【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。   作:屠龍

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スーパーコーディネイターになりたかった少女の話です。知れば誰もが望むだろう。君のようになりたいと。生まれた時から失望され望まれなかった運命に生きた少女は運命に抗いました。彼女の本当の望みはキラ・ヤマトになる事ではなくディアッカの隣で共に歩く事だったのです。もっとジャンヌの事掘り下げて書いておけばよかったなと思いつつ、二次創作でオリキャラの話書いていいのか悩みました。作者の力不足の犠牲になったキャラです。ごめんなジャンヌ。もっと君を魅力的な女の子に描ければよかったよ。


第108話 命燃やして

 第108話 命燃やして

 

 アスランのジャスティスが放ったビームは虚空を貫いただけだった。

 黒いMSはアスランの攻撃を予測していたかのように回避し、その隙に背後からビームサーベルでジャスティスとミーティアの装甲を切り裂いた。

 

 「くっ!」

 

 ジャスティスと合体しているミーティアの装甲に亀裂が入りアスランの体に衝撃が走る。操縦席が軋む音が響く中、アスランは歯を食いしばって体勢を立て直した。

 アスランはミーティアからミサイルを放つが当たらない。

 

 「アスラン!大丈夫か!?」

 

 シンの心配する声にアスランは「問題ない」と応えるが、状況は厳しかった。

 黒いMSは計12機。

 メンデルの子供たちと呼ばれるザフトのエリートパイロットが搭乗している。

 

 「こちらジャンヌ。これは試作品だけど、お前たちには十分通用する。ミラージュコロイドを改良して光学迷彩としても機能するようになり、さらにパイロットの脳波を感知して機体を自動制御する機能まである」

 

 ジャンヌの淡々とした声が通信機から流れてくる。彼女の目にはかつての情熱はなく、ただ冷酷な戦士としての輝きだけがあった。

 

 「お前たちのデータは全て集めた。アスラン・ザラ。お前の弱点も把握済だ」

 

 ジャンヌの言葉通り、黒いMSたちは驚くべき正確さでアスランたちの攻撃をかわし、逆に的確に反撃してきた。

 特にシンとマユが合体したアストレイは標的にされている。

 アスランと違って御しやすいのだから当然だ。

 シンの反射神経とマユの空間認識能力がなければ五分ともたなかっただろう。

 

 「このままじゃまずいぞ……」

 

 シンが焦りの声を上げる。

 アストレイは性能的には優れているが、黒いMSの特殊能力には対応できていない。

 何よりシンとマユには実戦経験どころか正規の訓練経験さえないのだ。

 

 「お兄ちゃん……どうしよう……」

 

 マユの声には恐怖が混じっている。彼女の目には涙が浮かんでいた。

 

 「心配するな。俺たちにだって勝算はある」

 

 そう言ってマユを勇気づけようとするシンだったが勝算なんて思いつかない。

 妹を不安にさせない為に意地を張っているだけだ。

 その間にも黒いMSは四方八方からビームを撃ち、そして消え再び攻撃してくる。

 アスランはその動きに違和感を覚えていた。

 

 (ミラージュコロイドを展開しているなら俺たちだけでなく自分たちも見えない筈だ。なぜあいつらはこれだけ完璧に連携が取れているんだ?)

 

 彼らは互いの位置を知ることができる。

 これが彼らの特殊能力だ。

 メンデルの子供たちは思考が同調し合える。

 メンデルの子供たちはその遺伝子改造された結果、互いの思考が同調する能力を持つようだ。

 しかし仲間の思考を読めるからといってこんな超人的な戦闘ができるとは思えない。

 

 「わかったぞアスラン!!あいつらは機械と一体化してるんだ!」

 

 シンの声がアスランの考えを肯定する。

 手足を動かすロスが無い事に気が付いたのは流石シンだろう。

 

 「そうだ。あいつらにとって身体はそれほど重要じゃない。脳機能だけあればいいんだ」

 

 メンデルの子供たちは身体を直接黒いMSと一体化させていた。

 機体と一緒になる事で脳から直接動かす事ができる。

 手足を動かすロスが無い事は圧倒的に有利だ。

 だが緊急脱出は不可能だという事だ。

 つまり最初から生還を期待していない。

 死ぬ覚悟でいるという事になる。

 

 「父上はそこまでして戦争を続けたいのか!!」

 

 アスランは苦々しい表情を浮かべた。ザフトの指導者たちがそこまで非道な手段を取っている事に怒りを感じていた。 

 父は最初からこの結末を知っていたのだろうか?

 厳しい所もあるが優しい所もある父だった。

 優しい母が生涯を共にすると誓い合った人だ。

 

 「アスラン!後ろだ!」

 

 シンの警告と同時にアスランのジャスティスが回転し、背後から迫る黒いMSのサーベルをかわす。

 そしてシンのシルバーアストレイが光の軌跡を描きながら対艦刀で黒いMSに攻撃するが命中はしない。

 シンのシルバーアストレイと合体したマユのシェンウーからミサイルが放たれるがミラージュコロイドによってかく乱されてしまった。

 

  「くそっ!一体どうすれば……」

 

 アスランの焦りが募る中、黒いMSの一機が彼の前方に姿を現した。それはジャンヌの乗る機体だった。

 

 「アスラン・ザラ。お前は私たちと同じだ。だがお前はまだ選べる。私たちはもう選べない」

 

 ジャンヌの声は悲しみに満ちていた。彼女自身もまた運命に抗えぬ存在だった。

 

 「何が言いたい!?」

 

 アスランは怒りに震える声で問い返す。

 

 「私たちは最初から失敗作だった。遺伝子改造の失敗でこんな姿になってしまった。それでも戦い続けろと命じられた。お前には未来がある。それが私には羨ましい」

 

 ジャンヌの言葉にアスランは胸を打たれる。

 メンデルで見たジャンヌの無残な姿を思い出す。

 同い年の少女の心をどれだけ歪めただろうか。

 しかし今は戦闘中。

 感傷に浸っている場合ではない。

 

 「お兄ちゃん!こっちにも来た!」

 

 マユの悲鳴のような声に、アスランは一瞬我に返る。

 見れば合体したアストレイの周りには黒いMSが五機も集まっている。

 シンとマユは一斉に放たれるビームライフルを回避するので精一杯だ。

 

 「マユ!シン!大丈夫か!?」

 

 「なんとか……でもこのままじゃ……」

 

 シンの声も力ない。

 アストレイは損傷が激しく、エネルギーも限界に近い。

 マユの心も身体も限界に近かった。

 空間認識能力がコーディネイトされているとはいえ、まだ九歳の少女にこの戦闘は過酷だ。

 シンはマユの苦しそうな声に心を痛めながらもアストレイを操縦し続ける。

 マユの恐怖と絶望に満ちた苦し気な声が通信機から流れてくるたびに、シンの胸は締め付けられるように痛んだ。

 

 「マユ!大丈夫か!?」

 

 「お兄ちゃん……怖い……もう……無理……」

 

 マユの声は震えており、息も荒い。彼女の心も身体も限界に近かった。

 だがアスランには彼女たちを助ける余裕はない。

 

 「あきらめるな!今は何とかして時間を稼ぐんだ!」

 

 アスランの言葉にもマユは応えることができず、アストレイの動きが鈍くなっていく。

 

 「シン!マユを守れ!ここは俺が引き受ける!」

 

 アスランはジャスティスで黒いMS部隊に向かって突撃する。

 しかし相手の機動性と数の優位は揺るがない。

 シンはマユをかばいつつアストレイを操縦する。

 シンの操縦技術は群を抜いているが妹を庇いつつ核搭載ではないアストレイで戦い続ける事は難しい。

 黒いMSのビームがシルバーアストレイの装甲を貫き、火花を散らす。

 

 「くっ!……マユ!大丈夫か?!」

 

 シンはマユの安否を確認するが返事はない。

 彼女の呼吸は浅く微かな喘ぎ声だけが聞こえてくる。

 アストレイのコックピットも黒いMSの攻撃で大きく損傷している。今にも爆発しそうな状態だ。

 

 「マユ!しっかりしろ!気を失うな!」

 

 シンは必死に叫ぶが、マユは既に意識が朦朧としていた。

 彼女の目は虚ろで体も動かない。

 

 「……お兄ちゃん……ごめんなさい……」

 

 マユの弱々しい声にシンの心は砕けそうになる。

 

 「ごめん……もう……動けない……」

 

 シルバーアストレイとシェンウーが合体した機体が宇宙空間で立ち往生している。

 アスランは二人を庇ってジャスティスで盾となった。

 黒いMSたちが周囲を取り囲む。

 そしてジャンヌの冷酷な声が通信機から流れてくる。

 

 「さようなら、アスラン・ザラ」

 

 黒いMSの一斉射撃が始まる。

 そしてその瞬間———

 キラ・ヤマトのフリーダムがアスラン達の盾となった。

 

 「キラ!?」

 

 アスランの叫び声が通信機を通して響く。

 突然現れたキラのフリーダムガンダムはミーティアと合体している圧倒的な火力で黒いMS部隊に応戦した。

 その姿はまるで不死鳥のように宇宙を舞い、数機の黒いMSを一瞬にして撃墜していく。

 

 「アスラン!シン!マユ!無事か!?」

 

 キラの声には焦りと安堵が入り混じっていた。

 フリーダムの持つ武装は他のMSとは比較にならない威力を持っている。

 ミーティアによる全方位からの攻撃は黒いMSにとって想定外だった。

 

 「キラ!こっちはなんとか……」

 

 「アスラン、シンとマユを守って!僕が残りを引き受ける!」

 

 キラは一瞬で戦況を把握し、残存する黒いMSに向かって突進した。

 黒いMSはミラージュコロイドを展開しつつも、フリーダムの攻撃を避けることができなかった。

 

 「こんなはずは……!」

 

 ジャンヌの驚愕の声が通信機から流れる。

 黒いMSたちは連携を取っていたが、キラの予測不能な動きと圧倒的な火力に次々と撃破されていく。

 

 「これがスーパーコーディネイターの力……!」

 

 ジャンヌの黒いMSは後退しながらも攻撃を続けるが、その攻撃は全てフリーダムにかわされる。

 キラはミーティアの推進力を最大にし、黒いMSに向かって突進する。

 ジャンヌの黒いMSはフリーダムの登場に不利を悟ったがもはやこれまでと悟ったのだろう。

 アスランにはジャンヌの悲痛な叫びが聞こえた気がした。

 

 「私はここで終わるわけにはいかない!」

 

 ジャンヌの黒いMSは最後の力を振り絞り、ミラージュコロイドを展開しながらフリーダムの背後を狙う。

 

 「どこから来るかわからない!?」

 

 キラはフリーダムのセンサーをフル稼働させながらジャンヌの動きを追う。

 ミラージュコロイドを展開した黒いMSの動きは完全には捉えられない。

 

 「キラ!後ろだ!」

 

 アスランの警告に反応して、キラは咄嗟にフリーダムを回転させる。

 

 「逃がさない!」

 

 ジャンヌの黒いMSがビームサーベルでフリーダムに斬りかかるが、その攻撃はキラにかわされる。

 二人の機体が交錯する瞬間、ジャンヌの声が通信機から聞こえてくる。

 

「スーパーコーディネイター、キラ・ヤマト。私達はお前が憎い!!」

 

「何が言いたいんだ!?」

 

 キラは混乱しながらもフリーダムを操縦し続ける。

 

 「私たちはメンデルで生まれた。お前のなりそこないだ。お前が踏みにじった者たちの恨みを知るがいい!!」

 

 キラは一瞬動きを止めかけたが、すぐに再び攻撃態勢に入る。

 ジャンヌはスーパーコーディネイターを生み出すための踏み台でしかなかった。

 フリーダムのビームライフルがジャンヌの黒いMSを捉える。

 

 「ディアッカ……」

 

 彼女の最後の言葉は、通信機越しにアスランの耳にも届いた。

 ジャンヌの黒いMSはキラのフリーダムから放たれたビームで撃墜された。

 黒いMSが爆散する瞬間、ジャンヌの笑顔が一瞬だけアスランの脳裏に浮かんだ。

 

 「ジャンヌ……」

 

 アスランは拳を握りしめ、彼女の最期を悼んだ。

 スーパーコーディネイターの出来損ないとして生まれ、スーパーコーディネイターのキラに殺される。

 ジャンヌにとってそれは生まれた時から定められた運命だったのだ。

 最後まで彼女はキラ・ヤマトにはなれなかった。

 キラに憎悪を向けた少女は命を燃やしつくした。

 スーパーコーディネイターになれなかった少女の悲しい生命の終わりだった。

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