【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
【僕のピアノよCEに響け。外伝『婚約者』 第四話 「綺麗ごとはアスハのお家芸だな!!」】
カガリは昨日の会議の内容を纏めた書類を確認し裁可の印章を記入する。
事務手続きはアスランが優先度ごとに纏めてくれるので劇的に効率化した。
無論オーブにも優秀な官僚がいるので彼らも書類を纏めて提出してくるが、どうしても多くなるのだ。
有能な人に仕事が集中するのはCEでも変わらないらしい。
「カガリ、少し休憩しよう。幸い明日は会議がないから羽を伸ばす事も必要だ」
「それはデートのお誘いという事でいいのか?」
「い、いやその」
「はは、冗談だ」
そう言いながらカガリは明日アスランと街へ出かけられる事に期待する。
代表代理とはいえカガリはまだ恋する乙女なのだから。
翌日ノイマンが運転する車に乗って市内へ向かう。
二人の姿はどう見ても恋人同士だとノイマンは思った。
自分も早くバジルール中尉に気持ちを伝えないと。
もしデートしたらバジルール中尉はどんな顔を見せてくれるだろうと思いながら完璧な安全運転でノイマンは二人を送り届けた。
「ありがとうアスラン。アスランのおかげで会議は成功しそうだ」
「当然だ。カガリと俺たちならどんな困難も乗り越えられるさ」
アスランの言葉にカガリは頷いた。
二人は手を取り合い未来へ向けて歩き始めた。
護衛付きとはいえ街中を歩きショッピングを楽しめるくらいオーブは治安がいい。
カガリは最近流行りのブランド店に入り、アクセサリーを見ていた。
「どれがいいと思う?」
カガリがアスランに尋ねるとアスランは微笑みながら答えた。
「カガリは何でも似合うから難しいな。でもこの青い宝石のネックレスはどうだろう?」
「素敵だ!これにする」
カガリは満足そうにネックレスを手に取り、支払いを済ませた。
店員は相手がカガリだとわかったが空気を読んでいつも通りの対応をしてくれる。
護衛がいるとはいえ無防備だが隣にいるのはCE最強の一角だから問題は無い。
「ありがとうアスラン。とても嬉しい」
「どういたしまして。喜んでもらえて良かった」
アスランはカガリの笑顔を見て嬉しそうに微笑んだ。
その後二人はカフェで休憩することにした。
カガリはケーキセットを注文し、アスランはコーヒーを頼んだ。
オーブは南国なので珈琲が美味しいのだ。
亡命したバルトフェルトは今頃珈琲のブレンドに凝っているだろう。
「なあアスラン、私たちが出会ってから色々あったよな」
カガリが言うとアスランは頷いた。
「ああ。最初会った時は男だと思ってびっくりしたよ」
「それを言うなら初対面の男に組み敷かれナイフを突きつけられた私のほうが驚いた」
「初めて会った時は敵。今では婚約者か。感慨深いな」
そう言って恋人二人で笑いあう。
カガリの自然な笑みに護衛たちは涙を禁じ得ない。
どこからどう見ても誰かが入り込む余地などない。
ユウナ・ロマ・セイラン?
馬鹿め!!奴なら死んだわ!!
そんな二人が上機嫌でお茶を楽しんでいた時だ。
「あ、カガリさん、それにアスラン」
「カガリさんアスランさんお久しぶりです」
シンとマユの二人だった。
カフェでお茶を楽しんでいるアスランとカガリに声をかけたのは、シンとマユの二人だった。
シン・アスカとマユ・アスカ、かつてのエースパイロットだった二人が、民間人として生活している姿にアスランは驚いた。
いや本来こうあるべきなのだ。
子供が戦場に立つことの方が異常なのだから。
「シン!マユ!久しぶりだな」
カガリは笑顔で立ち上がり、二人を迎えた。
「お前たちが一緒にいるとは思わなかったぞ」
「俺もカガリさんがアスランと一緒にいるなんて思ってなかったです」
「アスランさんはいつオーブに来られたんですか?」
「五日前の便でだ。マユに会いたいってニコルが言っていたぞ」
アスランが答えると、マユは顔を赤らめた。
カガリは二人に席を勧め、護衛に追加の飲み物を注文させる。
「二人とも今は民間人として生活しているのか?」
シンは少し照れくさそうに答えた。
オーブのお姫様に敬語とか使わないあたり戦友という意識が高いのだろう。
カガリ様とかつけたらカガリは嫌がるのだしこれでいい。
しかしアスランは呼び捨てである。
「ええ、もうMSに乗るつもりはありません。今は家族と一緒に暮らしています」
「そうか。二人ともまだ学生だからな。もうMSになんて乗らなくていい。そういう世界を俺もカガリもニコルも作ろうとしている」
カガリは二人の様子を見て、少し寂しそうに笑った。
もう住む世界が違うのだなという事を肌で感じてしまう。
「シン……お前がMSから離れて良かったと思っているよ」
シンは顔を上げてカガリを見た。
戦いの記憶はすぐに忘れられないが世界を救ったという誇らしい面もあった。
「俺もです。あの戦いで色々嫌な事もありましたけど、でもオーブを守れたから満足です」
「そうか。お前らしいな」
カガリはシンの肩を叩いた。
カガリはシンが一般人に戻れたことを心の底から喜んでいた。
オーブを愛するがゆえに戦いに身を投じて精神的に病んだ兵士もいるので心配していたが、シンとマユは大丈夫そうだ。
「今は何を勉強しているんだ?」
「歴史学です。人類の歴史を学んで未来を考えたいと思っています」
シンは真面目な表情で答えた。
基本読書家なのである。
「MSで戦うだけでは世界は変わらない。学んで考えるべきだと思いました」
「マユも歴史学を?」
アスランが尋ねると、マユは首を横に振った。
「私は政治学です。将来はプラントと地球の関係改善に役立ちたいと思っています」
「素晴らしいな」
アスランは心からそう言った。
「お前たちのような若い世代がそう考えてくれれば未来は明るい」
そうアスランが言うとシンもマユも返答に困った。
それはそうだ。
アスランだってシンとは大差ないのだから。
カガリは二人を見て微笑んだ。
「シン、マユ。もし困ったことがあったらいつでも相談してくれ。我々は力を貸すから」
「それではその、早速お願いがあるのですけど」
マユには早速カガリにお願い事があるようだ。
手と手を合わせて言いにくそうにしている。
「なんだ?私に出来る事ならなんでもするぞ」
そうカガリが言うとマユは真っ赤になった顔を上げた。
「プラントへ行かせてください。ニコルさんに会いたいです」
幼いとはいえ、恋人と別れ別れはやはり寂しい。
定期的に連絡を取り合っているがそれでも会いたい。
カガリはそんなマユの気持ちがよくわかった。
自分だってアスランに会いたくて仕方がなかったのだ。
「なるほどな。お前の気持ちは分かるが今はまだ危険だ。プラントの治安は安定していない」
「それでも行きたいです」
マユは強い意志を持って言った。
だが危険な事に変わりはない。
「ニコルさんは私を守るため戦いました。今度は私がニコルさんを支えたいんです」
「しかし……」
カガリにはマユの気持ちが痛い程よくわかっている。
だがマユを危険に晒せばニコルは永遠にカガリを許さないだろう。
アスランは考え込んだ。
自分に便宜をはかってくれた大切な親友の彼女を放っておいていい訳が無い。
「俺から提案があります」
アスランが言った。
「なんだ?アスラン」
カガリが聞くとアスランはシンを見た。
「シンも一緒に連れて行くのはどうだろう?シンなら護衛として十分な実力を持っている。それにマユも安心するだろう」
「ああ、確かにそれならいいかもな」
カガリは頷いた。
シンなら十分な実力があるだろう。
軍人として正式な訓練を受ければ最強になるのだが本人にそのつもりは無い。
しかしマユが襲われたら速攻種割れしそうである。
「シンはどうだ?」
「勿論マユを守ります」
シンはきっぱりと言った。
「じゃあ決まりだ」
カガリは笑顔で言った。
「二人のプラント行きを認める。ただ今すぐには無理だ」
「いつならいいですか?」
「プラントと地球の和平条約締結は多分月で行われるだろう。それまで待てるか?」
「待てます」
マユは即答した。
「シンもいいな?」
「はい」
「よし決まりだな」カガリは二人に微笑んだ。
「じゃあ条約締結後に一緒に月へ行こう」
「ありがとうございます!」
マユは感激して叫んだ。
「ありがとうございます」
シンも頭を下げた。
カガリは二人を見つめ、心の中で誓った。
もう二度と若い命を戦場に送らないことを。
「シン、マユ。代わりと言ってはなんだがオーブの人々が私の事をどう言っているか聞かせてくれないか。周りの大人は本当の事を教えてくれないんだ」
カガリは二人に頭を下げる。
市井の悪評を聞くのを拒んだり、そういう声が届かなかったりする事は権力者にはよくある。
シンとマユは顔を見合わせて困ったという顔をした。
評判はよくないようだ。
カガリは確かに大勝利をもたらした英雄だがいざ戦争が終わってみると街の復興に手間と時間がかかる。
不満の声もあるだろう。
「えっと、本当にいいんですか?」
シンの口調は丁寧だ。
敬意を払い先ほどまでのように馴れ馴れしくならない。
シンにとってカガリはお姫様なのだ。
「是非お願いしたい」
「じゃあ、言いますが。あくまでも街で耳にした噂ですからね。信憑性は定かではありません」
シンの前置きを聞いてカガリは真剣そのものだ。
「わかっている。でも聞かせてくれ」
シンは少し考えてから言った。
「さすが綺麗事はアスハのお家芸だな!」
カガリにとって耳が痛かった。
だが権力者は時に聞きたくない言葉でも聞かなくてはならない。
すべてのオーブ国民がカガリを支持している訳ではないのだ。
「カガリの悪口を言う人は意外と多いです。戦争中に避難指示を出すのが遅れて、実際に避難が間に合わなかった人もいます。それに乗じて悪口を言う人もいます」
「構わない。他には?」
カガリは静かに聞いた。
マユも付け加えた。
「それから、カガリさんが地球連合軍を撃退した後、プラントに攻め込もうとしていたとか。実際にはそんな事はなかったのに」
「街ではカガリが独断でプラントの代表と密約を結ぼうとしていたという噂も流れてます。でも俺はそんな事思わないです。だって本当のカガリは必死になって戦争を止めたから」
シンの言葉にカガリは救われたが、自分への絶対支持などがあるとは思っていない。
「ありがとう、シン。それとマユも。本当の事を言ってくれて感謝する。プラントでもカガリの悪口を聞いた事がある。でも彼女の誠意は俺が一番知っている」
アスランがそう言った。
確かにそういう提案があったのは事実だった。
「俺も知ってます。カガリはオーブを守るために戦ったって知ってるし。」
「シン、マユ、本当にありがとう。お前たちの言葉を忘れない」
カガリは心からお礼を言った。
「お礼なんか要らないです。カガリはオーブの希望だから。俺たちはカガリを信じています」
「そうか。それじゃあ、マユとシンのプラント行きを保証する書状を書いておこう。後で贈るよ」
カガリが言うと二人は嬉しそうな顔をした。
「ありがとうカガリ!」
「カガリさん、ありがとうございます」
「こちらこそ色々教えてくれてありがとう。それじゃ私の奢りで寿司でも食べに行こう。無論護衛のみんなの分もだ。」
カガリがそう言うとシンもマユも護衛も喜んで賛成した。
こうして護衛は脳を焼かれるのである。
オーブは海洋国家で海産物が豊富である。
カガリは四人と護衛を連れて寿司店へ向かった。
店員はカガリを見て慌てて奥へ引っ込んだ。
「ああ、別に騒がなくてもいい。私を忘れた振りして欲しいな。アスハ様とか言わないでくれよ」
「そりゃ無理ですよ」
カガリの顔はテレビに映るし凛々しい軍服姿の写真もポスターになっている。
よく見るとカガリのプロマイドまで飾って合ってカガリは照れた。
カガリを支持している人の方が多いのだ。
「私はお腹が空いた。さっさと席に案内してくれ」
カガリがそう言うと店員は苦笑いしながら席に案内した。
先ほどのシンのセリフはとても痛かったが向き合おうとカガリは思った。
そんなカガリをアスランは支えたいと思う。
カガリは自分にとって一番大切な人なのだから。