【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第101話 騒がしくも幸せな日々
地球連合軍が一斉に月基地に退いた事でザフトもヤキン・ドゥーエとボアズの守備を固めるために移動した。
ニコル達がいるL4コロニーにも短い平和が訪れる。
ジャンク屋のロウからもたらされる情報をまとめると、月基地を巡って小規模な衝突はあるものの両軍状況は落ち着いていてこのまま停戦に向かうかもしれないという事だ。
もしこのままプラントと地球が停戦なり和平なりしてくれれば言う事は無いけれど、そう簡単にはいかないだろう。
ラクスの持つ前世の記憶によれば、このあと絶滅戦争が勃発して人類は滅亡する。
最悪の事態を避けるため、ここハーバー・コロニーには自給自足にはまだ足りないけど農業プラント設備も作られ始めた。
生き残った人々がここに住む事で人類という種を残すためだ。
自分達が出撃して戻らなかったらニコルはジャンク屋組合に譲渡するつもりだ。
だがロウもプロフェッサーも断った。
「預かるまではしてあげるけど貰うつもりはないわよ。必ず戻って来なさい」
「戻ってこなかったらジャンクにして売っちまうからな」
ニコルは二人の意志が固い事を悟ると同時に侮辱したのではないかと後悔した。
無論二人はそんな風には考えていないのだが。
俯くニコルにプロフェッサーは優しく微笑む。
「やるべき事をしてきなさい。その後でよければ正当な代価を支払って買わせてもらうわ」
そう言ってくれた。
「はい!」
ニコルは笑顔で答え、ジャンク屋組合を後にした。
◆◆◆
「ラクス様」
「ニコルさまこんにちは」
ラクス・クラインは当初気を張っていて凛々しく振舞っていたが、ニコルには年相応の少女の儚さを感じる。
メンデルで生い立ちを知り破壊されたメンタルを癒すべく、キラと共にラクスはハーバーコロニーにある家で一緒に住む事になったのだ。
ラクスとキラは前世で離れ離れになった恋人同士。
キラの顔にも生気が戻ってきたのはやはり恋人効果なのだろう。
ラクスもキラと再会してからは以前の明るさを取り戻し、あるべき姿に戻ったというべきだろうか。
だがやはり時折見せる儚さや悲しさを宿した瞳は変わらない。
そのアンバランスさがニコルには気にかかった。
しかしそれは他人である自分が踏み込んでいい領域ではないし、今は戦時下だ。
そんな余裕はない。
だから今できる事を全力でやるだけだと心に誓ったのだ。
そう決意するニコルにラクスは微笑む。
ラクスの笑顔を見れてニコルは安心する。
「ラクスさま。とてもお幸せそうです」
「そう見えますか?」
「ええとても」
「このコロニーを一歩出れば悲しみに満ちた世界がある事を知っているのにですか?」
「はい。ここにいる事は永遠ではないかもしれません。ですがずっと心を病んでいては倒れてしまいます」
そう、この平穏はずっと続かない。
それでもキラとラクスには幸せになって欲しいと願っている。
二人の幸せを祝福しない人は多分このコロニーにはいないだろう。
いっそ結婚式でもあげさせるべきかと思ったが、流石にそれは死亡フラグすぎるので言うのは憚られた。
結婚式というとアスランとカガリも同じ家に住んでいる。
この二人はとても初々しいというか、もっとアスランが押せばいいのにと思ってしまう。
はっきり言ってもどかしい。
ダブル結婚式でも挙げさせるべきだというのはアストレイ三人娘ことアサギ、ジュリ、マユラの三名だ。
三人は事あるごとにカガリとアスランの仲を冷やかしたり持ち上げたりしているがやきもきしているのはニコルと同じだ。
短い平和なのだから後悔しないに越したことは無い。
「そういうニコル君はマユちゃんとの仲進展してるの?」
金髪癖毛のアサギさんがスムージー片手に持ってニコルに問いかける。
そう言われるとニコルは困る。
というのはニコルはアスカ家に居候状態だからだ。
最初は別の家に住んでいたがマユの強い希望と両親の快諾で決まった。
シンも最初よりは認めてくれたようで居心地は良い。
ここまでしてもらってマユを泣かせたりしたら、シンに対艦刀でばっさりやられてしまうのは間違いない。
「つまりニコル君はマスオさんって事ね」
そう言いながら笑う黒髪で眼鏡のジュリさん。
マスオさんとはなんだろう?
「でもニコル君が入り婿になったらアマルフィ家どうするんだろうね」
そういう茶髪ショートのマユラさん。
でも三人ともフリーらしい。
あまり聞く事ではないのだがカガリ経由で知っている。
というのも先日こんな事があったからだ。
カガリがストライクルージュの操縦を誤ってしまった時、隣にいたアスランが咄嗟に助けたのだが……。
「きゃー、やだやだァ、もう!見せつけてくれちゃて~」
「私もこんな、いつもサポートしてくれる素敵なカレが欲しい~!」
突然コロニー内にかしましい声が上がる。
アストレイ三人娘が口々に叫んでカガリが真っ赤になって言い返したのだ。
「うるさい!おまえらァ!」
「ダメですよォ、カガリさま、そんな乱暴な口きいちゃ」
「そォそォ。折角つかまえたカレの前では、もうしばらく猫かぶってないと!」
「アスランさぁん!こんな粗雑でふつつかで女らしさの欠片もない姫ですけどォ、末永くお願いしますね~っ!」
「なんで私がおまえらにお願いされなきゃなんないんだよ!」
アスランがため息をつく。
カガリはあっさりと挑発にのるからからかいやすい。
「だからァ、彼の前ではもっと可愛く振舞わなきゃ!」
「あ~でもカガリさまにはどのみち無理か~。あはは」
「アスランさァン。もしカガリさまが嫌になったらいつでも私に」
「お前ら!あとで絶対泣かす!!」
……その後キレたカガリが模擬戦で三人をボコボコにしたのはいうまでもない。
とりあえずカガリがオーブで愛されているのはわかった。
それでまあ、まだ続きがありまして……。
模擬戦で鼻息荒くコクピットから降りて来たカガリをアスランが抱きしめて、皆の目の前でキスしたものだから、なんというか。
……アスラン変わったねとニコルは思った。
ニコルの隣で期待の眼差しを向けるマユに皆の目の前でキスせざるをえなかったのは不幸というか。
隣でシンがニコルに殺意の波動を燃やしているのを感じながら、マユの笑顔が見れたからいいかと思うあたりニコルも大概なのだ。
サイとフレイが微笑みながら手をとって部屋へ向かい、カガリとアスランを茶化すミリアリアをトールが宥める。
なおその後ノイマン少尉がバジルール中尉を食事に誘う事に成功したり色々とご利益があったのだ。
そんな皆を見つめバルトフェルドとアイシャが笑いながらコーヒーを飲み、マリューとムウが微笑ましく親目線で見ていたりと和やかな雰囲気になった。
こんな日々が続けばいい。
ニコルはそう思う。
だが今度出撃したら誰かは死ぬだろう。
微力な自分たちが戦争を止めれるのだろうか?
それならいっそ、世界の悲惨な現実から目を背け、このコロニーで平和に暮らす事も出来るのではないか?
ここで人類という種を残すというのも立派な戦いだ。
そう考えてニコルは首をふる。
そんな考えを持つ人はここにいない。
だから短い平和を楽しもうとニコルは思う。
きっとここでの暮らしを一生忘れないだろうなとニコルは思っていた。