【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第107話 黒いMS
エターナル、アークエンジェル、クサナギの三隻に搭載されたMSが発艦する。
ニコルとシンとマユはアスカ家両親を目の前にして言う。
「必ず帰ってきます」
「父さん母さん心配いらないよ」
「ニコルさんもお兄ちゃんもマユがちゃんと連れて帰るね」
そんな三人を抱きしめながらアスカ母は願う。
三人とも無事に帰ってきて欲しい。
アスカ家両親の見守る前で、クサナギからMS部隊が発進する。
カタパルトにそれぞれのMSを固定して射出されていった。
「シン・アスカ。アストレイシルバーフレーム行きます」
最初に発進したのはシンだ。
銀色のアストレイが発進する。
その光は宇宙の深淵を感じさせないほど美しかった。
「マユ・アスカ。シェンウー発進します」
次に発進したのはマユだ。
発進する寸前にリジェネレイト……ニコルの乗る機体に憂いげな視線で見る。
想いを通じ合った少し年上の男の子、ニコルの無事を祈る。
不思議と自分が撃墜されるのは怖くなかった。
ニコルを失う悲しみにくらべたら些細な心配だ。
ニコルもマユのシェンウーを見つめる。
シンの機体と合体するマユはシンが守ってくれるだろう。
問題は自分の方なのにと苦笑する。
出撃前に精神安定の注射は打っておいた。
これで三時間は戦えるだろう。
三時間後に再び注射を打つ余裕があればいいが。
「ニコル・アマルフィ。リジェネレイト発進します」
最後に発進したのはニコルだった。
ミラージュコロイドを起動させたその姿は瞬く間に消え去り、ただ暗い虚空へと溶けていくように見えなくなった。
「リジェネレイトは単独でジェネシスの内部へ侵入します。アスランとシンとマユはニコルさんの護衛を頼みます。他の皆さんは核ミサイルの迎撃に向かってください」
ラクスの指示が飛ぶ中、各機は各自の任務に向かって宇宙を駆け抜けていった。
エターナルからミーティアと合体したキラのフリーダムガンダムが発進し、ラクスの護衛と地球連合の核ミサイル迎撃に向かう。
「キラ、どうか気をつけて」
ラクスの祈るような声に、キラは微笑んで応えた。
「大丈夫だよ。ラクスとみんなの未来は僕が必ず守るから」
その言葉にラクスは強く頷くと共に不安を我慢した。
あの時、キラもそう言って帰ってこなかったのだ。
だが今回はアスランもニコルもいる。
前世とは違う未来になる事をラクスは心から願っていた。
◆◆◆
一方、ヤキン・ドゥーエを目指すニコルたちは戦場に近づいていた。
「ミラージュコロイドを全開にしろ。敵に察知されるな」
「わかりました」
アスランの声が通信機を通して響く。
シンとマユは合体したアストレイに乗り込み、先行するリジェネレイトの周囲を警戒しながら進んでいく。
そしてミラージュコロイドを全開にしたリジェネレイトはその姿を消す。
アスランやシン達にもその姿は見えない。
存在自体が消えたような完璧な隠蔽だった。
「お兄ちゃん、敵影はある?」
マユの不安そうな声に、シンは冷静に応じた。
モルゲンレーテ製の最新アストレイは高い索敵能力を持つ。
ザフトの誇る新型機ゲイツなど足元にも及ばない。
なぜそんな技術があるのか?
モルゲンレーテだから。
「今のところ視認できない。でも油断はできない。敵も必死だ」
彼らが進む宇宙空間は静寂に包まれていたが、その先には激しい戦争が繰り広げられていた。
戦闘と爆発の光が遠くから見え隠れする。
あの光が灯るたびに誰かが死んでいるのだ。
「ニコルさん、大丈夫かな……」
マユは心配そうな表情を浮かべた。彼女の声には不安が滲み出ていた。
「大丈夫だよ。ニコルは強い。俺たちもニコルをサポートする。そうだろ?」
シンはそう言いながら、アストレイの操縦桿を握りしめた。その手に力が込められる。
「それにマユがいるからな。お前のサポートがあれば、ニコルも安心だろ」
シンの言葉にマユは少しだけ笑顔を見せた。
「うん。私もお兄ちゃんのサポートするから」
シンはマユの前向きな姿勢にほっとした。
その瞬間だった。遠くに輝く光が見えた。それはヤキン・ドゥーエのジェネシスがミラージュコロイドを解除した光だ。
「あれがジェネシスか……」
アスランの声は冷たく緊張に満ちていた。
かつて平和利用の為に開発された宇宙探査機の一部。
それが今では大量殺戮兵器になってしまった。
「父上……」
その瞬間、アスランの背中に寒気が走った。
「警戒しろ!何か来る!」
アスランの警告が通信機を通して響く。
そしてアスラン達に向かって四方八方からビームライフルが発射された。
アスランの操縦技術とシンの勘でなんとか回避したが三人の驚きは隠せない。
突如、ミラージュコロイドで姿を隠していた複数のザフトMSが現れた。
それらはミラージュコロイドを纏いながらも特殊センサーによって彼らの位置を捉えていたのだ。
それは見たことが無い新型機だった。
黒いカラスのような頭部をし、引き裂く刃のような造形をした機体。
MAのようにも見えるがMSだ。
全機がミラージュコロイドを装備している。
「アスランか。ここは通さない」
そう言って通信機ごしに話しかけてきたのはジャンヌだった。
そして複数のMSが一斉にミラージュコロイドを展開し姿を消した。
「どこ!?どこにいるの!?」
マユの声は恐怖震えていた。
シンも見えない敵に対する対処を知らない。
アスランだけが冷静にミレージュコロイドの弱点を指摘する。
光学的に姿を消した訳ではないのでバーニアを展開したりすればすぐにわかる。
そう説明したアスランのジャスティスをビームが直撃した。
「くそっ!!どうしてわからないんだ!!」
そんなアスランを見てジャンヌは冷酷に笑った。
「お前たちを倒すために作られた機体だ。当然だろう?」
その瞬間、黒いMSが一斉に動き始めた。
その機動性は異常なほどに速く、アストレイのロックオンシステムが追いつかない。
「マユ!防御を固めろ!」
シンの声が響くが、マユは既に恐怖で頭が真っ白になっていた。
その隙に黒いMSの1機が彼女たちに迫っていた。
「ニコルさん……助けて……!」
マユの叫びが通信機越しにニコルの耳に届いた。
しかしリジェネレイトはミラージュコロイドを展開し姿を消しているので姿を見せることはできない。
今姿を現せばジェネシス破壊という任務は完全に失敗する。
「マユ……」
ニコルの心の中でマユを救いたい気持ちとジェネシスを破壊しなくてはならないという気持ちが葛藤する。
マユを助ければジェネシスを破壊できず最悪人類は死滅する。
だがここでマユを失えばその悲しみにニコルは耐えられないだろう。
その時アスランの叫びが聞こえた。
「マユは俺が守る!!ニコルは先に行け!!」
アスランの叫びにニコルは迷いを振り切った。
今まで一度もアスランは嘘を言わなかったし、ニコルが出会った中で最高のパイロットだからだ。
アスランにマユの事は任せよう。
シンなら自分でなんとかするだろうという謎の安心感がある。
「了解。僕はジェネシスを目指します」
ニコルの言葉にアスランが安堵の息を漏らした。
「任せろ」
そう言ってアスランはジャスティスを動かした。
背中のファトゥム00を展開し、ビームライフルで敵に向かって射撃した。
「父上に会いに行く前に邪魔者は排除してやる!!」
アスランの瞳には決意の炎が宿っていた。
彼は自らの手で父の誤った道を正すために、この戦場で立ち向かう覚悟を決めていたのだ。
だがアスランとシンとマユはデータにないMSを相手にしなくてはいけなかった。
そしてその機体に乗っているのはジャンヌと、メンデルの子供たちと呼ばれるスーパーコーディネイターになれなかった者達だ。
多勢に無勢なのは明らかだった。