【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。   作:屠龍

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最終決戦前の一コマです。そもそも子供に優秀な能力、あるいは単純に健康な体を求める事は親として当然の欲求で、そこまでは当たり前だと思います。それが優秀な子供を作り自らの遺伝子があたかも優秀であるかのように錯覚し、第一世代のコーディネイターにとって遺伝子は更に重要な要素になる。実際オーブのモルゲンレーテで開発主任してるエリカ・シモンズみたいに優秀だからという理由で親に育てられた人もいるわけですし。エリカさんには男の子がいますが、彼はナチュラルですし。きっとみんなおかしくなってる訳です。ブルーコスモスもパトリックも同じだと私は思います。


第103話 メンデルの子供たち

 第103話 メンデルの子供たち

 

 ボアズ要塞が陥落したという情報は全ザフト将兵を戦慄させた。

 ボアズはプラントを守る鉄壁の要塞でありザフトの主力が配置されていたからだ。

 それが要塞ごと守備軍の殆どが壊滅したのだから無理もない。

 しかもそれが核攻撃によるものだと知った将兵の憤りはすさまじかった。

 

 「ふざけるな!!何がナチュラルとの和平だ!!」

 

 知らせを受け取ったイザークの怒りはもっともだ。

 一度はニコルとアスランの顔を立てて矛を収めたというのに、これでは裏切られたも同然だ。

 隣にいるディアッカも腕を組んで顔を背けていた。

 ラスティもミゲルもイザークのように声を張り上げなかったが気持ちは同じだ。

 

 「言いたくはないけどさ。もう和平なんて無理だよな」

 

 ラスティの発言に皆心の中で頷く。

 ユニウスセブンに対する核攻撃が引き金になった戦争で再び放たれた核。

 これがナチュラルの回答だと取られても仕方ない。

 実情はアズラエル達ブルーコスモスと一部政治家と軍人が出した核攻撃を、地球連合議会が抑えられなかったからだ。

 今更そんな事を言ってもプラント側が納得するはずがない。

 

 核には核を。 

 

 ザフト将兵は戦意をみなぎらせていた。

 その憎悪と復讐心は強硬な反ナチュラル派、ザラ派を後押しする。

 議会に残っていた和平派のクライン派もほぼ一掃されてしまった今、政治的に彼らを阻める者などいない。

 そしてその様を遠目に見てほくそ笑んでいる一団がいる。

 その一団の中にエマとジャンヌがいた。

 

 「やっぱ核使ったね」

 

 「予想通りだとはいえ見下げ果てた者達だ」

 

 エマとジャンヌはとある広間で寛いでいた。

 彼女たちの周りには同じように義体で隠しているが、手足を欠損した者や顔が崩れた見るも無残な者達がいる。

 100人は下らない。

 普段は機械などで醜い身体を隠している彼ら彼女らは皆同志だ。

 エマもジャンヌも彼らもみなスーパーコーディネイターになれなかった出来損ないだ。

 唯一の成功例キラ・ヤマトの存在を知ってここに集まった同志達だ。

 ザフトにも地球連合にも彼らは潜伏している。

 皆、次のステージへと向かう時を期待して昂っていた。

 その中をエマが壇上に上がりマイクを手にした。

 

 「みんな~盛り上がってるか~い?」

 

 「Yeahhhh!!!」

 

 「いい声だね~じゃあそろそろ逝ってみよーか!!あたしたちを生み出した者達と利用していると思い込んでる連中を皆殺しにするよ~!!」

 

 「Yeahhhh!!!」

 

 「ナチュラルも!!コーディネイターも!!皆殺しにするよ!!!」

 

 生まれる前から存在価値を望まれなかった失敗作たち。

 能力だけを愛される異常な世界が作り上げた歪んだ彼女らには世界に対する復讐の念しかない。

 エマもイザークへの想いに嘘は無い。

 戦場で対峙したら殺せるだろうか。

 殺さなくてはならない。

 そうでないなら自分たちが生まれた理由が無くなるからだ。

 能力だけを求められた彼女らにとって、能力がない役立たずというレッテルを張られた事は、存在意義を奪われるのと同義だ。

 生まれてきた意味が無いなら、存在する価値も無い。

 だから殺すのだ。

 ナチュラルもコーディネイターも全てを殺しつくすのだ。

 自分たちに生まれた意味も存在価値も無いと言うなら、当然それは言った当人たちにも与えられるべきもの。

 ブルーコスモスもパトリック・ザラもエマ達にとって同じ存在でしかない。

 能力のあるなしだけでしか人の価値を見出せない彼らは同じ穴のムジナだ。

 

 「あたしたちは人形じゃない!!人間なんだ!!」

 

 エマの叫びに会場が震えるように呼応する。

 

 「そうよ!!私たちは人間よ!!」

 

 「奴らを殺して自由になるんだ!!」

 

 「俺たちには力がある!!思い知らせてやれっ!!」

 

 そしてジャンヌも壇上に上がった。

 

 「私の生まれた意味は、価値はこの日の為にあった!!醜い欲望の果て人類は滅ぶ!!その引き金を私たちが引こう!!私たちは人類を終わらせる為に生まれて来た!!」

 その叫びに皆が応える。

 

 「Yeahhhh!!!」

 

 「そうだっ!!」

 

 「復讐するぞっ!!」

 

 「人類尽く死すべし!!」

 そして彼らは立ち上がる。

 もう迷わない。

 自分たちの生まれた意味を果たすために、今こそ立ち上がる時が来たのだと信じて疑わなかった。

 彼らの思いは同じ方向を向いていた。

 

 『人類滅亡』

 

 その後はどうするのか?

 どうでもいい。

 もともと生まれてくるべき存在ではなかったのだ。

 生まれる前に戻るだけだ。

 メンデルの子供たちは最強のテロリスト達だった。

 

 彼らは地球連合軍とザフトのあちこちに潜伏していた。

 無論事前の核攻撃を知っていた者達なのでボアズからの撤退に成功している。

 ヤキン・ドゥーエの司令室にいる仲間がエマとジャンヌにパトリック・ザラが指揮に入ったと知らせてくる。

 ジェネシスのシステム要員にもメンバーが入り込んでいる。

 あとはパトリックにジェネシスを地球に撃たせるのみ。

 キラ・ヤマトの出来損ないではあるが、彼らは並みのコーディネイターではないのだ。

 

 月のプトレマイオス基地から出撃する艦隊にまじって、連合に潜り込んでいた彼らも月基地を脱出する。

 ジェネシスが発射されれば月基地が標的にされるのはわかりきった事だからだ。

 おのおの地球連合コーディネイター部隊としてMSに搭乗している。

 彼らはヤキン・ドゥーエ攻防戦が開始されるまで待つ。

 その復讐の牙を突き立てる時を待つ。

 今までの恨みを晴らす事が、彼らの存在意義。

 

 ◆◆◆

 

 エマはヤキン・ドゥーエから宇宙を見ていた。

 もうすぐ人類最後の戦いが始まる。

 きっとイザークを殺すことになるだろう。

 エマはそれが少し悲しかった。

 

 「イザーク、あたしはあなたの事が好きだよ」

 

 だがその思いは許されない事だとわかっている。

 もう後戻りはできないのだ。

 

 物思いに浸るエマを見つけたイザークだったが声をかけるか悩む。

 自分と歳の変わらぬ少女が身体に重大な欠損を抱えているのを見せられたのだから心理的恐怖は拭い難い。

 だがイザークは声をかける事にする。

 エマは一緒に戦ってきた戦友なのだから。

 ナチュラルを皆殺しにするという宣言には驚いたが、再び核を撃たれた者としてイザークにもナチュラルへの深い憎しみが生まれていた。

 

 「エマ」

 

 イザークに声をかけられたエマは振り返る。

 

 「どうしたのイザーク?」

 

 その笑顔はいつもと変わらなかった。

 それが逆に怖かったがイザークは続ける。

 

 「お前はナチュラルを皆殺しにすると言ったが、俺は賛同しかねる」

 

 「どうして?イザークもコーディネイターなら、奴らの本性がわかったはずでしょ?」

 

 確かにそうだ。

 再び核を撃ちこんだナチュラルを信じる事は出来ない。

 だがニコルやアスランはナチュラルとコーディネイター両方を守ろうとしている。

 彼らが精神錯乱したとはイザークには思えない。

 メンデルで起こった事が衝撃的過ぎて頭の整理が追いつかない。

 

 「ナチュラルが憎いのはわかる。だがニコルやアスランを俺は信じたい」

 

 エマはイザークの言葉を黙って聞いた後、小さく笑った。

 

 「甘いね」

 

 エマに言われてイザークは押し黙る。

 確かにそうかもしれない。

 ニコルとアスランが地球で何を見て体験したのか知らないのだから当然だ。

 それでもイザークはあの二人を信じたかった。

 そんなイザークにエマは言う。

 

 「でもそういう所も好きだよ」

 

 押し黙ったイザークにエマは続ける。

 メンデルで好きだと告白されたが、イザークにはエマの事を戦友以上の感情を抱けなかった。

 エザリアさんが聞いたら小躍りして喜ぶだろうが、エマの欠損した身体を見てもそう思えるかどうか。

 

 「ナチュラルとコーディネイターの共存なんてあり得ないよ」

 

 エマが言う事もわかっている。

 ニコルやアスランが理想論を語っているだけだという事もわかる。

 だがイザークはそれでもニコルとアスランを信じたいのだ。

 そんなイザークにエマは言う。

 

 「そんな甘い考えをもつ余裕なんてあたしには無いよ」

 

 生まれてくる前から生きる意味が無いエマ達にイザークは黙り込むしかできなかった。

 この時イザークは言い知れぬ不安を感じていた。

 それは戦士の持つ天性の勘だったのだろう。

 何があってもエマを止めるべきだったのだ。

 その瞬間が訪れた時、イザークは心の底から後悔したのだ。

 もっと彼女を受け止めておけば。

 だがイザークはそんな器用な男ではなかった。

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