【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
【外伝『僕の歌姫』 第九話 潜入】
ロドニアの研究所はMSや戦闘ヘリ、戦闘車両に守られている。
周囲は高い塀に囲まれ、地雷が敷設されている。
正面のゲートには武装した警備兵が立っていた。
外見は収容所のようで、何かを燃やすための煙突などが立ち並ぶ。
何を燃やすのかなど考えたくもないが。
潜入は夜間に行われる予定だ。
アークエンジェル内でアスランはジャスティスのコクピット内にいた。
他にキラのフリーダムとシンのアストレイとムウのストライクも格納してある。
ドミニオン内ではオルガのカラミティ、シャニのフォビドゥン、クロトのレイダーも準備が出来ていた。
ロドニア研究所の機能が麻痺したらアークエンジェルとドミニオンは一気に大気圏を降下してロドニアを強襲し、MSや守備部隊を蹴散らして子供たちを乗せて宇宙へ脱出するのだ。
時間との勝負に緊張が走るが問題はオルガとシャニだ。
自分たちも同じような扱いをされたので復讐に燃えている。
不必要な殺戮は厳重にアリスから禁じられているが暴走しかねない。
とはいえモルゲンレーテ社製の薬が効いているのか、最近は不必要な闘争心や殺戮衝動は少なくなった。
それでもアリスには不安が残る。
バルトフェルドが率いる救出班は基地の外壁に近づいていく。
バルトフェルド自身は今回のような潜入任務を幾度となくこなしてきた実績がある。
「地雷原の位置はこれで合っているのか?」
バルトフェルドがクロトに確認した。
クロトは首を縦に振る。
「ああ。このあたりに一番多く埋設されている。何人も自殺同然に逃げ出して死んじまった」
クロトは歯を噛みしめて悔しそうにつぶやいた。
地雷原に逃げれば間違いなく死ぬだろう。
それでも耐え切れなかった子供たちが何人も逃げ犠牲になった。
「大丈夫だ。それも今日終わる」
バルトフェルドはクロトの肩を叩いた。
彼の言葉を聞いてクロトは顔を上げる。
「ここから先は俺について来い」
バルトフェルドの指示で救出班は地雷原を慎重に進んでいく。
この日の為に開発しておいた地中に埋められた異物を探知するゴーグルを全員装着していた。
当然モルゲンレーテ製である。
暗闇の中を慎重に進むとようやく塀の近くまで辿り着いた。
塀の高さは6メートル程もあり、とても登れるような高さではない。
更に塀の頂点には高圧電流を流すワイヤーが張り巡らされ、センサーが周囲を見張っている。
「あれは?」
キラが指さす方向に大きなアンテナのようなものが立っていた。
それはレーダーや通信設備といった感じではなく完全に異質な雰囲気を醸し出していた。
「あれは恐らく地球連合の新型索敵装置だろうな」
バルトフェルドの説明にクロトは頷いた。
「俺がいた時にあんな物はなかった。警戒が強化されてる」
クロトの表情が険しくなる。
「ここは一旦潜伏しよう。敵に気づかれてしまっては元も子もないからな」
バルトフェルドの言葉で一同はいったん塀の影に身を隠した。
その間にアリスは研究所へ電子戦を仕掛ける準備をする。
小型の端末を取り出して、キラが驚嘆するほどの速度と正確さでアリスは端末を叩いた。
時々ノイマンとかマリューみたいに異能のナチュラルが現れるが、アリスもその一人だった。
ムウがクロトに尋ねた。
「クロト。君がいた頃と変わっている部分はあるか?」
「あの辺りが増築されて建物が二棟増えた。あと向こう側に兵士の監視塔が増えてロケットランチャーがある。ストライクダガーも配備されている」
「ふむ……わかった。ありがとう」
クロトの情報を参考にバルトフェルドは作戦を組み立て直す。
ダコスタが広げた研究所の地図と司令室の配置。
そして監視塔などを考慮に入れた潜入路を記した。
「まずは潜入だ。それから敵の数を確認し子供たちの居場所を把握する」
バルトフェルドがそう言うと全員が頷いた。
「では行くぞ!」
バルトフェルドの掛け声とともに救出班は塀に取り付いていった。
キラたちは匍匐前進で塀沿いを進み地雷を探知機で探りながら進んでいく。
途中で塀の辺りから物音が聞こえる。
巡回の兵士だろう。
彼らは定期的に見回りをしているようだ。
見つからないように息を潜め、塀沿いに進んでいくと小さな門があった。
おそらく関係者用の通用口だろう。
クロトが先頭になって進むと扉に鍵がかかっておらず、簡単に侵入できそうだがバルトフェルドがクロトの前に出た。
その様子を見てムウがバルトフェルドの隣に付く。
「トラップですか?」
「らしいな」
バルトフェルドが赤外線ゴーグルで見る。
扉を開けると赤外線に触れ警報が鳴り響くようになっている。
「なるほどね。ただの研究所じゃない訳だ」
バルトフェルドが呟きながら慎重に扉を開けてトラップを解除していく。
数分後に扉は完全に開いた。
「よし。これで入れる」
バルトフェルドが言うと全員が中に入っていく。
中に入るとそこは小さな部屋になっており奥に続く通路があった。
そこは以前クロトも通ったことがある通路で奥へと続く。
「この先に警備室がある」
クロトの言葉にみんな頷いた。
「まずは警備室から制圧していこう」
バルトフェルドの号令のもと一行は奥へと進んでいく。
途中いくつかの分かれ道があったがクロトの案内で特に問題なく進んでいく。
やがて大きな部屋に出た。
そこは警備室というよりも監視センターに近い構造になっているようだった。
暇そうにモニターを見ていた二人の兵士にモルゲンレーテ特製の催眠ガス弾を撃ち込んだ。
「何だ!?」
異変に気が付いた兵士が立ち上がるがすぐに眠ってしまう。
ムウとバルトフェルドが手早く兵士を縛り制圧した。
大きなモニターにいくつかの映像が映し出されていた。
モニターには監視カメラから撮影された映像が映っている。
各監視カメラが捉えた映像が表示されていて、部屋ごとに数人ずつ子供が閉じ込められている。
トールとミリアリアがカメラで様子を撮影し、キラとアリスが警備室のコンピュータに端末を繋いで内部から情報を抜き取りだす。
そしてキラがキラとメイ☆リン謹製のコンピューターウイルスを仕込んだ。
アリスがロドニアラボのシステムを掌握する。
「マスターロック解除できました。いつでもどうぞ」
アリスがそう言って報告する。
監視カメラに短い金髪の小さな女の子が映っていた。
金髪の女の子は手錠を嵌められていた。
「酷い事しやがる」
シンが怒りに身体を震わせた。
その時金髪の女の子が監視カメラに振り向いて悲しそうに微笑んだ。
シンは一目で彼女が筆舌に尽くしがたい苦悩を抱え、心が壊れかけているのがわかった。
『お兄ちゃんだれ?ステラを助けに来てくれたの?』
少女の瞳がシンに訴えかける。
それは錯覚だがシンにはそう見えたのだ。
シンが後ずさり、そして拳銃を引き抜いて眠っている兵士に銃口を向けた。
「シン!?」
シンの突然の行動にキラとムウがシンを押さえつける。
「落ち着けシン!!」
「シン!!騒いじゃ駄目だ!!」
「でも早く助けないと!!」
「勿論助ける!!だから少し待て!!」
シンが激昂したのを見てクロトは俯く。
少女達を一番助けたいのはクロトだった。
そんなクロトの手をアリスが優しく握る。
そしてクロトの頭を撫でる。
「ごめんなさい。私達がもっと早く来てればあなたが苦しむ事は無かったのに……」
「……別に」
クロトはそっぽを向くがアリスの手は振り払わない。
「……ここから先は俺が案内する」
クロトは警備室の一角にある鍵付きの箱を開けて中にある鍵を取り出す。
それをアリスに渡した。
「これがマスターキーだ。これで電子ロック以外の部屋には入れる」
「ありがとう。それとクロトは私と一緒に来て」
アリスはクロトの手を握りしめる。
クロトはシン以上に怒りを覚えていた。
クロトの手を離してはいけないとアリスにはわかっていた。
残されたキラ達も急いで追いかける。
「シン。あんな事言って悪かったよ」
ムウが謝るとシンは首を振る。
「俺こそ熱くなってしまってすいません」
「いいさ。あんな可愛い子が捕まってたら、誰だって助けたくなるさ」
ムウは自分の過去を振り返りながらそう言った。
その話を聞いたキラ達は何も言えなかった。
皆それぞれ理由があって戦っていたのだから。
「おーい。早く来い」
前方にいるバルトフェルドが呼んでいる。
キラ達もすぐに走り出した。