【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
【僕のピアノよCEに響け。外伝『婚約者』 第三話 君を支えたい】
その後二人で仕事を片付けたあと朝食にする。
ご飯にみそ汁、焼き魚に納豆、目玉焼きとほうれん草のお浸しという超庶民的な朝食だった。
アスランにとってはヤマト家でカリダさんが作ってくれたのが多くとても懐かしく思った。
でもプロが作った料理なのにカリダさんの食事の方が美味しいと思う。
カリダさんっていう、とても優しい人が母親でキラは幸せだと思う。
そう思っていたが俺の母上も優しかったし父上とも分かり合えた気がする。
いつか平和になったら父上にカガリを紹介しようと思う。
ナチュラル嫌いの父上がどう反応するのか怖いが避けては通れない道でもある。
父上に俺がカガリと一緒にいてどれだけ幸せか知って欲しいというのはエゴだろうか。
「アスラン……ありがとう。お前がいてくれて良かった」
「どういたしまして。俺はカガリの婚約者だからな。いつでも頼ってくれ」
まだウズミの許可は出ていないがもう決まったようなものだ。
アスランの言葉にカガリは顔を赤らめた。
ユウナ・ロマ・セイラン?
馬鹿め!!奴なら死んだわ!!
「わかった。会議は私だけ参加するつもりだった。ただアスランにサポートしてもらう」
「任せてくれ。俺たち二人でオーブを支えていこう」
アスランの言葉にカガリは頷いた。
朝食後カガリはアスランに手伝ってもらいながら準備を進めた。
アスランの言葉にカガリは照れながらも嬉しそうに微笑んだ。
何と言ったのか側近にはわからなかったがカガリの笑みをみて察する。
野暮な者はオーブには不要だ。
会議室に入ると既に多くの人々が集まっていた。
カガリとアスランが入ってくると全員が敬意を表するように立ち上がった。
「皆さんお集まりいただきありがとうございます」
カガリが挨拶をすると皆席に着いた。
ここにはオーブを構成する五氏族の主だった面々と各省の大臣と官僚がいる。
勿論ユウナ・ロマ・セイランもいるが、まあ奴はどうでもいい。
「今日の議題はプラントと地球連合の和平交渉についてです」
カガリの言葉に皆が真剣な表情で聞き入った。
アスランはカガリの隣に座り資料を確認しながら補足説明を行った。
会議は順調に進み、カガリとアスランの連携プレイに皆感心した表情を浮かべていた。
ただカガリの調停案はいささか理想主義だと言える。
プラントと地球の双方に軍縮を求めるのだ。
これは少し話が早い気がするがウズミの承諾を得ているのでアスハ家の総意と受け取られている。
この案は意見が分かれている。
下手をすればアスハ家にとって手痛い打撃になる。
その後、あまり楽しくないパーティが開かれた。
カガリの美しいドレス姿にみな感嘆の声を漏らし、アスランはあらためてカガリに惚れ直した。
アスランはカガリの後ろを隙間なく警護しながら客たちを見ている。
全員武器所持のチェックを受けているがどのような隠し方をしているのかわからない。
仮に持っていたとしてもCE世界最強の一角アスランがいるから問題は無いが。
その中でひと際目立つ長い黒髪で長身の美女がいた。
ロンド・ミナ・サハクだ。
彼女はサハク家の跡取り娘で怜悧な現実主義者でもある。
当然アスハ案に反対票を投じた。
サハク家の権力はオーブでは大きくモルゲンレーテや各種軍事に関する権限を持っている。
ウズミでさえ手を焼いているサハク家はカガリを格下に見ているのだろうか?
そのロンド・ミナが歓談の輪から抜け出てカガリの方へ歩いてきた。
アスランはカガリが緊張しているのを肌で感じた。
「ロンド・ミナ・サハク様。お久しぶりです」
カガリが丁寧に挨拶をするとロンド・ミナは鋭い目でカガリを観察した。
「お久しい。カガリ様、日々和平交渉の仲介役としてご精励されているようですね」
ロンド・ミナの言葉にカガリは驚いた。
嫌味の一つも言われると覚悟していたのだ。
まさか労われるとは思わなかったのだ。
「しかし些か慎重かつ理想主義に傾いているご様子。サハク家はそれを危惧しております」
「と仰られると?」
「あなたの政治的行動はあまりにも綺麗事に過ぎる。プラントと地球連合の軍縮など、それが可能だとお考えか?」
「私の目指す方向性は戦後の世界をより良くすることです。そのためには綺麗事でも理想を追及する必要があると考えます」
ロンド・ミナの言葉にカガリは冷静に答えた。
だがその手は震えていた。
オーブ最大軍閥のサハク家の意向とあっては無視できないのだ。
プラントと地球連合の軍縮は当然オーブにとっても軍縮を意味するので、一旦軍縮した場合急に軍隊を編成出来ない。
つまり国力に勝る地球連合なら用意できる兵力をオーブはすぐには用意できない。
そして先の大戦の終盤に地球連合はオーブとの戦いで全滅に近い打撃を受けて恨みが残っているだろう。
自分たちが攻め込んでおいて撃退されたら恨むとは、なんとも情けないが人の情とは計算だけで測れないものだ。
それを軍事の専門家サハク家は心配している。
アスランはカガリの隣で黙って聞いているが内心で舌打ちする。
カガリはロンド・ミナに反論しようとしたが、アスランはカガリの腕を掴んで引き寄せた。
カガリはアスランの様子に只ならぬ気配を感じたが止める間もない。
「俺からも言わせてもらう。確かに綺麗事かもしれない。だがそれが今の世界に必要なことなんじゃないのか?俺はそう思う」
アスランの言葉にロンド・ミナは驚いた表情を浮かべた。
そして厳しい目線でアスランを睨むがアスランも負けていない。
ロンド・ミナとアスランに一触即発の雰囲気が流れ、周りのパーティ客も固唾をのんで見守った。
「あなたは何者ですか?国家の大事に口を挟むなど失礼ではないですか?」
アスランはカガリを守るように前に立ち、ロンド・ミナに向き直った。
「俺はアスラン・ザラ。カガリの婚約者であり、彼女のサポート役だ。俺たち二人はこの世界をより良くしたいと思っている」
「婚約者?」
ロンド・ミナは一瞬驚いた表情をしたが、すぐに冷静さを取り戻した。
カガリの婚約者はセイラン家の、無能で甘ったれで尊大で救いようもない馬鹿だったはずだがそれはどうでもいい。
アスハ家とセイラン家が揉めるのはサハク家にとっても都合がいい。
カガリはアスランの行動に少し驚いていたが、同時に嬉しさも感じていた。
しかし今は公の場だ。
ロンド・ミナの目が怖い。
アスランの胸を押し前に出る。
舐められたら終わりだ。
カガリはロンド・ミナに向き直る。
「サハク様。おっしゃることはもっともです。しかし私は信念を持ってこの道を選んでいます。どうか私たちの努力を見守っていただけないでしょうか?」
カガリは毅然とした態度で言った。
ロンド・ミナはその姿に獅子の片鱗を見た。
ただの小娘だと思っていたがなかなかの器量だとロンド・ミナは感心する。
もともと探りを入れるつもりだったがここまで青臭い事をサハク家に言い放つとは。
少なくとも度胸はあるようだ。
「アスハ家はよい後継者を持たれたようだ。ただしその選択が裏目に出ない事を祈りますよ」
そう言って長身の美人は去っていった。
周りの参加者は二人の会話に注目していたが、サハク家の権力に触れるほど愚かではない。
サハク家に逆らえば命がいくつあってもたりない。
サハク家の裏の顔を知らない者はここにはいない。
「カガリ。大丈夫か?」
アスランが心配そうに尋ねるとカガリは微笑んだ。
カガリは極度の緊張で倒れそうになる。
すかさずアスランがカガリを支えたが、カガリが全身を震わせているのに気が付いた。
「ああ。ありがとうアスラン。お前がいてくれて本当に良かった」
「いつでも支えるさ」
「頼りにしている」
二人は微笑み合いながら、パーティに戻る。
この夜サハク家と堂々とやりあったカガリはオーブ貴族に一目置かれる事になる。
その後、オーブで数日間プラントと地球連合の外務次官の間で非公式の和平交渉が行われた。
オーブは中立的な立場から両者の調整役を果たし、カガリとアスランの活躍によって徐々に進展していった。
だが感触は悪くなかったが、双方まだ戦える状態なので纏まらない。
ナチュラルとコーディネイターの憎しみはそう易々と解消されるものではない。
だがオーブが間に入る事でまだ会話が成り立っている。
そうでなければお互い和平など発言さえ出来なかっただろう。
オーブをまとめるだけでも一苦労なのに和平交渉の場を用意しないといけない。
ウズミも国連総会で根回しし、プラント最高評議会議長になったアイリーン・カナーバの間を忙しく飛び回っていた。
「やはり綺麗事で軍縮は成立しないか。わかってはいたが難しいな」
「カガリはよくやっている。だけどプラントも地球連合もジェネシスと核を使う寸前までいったんだ。なかなか譲歩しないさ」
「それでも諦めずに交渉を続けるしかないよな。私たちは未来のために頑張らないといけない」
カガリは疲労が見える顔に笑みを浮かべて言った。
アスランも彼女のそばでサポートしている。
カガリ一人ならとっくの昔に心が折れていただろう。
ニコルが言った通り、カガリの傍にいる事がアスランのやるべき事だったのだ。