【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
色々あったニコル君の物語も終わりが見えてきました。
実はボアズ要塞陥落からジェネシス発射まで3日しかないのですが、そこは目こぼししていただきたいです。この話をしてる間も交戦が続いてるので、急がないとジェネシスと核撃たれちゃいますね。
第104話 家族
ザフトのボアズ要塞が地球連合の核攻撃で爆発四散し、守備部隊ごと消え去った。
その報告をロウ・ギュール達ジャンク屋からエターナルの艦橋で聞いた瞬間ラクス・クラインは指を震わせ涙を流す。
まただ。
前世の記憶通りに事態が進んでいる。
ラクスが体験した前世では地球連合の核攻撃によりプラントは壊滅し、ジェネシスによって地球の生命は絶滅した。
そしてラクス自身も最後に一曲歌った瞬間、エターナルごと爆死したのだ。
このままではまた人類は全滅してしまう。
またキラを失う恐怖にラクスは恐れ深い悲しみを思い出す。
「キラ」
「ラクス?」
「わたくしを一人にしないで」
「うん。僕はもうラクスを二度と一人にはしない」
そしてラクスとキラは抱きしめあった。
その二人を見たアイシャとバルトフェルドは頷く。
「キラ。二時間くらい二人きりでラクスのそばにいてやれ」
バルトフェルドの言葉の意味を最初は理解できず。
その意味を理解したあとキラは赤面し、バルトフェルドに言い返そうとしたがアイシャが手を振ってそれを止める。
恋人が泣いているのを支えるのも恋人の役目だ。
ラクスは再びキラを失う事を恐れている。
キラがずっとラクスの傍にいるという事をラクス自身にわかってもらう必要がある。
「キラ、ラクスの事お願いネ」
「うん」
そして二人は退室し、アイシャとバルトフェルドだけが残された。
スクリーンにマリューとカガリの映像が映し出されたのはそれから数分後だ。
二人にバルトフェルドはラクスがとても会議に耐えられる状態では無い事を告げる。
「余程ショックだったのね。いいわ二時間後に会議を行います」
「そうだな。こっちも対応に忙しいし、そのくらいの時間ならいいだろ」
「本当なら一日くらい休ませてやりたいのだがな」
「どういう意味だ?」
「キラと一緒に過ごす時間がラクスには必要だって事だ」
「だからどういう意味だと聞いている」
カガリの質問にマリューは小さく吹き出し、バルトフェルドはアスランが奥手なのを理解した。
この様子だとカガリはまだ未経験らしい。
「カガリ、お前まだなのか?」
「まだってなにがだ!?」
バルトフェルドはニヤニヤしながらカガリに聞く。
そんな初々しい反応が面白くて更にからかいたくなったバルトフェルドだったが、マリューに睨まれたのでやめた。
「とにかくラクスさんにはキラが必要なの」
「わ、わかった」
マリューの言葉にカガリは一応納得したが、後日このやりとりをキサカに質問して再び呆れられる事になる。
そして二時間後。
ラクスが会議に現れた時、彼女はいつものラクス・クラインだった。
バルトフェルド達の心配は杞憂に終わり、彼女は会議を滞りなく進めた。
「このままだと地球とプラントは最終兵器を撃ちあい、人類は滅亡するでしょう」
ラクスの発言に皆驚いた。
それは最悪の状況だがまだそこまでいくとは思えない。
しかしキラとアスランとカガリとニコルは頷く。
この四人はラクスが見た前世の記憶を知っているからだ。
「核もジェネシスもお互いがお互いを牽制する為に使うものだ」
バルトフェルドの発言に生粋の軍人のマリューとアスランとニコルが頷く。
核もジェネシスもその存在を秘匿したのでは意味が無い。
撃ってくるならこちらも撃ち返すぞという脅しが、核兵器とジェネシスの本来の役目の筈だった。
しかし地球連合は核を躊躇いもなく撃ち、ジェネシスはミラージュコロイドで隠されていた。
つまり地球連合もプラントも最初から最終兵器を使うつもりだったのだ。
何の為?
お互いがお互いを滅ぼすためだ。
これはもはや戦争ではない。
民族の絶滅を行っている。
その事実にニコルは戦慄した。
先日見たエマとジャンヌの惨たらしい身体を思い出す。
遺伝子操作に失敗した二人はまさに見るも無残な身体をしていた。
人間はどこまで相手を憎み殺せるのか?
自分と違う存在をどうして認められないのか?
どうして共存できないのか?
ニコルはナチュラルにも素晴らしい人がいる事を知っている。
カガリもマリューもサイ達キラの親友たちもみな立派で素晴らしい人たちだ。
お互いを知らないから絶滅しあう。
もっとわかりあえる時間があれば……。
だがもはやそんな時間は無い。
実力で止めなくてはならない。
核もジェネシスも撃たせてはならない。
たった三隻で何が出来ると言われるだろうが、やるしかないのだ。
ニコルは拳を握りしめた。
会議の結果、ハーバーコロニーはジャンク屋に譲り渡す事になったがジャンク屋のプロフェッサーは断る。
「ただで貰う気は無いわ。だから預かってあげる。もし戻って来なかったらジャンクにして売り払うわ」
ラクス達は最後の希望としてハーバーコロニーでジャンク屋と彼らが保護した人々で人類の種を後世に残したかったのだ。
だがジャンク屋たちはあくまで預かるといって譲渡を断った。
彼らははみ出し者ではあるが、誇り高い人々だった。
◆◆◆
ニコルとマユとアスカ家が一緒に暮らした家も残していく事になる。
たった二か月だったが幸せな時間だった。
この人たちを死地に連れていく訳にはいかない。
だからニコルは意を決して口を開こうとした。
「マユぜったいに付いていくからね」
「ニコルには俺が必要だろ?」
「義理の息子を失う訳にはいかないからな」
「もうニコル君は、私たちの家族なのよ」
マユもシンもアスカ夫妻も皆ニコルが何を言うかわかっていた。
アスカ家の覚悟を知ったニコルは何も言えなくなった。
「皆……。ありがとう」
ニコルは涙を流して皆にお礼を言った。
たった二か月だったがニコルはアスカ家の家族となっていたのだ。
この絆があれば戦い抜けるとニコルは確信した。
翌日。
ニコルはアスカ家と過ごした家を後にした。
そしてクサナギに乗り込む。
ニコルとマユとシンはパイロットとして、アスカ夫婦はMS開発者としてエリカ・シモンズと共に配置につく。
「全艦出撃します」
ラクス・クラインの号令に応えてエターナル、アークエンジェル、クサナギが出撃した。
ジャンク屋たちマイウス市の職員たちとが彼らの出撃を見送り手を振った。
たった二か月だったがナチュラルとコーディネイターの差別なく生きているジャンク屋のロウ・ギュール達と知り合い友情を育んだ経験はニコルにとって大きい。
離れていくハーバーコロニーを見ながらニコルはこの戦争が間違いだと確信していた。
ナチュラルもコーディネイターも同じ人間だと教えてくれた二か月だった。