【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
【外伝『僕の歌姫』 第三話 パーティ】
隠棲したとはいえキラもラクスも世間から完全に切り離された生活は難しい。
特に現オーブ連合首長国代表代理のカガリには荷が重いパーティなどにはお願いされて出ない訳にも行かなかった。
大戦の英雄キラ・ヤマトとアスラン・ザラ。
プラントの歌姫ラクス・クライン
この三人が後ろにいれば些細な障害など路傍の石と同然だった。
「特に何もしなくてもいい。後ろにいてくれ」
そうカガリに言われてキラとラクスは顔を見合わせた。
ラクスは乗り気で義理の姉(予定)のカガリが苦労しているのに放っておく事などできはしない。
カガリとアスランもキラとラクスが来れば出席者は喜ぶだろうと思っているが危険が伴うかもしれない。
「心配しないでください。わたくし、パーティーは得意ですのよ。キラも一緒なら大丈夫ですわ」
ラクスはキラの手を取り、自信に満ちた笑みを浮かべた。
「そうだね。ラクスが一緒なら安心だ。僕も頑張るよ」
キラは微笑みながら答えた。
パーティ当日までにマナーなどをラクスに教えて貰う事決定。
「それじゃあ、次の日曜日にまた連絡するよ」
カガリは満足そうに笑いながらキラとラクスの部屋を出て行った。
「ラクス、パーティはどういうものなの?」
キラは初めてのパーティに戸惑いながら尋ねた。
「パーティとは、社交の場であり、人々が交流する機会ですわ。特にカガリさんが出るようなのは政治家の方々も多く集まると思います」
「そうなんだ。でも、僕は何をしたらいいのかな?」
カガリはアスハ家の姫、アスランとラクスはプラントの上流階級として教育を受けている。
気後れするキラにラクスは優しく微笑んで答える。
「キラはただ楽しんでいればいいのですわ。わたくしがサポートしますから、安心してください」
「ありがとう、ラクス。でも、僕も何かできることがあるかな?」
ラクスはキラの手を取って言った。
「キラは自分の存在が特別だってことを忘れないでください。あなたの優しさや思いやりが、他の人々にも伝わるんです。キラが私やカガリさんアスラン、ニコル様達をうごかしたのですわ」
「照れるよラクス。それに僕はそんなすごい人じゃないよ」
キラはラクスの言葉に感謝の気持ちを伝える。
そういう偉そうぶらないキラの事がラクスは好きなのだった。
◆◆◆
パーティ当日、キラとラクスはカガリと共に会場に到着した。
豪華なシャンデリアが輝き、色とりどりの装飾が施された広間には、多くの政治家や芸能人、著名人たちが集まっていた。
キラは緊張しながらも、ラクスと手をつなぎながら会場に入った。
「キラさん、ラクスさんこんばんは」
「シン久しぶりだね」
「シンさま、お久しぶりですわ」
カガリは久しぶりに外へ出たキラとラクスに護衛としてシン・アスカを付ける事にした。
ちなみに会場外はマリューとナタルとバルトフェルドが守ってたりする。
「あれ?シン、マユちゃんはどうしたの?この間の婚約式典には一緒にいたよね?」
キラの言葉にシンは苦笑いしながら
「この間月に行ったときにニコルが怪我をしたので、完全に怪我が治るまで離れないっていうので、プラントに戻るニコルについて行って今プラントにいます」
「それは仕方ないね。でも帰ってくるんでしょ?」
「どうでしょう。あのままあっちに居座るかもって言ってました。それはないと思いますが」
シンとキラの会話を聞いていたラクスが微笑みながら
「多分帰って来ませんわよ。マユさんも恋する乙女ですもの。それにアマルフィ家でも歓迎されているでしょうし」
「ええ~勘弁してくださいよ」
ラクスの言葉にシンは天を仰いだ。
つい一年もしない間に自分の手から出て行ってしまった妹を想うと切ない。
だがいつかは訪れる事だったし、ニコルなら何があってもマユを守ってくれるし愛している。
止められる訳がないのだ。
そんな会話をしながらパーティ会場へ向かう。
「みなさん、こちらはプラントの歌姫、ラクス・クライン嬢と、彼女の婚約者であり大戦の英雄キラ・ヤマトさんです」
会場から割れんばかりの拍手が上がった。
こういう紹介をされるとキラは困る。
大戦はみんなで乗り越えたものだし、キラが一番評価されているジェネシス破壊は親友のニコルと一緒に行ったものだ。
ニコルも今頃プラントのパーティでピアノをひいているのだろうか。
もしそうなら、世界はやっと平和を享受している。
「さあキラ、一緒に踊りましょう」
そういってラクスの手に導かれてキラはダンスをする。
この日の為に特訓したキラとラクスのダンスはとても華麗で優雅。
周囲の人々はため息をつきながら拍手する。
キラもラクスも注目されるのが恥ずかしくて顔を赤くしながら踊りきった。
ラクスがキラに寄り添いながら囁いた。
「キラ、あなたは本当に素敵ですわ。わたくしはあなたのそばにいられて幸せです」
「ありがとう、ラクス。僕も君と一緒にいられて幸せだよ」
キラとラクスのダンスに拍手が沸き起こり、二人の周りには人々が集まってきた。
キラは戸惑いながらも、ラクスに導かれて挨拶を交わしていく。
「初めまして、ヤマトさん。素晴らしいダンスでした」
「えっ、あっ……いえ……」
突然話しかけられたキラはしどろもどろになってしまった。
ラクスがその長い黒髪で長身の女性に微笑みながら答える。
「ありがとうございます。キラは少し照れ屋なんですわ」
「そんなことはない。私はとても素晴らしいダンスだったと思います」
そうキラに話しかけたのはカガリの政敵ロンド・ミナ・サハク。
カガリも政敵とはいえ招待状を送らない訳にはいかない。
「サハク様、ありがとうございます」
ラクスが礼を言う。
ロンド・ミナ・サハクはカガリの政敵として有名な人物だった。
しかし、彼女は非常に教養が高く、人望も厚いことで知られていた。
彼女の政治に対する考え方や行動は、時には厳しいものがあったが、それも国を良くするためだと信じていた。
少なくともサハク家はそう主張している。
だがカガリは『あいつらにはオーブの理念がわからないんだ!!』と言っている。
だからてっきり頑固で話の分からない人だと思っていたが違うようだ。
カガリの言っていた人物像とは違い、威圧的だが悪い人には見えない。
キラは少し緊張しながらも、「ありがとうございます」と言葉を返した。
とても魅力的な人だとキラは思った。
美しさではラクスには及ばないが、魅惑的な魅力がある。
例えるなら闇と狂気。
危うさの中にある魅力。
「ところで、キラさんは音楽がお好きですか?」
キラは頷きながら答えた。
「ええ、特にピアノが好きです。最近はラクスと一緒に演奏することもあります」
「それはご親友がピアニストだからでしょうか?」
「はい。到底及びませんが」
プラントの著名なピアニストと比べるのは酷というものだろう。
「是非聞かせて頂きたいものです。答礼にサハク家でパーティを開きます。その時にピアノを用意させておきます」
「ありがとうございます。考えておきます」
「楽しみにしていますわ。ではまた」
そう言うとロンド・ミナは微笑みながら会場の人ごみの中へ消えていった。
その後もキラは多くの人々と出会い、会話を交わし慣れない話題に触れる事も多かったがその都度ラクスがフォローしてくれた。
ラクスはキラの手を取りながら優しく微笑む。
「キラ、どうですか?パーティの雰囲気には慣れましたか?」
キラは照れながらも笑顔で答えた。
自分の知らないラクスの一面を多く見れただけでも十分来てよかったと思う。
「うん、ラクスがそばにいてくれるから、大丈夫だよ。少しずつ慣れてきたし、楽しいね」
ラクスも笑顔で答える。
「それは良かったですわ。これからも一緒にいろんな体験をしていきましょうね」
キラは微笑むとラクスを優しく抱きしめてありがとうと囁く。
ラクスは微笑み返し手をつなぎながら、パーティの会場を後にした。
パーティ会場を後にするキラとラクスの背中を見送ったあと。テラスでカガリはロンド・ミナと秘密の会談をしていた。
「あまりうちの弟に良からぬことを吹き込まれては困る」
「我はまだなにも言っていない。彼を我が家のパーティに招待しただけだ」
カガリがロンド・ミナを睨むが微笑みで返されてしまった。
まだ政治家としてカガリはヒヨコなのだが、獅子の娘たらんと研鑽しているのでこのくらいの事で音を上げられない。
そんなカガリをロンド・ミナは微笑ましく見ている。
我に頭を下げ忠誠を誓う者は間に合っている。
目の前のウズミの娘くらい気骨があるほうが見ていて面白い。
それに中立国家オーブを率いる獅子がサハクに媚びへつらうようでは困る。
その場合は噛み殺して全てを奪い取るだけだが、ロンド・ミナはオーブにばかりこだわってはいられない。
「テロリストの動きが活発化していると聞いた。はっきりと聞いておくがサハク家の仕業じゃないだろうな?」
「それはありえない」
「なんでそう言い切れる?」
「我らがそうそう尻尾を掴ませると思われたのなら、サハクに対する侮辱というもの」
カガリは長身のロンド・ミナを見上げて睨みつける。
ロンド・ミナ・サハクにこのような態度を取れる者はオーブには殆どいないだろう。
良い。大変好ましい。
「……疑って悪かった」
「わかっていただけたら結構。だがキオウ家(外交、情報、文化)の情報なら確かではないか?」
「わかってる」
「光と影はお互いが対となるもの」
「なんだそれは?」
「我らサハクは今は影。だが光が弱まれば」
「アスハ家を飲み込むといいたいのか?だったらサハク家は一つ勘違いをしている」
「勘違い?」
「私が愛するのはオーブだ。アスハ家ではない」
「それを聞けて我も安心した」
カガリとロンド・ミナは笑顔を交わし別れた。
このパーティでロンド・ミナの後ろに立つ少女がいる事に気がついた者はいない。
少女は黒いレースのヴェールを被りその顔が見えない。
だがその体から漂う雰囲気はとても冷たく暗い。
ロンド・ミナは振り返る事もなく話す。
「これでいい。後は任せる」
「かしこまりました」
少女は影の中に溶けていくように消えていった。