【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
【外伝『僕の歌姫』 第十五話 ステラの夢】
湖畔のコンサートが終わり、夕日が沈みかけていた。
湖に映る光がラクスのピンクの髪を照らし、その美しさを際立たせている。
その姿に惹かれるように、ステラとシンは歩み寄った。
二人の足音に気づいたラクスが、柔らかな微笑みで迎える。
彼女はステラの車いすに近づき、穏やかに手を差し伸べた。
「わたくしの歌を聴いてくださってありがとうございます」
そう言ってステラの目線に合わせて膝をつくラクス。
その仕草の優しさに、ステラの胸が不思議に高鳴った。
――女神がいるなら、きっとこの人のようだとステラは思った。
「ラクスさん……今日の歌、とても綺麗で素敵でした」
頬を染めながら見上げるステラに、ラクスは微笑み返す。
「ありがとう。ステラさんにそう言ってもらえて、わたくしも嬉しいです」
沈みゆく陽の中でも、ラクスの声は光そのもののように響いていた。
その歌声に慰められた人はきっと多い。ステラもその一人だった。
───そういえば。
「ステラね、シンにハウメアの石を握ってもらってた時……ラクスさんの歌が聞こえた気がしたの」
「そうでしたか……。
あなたたちのことが心配で、ずっと祈っていました。
シンさんのそばにわたくしの声が届いていたのですね」
ラクスの言葉に、ステラは大きく頷く。
「ステラはもう大丈夫。シンが助けてくれたから」
その一言にシンが照れくさそうに笑う。
二人の間に流れる空気に、ラクスは静かに目を細めた。
想いあう者同士が奏でる優しい音。
それは、かつてラクスがキラと出会って初めて知った“希望の旋律”でもあった。
「ラクスさんの歌を聴いていると、胸が温かくなるの。怖い夢じゃなくて……友達のことを思い出したの」
ステラは先日、夢の中で別れを告げたカナの笑顔を思い出す。
シンの手に救われ、ラクスの歌に癒された。
長く続いた暗闇の記憶が、少しずつ光に溶けていく。
『カナの分まで生きて』
――あの言葉の意味を、ようやく理解できた気がした。
それは「生き延びてほしい」という願いではない。
“未来を託す”という祈りだったのだ。
カナだけでなく、失われたすべての子供たちの夢。
ステラを掴んで水底に沈めようとしていた手は、本当に怨念の手だったのだろうか?
自分を責め続けていたステラは怨念と誤解していたが、あれはステラに未来を託そうとした“希望の手”だったのかもしれない。
「……みんな、最初からステラを赦してくれてたんだね」
ステラの瞳に涙が滲む。
自分を責め続けていたその心に、初めて優しい風が吹き抜けた。
「ステラも、みんなを幸せにしたい」
それは祈りのような呟きだった。
悲劇を繰り返さぬために、誰かを癒す力になりたい。
それが今の自分にできること。
「ラクスさんみたいに、人を幸せにできる歌を歌いたい。
怖い夢を見なくてすむような歌。
絶望の世界を癒すような……それで、ええっと……」
感情が溢れて言葉にならない。
そんなステラの手を、ラクスが静かに包み込んだ。
「無理に言葉にしなくていいのですよ。
ステラさんは痛みを知ったからこそ、人の痛みに寄り添える。
その優しさこそ、歌の原石ですわ」
ラクスの瞳には、かつての自分の姿が重なっていた。
喪失の痛み、戦争の記憶――それを越えて今、彼女は希望を歌う。
「あなたの歌は祈りになるでしょう。
悲しい世界を、きっと温かな世界へ変えてくれますわ」
その言葉と共に、夕日を受けたハウメアの石が柔らかく光を放った。
シンの手の温もり。カナの赦し。
すべてがひとつに繋がる。
「ステラ、ラクスさんみたいに歌いたい。できるかわからないけど」
ラクスは微笑み、ステラの髪をそっと撫でる。
「ステラさんは、もう“癒す声”を持っています。
傷ついた心を包み、希望を灯す声を。
ステラさんが流した涙は、いつか誰かの救いになりますわ」
ステラは頷き、ハウメアの石を見つめた。
小さな光がふわりと瞬く。
それは――
“新しい歌姫の誕生”を祝う祈りの光だった。
ラクスさんから威厳と高貴さが溢れてます。ラクスとステラって同年代なんですけどね。
16話を10/5の12時、最終話を10/5の17時に投稿します。