【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第113話 ドミニオン反乱
ピースメーカー隊がヤキン・ドゥーエに突入しようとした時だ。
アリスはずっとこのままではいけないと悩んでいた。
それをオルガ、クロト、シャニは見守っている。
決めるのはアリスだからだ。
ピースメーカー隊の突入に合わせて地球軍は彼らの突入を援護する為に密集隊形で突入する。
その中にはドミニオンの姿もあった。
これで勝ちだ。
ピースメーカー隊の核で全てが終わる。
アズラエル以下ブルーコスモスの面々はそう考えていた。
確かにそうだ。
これで戦争は終わる。
プラントのコーディネイターを絶滅させれば戦争は終わる。
「最初からこうすれば良かったんですヨ。君たち軍人は甘い」
アズラエルの言葉を聞いてアリスは俯く。
確かに甘かっただろう。
正攻法に頼って戦力を損耗しつづけた。
結果的に間に合わなかったとはいえ、地球連合でもNJCの研究は行われていたのだ。
NJC完成まで防御に徹すれば、今までの犠牲は大きく減ったかもしれない。
ギリ、とアリスは歯ぎしりする。
これで兵の犠牲は少なくなる。
わかってはいても、どうしてこんなに胸が苦しいのか。
しかし天才アリスは気が付いた。
地球軍が核を持っているなら、プラント側も核兵器かそれに匹敵するものを持っている筈だと。
「ドミニオン左舷回頭!!アズラエル理事!!ピースメーカー隊の発進を直ちにやめてください!!」
叫んだアリスにアズラエルは訝し気な表情をする。
今更何を言っているんだこの小娘は?
「何を馬鹿な事を言っているんです?今が絶好の好機じゃないですか」
アズラエルの回答はアリスにとって当然予想されるものだった。
だからアリスは全艦隊に聞こえるように通信を送る。
「我々が核をもっているように、プラント側も大量破壊兵器を持っているはずです!!ただちに停船してください!!みんな逃げて!!」
その言葉に殆どの艦隊は聞く耳を持たなかった。
たかが少佐の艦長でしかない者の意見など聞くはずがない。
だがドミニオンの後に続く小艦隊があった。
旧ハルバートン提督の第八艦隊の生き残りだ。
彼らは事あるごとに孫を褒めたたえ才能を愛した孫馬鹿だったハルバートンの言葉を思い出した。
『アリスはね、もうとっくに私を超えている。本人は自覚していないが、もう私が教える事など何もないのだよ』
そう言って笑うかつての上官の言葉を信じたのだ。
「艦隊!!左舷回頭!!」
「急げ!!左だ!!」
旧第八艦隊生き残りの艦長たちがドミニオンに続いた。
ドミニオンの艦橋でアズラエルが喚くがアリスはそんな些細な事を気にする余裕はない。
一刻も早く逃げる事、その事だけを考えていた。
それは今まさにジェネシスが死の刃をアリス達に振り下ろそうとした時だ。
ヤキン・ドゥーエ後方に現れたジェネシスが大爆発したのだ。
アリスは一瞬唖然とした。
今まさに死の刃から逃れたのだ。
アリスは帽子をかぶり直しアズラエルの方を見る。
「幸い私たちは助かりましたがあの巨大レーザー砲が我々に撃たれていればどうなったか、アズラエル理事にもお分かりですよね。プラントとの即時和平を」
アリスには事情が分からないが、プラントにも和平派がいて彼らが巨大レーザー砲を破壊したのだろうと理解した。
ならまだ和平の道は残されている。
ここで再びプラントに核を撃てば今度こそプラントとの和平など消え去るだろう。
「アズラエル理事。プラントにも我々との間に和平を願う勢力がいると思われます。核ミサイルの発射をただちにやめてください」
だがアズラエルは頑として首を縦に振らない。
これは願っても無いチャンスだと思ったからだ。
「何を言っているんだ君は!!今プラントは丸裸なんだぞ!!ここで撃たないでどうする!!」
アズラエルには絶好の機会に思えたが、そのような事をすれば永遠にコーディネイターとナチュラルは殺し合う事になる。
それを察したアリスは艦長席から立ち上がってアズラエルに飛びついた。
「な、なにをする貴様!!」
完全に不意打ちを喰らったアズラエルは懐から拳銃を抜こうとしたが、アリスの肘うちをもろに腹に受ける。
胃液を吹いて漂うアズラエルの腕を捻り上げ、拳銃を奪い取ったアリスはそのまま綺麗な一本背負いを行った。
そしてメインモニターに吹き飛ばされたアズラエルの顔を掌底(しょうてい)で殴り、再び腹を膝蹴りする。
「最初からこうすればよかったんですヨ」
アリスはわざとアズラエルの真似をする。
そう言ってアリス・ハルバートンはドミニオン艦橋で艦長席に座って足と腕を組む。
その横には艦長に従った副長によって縄で括り付けられ、床に転がされているアズラエルがいる。
突然アリスの一本背負いで吹き飛ばされ拳銃を奪われ縄で拘束されたのだ。
天才少女アリスは格闘技も天才だった。
「貴様!!僕にこんな事をしてただで済むと思うなよ!?」
「ただで済むとは思っていません。貴方は大切な人質ですから。さて、核ミサイルを全て破壊後、我々はアークエンジェルと合流します。裏切り者同士仲良くしてくれればいいですが」
そして艦外にいるカラミティ、レイダー、フォビドゥンの方を向く。
通信機でオルガとクロトとシャニに語りかけた。
「これより私達は裏切り者になります。ついてきていただけますか?」
通信を聞いたオルガ、クロト、シャニは言葉を失っていた。
まさかこんな荒業をアリスが行うなど予想外だったからだ。
そしてオルガ達がモニターにでる。
「なあ艦長さんよ。本気で裏切るつもりか?」
「はい。和平を行う為には核を撃たせてはいけません」
「俺たちには薬がいるんだ。だから連合を裏切れないと言われると考えなかったのかよ?」
「勿論考えました。その場合、私はドミニオンごと沈むでしょう。ですがあなた達三人はそうしないという勘、というか願いとでもいいますか。そういう答えの出ない信頼があったのです」
オルガとクロトとシャニは互いに顔を見せあう。
そして三人とも笑った。
「馬鹿じゃねえの?そんなのに命かけるなんてさ」
そういってクロトのレイダーガンダムがドミニオンの艦橋にビームの砲口を向けた。
艦橋の兵士たちは恐れおののくが、アリスはレイダーガンダムを正面から見据えている。
その胆力はなみの指揮官では持ち合わせないだろう。
そして命乞いしないアリスを見てオルガとシャニが首をふる。
「まあいいよ。僕達だって連合には恨みしかないしな」
そう言ってレイダーガンダムはビームの砲口を収めた。
「仕方ねえな。艦長さんの命令に従うよ」
「天才美少女艦長です」
そう言って笑うアリスは先ほどとは違う歳相応の少女だった。
カラミティ、レイダー、フォビドゥンの三機のガンダムが先行していたピースメーカー隊に襲い掛かる。
そしてドミニオンも突入しスレッジハマーなどの各種ミサイルを全弾発射しピースメーカー隊を次々に撃ち落していった。
「ゴットフリート!!ローエングリンはピースメーカー隊を積んでいる艦を狙いなさい」
そう言ってドミニオンは全力斉射し核ミサイル搭載母艦を次々に沈めていく。
その鮮やかさは敵味方を瞠目させた。
「ハルバートン提督の仰ってた通りだな」
そう言って旧第八艦隊将兵は距離をとる。
ハルバートン提督の孫娘に砲口を向けるなんてできないし、下手に手出ししたら巻き込まれるからだ。
その間にドミニオンと三機のガンダムは核ミサイル搭載艦の破壊後撤退する。
アリスの指示でドミニオンは一見不利な状況からも巧みに逃げ道を見つけていた。
アズラエル理事を拘束したままのアリス・ハルバートンの指揮の下、ドミニオンは驚異的な速度で航行し、ドミニオンは地球連合の包囲網を抜け出しに成功した。
アズラエルを人質に取られた地球艦隊はドミニオンを取り逃がす事になる。
流石アークエンジェル級二番艦、船足は早かった。
「地球連合艦隊の隙を突きます。実弾が飛んできますが訓練だと思って避けてください」
いつも通りの艦長の冷静さに艦橋要員は舌を巻く。
この艦長と一緒ならどんな激戦でも生き残れるだろう。
だが自分たちの行為はりっぱな犯罪だ。
それでも付いていく。
ブリッジクルーから整備員全員に至るまで、旧ハルバート艦隊の生き残りである。
ハルバートン提督の孫娘に脳を焼かれていた。
「我々の目的地はアークエンジェルとエターナルです。そこで地球連合の暴挙を証言してもらいますよ、アズラエルさん」
アリスは拘束されたアズラエルに虫を見るような冷たい視線を向けた。
そしてアークエンジェルがいると思われる宙域を眺めて呟いた。
「マリューさんは私の事を覚えているといいのですが。ナタルも参加しているみたいですし。裏切り者同士仲良くしたいものです」
マリュー・ラミアスとは面識がある。
一度G計画の打ち合わせに来た時、祖父の紹介で夕食を共にした事があった。
とても優秀な技術士官だったがなぜか艦長をしている。
アリスの攻撃を受けて未だに生きているというのが優秀さの証だろう。
ナタル・バジルールは士官学校同期で何度もコンビを組み、シミュレーションで相手を徹底的にボコボコにした仲だ。
たったこれだけの面識で信じてくれるかは兎も角、戦力としては申し分ないだろう。
エターナル。
クサナギ。
アークエンジェル。
ドミニオン+オルガ、クロト、シャニ。
歴史を動かすには十分な戦力と言える。