【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
【外伝『僕の歌姫』 最終話 僕の歌姫】
とうとうこの日が来たとステラは思っていた。
あれから毎日歌の練習を続けてきた。
ラクスさんに教わった事。
ロドニアで過ごした悲しみの日々の事。
失った親友。
ステラを赦してくれた優しさ。
みんなの未来を託された事。
全部ステラの中にある。
過去の絶望も悲しみも、未来の希望も優しさも全部心の中にある。
支えてくれたシンの事。
シンの優しさと強さがステラを後押ししてくれた。
この想いをこめて歌おう。
隣でラクスさんが微笑んでくれた。
きっと歌える。
平和の祈りの歌を。
───静かな風が、花の香りを運んでいた。
ハーバーコロニーの中央広場は、まるで春の祭りのように飾りつけられている。
澄んだ空気の中、湖面を渡る風がステージの白い幕を揺らした。
「……本当に、綺麗だな」
ムウ・ラ・フラガが、照れくさそうに呟く。
隣でマリュー・ラミアスが穏やかに微笑んだ。
「ええ……こんな日が来るなんて、あの頃は思いもしなかったわ」
後方の席では、バルトフェルドとアイシャが肩を並べて座っている。
バルトフェルドはコーヒーを片手に、目を細めた。
「若い才能は眩しいもんだな。……まるで、世界が歌い直してるみたいだ」
「ええ。やっと、“終わり”じゃなくて“始まり”の歌が聴けるのネ」
アイシャがバルトフェルドの腕にそっと手を重ねた。
この歌を聴き終えたら想いを伝えよう。
きっと受け入れてくれるに違いない。
そんな確信がアイシャにははっきりとある。
アイシャは静かに思った。
「この人を愛している。だから、もう迷わない」と。
ステージの中央にはラクス・クラインとステラ・ルーシェ。
ピンクと金の髪が並んで光を受け、二人の姿はまるで“天と地の調べ”のようだった。
ラクスは白いドレス、ステラは淡いブルーの衣装をまとい、マイクの前に立つ。
ラクスが静かに告げた。
「この歌は――希望と祈りの歌。
かつて傷つき、泣いたすべての人へ。
そして、今を生きるあなたたちへ」
ピアノの音が広場に広がる。
ラクスの声が風に溶け、ステラの声が寄り添う。
その調和はまるで光と影がひとつになるようだった。
祈りの全てを優しい声で。
あなたの心に届きますように。
ラクスの透明な歌声が高く響き、ステラが続く。
その声には痛みも涙も混ざっていたが、それこそが美しかった。
痛みと悲しみを知った。
優しさと勇気を貰った。
人を愛する強さを知った。
全ての人にこの想いが届くように。
アスランが息を呑み、隣でキラが目を閉じる。
ラクスの歌声はキラにとって「始まりの音」であり、
ステラの歌声はそれを未来へと繋ぐ「新しい希望」だった。
「……ラクスの歌を初めて聞いた時、僕はただ泣くことしかできなかった。
でも今は違う。僕たちが歩んだ痛みが、あの子の歌で癒えていく気がする」
キラの言葉にアスランは頷いた。
涙と共に引き金を引いた自分達が、いまこうして癒されている。
辛い日々は無駄ではなかった。
「俺たちが戦って掴んだ平和を、あの歌が本物にしてくれるんだな」
───ミリアリアは涙を拭いながらカメラを構える。
サイクロプスによって破壊されたアラスカ基地で、人の業、醜さを見た。
人はこれほど残酷に、無慈悲になれるのだろうかと涙した。
ロドニアで非人道的に扱われた子供たちの末路を知った。
その全てを、今癒してくれた。
きっと世界は明るくなる。
「トール、ちゃんと撮れてる?」
トールはファインダー越しに笑った。
「もちろんだよ。……最高の瞬間だ。
……こんな未来を、ずっと撮っていきたい」
ミリィと一緒ならどこにだっていける。
未来はきっとよくなる。
そんな瞬間をカメラに収めよう。
───ラクスとステラの声が重なる。
ステラの胸元のハウメアの石が、歌に呼応するように光を放った。
観客席の誰もが息を呑む。
その光は希望そのものだった。
『もう泣かないで……あなたの事を忘れない……あなたの想いを受け継ぐから……世界はきっと美しい』
最後のフレーズをラクスが包み、ステラが祈るように締めくくる。
やがて音が止み、静寂が訪れた。
誰からともなく拍手が起こり、次第に大きな波となって広場全体を包んでいった。
涙と笑顔があふれる中、ラクスがステラの手を取って深く一礼した。
───そして、舞台の袖からシンが歩み出る。
片手に持っていた花束は、白とオレンジのユリで飾られている。
白は無垢で純潔。
オレンジは華麗で情熱的。
「ステラ……すごく、綺麗だった」
少し声が震える。
ステラは頬を赤らめながら微笑んだ。
「シン……ありがとう。ステラ、歌えたよ。みんなの夢、ちゃんと届けられたよね?」
「もちろん。……世界中に届いたさ」
シンは花束を差し出し、ステラの手を取った。
その手にはもう、震えはなかった。
ラクスとキラ、マリューとムウ、アスラン、バルトフェルド、アイシャ、
そしてミリアリアとトール――全員がその光景を見つめていた。
ステラは花束を胸に抱き、夕日に染まる空を見上げる。
「カナちゃん……みんな……見てて。ステラはもう壊さないよ。
これからは、歌で“作る”の」
ラクスが隣に立ち、そっと微笑んだ。
新しい歌姫の誕生を喜び共に歌おう。
ラクスの想いが微笑みとなってステラに向けられる。
「あなたの声は、未来そのものですわ。……ようこそ、私の歌姫」
シンがステラの手を握る。
ハウメアの石が再び光り、風が二人を包んだ。
───その光景を、キラは静かに見つめていた。
祈りの歌が、愛の歌へと変わる。
キラの恋人は新たな奇跡をおこした。
心を塞いでいた少女の心を癒し、新しい歌姫を生み出した。
血で汚れた自分たちを赦してくれた。
キラはそっと呟いた。
「ありがとう、僕の歌姫」
次作はシン・アスカが主人公です。
機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH
https://syosetu.org/novel/388968/
これで僕の歌姫は完結です。最後までお読みいただいてありがとうございました。次回はもう少し軽い話を書いてみたいと思います。SEEDで軽い話が書けるか不安ですが
次作はシン・アスカが主人公です。
機動戦士ガンダムSEED DESTINY REBIRTH
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