【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第109話 殺戮者
ニコルは黒いMS部隊から離れてジェネシスを目指していた。
ミラージュコロイドを最大限に活用して敵のレーダーからも光学センサーからも姿を消し、静かにジェネシスへと接近していく。
バーニアが使えないのがもどかしいが発見される訳にはいかないからだ。
(この任務を果たさないとみんな死ぬ)
ニコルの心には不安が渦巻いていた。
任務の重圧と愛する人々を思うと心が重い。
だがニコルの手には父親のユーリ・アマルフィが渡してくれたジェネシスの詳細なデータがある。
これがあればジェネシスを破壊する事が出来る。
そう思っていた。
そう、見通しが甘かったのだ。
突然リジェネレイトにビームが発射された。
しかもそれは四方八方からだ。
通常の攻撃ではありえない。
それにミラージュコロイドを使用中のリジェネレイトを感知できる筈がない。
そう、あくまで普通の人間ならだ。
相手はフラガ家のクローンだったのだ。
ニコルはミラージュコロイドを解除して回避するしかなかった。
何が起こったのかまったくわからない。
そのニコルに通信機から聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「そんなにコソコソと隠れてどこへ行こうというのだね」
その声はラウ・ル・クルーゼのものだった。
ZGMF-X13Aプロヴィデンスに乗ったクルーゼがニコルのリジェネレイトと対峙する。
「……クルーゼ隊長」
「久しぶりだねニコル。また会えて嬉しいよ。何しろ君とは前回死に別れたのだからね」
死に別れた?
なぜそれを知っているんだ。
どうしてニコルが前世の記憶を持っていると知っているんだ。
「まさか、クルーゼ隊長も」
「そう私も前世の記憶を持っているのだよ。前回は私の勝ちだったが残念な事にジャンク屋や他の有象無象が生き残ってしまってね。彼らを殺し尽くす前に寿命が尽きてしまった。人類を完全に滅亡させる事が出来なかったのだ。君にも見せてあげたかったよ。キラ・ヤマトが絶望の叫び声で愛しい者の名を叫び、ラクス・クラインが狂気に狂って廃人と化した有様をね」
「そんな」
ニコルにとってクルーゼは尊敬する隊長であり目標でもあった。
温かみがあって優しく諭してくれて理解もしてくれた。
それなのに。
前世でキラを殺しラクス様が狂うのを嘲笑した。
まさか人類滅亡を企む黒幕だったなんて。
ニコルは驚愕に目を見開いた。
前世の記憶を持つクルーゼの目的は人類の滅亡だと言うのか。
「クルーゼ隊長!!あなたは何を言っているのかわかっているのですか!!」
「君は知らないようだが教えてやろう。エマとジャンヌが語ったように私も遺伝子を弄られて生まれた存在だ。だが彼女らとは違いスーパーコーディネイターとしてではない。ある男のクローンとして生まれた」
「クローン!?」
「そうだ。そして私はその男の地位と財産を受け継ぐという、ただ一つのくだらない理由で生み出されもうすぐ死ぬ」
「死ぬ……!?」
クルーゼの声には怒りが滲み出ていた。
彼の声は低く沈んでおり、その中に混じる狂気がニコルの心を震わせた。
「そうさ。あと一年もすれば私の肉体は限界を迎える。だが死ぬ前に人類を滅ぼさなければならない。それこそが私が生まれた意味なのだよ」
「そんな!そんな理由で人類を滅ぼすなんて……」
「両親に愛され育った君には理解できないだろうね。私はこの世界に絶望している。コーディネイターとナチュラルが憎みあい殺しあう醜い世界。自分は他者より優れていると軽蔑し、妬み、憎しみあう。それがわからぬと逃げいつかは分かり合えると信じ、それが敵わぬと知りながら目を背ける。私はそのすべてを終わらせたいのだよ。そしてそのために私はこの世界に再び生まれた」
クルーゼの言葉には憎悪と狂気が滲んでいた。
「僕を殺すつもりなんですか?」
「君はまだ理解していないようだな。私が何者なのかを。この世界は私が前世の失敗を教訓に作り変えたのだよ。エマ達を利用するのを躊躇したパトリックをけしかけジェネシスを撃たせるためにな。地球を破壊しプラントを壊滅させ全ての人類を滅ぼす。今度はジャンク屋も含めて殺す。それが私の使命だ」
クルーゼの目は冷たく光っていた。
そんな、そんな事って。
ニコルはクルーゼの闇を知り激しい眩暈を覚えた。
精神安定薬の効果が無ければ意識を失っていただろう。
「クルーゼ隊長!そんなことは許されません!僕はあなたを止めます!」
「ほう。私のプロヴィデンスと戦うつもりか?面白い。前回の君とは違うと私は期待していたのだよ。初めてシミュレーターで君の動きを見た時から私は期待していた。もしかしたら君こそが今度こそ人類滅亡をやり遂げる為に必要な駒なのだろうとね。君は素晴らしい働きをしてくれた。特にキラ・ヤマトを執拗に殺そうとする姿に感動さえ覚えた。そしておかしくもあった。あのような弱者になぜ固執するのかとね。前世でキラ・ヤマトを殺したのは私なのだからな!!」
クルーゼの言葉にニコルは黙り込む。
キラが弱者?
そんな筈があるものか!!
だがアスランを殺しメンタルに深い傷を負った前世のキラではクルーゼに勝てなかったのだ。
「だが君は失敗した。だから私は君を排除することにした。この世界で君は私に必要な存在ではないからだ。君はただの駒に過ぎない」
「僕は……僕はただ自分の運命を変えたいだけなんです!」
「運命を変えたいか。それなら尚更邪魔になるな。君は運命を変えられるなどとは思っていないのだろう?ただ自分の過去を変えたいだけだ。自分の罪を消し去りたいだけだ。そうだろう?ニコル・アマルフィ。今回の世界では君はキラ・ヤマトを執拗に殺そうとした。それが君の本質だ。君は人を殺すことを楽しんでいる。そして自分の罪から逃げようとしている」
「ち……ちがう……僕はただ……」
「認めろ。君は人を殺すのが楽しい。だから君はキラを執拗に追いかける。キラが生きていては君の望む殺戮は不可能だからだ。君はただ自分の怒りを他人にぶつけているだけだ。その事実に目を背けて逃げているだけだ。君は生まれついての残虐な殺戮者であるという事に目を背けている、ただの臆病者で卑怯者だ」
ニコルはアルテミス要塞に閉じ込められ逃げ遅れた地球連合の艦船を容赦なく破壊した。
砂漠で襲われた時、ニコルはブルーコスモスの襲撃者を顔色一つ変えずに殺した。
オーブに侵攻した地球連合軍を追撃し、多数の艦船を撃沈した。
そして殺して殺して殺し尽くしてきた。
すべてはキラ・ヤマトを殺すためだと自分に言い聞かせ、本当は楽しんでいたのではないか?
逃げ惑う敵を殺すのが楽しくて仕方が無かったのではないか?
クルーゼの言葉は鋭くニコルの心を抉った。
ピアノが好きで戦争を嫌い仕方なく銃を手に取った。
その事が無ければニコルは死ぬまで自分の本性に気が付かず寿命を迎えられただろう。
「ちがう……ちがう!!僕は殺戮者なんかじゃない!!」
「何が違う?どう違う?君は私と同じ側の人間だよ。違うと言うなら君は無意識のうちに殺戮を楽しみ、私は意識的に殺戮を行ってきたということだ。私は自分の意思で殺戮を行ってきた。その点では君より高尚だと言えるだろう。私こそがこの世界を終わらせるに相応しい。ニコル、君は所詮私の劣等種に過ぎない。君は自分の意思で行動しているつもりだろうがそれは違う。君は私の操り人形だったのだよ」
クルーゼの言葉にニコルは絶望した。
認めざるを得なかった。
どこかで殺戮を楽しんでいたと認めるしかなかった。
「ちがう……ちがう……僕は……」
ニコルの声は震えていた。
心が砕け散るような痛みが全身に走る。
精神安定剤では追いつかない精神不安で身体が軋む。
心臓が異常な鼓動をし、全身が硬直する。
だが今の自分には愛する人たちがいる。
キラ、アスラン、ラクス、カガリ、シン、トール、フレイ。
───マユ!!
マユの笑顔を思い出す。
約束したはずだ。
必ず生きて帰ると。
「クルーゼ隊長……僕はあなたを……」
クルーゼに対する敬意が崩れ落ちていく。
尊敬する人だと思っていたのに。
憧れの存在だったのに。
「僕はあなたを殺す。そして世界を救う。僕が殺戮者なのかはわからない。もしそうなら僕は世界を救う為に戦う。僕の愛する人たちの為なら、僕は殺戮者になっても構わない!!」
ニコルの声には怒りが込められていた。
クルーゼに対するものだけではない。
自分の本性に目を背けて来た自分自身に対する怒りもあった。
こんな自分がマユに相応しい筈がない。
それでも僕はマユの為に戦う。
「ほう。面白い。やれるものならやってみろ。殺戮者ニコル・アマルフィ。それが君の本性なのだからな!!存分に殺し合おうじゃないか!!」
そう言ってクルーゼはリジェネレイトに向かってプロヴィデンスのドラグーンでビームの雨を降らせる。
ニコルは襲いかかってくるビームを避けながら手足四本のビームサーベルでプロヴィデンスに突進した。