【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
【僕のピアノよCEに響け。外伝『婚約者』 第十話 婚約者】
月にある総合病院でニコルは生命維持装置を付けられていた。
ナチュラルが運営する病院だが、今回は外交問題に発展する可能性があるため特別に許可されたのだ。
その病室でニコルの手をマユはずっと握っていた。
ニコルの傷は内臓を傷つけ緊急手術で命だけはとりとめたが、まだ意識は戻らない。
マユは自分を責め続けている。
もしあの時自分がニコルではなく別の場所に逃げていれば、ニコルはマユを庇って撃たれる事は無かった。
アスランはあの時、マユが一人でいたら確実に死んでいたからマユの判断は正しかったと説明してくれたがマユの気持ちは変わらない。
そんなマユを痛々し気にシンは見つめている。
マユの頭を撫で、泣きじゃくるマユを抱きしめる事しか出来ない。
その姿を見ていたアスランの怒りはブルーコスモスに向いていた。
アスランはブルーコスモスのテロリストが突発的に襲撃してきたのでは無く、計画的に襲撃してきたのだと確信していた。
何故なら会場内のプラント代表団に向けられたのは本物の銃だったからだ。
会場内は火器を持ち込むことができないので銃を持ち込む事は容易ではない筈だ。
だが本物の銃を持ち込む事が出来たという事は事前に侵入した可能性がある。
プラント側の代表団が襲撃されたのも事前に狙われていたからだと考えられる。
この情報から、会場内の襲撃は単なる偶発的な事件ではなく、計画的に仕組まれたものである可能性が高い。
アスランはロード・ジブリールがプラント側に襲撃を仕掛けたことを確信したが証拠が無い。
そんな中ルナマリアがアスラン達のところにやって来た。
「アスランさん。代表団が会見を開くそうです。すぐに来て欲しいとカガリさんから伝えるようにと」
「会見?」
アスランは首を傾げた。
「今回のテロ事件に関して、プラント側の声明を発表するみたいです。カガリさんも参加するそうです」
「わかった」
アスランはシン達から席を外し立ち上がった。
シンも連れて行こうと思ったがテコでも動きそうになかった。。
マユとシンとニコルにはプラント側の護衛がついた。
アスランが到着すると、すでに代表団のメンバーと記者たちが集まっていた。
プラント側は地球連合側に今回のテロ事件についての声明を発表することになっている。
デュランダルが代表としてスピーチを行い、その後、質疑応答が行われる予定だ。
「アスラン、プラントは今回の事件に関してどんなコメントを出すんだろう?」
カガリが心配そうな表情で尋ねると、アスランが答えた。
「デュランダルは冷静な人だから、きっと適切に対応してくれると思うよ。心配ない」
「でも、相手はブルーコスモスだからな……」
カガリはブルーコスモスの存在に深い警戒心を抱いていた。
彼らはナチュラル至上主義を掲げており、コーディネーターを排除するためには手段を選ばない狂信的な集団だ。プラントが襲撃されたことで、彼らの執拗さを改めて実感している。
会場内では、緊張した雰囲気が漂っていた。
地球連合側の記者たちは、プラントの発表を待ちながら、疑惑や疑念に満ちた表情を浮かべている。
彼らはプラントがどのように今回の事件を処理するか注視しており、誤解や偏向報道の材料を探している様子だ。
デュランダルは冷静にマイクの前に立ち、自信に満ちた態度でスピーチを始めた。
「地球連合の皆さま、プラント代表団のギルバート・デュランダルです。まずは、今回のテロ事件の犠牲者に深い哀悼の意を表明いたします。我々はこの事件を重大な問題として受け止めています」
デュランダルの声は落ち着いており、会場内に響き渡った。
彼はまず、プラントがこの事件に深い関心を持っていることを強調し、続いて事件の概要と現時点での対応について説明した。
「我々はテロの犠牲となった人々を悼み、同時にこのような卑劣な行為に屈することは決してありません。プラントは今後も平和な共存のために努力し続けます」
アスランはデュランダルのスピーチに耳を傾けながら、彼の言葉に力強さと冷静さを感じていた。
デュランダルの姿勢は、プラントの代表者としての威厳と自信に満ちていた。
彼の言葉は会場にいる人々の心に深く響き、プラントがこの困難な状況に対処する意志を示していた。
デュランダルのスピーチの後は質疑応答の時間となり、地球連合側の記者たちが続々と質問を投げかけた。
「プラントは今回のテロ事件についてどうお考えですか?」
「我々はブルーコスモスによる攻撃と見ています。彼らの暴力的な行為には断固とした対策を講じなければなりません」
「プラント側はこの事件の影響で再び戦争を始めることを検討していますか?」
「いいえ、プラントは平和の実現を追求する立場です。このような過激な行動に屈することは決してありません」
カガリは地球連合の記者たちの質問に、デュランダルが冷静かつ自信を持って答える姿を見て、感銘を受けていた。
彼はプラントの代表者として、強い意志と責任感を持って行動していた。
カガリは地球連合側代表として来ていたロード・ジブリールの姿が見えない事に気が付いた。
「アスラン、ロード・ジブリールはどうしたんだろう?」
「確かに姿が見えないな。何かあったのか?」
アスランは周囲を見回しながら、ジブリールがいない理由を推測した。
ジブリールの存在が見えないことはアスランにとって不吉な予感がした。
会見終了後、再び和平会議が開かれる。
だが奇妙な事に先日タカ派と言われるプラント排斥を主張する政治家たちは沈黙を守っていた。
あまりの呆気なさにカガリが驚いたほどだ。
「これでプラントは和平の意思を示せる。地球側もこれ以上強硬な態度をとるのは難しいだろう」
カガリが驚くほど地球連合側の反対意見は無く、特にロード・ジブリールと関係の深い議員は口を閉ざしていた。
会議が終わり、デュランダルは会場内でアスランとカガリに会った。
デュランダルは地球連合側からの質問に対応するために会見に出席していた。
「カガリ代表、会議はどうでした?地球連合側の態度は軟化したと思いますが?」
デュランダルが尋ねると、カガリは疲れた表情を浮かべながら答えた。
「地球連合側は今回の事件に関して沈黙を守り続けました。何故かロード・ジブリールも不在でした。彼らの態度に不信感を抱いている者も多いでしょう」
カガリも頷きながら補足する。
カガリは政治家として遥かに上の実力を持つデュランダル相手に恐怖さえ感じた。
手に汗をかくカガリの手をアスランが握ってくれなければ気迫負けしていただろう。
デュランダルは恋人たちの微笑ましい姿に笑みを浮かべて立ち去った。
今回のテロ事件でデュランダルは何かを知っているようだ。
「ジブリールがいないというのは奇妙だ。彼が地球連合側の代表者なのに、どうして姿を現さなかったのだろう?」
「わからないな。おそらく何か裏があるのだろう」
アスランは深刻な表情で答えた。
アスランの言葉からは警戒心が滲み出ていた。
地球連合側の態度に不信感を抱きながらも、プラントは平和の実現を目指し続けるという姿勢を貫いた。
アスランはデュランダルのスピーチや質疑応答を通じて、プラントがテロに屈せず平和を求める決意を示すことができたことに安堵していた。
「プラント側が強い姿勢で臨んだことで、地球連合側も強く出られなくなったと思う。これが平和への一歩になることを願うよ」
カガリが言うと、アスランは首を振った。
「そう簡単にはいかないだろう。ジブリールがいないことも不気味だし、ブルーコスモスの影も見え隠れしている。まだまだ油断はできない」
アスランの言葉にカガリも頷いた。
アスランの警告には一理あり、まだ平和への道程は遠いことをカガリも理解していた。
だが会議はハト派の地球連合政治家が主な提案を出すことで進展は早くなっただろう。
訝しむアスランとカガリにメイリンが近づきメイリンが二人にデータの入ってディスクを手渡す。
その中には今回のテロの首謀者がロード・ジブリールのものであり、すでに地球にいるウズミとこの会場にいるプラント代表団にも手渡されていると告げられた。
「なるほど。それで今回ロード・ジブリール配下の政治家がそろって弱腰な訳だ」
「デュランダルとジブリールが裏取引をしたんだろうな」
ニコルの父親はこういう裏の仕事をデュランダルに任せ表で善良な政治家を演じている。
だが今回の事件にブルーコスモスが関わっている事と愛しい息子が撃たれた事にはらわたが煮えくり返っていた。
それでも善人を演じなくてはならない事を老獪な政治家である彼は心得ていた。
ニコルの病室ではマユが泣きじゃくっていた。
ニコルが息を吹き返したのだ。
同じく隣にいたシンも大喜びだ。
「マユ……君のおかげで……僕は助かったよ……」
ニコルは弱々しい声で感謝の言葉をマユに伝えるとマユが泣きながらニコルに抱き着く。
マユは涙が止まらなくなり、さらに大きな声で泣き崩れた。
「ニコルさん!!マユはニコルさんのこと好き!!もう絶対に離れません!!」
ニコルが生きている事に感謝しながらマユは抱き着く。
それを微笑ましそうに眺めるシンとルナマリア。
「ニコルさん!大丈夫ですか!?」
病室に入ってきたメイリンが驚きながら声をかけた。
そしてその光景に微笑む。
ほぼ毎日のようにニコルからマユの可愛さ愛しい所、会いたい会いたいと聞かされてきた恋人が再会できたのだから。
「ありがとう、メイリン。少し疲れているけど、もう大丈夫だと思う」
ニコルの言葉にメイリンは安堵の表情を浮かべる。
「良かった……本当に心配したんですよ……。でも、無事で本当に良かった」
ニコルの怪我はかなり深刻だったが、奇跡的に生命を取り留めた。
「マユを助けようとしなければ、こんなことにはならなかったのに……ニコルさんの馬鹿」
マユは涙でにじんだ目をこすり笑む。
「僕がマユを守るって約束したんだ。僕はマユを守るために行動しただけさ」
シンもルナマリアも微笑んでニコルの手を取る。
シンの手がルナマリアの手に触れるがシンは意識していない。
ラッキースケベ男はこのくらいで意識しないのだ。
ニコルは照れたような表情で笑い、「君たちも無事で良かった」と返す。
アスランとカガリもニコルが目を覚ましたと聞いてすぐに病院に駆けつけたかったが、まだ和平に向けた事務手続きなどが残っている。
病院側がそろそろ面会時間が過ぎるとの事なので、シンとマユとルナマリアとメイリンは食事に向かう。
そこにデュランダルが入ってきた。
「ニコル君無事の生還おめでとう。私はテロの被害者がこれ以上増えなければと心配しているんだよ」
デュランダルの言葉にニコルは笑顔を浮かべる。
「ありがとうございます。でも本心ではないでしょう?だって父さんの暗殺に失敗しましたから。ブルーコスモスに父さんを暗殺させてその証拠を突き付ける事で彼らを黙らせる、ハト派しか残っていない地球連合相手に有利な講和条約を結ぶ。違いますか?」
ニコルの言葉にデュランダルは微笑んだ。
「いつから気が付いていたんだね?」
「先ほど目を覚ました時でしょうか」
ニコルがそういうとデュランダルは真剣な顔でニコルを見下ろした。
先ほどまでの笑みが消え冷徹な顔になる。
「変だと思ったんです。このテロはあまりにも杜撰だと。僕がテロをするならもっと確実な方法を取ります。プラントに会議でやりこまれたブルーコスモスは焦った。テロを鎮圧したプラントはブルーコスモスと親しいタカ派を失脚させる情報を手に入れた。テロを行った連合のタカ派を脅迫し外交の主導権を握る。後は弱腰の連合ハト派をから有利な和平条件を引き出す」
デュランダルは先ほどまでと違い感心するような顔になる。
「これでプラントにとって有利な和平条約が結べる。あなたはその功績で政界に確固たる地位を得る。最高評議会議長の椅子も手に入るかもしれません。よく言うでしょう、犯人はもっとも利益を得る者だと」
ニコルがそう言うとデュランダルは降参だとばかりに肩をすくめた。
同時にニコルを優しい微笑みで見つめる。
「君を確実に殺さなかったのが私の失態にならなければいいが」
「僕もあなたが最高評議会議長になりたいだけの器の小さい人でなかったのが残念です。何を考えているのかわかりませんが、世界の敵になるなら絶対止めて見せますからね」
そう言って二人は声をあげて笑った。
そしてユニウスセブンで地球連合とプラントの正式な和平条約が調印された。
双方の軍縮が盛り込まれたが、全体的にプラント側が優位な条約だ。
この日、戦争はおわったのだ。
◆◆◆
「カガリ、アスラン、おめでとう」
「お二人ともおめでとうございます」
キラとラクス、ニコル、シン、マユ、ウズミ。
その他沢山の人に祝福されてアスランとカガリの婚約式典は行われた。
五大氏族の主だった者全て、ロンド・ミナ・サハクを含めて出席し、事実上の結婚式だ。
ユウナ?
馬鹿め!!奴なら死んだわ!!
オーブの主だった氏族や政治家だけでなく一般人も含めたパーティでラクスが歌いニコルがピアノで演奏する。
本物のラクスの歌声はオーブ中に放送され、道行く人々を楽しませた。
オーブ国民に慕われているカガリ姫の晴れ姿にオーブ国民は釘付けだ。
特にお転婆時代を知っている年配層にとって喜びはひとしおだった。
相手のアスランはかつてのプラント議長パトリックの息子ということもあり、国民の反発があるのではとカガリとアスランは心配していたがまったくの杞憂だった。
ウズミさまとカガリさまが選んだ婿なら間違いがないだろうというのが答えだった。
アスランはオーブ建国史上、一番国民に認められた婿として語り継がれる事になるだろう。
「ニコル君。怪我の具合はどうかね?」
ウズミがニコルに話しかけてきた。
「はい。かなりよくなりました。カガリさんとアスランのパーティにご招待していただき光栄です」
ニコルはウズミに敬意を払って挨拶しました。
ニコルはカガリの弟代わりのような存在であり、またアスランの親友でもある。
ウズミはニコルを好意的な目で見ていた。
「ニコル君、君の事はカガリからよく聞いていたよ。聡明で勇敢な若者だという話だ。そしてオーブの救世主の一人でもある。カガリとアスランの友人であることはとてもありがたい」
ウズミの言葉にニコルは謙遜するように微笑む。
「いえ、カガリさんとアスランにはいつも助けられているんですよ。私のような若輩者がお二方と知り合いになれたことは幸せなことだと思っています」と返した。
「アマルフィ家といえばプラントの名門だね。君も将来、家の名に恥じない立派な政治家になるだろう」
ウズミがそう言うとニコルは顔を曇らせる。
「僕は政治の世界よりも音楽の世界で生きていきたいです」
ニコルがそう言うとウズミは少し驚いた表情を見せたが、すぐに優しい笑顔を浮かべる。
「そうだな。自分の興味のある世界で生きることが一番幸せだろう。君は素晴らしい音楽家になりそうだし、それが君の人生にとって良い選択になると思う」
ウズミはニコルの意思を尊重し、彼の選択を肯定する。
若者の未来を塞ぐつもりなどなかった。
「ありがとうございます。そう言っていただけると励みになります」
ニコルは感謝の気持ちを込めてウズミに頭を下げた。
カガリとアスランが婚約式を行った後もパーティは三日三晩続く。
ニコルはアスランとカガリの為にピアノを弾き続けた。
この平和な日々が一日でも長く続くようにと