【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第102話 放たれた核
月のプトレマイオス基地を発進した地球連合艦隊は一路ザフトのボアズ要塞へ進路をとっていた。
ボアズとヤキン・ドゥーエという二つの要塞はプラントを守る砦だ。
ここを突破されたらプラントを守る物は何もない。
当然ザフトは要塞守備隊を強化し、万一に備えて万全の体制を整えていた。
ボアズは上部に突起のついた帽子のような外見をしている。
元々は資源衛星だったものを改造して使用している為極めて堅固だ。
まさに難攻不落といった所だろう。
これを攻撃するのはフィリップス提督の第七艦隊に第八艦隊の残存部隊と新編成された第九艦隊だ。
第一から第六までの艦隊は壊滅しているとはいえ、まだ二個艦隊を新編成できる国力は流石と言えた。
その第八艦隊残存部隊の中央に、ムルタ・アズラエルとアリス・ハルバートンの乗るドミニオンの姿があった。
今度のボアズ侵攻に核ミサイルが使われる事はアリスの予想内だったので、アリスの気持ちは重かった。
戦争だからといってやっていい事と悪い事がある。
そもそもこの戦争のきっかけは地球軍の核攻撃だ。
ユニウスセブンに撃ち込まれた核兵器が全てを壊してしまった。
その核をまた撃つつもりか?
外見はいつもどおりの冷静さだが心の中で悶え苦しんだ。
その隣でこれから起こる事に期待して上機嫌のアズラエルが言う。
「おやどうしました艦長さん?今日は機嫌が悪そうだ」
「天才美少女艦長です。ええ大変機嫌が悪いです」
「それはいけませんね。何か悩み事でもありますか?」
「あります。これから行われる事がとても気に食わないし、その後の事を考えると憂鬱です」
「そうですか。それは残念ですね」
アズラエルは残念と言いながらも全く残念そうに見えない。
この戦争を心から楽しんでいる節がある。
アリスにはそれが理解できない。
核を撃てば必ず核で報復されるとなぜわからないのだろうか?
そんな簡単な事が隣に座るこの男にはわからないのだろうか?
自分が核を撃たれる側になるなんて想像していないのだろうか。
アズラエルはコーディネイターの殲滅という自分の目的の為に手段を選ばないだけだ。
「では艦長さん。そろそろ行きましょうか?」
「……はい」
ドミニオンはボアズ要塞に進路をとる。
第七、第八、第九艦隊は地球軍連合艦隊の約六割に相当する戦力だ。
さらに予備兵力が月基地に待機している。
この艦隊がボアズ要塞を攻略する為の切り札である事は間違いない。
だがそれはザフトも承知している事だった。
ザフト艦隊とMSはボアズ前面に幾重にも防衛線を引き地球軍艦隊の到着を待ち構えていた。
宙域には多数のMSが展開している。
その戦場に到着した第七艦隊司令官のフィリップス少将は命令を下す。
「戦闘開始したまえ」
彼は紅茶を片手に戦闘指揮をするという余裕さえ見せた。
勝てるとわかっている戦闘なのだから気楽なものだ。
だが一兵士にとってここは地獄だ。
地球軍艦艇からストライクダガーが一斉に発進する。
ザフト軍のMS部隊を上回るストライクダガーがボアズ守備隊に襲い掛かる。
ジン、シグーに混じって新型のゲイツがストライクダガーを迎撃して散開した。
激しいMS同士の戦闘が繰り広げられる。
ストライクダガーのビームライフルにジンが貫通され爆破四散した。
負けじとゲイツとシグーが地球軍艦艇を攻撃し撃沈していく。
「戦艦ドレスデン大破!!」
「巡洋艦ミシシッピ撃沈!!」
数限りなく伝えられる悲報にもフィリップス提督は落ち着いている。
自分たちの役目は陽動なのだから、少々派手に負けてやらなければならない。
戦況は宇宙空間での戦闘に有利なビーム兵器を使うストライクダガーがザフトのジンやシグー相手に有利にすすめたが、ザフトの新型MSのゲイツは元々ビームを主兵装にした機体で性能も高く、ジンやシグーに乗るパイロットの練度は高かった。
傍から見れば戦況は不利なのにフィリップス提督は従卒に紅茶のおかわりを命じる落ち着きぶりだ。
異常な冷静さに艦橋乗員が不思議に思っていると作戦の第二段階が始まった。
「旗艦ワシントンより入電。ピースメーカー隊が発艦しました」
その報告を聞いて紅茶を飲み干すフィリップス提督はやれやれとため息をついた。
「まったくいつまで待たせるのだ。ゆっくりと優雅に前進せよ」
何の事かわからない第七艦隊の将兵は頭に疑問符を付けながら命令にしたがう。
まるで閲兵式のように優雅に前進する第七艦隊の姿にザフトは理解不能だった。
その様子を見ていたアリスは舌打ちする。
確かに陽動だと理解しているが、少しは自分の艦隊の損害に心を痛めても良いだろう。
これだから地球連合軍の高級将校は腐敗していると言われるのだ。
兵に対する愛情や責任感が欠如したあいつらのようには絶対ならないと心に決める。
だがこれからもっと情けない任務に従事せねばならない。
核ミサイルを搭載したピースメーカー隊を護衛して射線上にいる敵部隊を粉砕するという役目だ。
「ドミニオン転進。ピースメーカー隊の護衛を行います」
アリスの命令にドミニオンを中心とした旧第八艦隊が続く。
別にアリスが指揮している訳ではないがドミニオンは目印として目立つし、何より将兵はハルバートン提督が指揮していた艦隊の生き残りだ。
ハルバートン提督の孫娘を守りたいと考えるのは当然と言えた。
故ハルバートン提督の人徳の賜物だった。
それに第八艦隊はG計画を強引に進めたハルバートン提督の艦隊で、みせしめの為に今回の汚れ役をさせられている。
自分に付き従ってくれている艦隊に心の中で最大限の感謝と謝罪をしながら、アリスはパイロットルームにいるオルガ、クロト、シャニの三名を通信でつないだ。
「任務ですから早く終わらせましょう」
アリスの言葉にオルガが一歩前に出た。
「天才美少女艦長さんは本当は嫌なんだろ?」
「命令ですから」
尚も続けようとする会話をアズラエルが遮る。
「今更何を言ってるんデスか?君たちは只の道具、言われたままに動けばイイんですよ」
その言葉にオルガ、クロト、シャニはアズラエルを睨みつける。
アズラエルは気にもしない。
道具はちゃんと使えればいいのであって、いちいち感情を持たなくてもいい。
艦長さんと何があったのかは知らないが、あの三人は再調整が必要かもしれない。
「ちっ」
「ああわかったよ」
「やればいいんだろ」
そう言ってオルガ達は通信を切る。
そしてオルガたちのガンダムが発進する。
それに続いて第八艦隊のストライクダガーがピースメーカー隊を護衛する。
そして薄くなったザフトのMSを撃墜し、核ミサイルを積んだピースメーカー隊は悠々と発射ポイントまで進んだ。
「ウーン……いいねぇ。なんか強いじゃナイのあいつら。これも艦長さんの人心掌握術の賜物ですネ」
オルガ達の戦いぶりに満足げなアズラエルと、彼らに汚れ役をさせている怒りと負い目で手を震わせているアリス。
対照的な二人だった。
後方のドゥーリットルではサザーランド大佐が核発射命令を下す。
「安全装置解除。信管起動を確認」
ピースメーカー隊のパイロット達が一斉にボアズへ狙いを定めた。
「くらばれ宇宙のバケモノッ!!」
「青き清浄なる世界の為に!!」
全員ブルーコスモスで編成された彼らは躊躇わなかった。
ピースメーカー隊が一斉にボアズへ向けて核ミサイルを発射する
この命令一つで何万という命が奪われる事になる。
ミサイルは堅固な資源衛星のボアズに吸い込まれていく。
そして最初のミサイルが爆発した。
同時に光の奔流が辺りを照らし目をくらませ視界を白く覆う。
凄まじいエネルギーがさく裂し、着弾地点を一瞬で蒸発させた。
命中するミサイルは辺りを焼き尽くし、港に入った一発が予備に用意されていたザフトの艦船を一瞬で蒸発させた。
乗組員も何がおこったのかわからず、一瞬で骨も残さず焼き尽くされた。
衝撃波が内部で暴れまわり防護壁を粉砕し、ボアズ司令室に迫る。
「この熱量は…核!?」
センサーを監視していた兵士がそれを伝えようとした瞬間、衝撃波と煉獄が司令室を襲い彼に叫ぶ時間を与える事無く焼き尽くされた。
ボアズ要塞は一瞬で地獄と化した。
その一部始終をドミニオンの艦橋にいるアリスは見ていた。
目を背ける他の乗員とも違い、隣で高笑いするアズラエルとも違う。
努めて冷静に見せているアリスの瞳から涙が零れた。
上官の命令とはいえ拒否できなかったのだから。
誰のせいでもない、自分がやったのだ。
その事実から目を背ける事などできない。
この虐殺に自分が加担したのだと自分を責める。
ボアズがあった場所は只の岩塊と融けた金属片が漂っている。
これでプラントを守る壁が一つ減ったのだ。
もう後戻りはできないとアリスは思った。
◆◆◆
その頃プラントではパトリック・ザラ達プラント首脳がボアズが核で破壊された事に愕然としていた。
パトリックは怒りに震える。
後ろに控えるクルーゼが言った通り、アスランとラクスが祖国をナチュラルに売り渡しNJCを奴らに渡したのだ。
それがもっとも納得できる答えだった。
フリーダムとリジェネレイトの破壊命令を拒否し、ラクス・クラインとプラントを脱走し行方をくらませていたと思っていたが、まさか祖国を売り渡したとは。
失望した息子だったがラクスに誑かされるとは。
心のどこかでアスランを信じた自分が馬鹿だった。
「ザラ議長閣下っ!」
イザークの母でタカ派のエザリア・ジュールが狼狽える。
目の前でボアズが守備部隊ごと只の岩にされたのだから無理もない。
「狼狽えるな!!おのれナチュラルめ一度ならず二度までも!!エザリアッ!!」
「はっ!!」
「ヤキン・ドゥーエへ上がる。ジェネシスを使うぞ」
その言葉にエザリアは絶句する。
パトリックの言うジェネシスとは、核エンジンを搭載した戦略兵器だ。
地球軍の艦隊など一撃で破壊できる威力を持つ。
だがそれは同時に核ミサイルへの報復を超える鉄槌でもある。
そこまで戦争をエスカレートさせていいのだろうか?
しかし核ミサイルを再び撃たれたプラントは引くことはできない。
プラントを守る為にはジェネシスを使うしかないのだ。
エザリアは覚悟を決めた。
「ザフトは全ての兵力を集中してナチュラルを迎撃します。ナチュラルに死を!!」
人類史上最大の決戦が始まる。