【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
【僕のピアノよCEに響け。外伝『婚約者』 第六話 戦争と平和の狭間で】
カガリとアスランは月への旅立ちの準備を進めていた。
和平交渉は月のコペルニクスで行われることになり、カガリはウズミの代理として参加する。
オーブは中立国として地球とプラントの間に立ち、平和を実現するために尽力してきた。
カガリは自室で荷物を整理していた。
アスランは彼女の隣で資料に目を通しながら助言していた。
アスランはキラと幼少期を共に過ごしたコペルニクスを案内したかったが、それは新婚旅行にでも取っておこう。
それはそうと初めての月旅行にシン・アスカとマユ・アスカの兄妹は期待に胸を躍らさせていた。
特にマユはニコルと離れてから久しい。
想い人と会えるという興奮がマユの全身を満たしていた。
「プラントと地球連合のトップが集まるなんて、本当にすごいことですね」
マユはそう言いながらウキウキと楽しそうに窓から宇宙を見る。
プラントと地球の代表が同じテーブルにつくというだけで大きな変化だ。
そんな大切な会議にシンとマユがついていくのだから、シンはアスランの部下の護衛役。
マユはカガリの侍女の一人という役柄だ。
「どうして俺がアスランの部下なんですか」
出発前からシンは不満の漏らしっぱなしだ。
流石に不機嫌になったアスランがシンを窘める。
「仕方ないだろ。こういう場合政府の関係者って事にしておかないと。なんならマユを置いて戻るか?」
「わかりましたよ。まったく前回の時は頼れる仲間だと思ってたのに」
シンとマユは出発前に少しだけ軍隊の訓練を受けた。
マユは射撃で百発百中だったのに対し、シンはあまりよくはなかった。
アスランに言わせればシンには体感にブレがあり、それが妨げになっているらしい。
それでも白兵戦に臨めばアスランでも手を焼く狂犬さながらなので、ちゃんとした軍隊訓練を受ければどれだけ伸びるのか恐ろしい。
つまり二人とも軍人向きなのだ。
カガリもアスランも二人が軍隊に入らないでいい未来を創ろうと改めて決意した。
興奮している二人から視線を宇宙船内テーブル上の資料に戻す。
「カガリ、地球連合側の要求とプラント側の要求をまとめておいた。双方の主張を理解しておかないと会議では対応できないからな」
「ありがとう、アスラン。この資料はとても役立つ」
カガリはアスランのまとめた資料に目を通しながら感謝した。
今日まで付きっ切りでフォローしてくれたアスランにカガリは言葉では言い尽くせないほど感謝している。
もしアスランとの結婚をウズミお父様が許してくれたらと思うと心が温かくなる。
いや、もう他の人と結婚なんて考えられない。
自分の弱音を吐き、聞いてくれて、抱きしめてくれて、相談して背中を押してくれる。
カガリの中でアスランとの絆はもう切れないものになっていた。
アスランのほうもそうだった。
いつもはじゃれ合い意地悪をして、時に苦悩を吐き聞いてくれる。
カガリに抱きしめられ背中と頭を撫でられるとき、言いようのない母性を感じるのだ。
きっと父上も母上と同じくらい安らぎを得ていてのだろう。
父上にとって母上は誰よりも大切な人だったのだ。
そう、あれほど狂うくらいに。
自分もカガリを核で焼くなどという残酷な殺され方をしたらきっと狂うだろう。
その時はキラが止めてくれるだろう。
今回ウズミは出席しない。
地球連合の動きが不穏過ぎて、手が足りないのだ。
だからウズミから詳しく命じられていた。
「オーブの中立を貫きたいなら、あまりプラント側に肩入れしすぎないように。オーブはプラント側から見れば地球連合の一部だ。地球連合とプラントの関係改善という目標は良いが、オーブの利益を優先するのを忘れてはならない」
「それは理解しております、お父様。オーブの利益ももちろん考えます」
カガリは答えた。
「オーブの利益は平和な世界を創る事だ。その為に地球とプラントとのバランスを保つことにある。中立を保つのは簡単ではない。しかし平和が訪れればオーブの地位は確固たるものになるだろう」
カガリは父親の言葉を胸に刻んだ。
オーブの利益と理念の狭間で難しい舵取りをしなければならないことを改めて認識した。
あくまで平和を創る事。
それがオーブにとって最善の利益なのだ。
月へ向かう宇宙船の中でカガリとアスランは並んで座り、窓の外に広がる無限の星々を眺めていた。
「アスラン、月にはどんな思い出がある?」
カガリが尋ねるとアスランは懐かしそうに微笑んだ。
「小さい頃、キラとよく遊んだ場所さ。当時は戦争なんて遠い話だと思っていた」
「そうだったのか。私には想像もつかない光景だ」
カガリはアスランの横顔を見つめながら言った。
「でも今は違う。私たちは過去の過ちを繰り返さないように努力している」
「そうだな。だからこそ俺たちの使命は重要なんだ」
アスランは真剣な表情で言った。
「カガリ。コペルニクスではきっと多くの困難に直面するだろう。でも俺がついている。二人で乗り越えよう」
「ああ。ありがとうアスラン。一緒に頑張ろう」
カガリはアスランの手を握り返した。
宇宙船は徐々に月へと接近し、その表面に浮かぶクレーターがはっきりと見えてきた。
「月に着いたらまず最初に何をするつもりなんだ?」
アスランが尋ねるとカガリは微笑んだ。
「まずはプラント側と地球側の両方に会って挨拶かな。和平交渉は初対面の印象が大事だからね」
初対面で相手の顔を見ておくのは基本なのでアスランはプラント側のリストを見ていく。
プラント側の代表団長はニコルの父親ユーリ・アマルフィ。
いささか気が弱いがニコルが補佐するから大丈夫だろう。
ニコルの肩書はユーリの護衛兼随員だ。
プラント側はなんとしても和平をしたいという決意が現れた。
他にも並んだのはシーゲル派というプラントの穏健派。
そして一人の名前にアスランは気が付く。
『ギルバート・デュランダル』
新進気鋭の優れた人物であり公私混同をせず、既に多くの支持者を集めている。
プラントにとって一番の人物を送り込んできた。
本気で和平を望んでいるのだろう。
一方地球連合はまだ軍事力で圧力をかけたいという意見が主流だ。
地球連合の代表はロード・ジブリールという人物。
野心家で強硬派だ。
他にも政財界で強硬派と優和派に分かれる人員が参加していて、和平はしたいけど条件次第では再戦も辞さずという考えだろう。
ウズミが必死になって整えなければ強硬派に押し切られたかもしれない。
「アスラン、この人物は要注意だと思う」
カガリはアスランに言った。
「そうだな。彼の言動には特に注意しないとな」
アスランも同意した。
彼はブルーコスモスとも深い関係があると噂されている。
月に近づくにつれ、宇宙船はゆっくりと速度を落としていった。
やがて月の港に到着し、カガリたちは降り立った。
周囲には既に多くの宇宙船が停泊しており、プラント代表と地球連合代表の艦と護衛のMSも見えた。
「やっと着いたな。ここからが本当の戦いだ」
カガリは決意を新たにして言った。
「ああ。どんな障害があっても、必ず平和を勝ち取ろう」
アスランは力強く答えた。
そしてアスランの言葉にカガリは頷き、アスランの手をしっかりと握った。
宇宙港に着底した船から降りようとした時、マユがいきなり走り出した。
その先にはニコルの姿があった。
マユがニコルの腕の中で再会を喜ぶ。
その様子をシンが少し照れくさそうに眺めている。
シンは苦笑しながらニコルに言った。
「久しぶり。元気してたか?」
「元気にしていました。シンとマユに会えなくて寂しかったです」
ニコルも笑顔で迎える。
そして久しぶりに会えた恋人の背中を優しく撫でる。
撫でながら抱きしめた
「マユ、久しぶり。会えて嬉しいよ。でも走り出すのは危ないから気をつけて」
マユはニコルの腕の中で照れくさそうに笑った。
ずっと会えなかった愛しい人。
別れたときから変わらない優しくて大きくて暖かな背中。
ずっと覚えてた。
「ごめんなさい。でも会いたかったんです」
そう言ってマユはニコルの肩に頭を寄せる。
それを見てシンが言った。
「こっちは会議が始まる前にイチャイチャするなよ。マユが楽しそうだからいいけどな」
それに対してニコルは照れくさそうに笑った。
「シン、僕も久しぶりにマユに会えて嬉しいよ。これから一緒にがんばろう」
マユは少し恥ずかしそうにうなずきながら言った。
短い間だけど一緒に過ごせるのだ。
といってもカガリの侍女がプラントの代表団随員に会いに行っては何かの密約かと疑われてしまうが。
そしてマユの頭を撫でながら後ろを振り向く。
そこには赤毛のザフト兵が二人立っていた。
「ルナマリア・ホークです。プラント側の連絡係をつとめさせていただきます」
「メイリン・ホークです。よろしくお願いいたします」
そう言って敬礼する。
こういう会談では連絡係がお互いの言えない事を伝達したり探ったりが必要になる。
非公式の会見のセッティングなどだ。
二人とも緊張しているのか表情が硬い。
「粗相があるかもですがよろしくお願いします」
そう言ってニコルがカガリに会釈するとマユがニコルの腕を掴んだ。
明らかにルナマリアとメイリンを警戒している。
ニコルは思い当たりマユの手を優しく握った。
「僕達はそんな関係じゃないよ、そうだよねルナマリア、メイリン」
そう言ってニコルはルナマリアとメイリンに振り向く。
「そ、そうですよ。ニコルさんはザフトレッドで尊敬してますけどそんな関係じゃないです」
「何でしたらニコルさんがいかに、マユちゃんが可愛くて愛しくて会いたい会いたいって言ってる映像もありますし見ます?」
「Σちょっ!!メイリンいつの間にそんな事してたの!?」
ルナマリアとメイリンとニコルは仲良しのようだ。
だがマユ一筋のニコルに言い寄ろうとして撃沈したアグネスという前例もあり皆諦めている。
そしてシンはというとルナマリアを見て頬を赤らめている。
ルナマリアはシンを見て怪訝な表情をした。
「何か?」
「え、あ、いや。俺はシン・アスカ。マユの兄貴だ」
「はい。シン様の経歴は承知してます。その若さでエースパイロットになられたのですよね」
ちなみにニコルとルナマリアは同い年である。
だからニコルもルナマリアにニコルと名前呼びしてほしいのだが、ザフトレッドというだけで尊敬される存在なのだ。
なにしろザフトで10人しかいないエリートなのだ。
しかもピアニストとしても名高い。
男のスペックだけで判断するアグネスが速攻轟沈しているくらいスペック高いのである。
そんなシンにマユが気づいた。
「あれ、シンお兄ちゃん。何か顔が赤いけど熱でもある?」
「だ、大丈夫だよ。ちょっと暑いだけだから」
完全に気温がコントロールされているここで暑いというのも変だ。
シンは慌てて否定する。
その様子を見てニコルは微笑む。
微笑ましいなあなどと思う当たり、両想いの恋人がいる余裕だった。