【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。   作:屠龍

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争え、もっと争え~これぞ人の業!人の望み!という訳でハッピーエンドになりかけた所でエマ登場です。クルーゼさんいい空気吸ってご満悦ですなあ。まだまだニコル達の苦難は続きます。というかです。キラとアスランが殺し合いしないように頑張って、結果トールも生存させて、オーブで防衛に成功して今度は強化人間三人の薬を用意している。ここまでクルーゼの野望を阻止した子はおるまい。改めて書くとニコルすげえ。


第114話 第二幕

 第114話 第二幕

 

 ヤキン・ドゥーエではパトリック・ザラが激怒していた。

 今まさに手中に入れようとした勝利の象徴ジェネシスが大規模な爆発を繰り返し、ただのデブリになろうとしている。

 修理など不可能だ。

 ちなみにもう一つジェネシスがあるが、そっちはジャンク屋と傭兵が破壊していた。

 

 「クルーゼ!どこにいる!?ジェネシスが破壊された原因を突き止めろ!」

 

 その頃、クルーゼはすでにヤキン・ドゥーエから脱出していた。

 彼のプロヴィデンスは既に修理は完成している。

 

 「パトリックの命令を聞く義務はない。ジェネシスが破壊された以上、次の計画を実行する時だ」

 

 クルーゼは自分のクローン技術と遺伝子情報を保存した小型のデバイスを確認した。

 それは彼が新たな「理想の世界」を作り出すための鍵だった。

 遺伝子が全てを決める社会。

 その為の鍵だった。

 結局人は先天的な才能には従うものだ。

 

 「聞こえるかエマ。作戦を変更する。直ちに攻撃しろ。そうだ地球連合をだ」

 

 プロヴィデンスの操縦席でクルーゼは不敵な笑みを浮かべた。彼の計画はまだ終わっていなかった。

 エマ率いる黒いMS部隊は地球連合へ、地球連合の紫色のコーディネイター部隊はプラントへ一斉に攻撃を始めた。

 これも全てクルーゼ子飼いの部隊だった。

 

 ◆◆◆

 

 ジェネシスの破壊に成功したニコルとキラはジェネシスを脱出していた。

 二人とも極度の緊張で疲労困憊している。

 

 「終わったんですね」

 

 ニコルの言葉にキラは静かに頷いた。

 

 「うん。みんな無事で良かった」

 

 二人は通信機を通して互いの安否を確認する。

 

 「覚えていますかキラ」

 

 「何をだいニコル?」

 

 「アルテミス要塞の時もこんな狭い所で僕達は戦いましたよね」

 

 「そうだね。本気のニコルは怖かったよ。でも今は味方だよ」

 

 キラは微笑みながらニコルに答えた。

 リジェネレイトとフリーダムは互いに傷つきながらも、任務を遂行した誇りに満ちていた。

 

 「帰還しましょう」

 

 ニコルの提案にキラは頷いた。

 

 「そうだね。みんな待っているよ」

 

 二人はジェネシスから脱出し、宇宙空間に浮かぶアークエンジェルへと向かった。

 彼らの背後ではジェネシスが次第に崩壊し始めていた。

 

 ◆◆◆

 

 ジェネシスを失ったことでパトリック・ザラは窮地に立たされた。

 このまま戦争を続ければ数で勝る地球軍に敗北することは明らかだからだ。

 だが地球連合軍も正規艦隊の殆どを失い、アズラエル達ブルーコスモス派が強引に動員した艦隊ではプラントに勝てたとしても大損害は確実だ。

 しかもよりにもよってアズラエル理事が誘拐されたのだ。

 つまり両軍は次に打つ手を測りかねたのだ。

 

 ヤキン・ドゥーエの司令部では目を見開いて激怒するパトリックが周りに怒りを喚き散らしていた。

 彼の最大の切り札であったジェネシスが破壊された今、もはや地球連合との圧倒的な戦力差を覆す手段はなかった。

 先ほどまで勝てたというのに。

 よりにもよってジェネシスはアスランが破壊に失敗したフリーダムと傭兵に奪われたリジェネレイトによって破壊されたのだ。

 ラクスの色香に迷った愚かな息子のせいで自分の権力基盤が揺らいでいる。

 なぜこうなる!?

 自分は正しかったはずだ!!

 なぜ思うように状況が動かない!!

 パトリック・ザラの怒りは頂点に達していた。

 

 「フリーダムとリジェネレイト!!あの馬鹿息子が女の色香に惑わされよって!!」

 

 アスランが!!あの馬鹿息子が使命を達成していればこんな事態に陥らなかったのだ!!

 怒り狂うパトリックの形相に部下の一人が震える声で報告する。

 

 「ザラ議長!クルーゼと連絡が取れません!プロヴィデンスも応答がありません!」

 

 「なにっ!?奴め……今度は裏切ったのか!?」

 

 ザラの額から汗が噴き出す。

 全てが自分の意図通りにいかない苛立ちに、彼は司令室のテーブルを拳で叩きつけた。

 その時、司令室に通信が入った。

 画面に映し出されたのはかつての盟友シーゲル・クラインと、マイウス市代表のニコルの父親ユーリ・アマルフィの姿だった。

 シーゲル・クラインはマイウス市に保護されていたのだ。

 

 「プラント最高評議会議長パトリック・ザラ殿。もうやめようではないか。これだけ殺せば十分だろう?かつて共にコーディネイターの未来を語り合った、あの時の冷静なパトリックはどこへ行ったのだ」

 

 「停戦だと?冗談を言うな!今すぐ地球連合を……」

 

 「議長」

 

 画面に映るユーリ・アマルフィは冷静に続けた。

 

 「あなたのジェネシスが破壊され地球連合は核兵器も失いました。もはやこれ以上の戦闘は互いに利がない。話し合いの時です」

 

 パトリックは拳を握りしめる。屈辱に唇が震えた。

 だが彼の戦略家としての頭脳は冷静な計算を始めていた。

 現状では地球連合との全面戦争はプラントにとっても大きな犠牲を伴う。

 

 だが愛する妻を殺されたという怒りが戦略家としての彼を狂わせる。

 パトリックにとって妻のレノアは全てだった。

 コーディネイター論において対立する事もあったが、それでもパトリックは妻を愛していたのだ。

 失ってはいけない者を失ったパトリックは引く訳にはいかなかったのだ。

 視野狭窄に陥った彼を救う術はもう無いのかもしれない。

 

 「妻を……レノアを殺したのは地球のナチュラルだ!絶対に許せるものか!」

 

 パトリックの顔は憎悪で歪んでいた。

 レノアの死は彼にとって単なる個人的な悲劇ではなく、全てのコーディネイターに対するナチュラルの背信行為だと信じていた。

 彼の脳裏には妻との幸せな日々の記憶が蘇る。

 かつてのレノアはナチュラルとの共存を望んでいたが、パトリックは徐々に彼女の意見を聞き入れなくなった。

 

 「エザリア!残った全ての戦力を結集するのだ!断じて停戦など受け入れん!」

 

 パトリックの変貌にイザークの母親エザリア・ジュールは恐れおののいた。

 戦術家として高い能力を持つ彼女でさえ戦闘行動を躊躇したのだ。 

 地球艦隊をヤキン・ドゥーエに引き込んで消耗させ有利な和平交渉を行う予定だったはずだ。

 まさかMS部隊で反撃するなど想定外だった。

 それをやれと言われてエザリアの明晰な頭脳はその作戦の立案に取り掛かる。

 作戦参謀たちを集めて兵力の再集結を行う。

 司令部のスタッフが慌ただしく動き出す中、ザラは窓の外に広がる星々を見つめた。

 彼の瞳に浮かぶのは復讐の炎だけだった。

 もはや冷静な判断力は失われていた。

 

 その頃、ヤキン・ドゥーエ周辺では奇妙な動きが始まっていた。

 黒いMS部隊が突如として地球連合軍を攻撃し始め、紫色のMS部隊もプラントへの攻撃を開始していた。

 これは明らかに両陣営の指示ではない。

 

 「一体何が起きている!?」

 

 ザラは混乱した司令部要員に尋ねた。

 参謀たちは何が起こったのか理解しておらず、慌てふためき報告が来ない。

 

 「突如として地球連合軍とプラントの両方に攻撃を仕掛けている部隊があります!」

 

 パトリックは混乱した。

 彼の命令ではない。

 ならば誰の命令なのか?

 

 「クルーゼか……あの裏切り者め!!」

 

 エマたちプラント側のスーパーコーディネイターの出来損ないが駆る、黒いカラスのような頭部と剣のような胴体をしているMS部隊は地球連合艦隊を襲う。

 逆に紫色の地球軍ストライクダガーに乗ったコーディネイター部隊がプラントを攻撃しはじめた。

 両者は精神感応で意識が繋がっており、敵味方を間違う事なく破壊と殺戮と混乱を引き起こしていた。

 

 「何だあれは!?報告せよ!あれはどこの部隊だ!?」

 

 オペレーターが慌てて通信を確認する。

 

 「不明です!識別信号がありません!地球連合軍とプラント両方への攻撃を行っています!」

 

 「クルーゼ!あの男の仕業だな!?」

 

 パトリックは怒りに震える拳を司令台を叩きつけた。

 スクリーンでは黒いカラス型MSが驚異的な速度で地球艦隊を次々と撃破していく。

 紫のストライクダガーもプラント防衛部隊に対して猛烈な攻撃を仕掛けていた。

 

 その頃、キラとニコルはアークエンジェルに戻る途中でこの異変に気づいていた。

 

 「あれは何だ?」キラがフリーダムのセンサーで確認する。

 

 「地球軍とプラントの両方を攻撃しています!何かがおかしい!」

 

 ニコルのリジェネレイトのスクリーンにも紫色のストライクダガーが映し出される。

 

 「あれは!地球軍のコーディネイター部隊だ!でも彼らはザフトの黒いMSを攻撃していない!何がどうなってるんだ」

 

 キラとニコルは疲労した身体を休める間もなく戦場へと向かった。

 その頃プラントと地球連合から離れて布陣していたアークエンジェル、エターナル、クサナギ、ドミニオンでも異常を感知していた。

 

 「なによあれは!?」

 

 マリュー・ラミアスはアークエンジェルのブリッジで戦闘の様子を見ていた。

 地球連合軍とプラントの両方が同時に異形のMSから攻撃を受けている。

 

 「キラくん!ニコルくん!」

 

 通信モニターに二人の顔が表示される。ひどく疲弊しているようだが無事なようだ。

 

 「マリューさん!これは一体!?」

 

 「わたしにもわからないわ。わかるのは両軍大混乱してるという事よ」

 

 正体不明のMSに挟み撃ちにされた両軍は大混乱に陥っていた。

 両者の間の戦力と戦意は急激に低下しはじめていた。

 

 「こちらフレイ!これどういうことよ!?なんであいつら連携して戦ってるのよ!?」

 

 フレイの疑問はもっともだ。

 黒いプラントのMSと紫色の地球連合の機体はお互いを攻撃しない。

 ただひたすらに敵軍を撃ち落としていく。

 戦場ですれ違ってもお互い攻撃しないのだ。

 

 「多分あれが敵の策略なんだと思うわ。わたしたちも含めて双方全滅させるつもりなんでしょう」

 

 マリューは毅然とした態度で言い放つ。その姿は正しく歴戦の艦長だった。

 

「結果的に地球軍からもっとも離れていた事が私達に幸いしたわけですね」

 

 そう言って三隻同盟、今は四隻同盟に参加していたドミニオン艦長アリス・ハルバートンは紅茶を飲みながら冷静に分析していた。

 彼女は戦場でさえ日常の延長のように振る舞っていた。

 

 「何とかして止めないと。このままじゃ皆殺しですよ!」

 

 キラの叫びにマリューは答えた。

 

 「その通りよ。折角ジェネシスと核を破壊して停戦に持ち込もうとしたんだからそんな事させないわ!!」

 

 マリューの声には鋭いものがあった。

 このままでは再び両陣営は交戦を開始するだろう。

 そうなっては元も子もない。

 

 本格的に両軍が交戦を再開する前に正体不明のMS部隊を倒さなくてはいけない。

 ニコルには『停戦などさせんよ』というクルーゼの高笑いが聞こえた気がした。

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