【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第106話 恋人たちの決意
その頃エターナル、アークエンジェル、クサナギの三隻同盟は戦場近くの宙域に到着した。
ここから先は地球連合とザフトがぶつかりあう戦場だ。
最後のブリーフィングが行われていた。
「みんな、プラントはジェネシスを撃つと思う?」
キラの言葉にみな黙り込む。
アスランの表情は悲痛だった。
父親のパトリックが冷静なら撃たないだろう。
双方共倒れになるからだ。
だが息子である自分を撃ったパトリックなら撃ちかねない。
「父が冷静なら撃たないと思う」
アスランの言葉にラクスが首を振る。
「アスランのお父様はジェネシスを発射します。そして相互に撃ちあい人類は絶滅しました」
前世の記憶のあるラクスの言葉に皆俯く。
ラクスはパトリックと地球連合がジェネシスと核を撃ちあい、双方絶滅したと知っているのだ。
「ラクス様はその時ジェネシスがどこに隠されていたのか覚えていませんか?」
ニコルの言葉にラクスは答える。
その表情は悲痛だ。
ラクスが位置を特定した時はジェネシスは止められない位置にあったからだ。
「ヤキン・ドゥーエの裏側に隠されていました。私たちが気が付いた時、二射目が発射されて地球艦隊を焼き尽くし月基地を壊滅させ。そして三射目で地球を焼いたのです。激怒した地球側は特攻をかけ所有する全ての核をプラントに撃ち込みました。そして最後は」
そう言ってラクスの瞳から涙が零れる。
プラントの歌姫と言われる彼女は常に凛々しくあろうと自分を律しているが、まだ十代半ばの少女なのだ。
その少女を自分の質問で悲しませた事にニコルは後悔したが、これだけは絶対に聞いておかなければならなかったのだ。
「つまりジェネシスを発射前に破壊しつつ、地球連合の核も全て防がなくてはならないわね」
マリューの言葉にバルトフェルドがやれやれと手を掲げる。
そんな事が可能なのか?
暗くなった雰囲気にカガリが手を広げ皆に語りだした。
「だがやるしかないだろ。お互い最終兵器を撃ちあえば、どちらが勝っても深い溝ができる。それじゃ私達がここにいる意味が無い」
パトリックがジェネシスを撃てば地球艦隊と月基地、そして地球が焼かれる。
地球連合の核攻撃を許せばプラントに住むコーディネイターは絶滅する。
どちらも防がなくてはならない。
「やるしかないだろう。俺は父の手をこれ以上血でよごさせる訳にはいかない」
アスランがそう決意するとカガリがアスランに微笑んだ。
アスランにとって陣営のトップは実の父親だ。
これまでの戦争は取り返しがつかないとはいえ、これ以上殺戮させてはならない。
「僕もそう思う。アスランのお父さんにこれ以上の血を流させちゃ駄目だ」
キラもアスランとカガリに頷いた。
これ以上の戦闘は双方絶滅を意味する。
「ジェネシスの破壊は僕に任せてください」
そう言ってニコルは父親ユーリ・アマルフィが託してくれたデータをスクリーンに映す。
皆がスクリーンに注目するなか、ニコルは説明した。
そこにはジェネシスの内部構造が事細かに記されていた。
「ミラージュコロイドにで隠されフェイズシフトに守られたジェネシスを外部から破壊する事はほぼ不可能でしょう」
「ローエングリンの一斉射撃でも無理なの?」
「父のデータではローエングリンの攻撃は想定されていて耐えうる設計になっています。ですからここから侵入します」
それはジェネシスの管理ハッチだった。
「このハッチをリジェネレイトで破壊し内部に爆弾を仕掛けて破壊します。ジェネシスのシャフトを破壊すれば発射は防げるでしょう」
ニコルがそう言うと、それまで黙って聞いていたマユが反対した。
あまりにも危険すぎる任務なのはマユにだってわかっている。
プラント側の厳重な警戒を突破してジェネシスに接近し破壊する。
もし破壊に成功しても、外には怒りに燃えるパトリック達プラント全ての憎悪を背負ったMS部隊が待ち構えているのだ。
「そんな事したらニコルさん死んじゃうよ!!マユそんなの嫌です!!」
そう言ってニコルに縋りつくマユ。
恋人のそんな姿にニコルは心が痛むが他に方法がない。
この中でジェネシスに接近できるのはミラージュコロイドを持ったリジェネレイトだけなのだ。
「マユちゃん。ジェネシスに近づけるのはミラージュコロイドを装備した僕のリジェネレイトだけなんだよ」
そう言ってもマユは首を縦にふらない。
その様子をみて切なくなったのか、カガリがマユをニコルから放す。
カガリもアスランがこのような事をすれば必死に止めるはずだ。
だからマユの気持ちが痛い程わかった。
「何かほかにいい方法はないのかよ」
シンの言葉にみな黙り込む。
全員で強襲したらジェネシスで木っ端みじんにされるし、たった三隻の戦力でザフトの大軍を相手にするなんて不可能だ。
特にキラはこれまでの戦闘で誰かを殺すことに耐えかねている。
もともと軍人ではない一般人の少年が友達を守る為にガンダムに乗ってここまで来た。
本来戦争などを経験しなくていい年齢の子供たちなのだ。
だがニコルは違う。
ニコルは二度目の戦争を戦っているから慣れてしまった。
ジェネシス破壊の作戦も自分なら出来るという自信と同時に、どこかで死を願っている気持ちがある事をニコルは自覚していた。
こんな感情を持っている事はマユにだけは内緒だ。
ラクスも愛するキラが同じ決断をしたら黙って見送れるだろうか。
前世で止めれなかった戦いでキラを失ったラクスにはマユの気持ちがよくわかる。
愛する者を失う事がどれだけつらいか、ラクスにはよくわかっていた。
「ニコルさま。他に方法はないのでしょうか?」
ラクスの言葉にニコルは首を振った。
ミラージュコロイドがなければジェネシスには近づけない。
一射目は間に合わないかもしれないが、二射目は絶対に防がなくてはならない。
「俺が行く。父を止められるのは俺だけだ」
そう言ってアスランが手を上げるとカガリの顔が真っ青になった。
アスランの決意を知っているからだ。
父親と刺し違えてもアスランなら止めに行くだろう。
「駄目ですアスラン。カガリを悲しませるつもりですか?」
「お前こそマユを悲しませているじゃないか!!」
ニコルとアスランが睨み合う。
ザフトの養成学校で一緒になって以来はじめての意地の張り合い。
「僕が一番適任だと思います。ジェネシスの内部構造を把握しているのは父から受け継いだデータを持つ僕だけですから。それに地球軍の核ミサイルをジャスティス抜きでどうやって防ぐつもりですか?」
ジェネシスの破壊だけならニコルだけでもできるが核ミサイルの破壊は全員で行わないと間に合わない。
マユは唇を噛み締め、その細い手が震えていた。
彼女の目には涙が光り、その表情は絶望に染まっていた。
ニコルはその様子に胸が締め付けられる思いだったが、それでも彼は決意を曲げることはできなかった。
「マユ……」ニコルが優しく手を伸ばした瞬間、彼女の小さな体が彼の胸に飛び込んできた。
「嫌です! ニコルさんが行っちゃったら、マユどうしたらいいの? そんなの絶対嫌です!」
ラクスは二人を見つめながら静かに言った。
前世のキラも同じ事をラクスに言ったのだ。
そしてキラは帰ってこなかった。
「ニコルさま。あなたの気持ちは分かりますが、マユさんの気持ちも考えてあげてください。あなたはただ一人の命を背負っているのではなく、多くの命を背負っているのです」
ニコルとマユの様子をバルトフェルドは腕を組み、じっとニコルを見つめた。
その表情はいつもの飄々としたものではなく真剣そのものだった。
「お前さんが何を考えているかは分かる。死にたがってるんじゃないのか?」
その言葉にニコルはハッと息を飲んだ。
その言葉にニコルの身体は雷に打たれたように硬直する。
自分は本当のところ、ただ死に場所を求めているのではないか——と。
「そんなことない!」
ニコルは反射的に否定したが、声には力がなかった。
カガリはアスランの手を取りながら言った。
「アスラン、お前も無理はするな。父上を止めるのは大事だけど、お前がいなくなったら……私は……」
アスランは深く息を吸い込み、カガリの手を強く握り返した。
「わかってる。だからこそ、俺も一緒に行く。俺とニコルはザフトに入った時からのコンビだ。お互いの欠点もよく知っているから補い合えるさ」
ニコルは決意を新たにした。
自分だけではなく、アスランも一緒なら可能性が広がる。
「二人で行けば成功率が上がる。ニコル、お前はジェネシスを破壊に向かってくれ。俺は父と直接話がしたい」
「ニコルさんの決意はわかりました。だからこれを受け取ってください」
マユは涙を拭いながら言った。
ニコルの決意が固い事がわかったからだ。
そして小さな石のついたペンダントをニコルに手渡す。
それはハウメアの守り石だ。
「これは?」
「ハウメアっていうオーブの神様の石です。きっとニコルさんを守ってくれます」
ニコルはその小さなペンダントを受け取り、胸元に強く握りしめた。
マユの温もりがそこに残っているように感じた。
「ありがとう、マユ。必ず戻ってくる。約束する」
ニコルの言葉にマユは震える唇で頷いたが、その瞳にはまだ不安が色濃く残っていた。
ニコルとマユの二人を見てラクスが毅然とした声で言った。
「皆、準備を始めてください。ニコルさまとアスランはジェネシス破壊に向かいます。残りの我々は地球軍の核ミサイルを防ぎます」
作戦は決まった。
ジェネシスと地球軍の核ミサイルの両方を破壊しなくてはいけない。
極めて困難な任務だがやり遂げなければならなかった。