【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
【外伝『僕の歌姫』 第十三話 希望の灯】
───暗い。
息をすることも、まばたきすることもできない。
音も光も、何もない。
海の底にステラは沈んでいった。
周りを泳ぐ魚はステラの事を避けるように通り過ぎていく。
ステラはそれが魚ではなく施設に一緒にいた子供たちだとわかった。
ステラが壊してきた子供たちの未来。
生き残る為に這い上がるしかなかった。
最初に“処分”されたのは、誰も傷つけられなかった子。
その子は“いらない子”だった。
次に処分されたのは弱い子。
病気やケガを負った子、試験を受けられなくなった子は容赦なく“処分”された。
ステラは生き残る為に試験を受け続けた。
そして、生き延びた。
ステラが振り返ると、たくさんの子供たちの手が伸びてくる。
「いや───来ないで」
その手に後ずさりし、走って逃げた。
それでも無数の手がステラの髪や身体を掴む。
『友達だって言ったのに』
ステラと仲が良かった“処分”された友達が囁く。
成績が悪いとご飯を減らされる。
この友達は特に成績が悪く、いつもお腹を空かせていた。
ステラは友達の為に少しずつパンをちぎってわけてあげた。
次第に仲良しになったある日、ステラの訓練相手に選ばれたのがその子だった。
『壊せ』
大人にナイフを渡されて、相手が動かなくなるまで壊すように言われた。
拒否する権利などステラ達には無かった。
泣きながら必死にナイフを手にステラに襲い掛かる友達。
初めての友達。
ステラは友達の胸にナイフを突き立てた。
生き残る為にそうするしかなかった。
友達の亡骸を抱き泣きながら、ステラは二度と友達を持たないと誓った。
その瞬間、ステラの中の“心”も一緒に壊れた。
それ以来、笑い方を忘れた。
『撃て』
そう命じられたら何でも撃った。
犬も猫も人間も。
教官たちは人間の事を“コーディネーター”と言っていた。
捕らえられたコーディネイターが射撃の的だった。
撃たなければ処分される。
どうして処分されたくないの?
友達を“壊す”。
壊してまでどうして生きているの?
撃つたびに、自分が誰なのかがわからなくなっていった。
気づけば“ステラ”という名前の響きすら遠くなっていた。
死にたくない。
……どうして?
生きている価値なんて無いのに。
価値がないのに、どうしてこんなに怖いのだろう。
『───誰か助けて!!』
幾多の亡者たちに捕まれてステラは泣き喚く。
その時、ステラの手に暖かな小さな石が握られている事に気が付いた。
白い光を放つ石が背後からステラを掴む亡者の手を払いのける。
ステラの手を暖かな手が握ってくれた。
『───シン?』
呼ぼうとしても声が出ない。
その暖かさにステラは咽び泣いた。
石を通してシンの暖かさがステラを包み込んでいた。
───ピッ、ピッ、ピッ。
医務室の心拍音が微かに速くなった。
シンは息をのむ。
ステラの指が、ほんの少し動いた気がした。
「ステラ……!聞こえるか? 俺だ、シンだ……!」
シンの声を聞いてステラの唇がかすかに震える。
海の底からステラを救いあげてくれた暖かな手。
その手の持ち主がシンだとわかる。
『どうして……助けるの? ステラは…壊す子なのに……』
ステラの言葉にシンは泣きながら頭を振った。
そんな事はもうしなくていい。
そうシンは言いたかった。
「違う! 壊さなくていい! もう壊さなくていいんだ……!ステラは俺が守るから……!」
その叫びは祈りでもあり、願いでもあり、赦しの言葉でもあった。
その瞬間、ステラの胸元にあった白い石が淡く輝きを放つ。
ほんの微かな光だが、それは確かにステラの鼓動を灯す希望の明かりだった。
ゆっくりと瞼が開かれる。
虚ろだった瞳に希望の光が灯る。
「シン……」
シンの名を呼び返した。
シンはステラを抱きしめながら大粒の涙を流した。
シンの腕の中でステラは微笑む。
「───怖かった。……でもシンが守ってくれた」
「ああ、守るさ。ずっとこれからも……絶対に」
シンの言葉にステラはうなずく。
ステラの口元がゆっくりと動いた。
「ステラ……シンが好き」
「……俺もだ。ステラが好きだ。俺が守る」
───ピピッ、ピピッ。
モニターの波形が上がり、医師が駆け寄る。
シンはステラの手を強く握った。
「もう離さない。どんな運命でも、俺が一緒に背負うから」
ステラのまつ毛が微かに震え、薄く閉じていた瞳が少しだけ開いた。
そこに映ったのは、泣きながら笑うシンの顔だった。
「……シン…好き…」
その一言が、医務室に希望の音を戻した。
医師が慌ててステラに処置を施すのを、シンは大粒の涙を流しながら見つめる。
窓の外では、夜の宇宙が静かに流れていた。
星々が二人を祝福するように瞬いていた。
誰も言葉を発さず、その小さな光に希望を見た。
「ステラ……よかった……本当に……」
シンの言葉にステラは小さく頷いた。
そして、シンの手を弱々しく握り返した。
その手の中にあるハウメアの石は、静かに淡い光を放っていた。
───その夜、ステラの命は、シンの腕の中で再び灯りを取り戻した。
今回は本編のステラが子供の頃に行われたナイフ戦闘シーンナチス収容所風味CEソースがけです(なんのこっちゃ)
書いててつくづく思いますが、私は本当にブルーコスモス嫌いなんだなあと。