして劾の乗る青いジンは速度があり大抵のジンなら余裕で振り切れた。
「くっ今までの護衛とは違うようだな。まず奴を叩くしかないか」
そう言って劾は機体を立て直しオレンジ色のジンに戦いを挑む。
サーペントテールという蛇の頭と尻尾をモチーフにしたエムブレムをつけた凄腕の傭兵部隊のリーダーを務める自分を追い込むパイロット。
装備さえ同じなら苦戦する事はないが今の劾にはナイフしかない。
オレンジ色の機体はザフト軍の正規装備MMI-M8A3 76㎜重突撃機銃を撃ちながら突撃してくる。
その動きが自分を補給基地から遠ざけ別ポイントへ誘導している事に気が付いたが対艦装備では著しく不利だ。
「対MS戦闘を想定してなかった俺のミスだ」
劾は自分の判断を悔やむが今は悔やむ時間の余裕はない。
相手は悔やむ時間を与えてくれそうもない。
劾はCEでも指折りの実力者で、その劾を追い詰めるミゲルも相当の実力者といえる。
クルーゼ隊に無能はいない。
「悔やむのは生き残ってからだ」
傭兵として契約したザフトの補給基地を叩くか自分の生命を優先するか。
その2者択一を迫られた時に現れたもう一機のジンを発見して劾は自分の生命を優先する事に決めた。
そのジンにはニコルが搭乗している量産型で特に改造した様子がない。
だが明らかに熟達した動きで無駄がない。
数々の戦いを潜り抜けた劾の本能が、新手のジンに乗るパイロットが尋常ではない技量を持っている事を感じていた。
「傭兵とはあれほどの技量を持つ者ですか。侮れませんね」
劾の乗る青いジンを視認したニコルはミゲルと互角以上の戦いを繰り広げる傭兵の動きに驚いていた。
ニコルの認識では傭兵とは只の雇われた流れのMS乗りで技量は低いと思っていた。
その認識を改める必要があるようだ。
ニコルが乗るジンもMMI-M8A3 76mm重突撃機銃を撃つ。
それを劾の乗る青色のジンは回避する。
劾は技量の高いジン二機を相手にする不利を悟り撤退を決意する。
手持ちのバズーカをミゲルに向けて至近距離で発射して放り投げた。
ミゲルが退いた隙に青いジンは離脱していく。
青いジンはどうやら補給基地破壊の任務は放棄したらしい。
だがニコルは傭兵を見逃すつもりはなかった。
この傭兵は今の間に決着をつけなければ後悔すると思ったからだ。
MMI-M8A3 76mm重突撃機銃を撃ちながら自分を追うニコルのジンに劾は舌打ちする。
「易々と逃がしてはくれないか」
だが武装を捨てて逃亡を選んだ劾に迷いはない。
バーニアを全力でふかしてニコルのジンを振りほどく。
「ミゲル、ニコル、帰還しろ。目的は達した」
「でもあいつを見逃しては!!」
「あの様子では追いつけまい。何我々だけが苦労する必要はない。また生きていれば会う事もあるだろう」
「わかりました」
前世であの青いジンを迎撃したのはミゲル機で補給基地は破壊された。
あの時のニコルは傍観者だったが今回は補給基地で戦死したコーディネイターの仲間の事を思い出し出撃した。
結果は青いジンを取り逃がしたものの補給基地を守る事が出来た。
ニコルは確信する。
前世の記憶さえあればニコルは悲劇を回避できる。
それが傲慢な考えだという事をニコルは後に思い知らされる。
歴史に介入するという事をニコルはまだ何もわかっていなかったのだ。
帰艦したニコルをクルーゼ隊長と仲間たちが出迎えてくれた。
「よくやったニコル、ミゲル。あの傭兵は手練れだ」
「はい、僕もそう思います」
クルーゼ隊長に褒められてニコルも笑みを浮かべる。
そんなニコルをイザークが腕組みしながらいつもの仏頂面で出迎えた。
「MSを2機も出撃させて取り逃がすとは情けない奴だ。それで補給基地の被害状況は?」
「それは問題ないよイザーク。ちゃんと被害が出る前に破壊したからね」
今の会話を翻訳するとイザークはニコルとミゲルが無事に帰艦できたのを喜びつつ、敵機を撃墜できなくて残念だと言っている。
相変わらず不器用なイザーク語を聞きながらニコルはイザークに微笑んだ。
「イザーク、心配してくれてありがとうございます」
「誰が貴様の心配などするか!!俺はただ事実を言ったまでだ!!」
ああもう、なんて不器用で可愛いんだ。
思わず抱きしめて頭を撫でたい。
そんな事をイザークに言うと本気で怒られるのは間違いがない。
ニコルとイザークのやりとりをディアッカは呆れアスランは憮然として聞いていた。
てっきりニコルとイザークが口論するとでも思っていたのだろう。
特にアスランはニコルへの暴言を聞いてイザークを抑えようとしていたのか身構えていてくれた。
それが当のニコルが笑顔で受け答えしているものだから何もできなくなってしまったのだ。
「ミゲルもニコルも無事でよかったでいいじゃないか」
そう言ったのはラスティだ。
イザーク語の翻訳に至ってはいないようだが、ラスティもイザークの扱いに慣れてきた。
イザークは義侠心が強く心根が優しく気配りも出来るのに上手く伝えられない。
それがもどかしいのだろう。
アスランに食って掛かるのも信頼しているからで、口喧嘩のように見えて適度な距離を測っている。
イザークの表面だけでなく内面も見てくれる女性が現れる事をニコルは願っている。
そんな彼らを見ながらラウ・ル・クルーゼは微笑み、すぐに自分らしくないと自嘲する。
彼らが優秀でありながら友情を育んでいる事を知り人類の未来を信じたいという気持ちと、それを一瞬でも望んだ自分を嘲笑する。
生体クローンとして人類の闇の欲望から生み出された自分に彼らは眩しい。
ニコルはピアノが得意で同じくピアノが好きなレイと会わせればレイは喜ぶだろう。
きっとレイとニコルは良い友人になるだろう。
そしてこうも思う。
レイの幸せを願いつつ、人類の滅亡を望む自分は何者なのだろうか?
人の望み、人の業を誰よりも知る自分は人の闇を誰よりもよく知っている。
ナチュラルでありながらザフトで栄達し白服を着るまで努力をした。
人は遺伝子ではなく努力によって結果を得る。
そして人類は自らの業によって滅びる事を望む。
望んでいる筈だ。
人類を憎みながらレイの幸せを望む自己矛盾にクルーゼはまだ答えを出せずにいた。