【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第111話 クルーゼ対シン
ニコルのリジェネレイトがクルーゼのプロヴィデンスに肉薄する。
両手足のビームサーベルが閃光のように輝き、クルーゼの機体に迫った。
早くクルーゼを倒しジェネシスの発射を阻止しなくてはいけない。
「どけえええええええ!!」
「ふっ……やはり君は面白いな。だが、まだ甘い!」
クルーゼはプロヴィデンスの腕部に装着されたビーム砲を発射し、ニコルのリジェネレイトを撃ち落とそうとする。
だがニコルはそれを予測していたかのようにリジェネレイトを急降下させ、クルーゼの攻撃を回避した。
これまでの戦いでニコルは気が付いた。
プロヴィデンスの武器は左腕に集中しており、左腕はシールドとして使えば他に使える選択肢はない。
ニコルの愛機ブリッツガンダムと同じ弱点を持つという事だ。
そしてニコルが左腕に攻撃を集中しだした事にクルーゼも気が付いた。
ニコルがブリッツガンダムのパイロットである事を失念していた訳ではないが、気が付くとは思っていなかったのだ。
クルーゼはどこかでニコルの事を格下だと思っていた自分に舌打ちした。
プロヴィデンスは自分に背を向けて突破を図るリジェネレイトの背中にビーム砲を撃つ。
ニコルはそのビームを避けるしかない。
こんな事をしている暇など無いのに。
一刻も早くジェネシスを止めなければ人類が死滅してしまう!!
(一刻も早くジェネシスを止めなければ……!)
ニコルの心の中は焦燥感で満ちていた。だがクルーゼはそれを許さない。
「そんなに急ぐか!?それなら余計に君を始末する理由が増えるな!」
クルーゼのプロヴィデンスがリジェネレイトの正面に立ちふさがる。
その動きには一切の迷いがない。
まるで全てを計算し尽くしたかのように正確で洗練された動きだ。
だがクルーゼの意図を察知したように、ニコルはMA形態に変形して回避した。
自分の知っていたニコルの技量を遥かに超えている。
短期間でこれほどの進化を遂げた者をクルーゼは知らなかった。
どうあっても世界という意志はクルーゼを止めたいらしい。
神か悪魔か。
どちらでもいい、存分に抗うがいい。
前回お前たちが用意したキラという駒は殺し甲斐がなかったのだからな!!
「君のような半端者では世界を守ることはできない!君はただの殺戮者だ!世界という意志に作られた駒にすぎない!!」
ニコルは言葉を返す余裕もなかった。
目の前の敵に集中するだけで精一杯だった。
プロヴィデンスの攻撃を避けるたびにリジェネレイトの装甲が削られていく。
それでもニコルは前進し続けた。
(僕が世界という意志に作られた駒!?クルーゼは何を言っているんだ)
その時だった。
通信機から別の声が聞こえてきた。
「ニコルさん!応答して下さい!」
「ニコル!!お前はジェネシスを!!」
シン・アスカとマユ・アスカの声だった。
ニコルは一瞬だけ意識をそちらに向ける。
気を抜く余裕なんて無いからだ。
「シン!マユ!大丈夫ですか!?」
「ああ!アスランのおかげで何とか無事だ!そいつは俺とマユにまかせてジェネシスを破壊しろ!!」
シンの声には焦りが混じっていた。
ニコルの心に迷いが生まれる。
二人は果たしてクルーゼを止められるのだろうか。
そう簡単に阻止できるものではないかもしれない。
その隙をクルーゼは見逃さなかった。
「考え事か?余裕だな!」
プロヴィデンスのビームサーベルがリジェネレイトの右腕を切り裂いた。
右腕を失い機体が激しく揺れる。
激しい衝撃と共にアラートが鳴り響く。
右腕を失ったリジェネレイトだがすぐに予備パーツが装着されるはずだった。
だがニコルは全ての予備パーツを攻撃に使ってしまった為に片腕で戦わなくてはならない。
ニコルは機体を操縦し続けた。
だがシンとマユでクルーゼに勝てるのだろうか?
「クルーゼ!!」
「やはり君は半端者だ。仲間を守るという思いと世界を救うという使命感の間で揺れている。そんな君では私には勝てない!」
クルーゼの言葉はニコルの心を深く傷つけた。
確かにその通りだ。
自分は迷っている。
仲間を信頼するという事が出来なくなっていた。
シンとマユの技量は確かに優れているが、機体性能が違い過ぎる。
シェンウーという巨大バッテリーを持つとはいえ、核エネルギーを使えるプロヴィデンスと戦うには甚だしく不利だ。
「ニコル早く行け!!世界を救えるのはお前だけなんだ!!」
「ニコルさんマユ達をしんじて!!」
リジェネレイトとプロヴィデンスの間に割って入るアストレイとアストレイに合体したシェンウー。
二人の決意は固いようだ。
核動力を持たない二人の機体ではクルーゼを抑える事など出来ないだろう。
「シン…マユ…僕は、僕は」
「じきにアスランだって来る!!だから早く行けって!!」
シンの叫びがニコルを後押しした。
ジェネシスが発射されればもうプラントと地球連合との関係に決定的な亀裂が生じる。
地球連合は迷いなく核ミサイルをプラント本国へ打ち込むだろう。
そうなったら和平なんて夢のまた夢になる。
何があってもジェネシスを撃たせてはならない。
「わかった!シン!マユ!頼んだよ!」
ニコルは覚悟を決め、リジェネレイトをジェネシスへと向かわせる。
シンとマユ、二人の事を信じて任せるしか選択はなかった。
「待てニコル!逃がすものか!」
クルーゼが追撃しようとするが、そこにシルバーアストレイとシェンウーの合体機が立ち塞がる。
「てめぇの相手は俺たちだ!」
「急いでニコルさん!」
クルーゼは舌打ちしたがニコルがどれだけ急いでも発射は止められないだろう。
それなら目の前の二人を殺してニコルをもっと絶望の淵に立たせようではないか。
「ほう。子供二人で私に立ち向かうつもりか?」
クルーゼは冷笑を浮かべながらプロヴィデンスのビームライフルを向ける。
「黙れ!お前なんかに負けてたまるか!」
シンはシルバーアストレイを操縦し、クルーゼに向かって突進する。
手に構えた対艦刀を振るいプロヴィデンスの左腕を狙う。
シンは先ほどのニコル対クルーゼの戦いからプロヴィデンスの弱点が左手だと見抜いていた。
流石シン。
「無謀だな。そんな単純な突撃で私に勝てると思うのか?」
クルーゼは冷静にシルバーアストレイの動きを読み、プロヴィデンスの機体をわずかに傾けるだけで回避する。
だがそれはアスカ兄妹の作戦だった。
「マユ!今だ!」
シンの合図でシェンウーがビームガトリング砲を放つ。
しかしプロヴィデンスの装甲はそれを容易く弾き返す。
「そんな貧弱な攻撃でどうするつもりだ?」
クルーゼの笑みは深まる一方だ。
だがその笑みは途中で凍り付く事になる。
キラを超える空間認識能力を持つマユがミサイルとビームを一斉に放ったのだ。
その精度はクルーゼさえ超えていた。
マユの放ったミサイルとビームでドラグーンが全て撃ち落とされたのだ。
「何だと!?」
クルーゼの驚愕の声が通信機を通して響く。
「マユの攻撃を甘く見るなよ!」
シンはシルバーアストレイの対艦刀を抜き放ち、プロヴィデンスに向かって斬りかかる。
クルーゼは咄嗟にプロヴィデンスのビームサーベルで対抗するが、その動きにはわずかな迷いが生じていた。
「クソッ……!」
クルーゼは歯噛みする。
ドラグーンを失ったことで彼の戦術の幅は大幅に狭まってしまった。
「マユ!今だ!」
シンの指示を受けたマユはシェンウーを操縦し、クルーゼの隙を突いてビームサーベルを抜いた。
これでアストレイが持つ対艦刀とマユの二本のビームサーベルで、シェンウーと合体したアストレイは三本のサーベルを持つことになる。
クルーゼは慌ててプロヴィデンスのビームライフルをシン達に向けるが、シンのシルバーアストレイがその射線を遮る。
「行け!マユ!」
「了解!」
シンの対艦刀とマユのビームサーベル。
そしてマユの放った必殺のミサイルとビームがプロヴィデンスを捉えた。
「ちっ!小賢しいガキどもめ!」
クルーゼはプロヴィデンスの装甲を最大限に展開して防御態勢を取るが、シンとマユの連携攻撃の前には限界があった。
対艦刀の一撃がプロヴィデンスの左腕を捉え、ビームサーベルが右脚の関節部分を貫く。
さらにマユの精密なミサイル攻撃が装甲の隙間を狙い撃ち、プロヴィデンスの内部システムに深刻なダメージを与えた。
「くっ……!」
プロヴィデンスのコックピットにアラートが鳴り響く。
左腕と右脚の機能が低下し、機体の動きが鈍くなる。
「よくやったな、マユ!」
「お兄ちゃんも凄い!」
兄妹の間で安堵の言葉が交わされる。
「ふざけるな!こんなところで負けるわけにはいかない!」
クルーゼは怒りに震えながらプロヴィデンスを操縦する。
だが、もはや満足に動かすことすら困難になっていた。
遥かに格下のシンとマユに左腕と右足を可動困難にされたのだ。
この二人も世界の意志だと言うのか!?
ニコルだけでなく、この二人も!!
「いくぞマユ!」
「うん!」
シンとマユは最後の一撃を放つべく、エネルギーを集中させる。
「これで終わりだ!」
「ニコルさんをよくも苦しめたなあああ!!」
二人の叫びと共に、最後の攻撃が放たれる。
「いいぞ!!世界よ!!存分に抗うがいい!!」
プロヴィデンスの装甲がひび割れ、内部機構が露出する。
だがそれでもクルーゼの卓越したビームライフルから放たれる射撃で二人は近づく事すら出来ない。
そしてアストレイとシェンウーの電源が落ちる警告音が二人のコックピットに鳴り響く。
やはり通常電源で核エネルギーに対抗する事は不可能だったのだ。
それでも二人は諦めない。
大好きなニコルが戦っているのだ。
負けられない。
その時だ。
「マユちゃん!シン!危ない!」
アスランが駆けつけミーティアと合体したジャスティスのビームをプロヴィデンスに放つ。
その一撃が決定的となり、プロヴィデンスは大きく揺らいだ。
シンとマユに加えミーティア装備のジャスティスでは傷ついたプロヴィデンスでは無理だ。
「くっ……!これ以上の戦いは無意味か」
クルーゼはプロヴィデンスの機体を後退させながら呟いた。
彼の顔には怒りと悔しさが滲んでいる。
「今回は見逃してやる。だが次は必ず殺すぞ!」
クルーゼのプロヴィデンスが高速で離脱していく。
その後ろ姿を見送りながら、シンは安堵の息を漏らした。
もしアスランが来てくれなかったらとぞっとする。
シンはこのぶっきらぼうで人付き合いが苦手なアスランという人物が嫌いではなかった。
パイロットとしてはむしろ尊敬していた。
「やったぜ……!」
「お兄ちゃん、よかった……!」
マユも安堵の表情を浮かべている。
アスランが来てくれなかったら二人は間違いなく死んでいただろう。
ミーティアを装着したジャスティスなら追撃も可能だったが、アスランはシンとマユの安全を優先したのだ。
「二人とも無事か?」
アスランが心配そうに訊ねる。
「ああ。なんとかな」
シンは軽く頷く。
それが強がりだとわかったアスランが少し微笑んだ。
「でも、あいつはまだ諦めていないよ」
マユは不安そうに言う。
次はもっと強力な戦力で来るだろう。
「わかってる。次こそ必ず倒す。ニコルの援護に向かうぞ」
アスランは二人に優しく微笑みかける。
クルーゼが敵になった以上、アスランは迷いなくクルーゼを撃つ。
「そうだな。次は絶対に逃がさない!」
シンも力強く頷いた。