【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第110話 ハウメアの守り石
クルーゼのプロヴィデンスが放ったドラグーンのビームが宇宙を切り裂き、リジェネレイトの機体を貫こうとする。
ニコルは手足のビームサーベルでクルーゼに接近戦を挑んだ。
距離を取られると不利になるのを知っているからだ。
リジェネレイトはその巨体にも関わらず、大出力のバーニアを備えており機敏に動くことが出来る。
しかしクルーゼもニコルの狙いを見抜き後退を繰り返しながらビームライフルで応戦した。
ニコルはリジェネレイトの巨体をクモのようなMA形態に変形させ避けた。
そしてロングビームライフルを放つ。
その巨大さゆえに足場が安定しないと撃てないので地上では足かせだったロングビームライフルだが宇宙では核エネルギーを生かして連射できる。
戦艦の主砲以上の高出力ビームの攻撃でクルーゼが怯んだ隙に、ニコルは突進した。
そして両手足に装備した一つずつがミーティアのビームサーベルに匹敵するめちゃくちゃな高出力ビームサーベルを振るった。
一撃でも当たればプロヴィデンスは戦闘不能だろう。
「殺戮者だろうが何だろうが、僕はこの世界を守るために戦う!!」
ニコルはそう叫びながらリジェネレイトを操縦し、両手足に装備されたビームサーベルを展開してクルーゼの攻撃を迎撃する。
宇宙空間で二機のMSが激突する音は地上の戦闘と違い無音だ。
「君の力はその程度か?まだ自分の本質を受け入れられないようだな。もっと自分の本性を曝け出せ。そうでなくては面白くない!!」
クルーゼの声には冷笑が混じっていた。
まるで自分の死を願っているようだ。
「クルーゼ隊長!あなたは何を……うわあああっ!!」
ニコルの言葉が終わる前にプロヴィデンスのドラグーンからビームが発射され、命中したリジェネレイトの装甲に火花を散らす。
操縦席で激しく振り回され計器がいくつか吹き飛んだ。
「何故驚く?君は既に気づいている筈だ。私が何故君に興味を持ったか。それは君の潜在能力が私を楽しませるからだ。君は自分の力の使い道を誤っている。本来君はもっと強く、もっと冷酷になれる。それなのに君は優しさという幻想に縋っている。そんなものはこの世界では通用しない!!」
クルーゼの言葉は鋭くニコルの心を貫く。
リジェネレイトの装甲は少しずつ削られていくが、それでもニコルは退かない。
むしろ心の奥底から湧き上がる怒りに駆られていた。
「そんなに本当の僕と戦いたいのか!!」
その怒りはクルーゼと自分に向けられていたものだ。
だがニコルが激昂する寸前で暴走する殺戮者になるのを防いでくれるペンダントが見えた。
マユがくれたハウメアの守り石だ。
マユの笑顔を思い出し、寸での所で殺戮者になるのを押しとどめている。
「僕は確かに人を殺した。でもそれは世界を守るためだ!あなたのように無差別に人を殺すのではない!」
「守るだと?笑わせるな!君はただ自分が許されたいだけだろう?自分の過去の罪から逃れたいだけだ!それはただの逃避だ!!」
クルーゼのプロヴィデンスが猛スピードで突進してくる。
ニコルは咄嗟にリジェネレイトを操作し、機体の背部のバーニアで高機動の機体を動かした。
プロヴィデンスの執拗な攻撃に対し、ニコルはリジェネレイトの大火力で応戦する。
「違う!僕はもう逃げない!自分の本性と向き合う!それが僕の戦いだ!!」
マユに誓ったのだ。
必ず生きて帰ると。
プロヴィデンスのドラグーンが宇宙を舞い、リジェネレイトに向かって集中攻撃を行う。
だがリジェネレイトはそれを難なくかわし、逆に背後からプロヴィデンスに攻撃を仕掛けた。
しかしリジェネレイトの四本のビームサーベルもプロヴィデンスを捉えられない。
リジェネレイトはドラグーンの攻撃で数発被弾するが持ち前の耐久力で耐えきった。
「君の考えなど全て読める!私のプロヴィデンスの前では君の戦略など児戯に等しい!」
クルーゼの声には侮蔑が混じっていた。
期待したが所詮この程度か。
クルーゼはニコルの技量に失望したがすぐにそれは誤っていたと気づく。
「クルーゼ!!……あなたはなぜそんなにも人類を憎むのですか!!」
ニコルはリジェネレイトの機体を反転させながら問いかける。
殺戮者に堕ちる衝動を必死に耐えていた。
コクピットは損傷して計器がいくつか破損している。
操縦桿を握る手が熱い。
自分の心が殺戮者になる衝動に身体が焼かれる。
精神安定剤の効果が消えかかっていた。
「憎む?違うな。私は裁くのだよ。人の命を尊いと言いながら遺伝子を弄び、その価値もわからず奪い合うこの世界をな!遺伝子が優れた者が他者を見下し軽蔑し、劣る物が呪い妬み憎しみあう!!それがどれほどの闇かと知りながら目を背け罪なき者を殺戮し、無意味と知りながら争いを止める事をしなかった!!所詮人とはその程度の存在なのだ!!いくら遺伝子を弄ろうと人の本質は変わらぬさ!!お前がその答えだろうニコル!!お前はもっとも優れた殺人機械だ!!ピアノを持つ手に銃を持ち引き金を引くたびに悲しむ!!だがその引き金を引く手が一瞬でも鈍った事があるか!?」
プロヴィデンスが放つビームはより精密に、より激しくなっていく。
ニコルは必死に機体を操縦しながら応戦するが、クルーゼの操縦技術はニコルの想像を遥かに超えていた。
「人類を裁く権利なんて貴方にはない!!自己陶酔で無意味だ!人は確かに愚かかもしれない!!それでも人はより良い未来を探し続けてきた!!その願いと想いを否定する権利なんて貴方にはないんだ!!僕達コーディネイターは遺伝子を操作された自然ならざる生命かもしれない!!でも親は子により良い未来を託し願うからこそ生まれた存在がコーディネイターなんだ!!」
「無意味?戦いが無意味なら何故君は戦う?何故君は私を殺そうとする?何故君は自分自身の本性に怯えながらも戦場に立つ?ましてコーディネイターが人類の希望だと言うなどおこがましいと思わないのか!!思い上がりも甚だしいな!!コーディネイターなど所詮遺伝子を弄った只の人間にすぎないのだよ!!遺伝子を弄って生まれた君がなぜ未来を持つ者を殺す!?優れているからだろう?所詮ナチュラルだと見下しているからこそ、君は殺戮者として迷いなくナチュラルを殺せるのだ!!」
クルーゼの言葉にニコルは言葉を失う。
何故って僕は殺戮者だから。
その答えを必死に抑えているのはハウメアの守り石だ。
マユの想いがニコルを守っていた。
「答えろ!ニコル・アマルフィ!君は何のために戦っているのだ!?」
クルーゼの問いかけにニコルは一瞬だけ静止する。
戦いが好きだから。
人を殺すのが楽しいから。
衝動に身を任せれば楽だから。
「僕は……僕は……」
その間にもプロヴィデンスの攻撃が続く。
ニコルは胸で光るハウメアの守り石を握りしめる。
この石をくれたマユの事を想い続け操縦桿を握った。
「僕は……大切な人たちを守るために戦っている!うおおおおおっ!!!」
ニコルは大声で叫びながらリジェネレイトの装甲を最大限に展開しシールドを形成する。
クルーゼのビームがリジェネレイトに直撃するが、なんとか耐えきった。
「大切な人か。くだらないな。人は誰かのために死ぬことができるほど強くはない。結局自分のためにしか生きられないものだ!!」
「違う!!僕は愛する人の為なら死ねる!!だがそれは間違いだ!!愛する人は僕に死んでほしいなんて思ってない!!それを教えてくれた人の為に生きるんだ!!自分の本性が悪だとしても!!」
「それを君の愛する人々は受け入れてくれるかな?自分は殺戮者だと言って歩くつもりかね。そんな君を誰が認める?誰が愛するというのだ?」
クルーゼは冷笑を浮かべながらニコルに問いかける。
「認めてくれなくても構わない。受け入れてくれなくてもいい。それでも僕は自分の本性に向き合い、自分の力で世界を守る。マユの愛する世界を守る!!」
「ふん。強がりか。それとも本当にそう思っているのかな?どちらにせよ、君には不可能だ。君は所詮私の操り人形。君の力では私に勝てない」
クルーゼは冷酷な笑みを浮かべながらプロヴィデンスの操縦桿を握りしめる。
「君は自分の本性を受け入れたつもりでも、それは偽りの自分だ。本当の君はもっと冷酷で残酷で……」
「うるさい!黙れ!!」
ニコルは怒りに駆られ、リジェネレイトの機体を操縦しながらプロヴィデンスに向かって突進する。
その動きは一瞬だけクルーゼの予測を越えた。
「なに!?」
クルーゼの驚きの声が響く。
「僕は自分の本性と向き合う。そしてそれを乗り越える!僕の愛する人たちはそれを知ったとしても!!それでも僕の側にいてくれる!!受け入れてくれるんだ!!」
こんな僕でもみんなは受け入れてくれる。
キラもアスランもラクス様もカガリもシンもトールも。
そしてマユは笑顔でいてくれる。
ニコルのリジェネレイトはプロヴィデンスの背後を捉え、両手足のビームサーベルで襲いかかる。
クルーゼも即座に反応しビームサーベルで受け止めてから距離を取りドラグーンで射撃を開始しようとした時だ。
リジェネレイトの身体から無数のパーツが飛び出した。
リジェネレイトは予備パーツを搭載しているがニコルはそれを展開した。
予備パーツがあればいつまでも戦える。
リジェネレイト最大の武器を手放した。
自分を追い詰めないとクルーゼには勝てないと知ったからだ。
リジェネレイトから放たれた数十の予備パーツが宇宙空間に広がる。
それらは瞬時にニコルの意志の下で動き始め、まるで生きているかのようにプロヴィデンスの周囲を囲む。
そしてパーツからビームを発射して疑似ドラグーンとして扱う。
リジェネレイトの予備パーツはニコルが遠隔操作出来るように改造されていた。
もちろんモルゲンレーテの技術だ。
「なっ!?何だこれは!?」
クルーゼの驚きの声が通信機を通して響く。
「これが僕の新たな力だ!クルーゼ!」
ニコルは叫びながらリジェネレイトを操縦し、飛び散ったパーツたちに指示を送る。
モルゲンレーテの技術者たちは予備パーツにまで細工を施していたのだ。
「ふん、ただの目眩ましか!」
クルーゼは冷静に状況を分析しながらプロヴィデンスのドラグーンで射撃を開始する。
無数のビームが宇宙を切り裂き、ニコルの放ったパーツを次々と撃ち落としていく。
しかし、パーツたちはそれぞれが独立した動きを見せながら、ドラグーンの攻撃を避けつつ接近していく。
リジェネレイトから放たれたパーツは小型のビーム発生装置を内蔵しており、それぞれが独自の軌道でクルーゼに向かって迫る。
リジェネレイトのドラグーンが数機撃ち落とされ爆散した。
ドラグーンとリジェネレイトのパーツが激しい射撃戦を展開した。
「なるほど……面白い。だが所詮はその程度だ!」
クルーゼはプロヴィデンスの全身を高速回転させ、迫り来るパーツたちを次々と撃ち落としていく。
しかし、ニコルはただ単純な攻撃を仕掛けたのではない。
「クルーゼ!プロヴィデンスは強固だが、ドラグーンのエネルギー消費は莫大だ!」
ドラグーンは単体で核エンジンを搭載しておらず、定期的に充電を必要とした。
ニコルの言葉通り、ドラグーンのエネルギー残量は急速に減少していた。
ドラグーンの使用と装甲維持に多大なエネルギーが必要なのはクルーゼも承知していたが、ここまで長時間の戦いはクルーゼにとっても計算外だった。