【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第122話 戦場の歌声
クサナギにはカガリ、シン、マユ、アサギ、ジュリ、マユラの順番で着艦した。
早速帰艦した順番からパイロットルームに入り休憩をする。
弾薬の補給と点検と応急修理。
そして一番大切なパイロットのメンタルケアが必要だ。
カガリはアスランを想う。
必ず帰ってきてくれると信じる想いと、万が一という心配が頭から離れない。
ジャスティスに乗っているアスランより、ストライクルージュというストライクの派生機に乗っている自分の方が余程危ないのだが不思議と怖くない。
無理をしていると他人からは丸わかりなのだが泣いていい立場ではない。
だがカガリだって年頃の女の子だ。
愛しい男の子を想えば涙を流しても誰も何も言わないだろう。
一番心配なのはマユのほうだ。
着艦してからずっと泣いている。
勿論死ぬのが怖いが、ニコルを失うのがもっと怖い。
今も自分たちを休息させるために戦場にいる。
この瞬間にも撃墜されてもおかしくはない。
シンの胸に抱かれてからずっと泣きっぱなしだ。
妹のそんな辛そうな姿を見てシンもかなりメンタルを病んでいた。
自分の無力さに腹が立つがこんなにも妹を泣かせるニコルにはもっと腹が立つ。
家族となったニコルを失うのが怖いのだ。
元々仲良かったし、妹の恋人になって一時は迷ったし今もそういう事は少しはあるけど。
年上の友達と接する事はシンにとっても大きな成長と喜びだったのだ。
(俺たちは家族だろ。どうして一人で抱え込んじまうんだ)
答えなんてわかっている。
自分たちが弱いからだ。
よく誤解されるが正規の訓練を受けていなければコーディネイターとはいえナチュラルに劣る。
たとえシンとマユが優れた能力を持っていたとしても。
アストレイとシェンウーというすぐれたMSが無ければ今頃間違いなく死んでいる。
シンは自分の無力さが憎かった。
三人の子供たちを見てアサギ達も困っていた。
自分たちも辛いがこの子達はもっと辛いのだ。
どうしようと悩んでいたら眼鏡をかけたジュリが手を上げた。
「ジュリ、歌います!!」
そう言ってジュリはパイロットルームにあるカラオケセットのマイクを取る。
なぜカラオケがあるのかというと、オーブは日系移民が多いからだ。
アスカ家に至っては毎朝必ず納豆が出る。
そして納豆はニコルの大好物になったしモズクや海ブドウなども好きだったりする。
くさやの干物は流石に難易度が高いのでまだ無理だが。
マイクを持ったジュリは歌い出した。
『草木は萌えあがりカモメは優しく。時を刻む砂浜は少女を大人にかえる。ああハウメアの祝福を受けて今少女は花嫁となった。汝たち愛し合う子たちよ、ハウメアの元で祝福されん』
オーブの愛唱歌でオーブの女の子はみな歌詞を知っていた。
その歌に合わせてカガリが歌い、落ち込んでいたマユも歌いだす。
『汝たち愛し合う子よ、ハウメアの元で祝福されん』
ジュリが歌うとみなで合唱しだした。
……シン以外。
この歌は女の子の歌なので男の子が歌うとハウメアさまが祝福してくれないそうだ。
といってもハウメアさまはちゃんと男の子の歌があるのだがシンは今は空気が読める子だった。
マユが生きてるから荒んでないし、将来赤毛の美人の恋人が出来るからいまはこれでいいのだ。
ルナマリア好きだから出したいけど、シンがプラントに行く理由が無い。
皆で合唱しだした様子をキサカは微笑ましく見ていた。
カガリ達が心配なので様子を見に行こうとしたのだが、艦長の自分が離れるわけにはいかない。
だからキサカはこの歌を他の艦にも流すようにオペレーターに指示を出す。
カガリたちの歌声はエターナルにも届いた。
ラクスの水の証をマユが歌い出すとラクスが微笑んだ。
「バルトフェルト艦長、通信をアークエンジェルとドミニオンとクサナギに繋いでください。ラクス・クラインも歌会に参加しますわ」
「了解。アイシャ」
「わかったワ」
バルトフェルトが笑いながらアイシャに伝えると四隻同盟全てにラクスの歌声が聞こえた。
プラントの歌姫自ら持ち歌を歌うなど前代未聞だ。
各艦のクルーも作業しながら歌いだす。
アークエンジェルでは整備のマードック曹長まで歌い出した。
「班長台無しっすよ(笑)」
「うるせえ!!お前たちも歌え!!」
そう言って各艦のクルーがラクスに合わせて歌いだす。
ラクスの歌声でみな勇気を貰った。
整備しながら歌い整備員たちの疲労が嘘のように無くなる。
その歌声を聞きながら先ほどまで冷静を装っていたアリスも笑顔になった。
アリスはそのままパイロットルームに繋ぎオルガ達に話しかける。
「オルガ、クロト、シャニ。聞こえていますか?あの歌声を失ってはいけません」
「あ~別に俺たちはラクスなんて、どうでもいいよ」
オルガが答える。
「折角だからアリスが歌ってくれよ」
クロトが笑いながら言うとシャニも
「ロック以外にも聞いてみたい曲ってあるんだな」
と呟く。
アリスは赤面して艦長席のボタンを押すと本来は命令系統に使うマイクで歌いだす。
ラクスほど上手くないがその歌声はとても澄んでいて十分歌手としてやっていけそうだ。
アリスの歌声を聞きながらオルガとクロトも聴き入り、シャニは次にアリスに歌って欲しいロックの曲を検索する。
ロックのデータを受け取ったアリスは諦めてBGMを自動に作動させてロックを歌いだす。
歌声は素晴らしいが洗練されたとは程遠い歌詞。
単純にシャニのリクエスト曲が悪いだけなのだが。
普段は冷静なアリスの声しか聴いていなかったドミニオンと他の三隻のクルーは笑う者、口笛を吹く者が続出し作業効率がよくなった。
楽しい時間は一時間足らずだったがパイロットと艦隊クルーの疲労回復には十分だった。
アリスは頬を赤く染めながら艦長席に戻ると皆に告げた。
「みなさんそろそろ再出撃の時間です」
艦長の声に我に返ったオルガ達が敬礼して出撃の準備に入る。
彼らが敬礼するのはアリスに対してだけだ。
「あらあら。アリスちゃんったら恥ずかしがっちゃっテ」
アイシャが茶化すとアリスは恥ずかしさを紛らわせるように叫んだ。
「黙ってくださいアイシャさん。私だってこんなことしたくありませんでした!!」
◆◆◆
一方その頃キラとニコルは苦戦していた。
こっちは歌うどころの騒ぎではなかったのだ。
大変不憫な二人である。
「ニコル!敵の数が多すぎる!このままではこちらが持たない!」
「わかっています!でも退却するわけにはいきません!」
キラの弱音を聞きながらニコルは必死にリジェネレイトを操縦した。
戦線を縮小したのは間違いではなかったが、補給を終えてカガリ達が戻って来たときキラとニコルが撃墜されている可能性だってあるのだ。
エマを失ったとはいえスーパーコーディネイターの出来損ないと自嘲する彼らのMS操縦技術は並みのザフト兵なら10倍いても対抗できるかどうか。
その時アークエンジェルからの通信が入る。
マリューの声だ。
「ニコル君!キラ君!あと三分でMS隊が発進できるわ!それまでなんとか耐えて!」
「了解!でもどうすれば……!」
キラの焦りをよそにニコルのリジェネレイトは敵の黒いMSを一体撃破する。
その時数条のビームが黒いMSを撃ち落とす。
キラ達がそちらを見ると赤いMSジャスティス。
アスランが間に合ったのだ。
「アスラン!」
「キラ、ニコル!待たせたな!」
アスランのジャスティスが戦場に現れると同時に、アスランは数機の黒いMSを撃墜した。
その姿を見た敵機が一瞬だけ動きを止める。
「アスラン!カガリさんは無事です!!」
ニコルの声ににアスランは笑顔を見せた。
「よかった……安心するのはまだ早い。残りの敵機を一掃するぞ!」
アスランの指示にキラとニコルは頷く。
三機のMSは連携して黒いMSを追い詰めていく。
「アスラン、リジェネレイトのドラグーンを使ってクロスファイヤーポイントに誘い込みます。キラと協力して対応してください」
「了解だ」
アスランのジャスティスはキラのフリーダムと合流し、二機の攻撃範囲を最大限に活かすための位置取りを開始する。
そして最大火力にフルチャージしてニコルの指示を待つ。
「ニコル!ドラグーンの操作に集中しろ!こちらはいつでも撃てる!」
アスランとキラの連携は完璧だった。
ジャスティスの機動性とフリーダムの火力が互いを補完し合いニコルの罠に黒いMSが嵌るのを待つ。
ニコルはキラとアスランに守られながらドラグーンで黒いMSを誘い込んだ。
そして誘い込んだ瞬間ドラグーンを退避させてニコルは叫んだ。
「ファイヤー!!!」
ニコルの号令に合わせてフルチャージされたフリーダムとジャスティスからビームが発射される。
罠に嵌った黒いMSはキラとアスランの放ったビームで次々に撃破されていく。
そしてアークエンジェル、ドミニオン、クサナギからMS部隊が出撃した。
ニコルの危険な賭けは成功したのだ。