【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
本当は地球軍の援軍でも出そうかなと思ったのですが折角なので傭兵に出演してもらいました。
多少無理がある設定ですが、余程の高額を提示されたと思っていただければ。
実力はけして正規軍に引けを取らない彼らですが、集団戦闘に慣れていないのと赤服を擁するクルーゼ隊相手だと不利になる設定です。
第16話 飼い犬と野良犬
当初の契約では傭兵達はオーブが秘密裏に開発したMSの完全破壊だったはずだ。
だがザフトの通信を傍受した傭兵の一部は、このままではザフトの攻撃でMSが破壊されると焦った。
またオーブのMSを見た者も抹殺するという契約も彼らを後押ししてしまう。
ザフトは明らかにMSを発見し交戦を行った。
ならどうするか?
ザフトごと破壊すればいい。
冷静に考えて傭兵が訓練されたザフトの正規軍にかなう筈がない。
焦った依頼主が報酬の釣り上げを行った事も彼らの判断を狂わせた。
「たかが傭兵風情が!!」
ミゲル専用のオレンジ色のジンが他のジンと共に傭兵達と交戦する。
傭兵達の主力はMAのメビウスだが、中にはザフトのMSジンに乗る者もいた。
CE世界に生きるもの全てがナチュラル対コーディネイターという訳でもない。
傭兵やジャンク屋という者たちは、職業柄ナチュラルとコーディネイターが共同生活している場合が多い。
皮肉なことに、実力第一主義の彼らはナチュラルだろうとコーディネイターだろうと差別意識は低かった。
意外な所にナチュラルとコーディネイターが共存する未来が存在したのだ。
破壊された機体を修理したのかザフトからの横流しかは分からないが、彼らの操縦するジンは標準型より性能が上なのは各自改造を行ったという事だろう。
ジンを操縦するのは当然コーディネイターだがナチュラルが操縦するMAメビウスの姿もある。
クルーゼ隊所属のジンは全て投入され、奪ったばかりのデュエル、バスター、イージスにも出撃命令が出された。
負傷したニコルは艦内の医務室で手当てを受け、ストライクとの交戦で大破したブリッツは応急修理中だ。
ベッドに寝かされ頭と胸に包帯を巻かれたニコルは見舞いに来てくれたアスランに呟く。
「どうしてこんなことに。こんなはずじゃなかったのに」
「ニコルのせいじゃないさ。俺は出撃するがニコルはゆっくり休んでおくんだ」
アスランはそう言ってニコルの柔らかで触り心地の良い緑髪を撫で医務室を出ていく。
出撃していくアスランの背中を見つめニコルはやるせない思いを抱く。
前回の記憶では8人の戦死者を出したクルーゼ隊だが、今回は6人で済んだ。
生き残った二人は同期のエマとジャンヌだ。
エマは茶髪のショートカットで黒色の瞳をしている15歳の少女。
ジャンヌは金髪のロングヘアで青色の瞳でエマと同じく15歳の少女。
二人ともコーディネイターで容姿も遺伝子で操作された美少女だ。
彼女たちはMS強奪に志願して参加した。
エマはジャミングを、ジャンヌは射撃と格闘が得意だ。
緑服とはいえその実力は折り紙付きでMS戦闘もトップクラスの成績をもつ。
ニコルは戦死した6人の事も当然覚えている。
みんなザフトの優秀な戦士だった。
彼ら彼女らの犠牲を無駄にしない為にも、ストライクは破壊しなくてはならない。
◆◆◆
「エマ、そっちに一機行ったよ」
「了解。逃がすものか」
エマとジャンヌは即席のコンビを組んで傭兵達と戦っていた。
ジャンヌが追い詰めたMAのメビウスをエマが仕留める。
彼女たちのコンビは合計3機のメビウスを撃墜していた。
二人の乗るジンは亡くなった6人の遺品となってしまったジンだ。
しかし、そんな事は関係なく、このコンビは抜群のコンビネーションを発揮していた。
それは二人が同じ孤児院で育った幼馴染だからかもしれない。
お互いの事を信頼しているからこそ、息のあった連携が出来るのだろう。
「そういえば、エマはいつになったらイザークに告白するのだ?」
「今聞く事?」
「いつ死ぬかわからないから、ちゃんと思い残す事無いようにしたほうが良いぞ」
「あのねジャンヌ。イザークが恋愛に興味あると思う?」
「まあ無いだろうな」
そう返してエマはため息をついた。
彼女が好きなイザークはストイックな性格なので恋愛に興味はないだろう。
告白なんてしたら『作戦中に何を考えている!!』と怒鳴られるのがオチだ。
だが、それでも好きになってしまったものは仕方ない。
それが出来ないのが恋というものなのだ。
エマは自分の性格をよく理解していた。
そして、イザークの性格もよくわかっていた。
彼は自分が女性に好意を持たれている事を知ればどう思うだろう。
「ジャンヌこそどうなのよ。さっさとディアッカに告白してフラれなよ」
「フラれるのわかってて好きになるのは辛いものだ」
ジャンヌはディアッカが好きだ。
生真面目で気が強いジャンヌ。
とてもお似合いとは思えない。
また女好きのディアッカはジャンヌだけを見てくれるとは思えなかった。
自分はディアッカだけを見て居られるがディアッカは束縛されるのは嫌だろう。
きっとフラれるに決まっているし、受け入れてもらっても性格の不一致はどうしようもない。
なぜディアッカの事が好きなのかと問われれば、彼の斜めに構えた行動の裏に紳士的な一面を無意識に感じていたからだ。
ジャンヌは自分では気が付いていないが、人を見る目は確かだった。
しかし物理的な壁もある。
親同士がコーディネイターから生まれた者は極端に子供ができにくい。
だから遺伝子的に子供を授かりやすい相手と婚約する。
いくらジャンヌが望んでもディアッカとの間に子供を授かる可能性は低い。
二人とも戦闘中に軽口を叩きながらまた一機のメビウスを撃墜した。
けして敵機を舐めている訳ではない。
怖いのだ。
二人にとってMSでの戦闘が今回が初めてで、MAメビウスだけを攻撃するように命令されている。
傭兵の乗るジンはコーディネイターが操縦している。
戦いに慣れた傭兵のジンは二人には荷が重すぎる。
そう判断したクルーゼ隊長はまず実戦慣れさせようと判断した。
エマとジャンヌにとって幸いなのは、この戦闘に青いジン。
傭兵サーペントテールのパイロット叢雲劾(むらくも・がい)が参加していない事だ。
もし彼が参加していれば二人にとって最初で最後の戦闘になったのは間違いない。
◆◆◆
「ね~劾。あたしたちは参加しなくていいの?」
舌ったらずな言動をする幼い少女、サーペントテールの風花・アジャー(かざはな・あじゃー)が傭兵達の機体が次々と撃墜されていくモニターを見て聞く。
風花・アジャーは幼女とは思えない判断力を持っていた。
「依頼はあくまで未発見オーブの機体の破壊だ。ザフトと戦う事じゃない」
劾がそう言ってモニターに映る戦闘を眺める。
戦況はザフト側が優勢でそれは構わない。
だが劾にとって許しがたいのは依頼主が契約を違えた事だ。
「俺たちも馬鹿にされたものだ」
「え? どういうこと?」
「俺たちが仕事に失敗した時の保険に他の傭兵を雇ったって事さ」
「ふぅん……でもさ、それって私たちの事舐めてるよね」
「ああ、だから俺は気に食わないんだ」
劾の言葉を聞いて風花は笑う。
その笑い声はまるで鈴の音のように心地よい音だった。
そして戦場では傭兵達が次々に撃墜されていく。
まさか相手がザフト最強のクルーゼ隊だと傭兵達は知らない。
次第に劣勢になり敗走していく。
「奴ら尻尾を巻いて逃げていきました。追撃しますか?」
「あまり面白い冗談ではないなアデス」
「失礼いたしました。ヘリオポリスへの攻撃を再開します」
こうして再び本来の未来が歪んでいく。
傭兵達と戦っている間にアークエンジェルが出航したのだ。