【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
【外伝『僕の歌姫』 第四話 ロンド・ミナの招待】
カガリ主催のパーティから数日後、キラとラクスとヤマト夫妻、カガリ、アスランが揃って夕食を食べている。
アスランとカガリは普段行政府官邸に住んでいるが、可能な限り時間を作っては別邸に住むキラ達と共に一緒に食事をして過ごしていた。
今日はカリダさんとラクスが一緒に作ったシーフードパスタだ。
オーブ近海の魚介類を使ったパスタでオーブではよく食べられる。
「キラ。やっぱりお前食細すぎるぞ。もっと食え」
「これでも食べてるんだよ」
「キラは元々あまり食べない子だったから、私も色々工夫はしたのよ」
「でも以前よりは召し上がるようになられましたわ」
カガリ、カリダ、ラクス達女性陣に囲まれてパスタを多めによそわれるキラ。
みんなキラの身体が細い事を気にしているのだがこれでも以前より食べるようになった。
その理由をアスランはニコル経由で知っている。
ラクスを助ける為に体力を付けようとしているのだ。
キラの涙ぐましい努力にアスランは微笑みを浮かべる。
ラクスを失った前世を繰り返さない為にキラは変わろうとしている。
平和になったのだから無理しなくても良いと思うのだが、元々痩せているのでアスランとしてもキラには食べて貰いたい。
それはキラの父親ハルマも同意見のようで、女性陣にパスタを手渡される息子の様子に笑みを浮かべた。
やっと戦争も終わり、コーディネイターとナチュラルとの関係も落ち着いてきたように見える。
ここでは一足早くナチュラルとコーディネイターが調和する幸せな未来が訪れていた。
このままプラントと地球の関係改善になればいい。
そう思ってアスランがコーヒーに口づけようとした時だ。
見張りの兵士からインターホンが繋がれ、来客が告げられる。
ボディチェックが済んだ来客は黒いレースのヴェールを被った少女だった。
「こんばんは、私、ロンド・ミナ・サハクの使いです」
カガリとアスランが顔を見合わせ警戒する。
常日頃から頭が痛い政敵からの使い。
しかもこんな夜のプライベートな時間に。
「サハク家……?」
キラは少し警戒しながら尋ねた。
「はい。ロンド・ミナ様がサハク家のパーティにカガリ様とアスラン様とキラ様とラクス様を招待したいとのことです」
使者の言葉に即答できないキラとラクス。
アスランとカガリは正式な招待状を送られたからには政治的立場上出なくてはいけないが、キラとラクスはそうではない。
先日のパーティで出席を快諾したとはいえ、てっきり社交辞令で誘われたのだと思っていた。
何よりロンド・ミナは腹の底がわからない。
闇のような妖艶さがある。
一歩間違えば引きずり込まれるかもしれない。
「キラ、無理して出なくてもいいんだぞ」
カガリはそういってくれている。
キラとラクスが出席を断る理由ならいくつか手段はあるのだろう。
ラクスはキラに視線を向けながら、「いかがなさいますか?」と聞いた。
キラは少し悩んだが、「ありがとうございます。参加させていただきます」と答えた。
黒いレースのヴェールの少女は優雅にお辞儀をした。
「ありがとうございます。では、日程と詳細をお知らせします」
少女は一枚のカードを差し出した。
場所はアメノミハシラと呼ばれるサハク家が住む宇宙ステーションだ。
「それでは失礼いたします」
そして彼女は去っていった。
キラは彼女が消えた方向を見つめたまま動かない。
「何か……怪しくありませんか?」
ラクスはキラの不安そうな表情を見て心配そうに尋ねた。
「何か……嫌な感じがする」
キラは首を横に振って答えた。
「僕は怖いけど……行かなきゃいけない気がする。カガリがいつも言ってたロンド・ミナという人がどういう人なのか見てみたいし、それに……」
「それに?」
「サハク家のパーティに招かれたら、何か重要な情報が得られるかもしれない」
ラクスは心配そうにキラを見つめた。
キラの意志が固い事を察したラクスはキラの手を握る。
「わたくしも共に参りますわ」
「ありがとう。僕も君がそばにいると心強いよ」
キラとラクスはお互いに手を取り合い、不安と期待が入り混じった気持ちでパーティに向かうことを決めた。
◆◆◆
アメノミハシラへは宇宙船で向かう事になる。
元々オーブが建造していた宇宙ステーションだったがステーションと言っても巨大で居住区は勿論、工業生産プラントとしてMSの開発、設計、製造と一通り行う事ができる。
アメノミハシラを防衛する部隊まであり、モルゲンレーテ社を裏から操るサハク家の居城に相応しい備えだ。
オーブの物でありながらオーブではない独自の動きもしている。
アメノミハシラはカガリ達にとって敵地といえる。
「ここまで来たら引き返せないからな」そうカガリが言いキラ、ラクス、カガリ、アスランの四人で手を合わせる。とてもこれからパーティに行く一行とは思えない。
緊張感が漂う中、宇宙船はアメノミハシラへの航路を進んでいた。
CE世界では宇宙と地球との往復は日常の物になっている。
それをもっと便利なものにしようとオーブの技術力で軌道エレベーターとして建設されたが、開戦と同時に工事が中断され残ったステーション部分がアメノミハシラと呼ばれている。
「キラ、大丈夫ですか?」
ラクスが隣に座るキラの手に手を置きながら尋ねた。
「うん……でもなんだか胸騒ぎがするんだ」
キラは窓の外を見つめながら答えた。
ロンド・ミナの笑みが頭から離れない。
底知れぬ不安が拭えない。
いったい自分たちを招待して何をさせようとしているのだろう。
「オーブの宙域とはいえ、サハク家の支配下だ。用心は必要だろう」
アスランが腕組みをして言った。
プラントにいた時名前は聞いていたが、実際にカガリと一緒に仕事をすることになって調べたらサハク家は真っ黒だった。
オーブの軍事関係に網の目のように勢力を張り巡らせている。
モルゲンレーテ社だけでなく、独自のMS開発も行っているようだ。
表の顔はモルゲンレーテ社だが裏ではサハク家が暗躍していると思われる案件がいくつもある。
カガリが苦労するのも当然だと言える。
カガリは眉間にしわを寄せた。
「あいつらが何を企んでいるのか分かったものじゃない。特にあのヴェールの少女……」
「確かに怪しいな」
アスランが同意する。
「顔も名前も分からない使者だった。普通はそんなことをしないはずだ」
「あんな子供に大事な伝言を任せるか?絶対にありえん」
カガリも今回は流石に読めない。
カガリの謀殺もありうると思ってアスランが前もって手配した宇宙船をチェックしたが問題は無かった。
敵がこちらの動きを読めないようにこちらも相手の動きを読む事は出来ない。
ただひとつ分かるのは。
「アメノミハシラは危険だ。みんな気を引き締めて行こう」
カガリが決意を込めて言った。
その言葉に一同は頷き、宇宙船はアメノミハシラの港に向かう。
アメノミハシラに到着した四人は厳重な警備を受けて入港した。
入港手続きはアスハ家の名前を使いすぐに終わったが、到着してからも厳しいボディチェックや安全検査が行われた。
「まるで別の国だな」とカガリは小声で呟いた。
まさにここはサハク家の城でオーブとは違う国といったほうが正しい。
ステーション内部は豪華で洗練されていたが、そこかしこに武装したサハク家の兵士たちが見張っている。
「皆様、ようこそいらっしゃいました。私はロンド・ミナ様の側近でございます」
先日の黒いヴェールの少女が迎えに現れた。
相変わらず得体がしれない。
「出迎えご苦労。そろそろ名前くらい名乗ったらどうだ?」
カガリがそういうとヴェールの少女はヴェールを取って顔を見せた。
長い黒髪でまるで巫女のような神聖さを秘めた整った顔立ちの美少女。
その瞳は深い紫で吸い込まれそうな神秘性を持っていた。
「わたくしはロンド・ミナ様の侍女、シズク・セイラと申します」
彼女は礼儀正しく頭を下げたが、その言葉には何か違和感があった。
「シズク・セイラ?そんな名前の少女がサハク家にいるとは初耳だな」
カガリは不審な眼差しを向けた。
「はい。最近まで私の名は秘されておりました」
その声は穏やかだがどこか冷たい。
キラは不意に背筋が凍るような感覚に襲われた。
この少女は危険だ。
「シズクさん、お聞きしたいことがあるのですが」
ラクスが優しく尋ねた。
「なんでしょう?」
「なぜ、ロンド様はわたくしたちをお招きになったのでしょう?」
シズクは微笑んだが目は笑っていなかった。
ラクスも瞳を細めてシズクを見る。
プラントの歌姫はシズクを訝し気に見つめた。
「それは……ロンド様が直接お答えになるでしょう。どうぞこちらへ」
彼女は先導し始め、四人はシズクについて歩き出した。
廊下には高級な絨毯が敷かれ、壁には豪華な装飾が施されていた。
天井は高く、明かりは優雅に照らしている。
その中を進む四人の心には不安が渦巻いていた。
「このステーションはとても美しいですね」
ラクスが言葉を絞り出すように言った。
「はい。ロンド様は芸術にも造詣が深く、このアメノミハシラを理想の形に作り上げました」
シズクが丁寧に答えた。
その口調はとても誇らしげだ。
主君の趣味がよいと褒められたのだから嬉しいのだろう。
「そんなロンド様がわたくしたちに何をご用意してくださるのか楽しみですわ」
ラクスの言葉にキラも頷いた。
「うん……何があるんだろう」
だがキラは不思議な感覚に襲われた。
シズクと目が合った時に感じる恐怖のような感情。
彼女の瞳は紫だったが何か別のものが潜んでいる気がした。
「こちらがパーティ会場です」
シズクが扉を開け、四人は中に入ると驚愕した。
そこには巨大な空間が広がっていた。
美しいシャンデリアが輝き、豪華なテーブルと椅子が並べられている。会場の中心にはピアノが置かれていた。
「すごいな……これがロンド・ミナのステーションか」
カガリは驚きの声を上げた。
「こちらにお座りください。もうすぐロンド様がいらっしゃいます」
シズクは優雅に手を差し出し四人を座席に案内した。
カガリはシズクに鋭い視線を向けた。
「シズク。お前は一体何者だ?」
「私はロンド様の家臣です。とても、とても返しきれない御恩があります」
シズクはそういってカガリに一礼した。
カガリも今まで何人も忠義な家臣を見てきたが、シズクはまるでロンド・ミナを恋い慕う子供のように見えた。