【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
【僕のピアノよCEに響け。外伝『婚約者』 第八話 テロ】
第一ラウンドはプラント側が制したと言ってもいいだろう。
地球連合側はプラントが使用したNJで受けた損害賠償を言い出せなかったからだ。
正確に言うとロード・ジブリールが言い出しまくったが、それが強硬過ぎて逆に和平会談の意義を説かれてしまった。
だがカガリは憂鬱だった。
明らかにプラント寄りの発言だったからだ。
だがあそこで引き下がれば和平会談はぶち壊しになっただろう。
会議の後で開催されたパーティでアスランは会場の壁を背にしてカガリの警護をしていた。
目の前の恋人のドレス姿の美しさを見ていると気鬱も晴れる。
自分はあくまで護衛兼随員なのだから、カガリが色んな人とダンスをしているのを見ているしかない。
そう思っていると手にグラスを持ったニコルが隣に来る。
久しぶりの親友との再会を祝してグラスに入った果物のジュースを飲んだ。
「先ほどは感服しました。まさかカガリがあれほどの胆力を発揮するなんて」
そう言ってニコルはカガリを見つめながら褒める。
ニコル達プラント側もジブリールから失言を引き出した事で場を有利に進めることができた。
恋人を褒められて嬉しくない筈がない。
「ニコルの方こそ、プラント側の政治家を全員起立させて会談打ち切りの危険性を地球側に教え込むのはよく考えたな」
「あれはあのタイミングでしか上手くいかなかったです。早過ぎたらジブリール氏の思い通りに会議はプラント側の失態で終わったでしょうし」
「遅過ぎたら引くに引けなくなる、と」
「そういう事です」
そう言ってウインクするニコルの様子に自分が政治家には向いていないとアスランはつくづく思う。
ニコルがプラント最高評議会議員、ましてや議長にでもなったらオーブにとって最大の味方になるだろう。
オーブが余程の失態でもしないかぎりニコルは味方でいてくれるだろうし。
味方にすればこれほど頼もしい仲間はいない。
そんな事を想っていたらルナマリアとシンがやってきた。
二人とも足早で顔色が切羽詰まっている。
「ルナマリアどうしました?」
ニコルの問いにルナマリアが答える。
「メイリンが掴んだ情報だと、この会場をテロ集団が狙っています」
「何だって?」
「シンさんが見張ってますが人数が多くて。それに警備が手薄です」
「わかった。シンは引き続き見張っていてください。プラント側は僕が連絡します」
そう言ってニコルが駆けだす。
その後ろをマユが追った。
本能的にニコルが危険な事に気が付いたのだろう。
これがニコルとの別れになるかもしれないと思い詰めていた。
軽率だがエースパイロットとは言えマユはまだ小学生なのだ。
アスランもカガリに近づき耳元で囁いた。
「カガリ、この会場にはテロリストが侵入しようとしている。警戒を厳重にしてもらうよう指示を出せ」
カガリは驚きの表情を見せたが、すぐに冷静になり命令を出した。
「了解した。地球連合側にも警備を強化するよう伝える」
シンは会場の出入り口付近を警戒しながら、テロリストの動向を探っていた。
会場内を見渡すと、アスランとニコルが警備の強化を指示しているのが見えた。
シンはすぐに行動に移すことにした。
「おれたちも手伝おう」
シンがルナマリアの隣でそう言うとルナマリアが頷いて素早く警備の穴をふさぐ。
「シンさんは脱出経路の確保をお願いします。それとこれを」
そう言ってルナマリアはシンにザフトの正式拳銃を手渡す。
鋼色の拳銃は重く慣れないと反動で怪我をしそうだ。
「それはわかったけどシンさんは止めて欲しいな。シンでいいよ」
「そう?それじゃ私もルナマリアでいいわ」
「わかった、ルナマリア」
シンは周囲の警備を強化しながら、カガリの安全を確保するためのルートを確認した。
ニコルがザフトとプラント代表団に走り寄り指示を飛ばす。
そのニコルに可愛いドレスを着たマユが駆けていった。
「ニコルさんどうしたの!?」
「ちょっと騒々しい事になるかもしれないから、マユはシン達と一緒にいるんだ」
ニコルはそう言いながらマユをシン達の所へ送ろうとした時だ。
その時、突如として爆発音が鳴り響いた。
ニコルは反射的にマユを庇って床に倒れた。
「きゃあああ!!」
「マユこっちへ!!」
この状況ではマユを一人にするほうが危険だと判断したニコルはマユを伴って脱出する事にする。
すぐにプラント側は退避に動き出した。
「シン!」
「ルナマリア、カガリを連れて安全な場所に避難するぞ!」
シンはルナマリアと共にカガリを保護し、爆発音の方向とは逆の出口へと向かった。
カガリは混乱した表情で周囲を見回しながら言った。
「何が起きたんだ!?」
「テロリストの襲撃だ。今は安全な場所にカガリを避難させる、カガリに何かあったらアスランに殴り殺されるからな!!」
……それで済めばいいが。
シンは緊張した声でカガリに説明しながら、出口を目指して走った。
途中、爆発による煙と火災が広がっているのを目にした。
「ルナマリア、煙を吸い込むなよ!」
「わかってる!」
シンとルナマリアはカガリを守るようにしながら、安全な場所へと進んでいった。
その頃、アスランが別の出口を目指して動き始めていた。
アスランが確保した出口ではテロリストと護衛の銃撃戦が展開されていた。
「シン、安全な場所にカガリさんを連れて行くわ!」
「わかった!」
シンは武器を持って警戒しながら、ルナマリアと共にカガリを護衛する。
アスランは会場の出口に向かう途中、シンとルナマリアの姿を見つけた。
「シン!カガリは無事か!?」
「アスラン!カガリはこっちにいる!」
シンの言葉に安心したアスランは、ルナマリアと共に彼らに合流し、全員で安全な場所を目指した。
同時刻プラント代表団も狙われたがこちらもニコルが撃退に成功している。
ニコルはキラが暗殺されそうになった時を思い出していた。
あの時も突発的なテロだったが統制がとれておらず撃退に成功した。
ただ違うのはアークエンジェルに爆弾を仕掛けられた事だった。
今回会場に選ばれた場所の近くに大きな施設はない。
「無計画すぎる。余程急いで行われたか何かの罠か」
「ニコルさん…マユ怖いよ」
「大丈夫。マユは僕が守る」
マユを庇いながらも冷静に考える。
この程度のテロならプラント側で鎮圧は容易いが、これは誰の仕業なのか?
アスランはカガリを安全な場所に避難させた後、会場内のテロリストに対して反撃を行っていた。
シンとルナマリアも加わり、プラント側の護衛と協力して敵を一掃していく。
テロリストが死ぬ前に「青き清浄なる世界のために」と呟いたのをアスランは聞き逃さなかった。
メイリンがロード・ジブリールがブルーコスモスである事を突き止めていた。
そこから導かれる答え。
会議で大失態を犯したジブリールが、かつてプラントの代表と国連事務総長を暗殺した事件のように会談を破滅させようとした事。
アスランはこの事件が偶然ではないことを悟り、怒りに満ちた声で言った。
「ブルーコスモスの仕業だな……!」
その時、会場内のどこかから大きな爆発音が聞こえ、会場全体が揺れた。
アスランは怒りがよぎったが、すぐに思考を切り替えた。
「シン、ルナマリア!この辺りはもう安全だ!会場の裏側へ急げ!」
シンとルナマリアはアスランの指示に従い、カガリを守って会場の裏側へと向かった。
プラント側の代表団を探しに会場の裏側に向かって走った。
テロリストの襲撃が収束しているようだった。
「ルナマリア、あそこだ!」
シンが指さす先にはプラント側の代表団ユーリとデュランダルがいた。
二人とも無事に避難できているようだ。
「みんな無事みたいだな」
シンは一安心したその時、ルナマリアの通信機が鳴り響いた。彼女はすぐに通信に出た。
「はい、ルナマリアです」
「ルナマリアさん!!私です!!マユです!!」
マユの声が通信から切羽詰まった声が聞こえた。
シンはルナマリアに近づいて耳を傾ける。
「マユちゃん、無事でよかった!どうしたの!?」
「ニコルさんが撃たれて!!マユを守ったせいで、マユは!!マユは!!」
シンは愕然とする。
マユの声からニコルが撃たれて重症ということはすぐに分かった。
「マユ、落ち着け!ニコルはどこだ!?」
シンは焦りに満ちた声でマユに問いかける。
ルナマリアも心配そうな表情を浮かべる。
「ニコルさんが倒れてるの!!お願い助けて!!」
マユは恐怖と絶望に満ちた声で必死に訴える。
「今すぐそっちに行く!場所を教えてくれ!」
シンは必死にマユに問いかけた。
会場の裏側の様子を観察すると、その一角は薄暗く、人が入り込める空間が広がっている。
「奥の非常階段の下!!早く来て!!」
マユの声が震えている。
シンとルナマリアは互いに顔を見合わせ、即座にその場所へと駆け出した。
非常階段の下に向かう途中で、シンは頭の中で様々な感情が渦巻いているのを感じた。
親友ニコルが撃たれたこと、そしてマユがその現場にいること、全てが心配だった。
マユの声からは強い恐怖が感じられ、彼女の無事が確認できたことが唯一の慰めだった。
シンとルナマリアは非常階段の下に到着し、そこに倒れているニコルと彼を心配そうに見つめるマユの姿を見つけた。
ニコルの脇腹からは血が流れ出ており、意識がないようだ。
「ニコル!!」
シンは叫びながら駆け寄り、ニコルを抱き上げた。
ルナマリアもすぐに駆け寄り、傷口の状態を確認する。
「シン、すぐに止血をするわ!」
ルナマリアはハンカチを取り出し、出血している部分を強く押さえた。
しかし、血はすぐにハンカチに滲み、なかなか止まる気配がない。
「マユ、大丈夫か?」
シンがマユに声をかけた。
マユは恐怖に震えながらも頷く。
「ニコルさんがマユを守ってくれたの。マユがテロリストに襲われた時に……」
シンはニコルの体をしっかりと支えながら、怒りと悲しみが交錯した表情を浮かべた。
「くそ……なんでこんなことに……!」
ルナマリアはハンカチをしっかり押さえながら、応急処置を試みた。
「シン、このままじゃ危険よ。急いで医療スタッフを呼ぶわ」
ルナマリアはすぐに通信機を使って医療スタッフに連絡を入れ、シンとマユはニコルの傍に留まった。
マユが泣きそうな顔で言う。
「ニコルさん……死なないで……」
シンは必死にニコルの脈を確認した。
微弱だがまだ生きている。
その時、ニコルがわずかに目を開けた。
「……マユ……シン……大丈夫……?」
「ニコル!大丈夫だ!もう心配ない!」
シンが励ますと、ニコルはかすかに微笑んだ。
「……良かった……君たちが無事なら……それで……」
「バカ!そんなこと言ってる場合じゃないだろ!しっかりしろ!」
シンは涙をこらえながらニコルに叫んだ。
「マユ……いつも……僕に言ってたよね……命を……大切に……って」
「ニコルさん……」
マユは涙を流しながらニコルを見つめた。
「僕は…死なないよ…マユを悲しませ…マユ…」
ニコルは辛うじて言葉を発し、再び目を閉じた。
「ニコル!ニコル!」
シンは必死に彼の名前を呼び続けた。
ニコルは生死の境を彷徨っているようだった。
医療スタッフが駆けつけ、すぐにニコルの治療に取り掛かった。
マユは放心状態で立ち尽くし、シンは苦しい表情を浮かべていた。
ルナマリアもまた、胸の痛みを感じていた。
「絶対死ぬなよ。マユを悲しませたら許さないからな」
応急手当が済んだニコルを医療スタッフが医療ロボで運んでいく。
泣きじゃくるマユを抱きしめながらシンも泣いていた。
そんなシンとマユにかける言葉がルナマリアには思いつかなかった。