【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
【外伝『僕の歌姫』 第十四話 悪夢の終わり】
ハーバーコロニーに到着し、ステラは本格的な治療を受ける。
生きているのが不思議なくらいの重症だったが、危機が去ったのも事実だった。
ハウメアの石がステラの魂を現世に繋ぎとめたとシンは疑っていない。
ステラは夢を見ていた。
暖かくて白い光に包まれた夢。
いつもの暗く水底に沈む夢じゃない。
優しい歌声が聞こえてくる。
誰かが頬を撫でてくれる感触。
(……ステラちゃん)
かつて一緒に笑い、そしてステラが壊させられた友達。
その子が笑っていた。
(……カナちゃん?)
その子の名前をステラは思い出した。
カナという名前の少女だった。
(……ごめんね…ごめんね…カナちゃんにステラ酷い事をして)
(いいんだよ…ステラちゃんがすごく苦しんでるの、カナずっと見てた。だからもう苦しまないで)
(……ステラを許してくれるの?)
(ステラちゃんを恨んだ事なんてないよ。だからカナの分まで生きて)
そう言って笑うカナ。
ステラはカナの手を取って泣く。
ずっとずっと苦しかった。
友達を殺めた事で心が壊れてしまった。
(あはは…ステラちゃんは泣き虫だね。カナそろそろいくね。ステラちゃんもいるべき場所にいこうよ。みんなステラちゃんが目を覚ますのを待ってるよ)
(カナちゃんありがとう…ステラ…カナちゃんの事絶対忘れない)
(カナもステラちゃんの事忘れない。ずっとずっと友達だよ)
そう言ってステラの親友は空の上へ羽ばたいていった。
───麻酔が解けてステラのまぶたが開く。
白い天井と静かな機械音。
照明の光が差し込む病室でシンがステラの手を握ってくれていた。
(……シン)
ステラがシンの手を弱々しく握り返す。
シンが大粒の涙を流しながらステラの手を優しく握り返した。
とても暖かくて優しい手。
ステラが今まで触れたことが無い優しさを感じる。
「ステラ……よかった。よく、頑張ってくれて。俺は…俺は」
「……シン」
ステラが微笑むとシンがステラの身体を抱きしめた。
包帯を巻かれた身体は痛かったがステラはその痛みも心地よいと感じていた。
痛みを感じる事は生きているという事なのだから。
シンに微笑んだ後、ステラは再び瞼を閉じる。
次に目を覚ました時はシンに思いきり甘えよう。
今までずっと抱えていた苦しみの海から助けてくれたシンの温かな光。
ずっと支えてくれたシンの声。
きっと一生忘れない。
(シンの声…ずっと…聞こえてたよ)
シンの後ろに何人か立っている気がした。
だが意識が戻ったばかりのステラにはよく見えなかった。
ピンクの髪をした女の人がシンに「もう少し眠らせてあげましょう」と囁いた。
(……なんて綺麗な声)
ステラにとってその声はシンの次に好きな声になる。
───
ハーバーコロニーでは急ピッチで家屋が建てられている。
ジャンク屋組合が本腰を入れたコロニー内部の改造が行われているのだ。
その作業を見ながらマリュー・ラミアスはステラが無事目を覚ました事をラクスから聞いた。
「そう、ステラさんの手術は成功したのね」
「はい。シンさんもキラもアスランも皆さんも、とても喜んでいますわ」
マリューにとっても嬉しい報せだった。
今まで沢山の敵を倒してきた。
血塗られた両手で救えた命が一人。
たった一人の命だが無駄ではなかったのだ。
今回救い出した子供たちは八十人ほど。
たった八十人だがここから始めようとマリューは思った。
まだブルーコスモスに捕らえられた子供たちは大勢いるだろう。
キラやアリス達の情報でいくつかの研究所の存在が明らかになった。
これ以上犠牲者を出してはいけない。
ステラのような子供たちを戦争の道具にしてはいけない。
マリュー達の戦争はまだ終わっていない。
───数日後、目を覚ましたステラは隣でうたた寝をしているシンに気が付いた。
ステラの容体が安定するまでずっと手を握っていてくれたのだ。
その手にはハウメアの石が握られている。
「……シン」
ステラが小さく囁くとシンが目を覚ます。
その一言にシンは涙を流しながら笑った。
たくさんの命を奪ってしまった。
その一人ひとりに未来があって、たくさんのステラがいた。
シンは自分が沢山のステラを殺した事を自覚していた。
───だけど。
たった一人だけど、救う事ができたんだ。
それだけで贖罪になるとは思わない。
だからこそ尊いものだとシンは知った。
泣きながら笑うシンの姿を見て、ステラも微笑みながら涙を流す。
───翌朝。
ハーバーコロニーの陽が昇り、湖面を金色に染めていた。
病室の窓辺に腰掛け、ステラは静かに外を眺める。
傷ついた体はまだ思うように動かないが、胸の奥で確かな鼓動を感じた。
それは痛みでも苦しみでもなく、“生きる音”だった。
そこへシンが入ってくる。
手には朝食と、小さな白い花。
「見て、外に咲いてた。スノーベルっていうらしい」
花瓶に挿された白い花を見て、ステラは微笑む。
ステラの心を灯す花。
花言葉は純粋。
「ステラも、この花みたいになれるかな」
「必ずなれるよ」
ステラはその言葉にうなずき、窓の外を見つめた。
子供たちが笑いながら走っている。
その声が、まるで新しい世界の始まりを告げているようだった。
(今度は──壊さない。誰かのために、生きてみたい)
ステラの心に、静かに光が灯った。
───ステラがシンの押す車いすで動けるようになった頃、湖畔のコテージで子供たちの為にラクスのコンサートが行われていた。
陽が傾きかけた湖畔の風は少し肌寒いが子供たちは誰も去ろうとしない。
雲の隙間から差す陽がラクスを照らし、まるで女神のように神々しい。
ラクスの歌声はとても美しく子供たちの壊れかけた心を癒していく。
「…とても綺麗な声」
「うん」
「シン…ステラ…すごく幸せ。シンのお陰だよ」
「俺も幸せだよ」
シンとステラは静かにラクスの歌声に聴き入る。
風が草木を揺らし、人工の陽が傾いてきた。
まもなく夕焼けになるだろう。
「二時間後に雨になるんだって。そろそろ戻ろうか」
「うん。シン、ステラが歩けるようになったらまたここに来たい。もっと元気になったら湖で泳いでみたい」
水底に沈む夢は見ないだろうとステラは思っていた。
きっとシンがいてくれるから。
だから怖くない。
もう怖い夢は見ないと信じている。
……シン✕ステが止まらない!!ルナが入り込む余地ががが。でもステラの笑顔を見たい人は多い筈っ!!