【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。   作:屠龍

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そろそろ終わってしまう。いえ終わらないといけないのですが、そろそろカウントダウン開始です。パトリックさんは毒親というほどじゃないと思うんですよ。ただ愛情表現が下手なだけで。アスランも下手なのでやっぱ親子ですなあ。


117話 親子

 117話 親子

 

 アスランにとってヤキン・ドゥーエ入城は初めてではない。 

 利発なアスランにとって見覚えやすい通路だが、普通はコーディネイターでさえ迷う。

 だからイザークが先導して歩いている道は回り道ではなく司令室への最短通路とわかる。

 一応手錠はされているが捕虜待遇とは思えない扱いだ。

 

 「アスラン」

 

 「なんだイザーク」

 

 「俺にはわからん。なぜお前たちがジェネシスを破壊して核ミサイルも全て落したのがだ」

 

 背中を向けながらイザークは問う。

 プラントに味方するならジェネシスを破壊する必要は無いし、総司令官のパトリック・ザラが言うようにラクスの色香に惑わされプラントを裏切ったのなら核ミサイルを撃ち落とす必要がない。

 それを測りかねているのだ。

 

 「お前をザラ議長が何と言われているのか知っているか?祖国を捨てた人間が今更核を撃ち落すなど、後にラクス嬢が政治家になる為に祖国の危機を救った英雄を気取っているのだとな」

 

 「父上はそんな事を言っているのか?」

 

 「ああ。ジェネシスを破壊されて以来ザラ議長は冷静さを欠いている。俺はお前もラクス嬢もそんな事をしないと知っている。お前もニコルもそんな腹芸が出来る程汚れてはいないと思う」

 

 アスランはいまだにイザークに親友としての感情がある事が嬉しかったが、今アスランを擁護するような態度を取れば母親のエザリアの身に危険が及ぶ。

 だからこんなイザークらしく無い回りくどいやり方をしているのだ。

 イザークはイザークで今のプラントのやり方に疑問を抱いていた。

 破壊されたとはいえ、ジェネシスの威力は予想出来る。

 一瞬で地球艦隊と月基地は消滅するだろう。

 抵抗できない敵を殺す事はイザークの信念に反していた。

 

 「よっ、捕虜の気分はどうだ?」

 

 「アスラン!!この馬鹿やろう!!」

 

 「まったく心配かけさせやがって。お帰りって言う所かな」

  

 かつての親友ディアッカ、ラスティ、ミゲルが出迎えてくれる。

 四人でアスランを囲んでいるのはアスランを守るためだ。

 アスラン達がジェネシスを破壊したと知っている者が少なからずいる。

 その者たちの憎悪がアスランを殺す事になるかもしれない。

 どこにでも忠誠心過多、思慮不足はいるものだ。

 

 「で、だ。裏切り者がノコノコと帰ってきた訳じゃないだろ?」

 

 ディアッカがそう言って笑う。

 アスランが女の色香に惑わされてという下種な話をディアッカは信じてはいない。

 だがこんな戦争の真っただ中に帰ってくる理由は一つだ。

 パトリック・ザラと面会する為だろう。 

 

 「こんな事言いたくないけど。アスランまさか親父さんを殺しに来たとかじゃないだろうな」

 

 ラスティが冗談めかして言うが目は笑っていない。

 アスランは自分で抱え込む所があるから一人でつっぱしらないとは言い切れない。

 

 「そうしたくはないな」

 

 「おいおい冗談でもやめてくれよ」

 

 ラスティにはアスランの目の色が本当にやりそうな目の色をしている事に気が付いた。

 説得に失敗したらやりかねないだろう。 

 複雑な迷路のような要塞内を抜けて到達したのは要塞司令部。

 アスランが通されたのはパトリック・ザラの座る司令部であった。

 パトリックは疲れた様子で宙を見ていたが背後の人物に気が付いた。

 

 「父上」

 

 「……アスラン。どうして逃げた?」

 

 パトリックの声は冷たく、目は冷酷さに満ちていた。

 アスランは父に殺される覚悟を決めた。

 

 「父上。もう充分です。ジェネシスを失いプラントには戦う戦力は残ってはいません」

 

 パトリックは椅子に座ったままアスランの言葉を遮った。

 

 「黙れ!貴様が何を言う!父の名を汚した貴様が!貴様たちが余計な事をしなければ今頃地球艦隊など宇宙のゴミになっていた!!」

 

 アスランは首を振った。

 父の怒りはもっともだ。

 アスランは感情を抑えれなかった。

 

 「父上!!ジェネシスを発射してそれで全てが終わると本気で仰られているのですか!!それが我々にとっての平和だと思っているのですか!!」

 

 アスランは怒りを抑えきれずに叫んだ。

 だがその答えは非情だった。

 パトリックは冷たい目で息子を見つめていた。

 

 「当然だ。ナチュラルどもを根絶やしにすればプラントは永遠に安全だ。お前はその目で見たはずだ。地球の醜さを。奴らは我らを差別し、排除しようとした。お前は母親を、私は妻を彼らに殺された。同じ過ちを繰り返すつもりか?撃たねばならんのだ!!撃たれる前に!!」

 

 そう言って司令室の指揮台を拳で叩くパトリック。

 彼にとって妻レノアは人生の全てを捧げた女性だった。

 アスランだってカガリを核で焼き殺されたら同じ事しそう。

 もっとキツイかもしれない。

 

 「それを母上が望むと思いますか?」

 

 「ああ喜ぶとも!!レノアが喜ばないでどうする!!」

 

 「それは違います!母上はコーディネイターとナチュラルが対等に暮らせる世界を目指して農学に打ち込んだのです!父上が母上の遺志を理解されていれば……」

 

 「黙れ!」

 

 パトリックの顔が真っ赤に染まり、目に怒りの炎が燃え上がる。

 自分がレノアを理解していないだと?

 レノア・ザラはパトリックにとって完璧な理想の妻だった。

 彼女はコーディネイターとナチュラルの架け橋になろうと農学に打ち込み、ナチュラルとも良好な関係を築いていた。

 だが今にして思えばそれは間違いだった。

 そのせいでナチュラルに殺されたのだ。

 

 「レノアは甘かった!あんな穏健主義は危険だと私は何度も説いたのだ!」

 

 「母上の優しさが……危険だと?」

 

 「そうとも!レノアがもっと現実を見ていれば、ユニウスセブンの悲劇も起こらなかった!お前もだ!アスラン!お前の弱さがこの戦争を長引かせているのだ!お前がラクスなどに誑かせてNJCの機密さえ売らなければ!!我々がここまで窮地に立たされる事もなかったのだ!!」

 

 「父上!あなたは本当に母上を理解しているのですか?母上の願いは……」

 

 「ナチュラルとの共存を望み殺された!!それが全ての答えだろう!!ナチュラルなど皆殺しにしてやればよいのだ!!」

 

 パトリックの目は狂気を帯びていた。

 彼の声は震えながらも威厳に満ちていた。

 

 「父上……」

 

 アスランは言葉を失いかけた。

 父の考えはあまりにも極端だった。

 

 「今更何を言うか!お前が裏切らなければジェネシスを撃ちナチュラルを皆殺しに出来たのだ!なのにお前たちがジェネシスを破壊し、核ミサイルまでも撃ち落としたことを!英雄気取りもいい加減にしろ!!」

 

 「それは……」

 

 「言い訳はいらん!お前は私を裏切ったのだ!ラクス・クラインの色香に惑わされ、プラントを裏切ったのだ!」

 

 パトリックは立ち上がり、息子に向かって歩み寄る。

 そしてアスランに指を突き付けた。

 

 「お前のような裏切り者に用はない。イザーク!!すぐにアスランを射殺せよ!」

 

 そう言われてイザークはアスランの後頭部に拳銃を突き付けた。

 ディアッカ、ラスティ、ミゲルが顔を背ける。

 アスランは覚悟を決めて最後までパトリックを見続けた。

 わかっていた。

 この人を説得する事などできない事を。

 だからせめて自分の手で幕を引きたかった。

 

 指令室に乾いた銃声が響く。

 それは空砲だった。

 イザークの拳銃には最初から弾丸など入っていなかったのだ。

 

 「イザーク貴様!!」

 

 「ザラ議長。アスランは今射殺しました。私に幽霊を撃つ事などできません」

 

 「わかっているのか!?これは立派な反逆だぞ!!」

 

 怒りに震えるパトリックに向かってイザークは冷たく言い放つ。

 

 「私を反逆罪で逮捕しますか。ですが本当の反逆者はあなただ。これ以上の戦争はプラントと地球両方を滅ぼします」

 

 イザークの目に迷いはない。彼は覚悟を決めていた。

 

 「議長、地球軍との停戦を申し入れてください。ザフトの損害著しくもはやこれ以上の戦闘は不可能です。これはジュール家から正式な申し入れです」

 

 「貴様!!エザリアの意向を無視するつもりか!!お前はまだ当主ではないだろう!!」

 

 そう言った瞬間、指令室のモニターにエザリア・ジュールの姿があった。

 彼女は疲労困憊していたがはっきりとした口調で言う。

 

 「議長閣下。イザークの言う通りです。もはや我々に戦力など残っていません」

 

 「エザリア貴様!!」

 

 激昂するパトリックの目の前にイザークが音声データディスクを置いた。

 先ほどまでの会話はヤキン・ドゥーエ全ての将兵に聞かれていたのだ。

 無論パトリックが私怨で戦っていた事も全て。

 パトリックは自分の権力基盤が全て崩れ去る音を聞いた気がした。

 

 ラスティの実家マッケンジー家。

 ディアッカの実家エルスマン家

 ニコルの実家アマルフィ家

 イザークの実家ジュール家

 ラクスの実家クライン家

 

 これだけ名門と市長が揃っている。

 無論最高評議会で選挙をしなければ結果はわからないが、先ほどのやりとりを聞きザフトが甚だしく戦力低下している事実を突きつければパトリックの失脚は免れない。

 状況を理解したパトリックが椅子にへたり込む。

 アスランがパトリックに手を差し伸べた。

 

 「もう十分母上の恨みは晴らしました。それでいいではありませんか」

 

 そうして手を伸ばされたアスランの手をパトリックは跳ねのけた。

 そして立ち上がった瞬間パトリックの左から左肩を弾丸が貫通する。

 パトリックはアスランを庇うように倒れる。

 

 「父上!!」

 

 「騒ぐな。この程度で死にはせんよ」

 

 パトリックは重症だったが幸い弾丸が貫通していた為出血死は免れていた。

 

 その時だ。

 警告音と共にヤキン・ドゥーエ全てのミサイルポッドに核ミサイルが装填される警告音が鳴り響いた。

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