【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第115話 吹き飛ぶ和平
地球連合軍もプラント側も目の前の敵を殲滅する事しか考えられなくなっていた。
同じように戦場にいたイザーク達ジュール隊もだ。
彼らも度重なる状況の変化に対応できなかった。
何せジェネシスは吹っ飛ぶわ、核ミサイルは破壊されるわと何がなにやらである。
だから目の前に迫る紫色のMSに対処するので精一杯だ。
ジュール隊は隊長のイザーク、副隊長のディアッカ、ラスティ、ミゲル、そして速成された学徒兵である。
これにエマとジャンヌも加わっていたのだが二人は要塞守備隊に転属してから連絡が取れない。
自分の事を好きだと言われたイザークとディアッカだったがこれでは返事のしようがない。
「くそ!なんだよこいつら!!どこから湧いて出てきやがった!?」
ディアッカは悪態をつくも状況は悪化する一方だった。
いつの間にか地球連合とプラントが再戦し、突然現れた紫色のストライクダガーが攻撃してきたのだ。
イザークは相手のビームサーベルをシールドで受け止めたまま、至近距離からのバルカンで牽制する。
更にスラスター全開のまま敵機を蹴り飛ばして反転すると、後方の仲間達を狙撃しようとしている別の敵機にビームライフルを放った。
敵はビームを避ける為とっさに飛び上がるが、そこへ後方からディアッカの狙撃を受ける。
普通の敵ならこれで落せたはずだが、パイロットはスーパーコーディネイターの出来損ないと自称するメンゲルの生き残り達だ。
普通のコーディネイターを遥かに超える技量で迫ってくるが彼らの目標はイザーク達ではない。
急遽編成された学徒兵が彼らの獲物だったのだ。
ラスティとミゲルが必死に庇うが間に合わず、パニックになった彼らを狙った攻撃で一機、また一機と撃墜されていく。
それは地球連合も同じで異形の黒いMSの攻撃で多大な死傷者をだしていた。
黒い異形の集団は陣形を組んだ艦隊に突っ込み、内部から破壊する。
最初こそ対処出来ていたが一線を越えると脆かった。
実戦経験の低い艦長が指揮する動きが鈍い艦とMSパイロットを黒いMSは集中的に狙い、破壊と混乱を欲しいままにした。
地球連合よりプラントの方が損害が少ないのは兵士の経験の差と指揮官エザリア・ジュールの差が大きい。
「このままじゃまずいよ。一旦引き上げよう」
ラスティの進言をイザークは不許可にするしかない。
イザーク達が撤退したらこの宙域の味方が押しのけられる。
そうなったらどうなるか。
考えるまでもない。
ただでさえ押されている状態で戦線が更なる劣勢に陥るだけだ。
現に今も仲間のMSが次々と被弾し撤退していく姿が見えた。
そして撤退するMSが紫色のストライクダガーによって破壊されていく。
彼らは殺す以外の感情が無かった。
それを見たイザーク達の顔色が変わる。
こいつらをプラント本国へ侵入させてはならない。
それだけは避けなくては。
たとえ負け戦であっても死力を尽くして戦うしかない!!
「ダメだ!ここで引けば敵に付け入るスキを与えることになる!」
一方で地球連合軍もまた苦渋の選択を迫られていた。
謎の敵MSに反撃を試みるも尽く失敗し、多大な損害を受けていた。
先ほどまでの停戦の雰囲気など嘘のようだ。
今や全員が生き残るために必死になっている。
撤退すべきか自滅覚悟で戦うべきか議論が行われていた。
そんな混迷を極めつつある戦場で、地球軍第七艦隊司令官のフィリップス少将は声を張り上げて指示を出すが、敵MSの動きが早すぎて尽く失敗していた。
彼はブルーコスモス派軍人であり、艦隊司令官の地位もブルーコスモスがあっての事だ。
元々現場より後方で補給や整備にあたるのが得意な彼が戦場にいるのはブルーコスモス盟主のアズラエルが行った裏工作である。
この状況になってしまえば軍人として最低限の力量を発揮するのは難しい。
そもそも本当に実戦向きの軍人ではないのだ。
各部隊の統率すら取れていなかった。
「ええい!!ちょこまかとうるさいハエどもめ!!もっと戦力を集中しろ!!」
フィリップス少将は自分の身を守るため守備を固めさせてしまった。
それはまったくの保身であり、司令官として失格の行為だった。
そしてそれを黒いMSと結合したエマが見逃すはずは無かった。
「死んじゃえ♪」
エマ率いる十数機の黒いMSは難なく守備についていた通常のストライクダガーを撃ち落とし、フィリップス少将の旗艦『バミューダ』にビームバスーカの照準を向けた。
エマの放った高出力ビームはバミューダの艦橋から艦底までを貫き、フィリップス少将は叫ぶ間もなく戦死した。
司令官を失った第七艦隊は崩壊し、逃げ惑うばかりとなった。
エマ達はまったく容赦せず背を向けるストライクダガーや戦艦を破壊していく。
戦場は大混乱に陥った。
戦力的に優位だったはずの地球連合軍はこの予期せぬ敵の登場により士気が崩壊し始めていた。
地球連合軍は黒いMSの猛攻にさらされ、プラント側は紫色のMSに追い詰められていた。
両軍ともに被害は拡大し続けている。
「これは……一体何が起きてるんだよ……?」
ディアッカの声は震えていた。
敵MSの動きはまるで人間のように動き、MSでありながらも生命を持つ生物のような獰猛さが感じられた。
「分からない。でも……こいつらは普通じゃない!MSと一体化したような高度な戦い方だ!!」
イザークは敵の攻撃を避けつつ叫ぶ。
イザークの推測は的中していた。
敵MSの動きは確かに人間離れしていたが、それは人間を超越した存在によるものだった。
エマたちが操る黒いMSの内部には、メンデルで培養された脳が収められている。
そして紫色のストライクダガーを操る地球連合の部隊も同様だった。
無惨な戦いを演出するべく、彼らは身体を捨てるという選択を選んだ。
これは人が為しうる戦いではない。
地獄の様相を呈していた。
戦争では相手が人間の形をしていなければ撃てるという。
戦車や戦闘機、MSなど人間の形をしていないものなら躊躇せず撃てる。
だがエマ達は違う。
身体を捨てMSと一体化してしまった。
その頃混乱する戦場に介入すべくラクスの指示でエターナルたち四隻同盟は地球軍とプラントの間に割って入ろとした。
こんな状況で危険極まりないが黒いMSと紫色のMSを排除しなければ和平どころではない。
黒いMSはザフトの物だし、紫色のほうは地球軍のMSだ。
このままだと戦争が終わらないどころかエマたちの操る敵MSによって地球もプラントも全滅させられてしまう可能性もある。
「何としてもあの方たちを止めないといけません」
エターナル、クサナギ、ドミニオンの艦長が集まるアークエンジェルの作戦指揮所でラクスは凛とした声で発言する。
「アリスさん、アークエンジェルとドミニオンは援護にまわりましょう。フリーダムとジャスティスとリジェネレイトは敵MSの迎撃に」
「了解です」
アリスは冷静に答えた。
あのあと事情を説明したアリスとドミニオンは歓迎されて三隻同盟に加わり四隻同盟に編制された。
オルガ達とかつて戦ったオーブ出身者のシンは嫌がったが今は一人でも仲間が欲しいところだ。
ニコルが用意していたモルゲンレーテ製造の薬が効いたのか、三人は激痛に苛まれることは無い。
キラとニコルは疲弊した体に鞭打って再びMSに搭乗した。
「ニコル、大丈夫?」
そう言うキラも人の心配をしている状態ではないが。
アズラエル理事はいまだに拘束されたままだ。
忙しくて尋問する時間がない。
それにアスランが怒りに任せてアズラエルを殴りとばしたので保護している面もある。
「貴様のせいで母上は死んだ!!父上が狂ったのも貴様のせいだ!!」
そう叫ぶアスランをカガリとキラとニコルで押しとどめなければ、アズラエルはアスランに殴り殺されただろう。
アスランにとって両親の仇といってもいい男は不敵の笑みを浮かべたものだ。
「捕虜への暴行とは許せませんネエ。この件はきっちり報告させていただきますよ」
捕虜交換には応じなければならない。
息を荒げるアスランはカガリに抱きしめられて悔し涙をながし耐えた。
しかし良い面もあった。
「NJCを搭載したプラチナアストレイよ。シン君の戦い方に合わせてチューニングしてあるわ」
オーブから運んできたMSの中身はNJC搭載型アストレイだったのだ。
こうしてシンは二機目になるアストレイを受領した。