【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
ニコルってカタログスペックは安定の三位といいですけど、実際にはあまり強いというイメージが無いのですよね。
所謂成績は良いというタイプ。
対するキラは主人公とはいってもほぼ経験なしですし、ムウは歴戦のエースパイロット。
かなり厳しいです。
第19話 ニコルVSキラ&ムウ
ビームサーベルを抜いて、ストライクとキラに止めを刺そうとするニコルは反射的に放たれる砲弾を避ける。
砲弾を撃ちながらムウ・ラ・フラガのメビウス・ゼロが割り込んできた。
ストライクとブリッツの間に割って入ったメビウス・ゼロは、有線式ガンバレルから実体弾を放ちニコルをストライクから引きはがそうとする。
「くっ」
乱気流に巻き込まれてバーニアが全力で噴かせないブリッツでは機動力に勝るメビウス・ゼロを相手にするのは不利だ。
だがニコルは目の前のストライクが、キラ・ヤマトがいかに恐ろしいパイロットであるか知っている。
たとえ自分が戦死しても今殺しておかなければならない。
彼がアスランの親友でもだ。
「おいおい本気かよ!?」
メビウス・ゼロを操縦するムウ・ラ・フラガはブリッツの注意を引き付けストライクから引きはがそうとしている。
だがストライクに当てないようにしているとはいえ、ブリッツのパイロットの行動は不可解だ。
機動力が低下するのも構わずストライクにビームサーベルを振り下ろす。
死ぬのが怖くないかのように。
「うわあああっ!?」
ニコルの殺意にキラが目を見開く。
必死にストライクを操作してブリッツから逃れようとするが逃れられない。
「どうして君は!!何度も!!何度も!!そんな目で僕を見るんだ!?」
キラはむき出しの殺意に狼狽しつつシュベルトゲベールを抜いてニコルと切り結ぶ。
混戦の中でブリッツが左腕に装備しているロケットアンカーのグレイプニールがストライクの足から外れた。
自由になったストライクとメビウス・ゼロを相手にニコルは圧倒的不利になりながら一歩も引かない。
ニコルはここでキラを殺しておかなければ沢山の犠牲者が出ると知っている。
自分が死ぬことも怖いが、アスランがイザークがディアッカがミゲルがラスティがみんなが死ぬのはもっと怖い。
ニコルは視野狭窄に陥っていた。
仲間を死なせないために自分は死んでもいいという覚悟。
その覚悟こそがニコルの強さであり、同時に弱さでもあった。
今のニコルではキラに勝てない。
あの時だってそうだった。
だが、今のニコルにはそれすら理解できないほど追い詰められていた。
自分がもう一度今の時間をやり直しているのはキラを殺すためだとニコルは思っている。
ニコルが本当に望む世界をつくる答えを考える余裕も無くしていた。
キラを殺すことが答えではないのに。
それを知るにはニコルは幼過ぎた。
「落ちろ!!キラ・ヤマト!!」
ニコルは彼らしからぬ猛々しい叫びを発しつつビームサーベルを振る。
キラも一歩も引かない。
激しい接近戦を繰り広げるのでムウは手が出せない。
牽制に放つムウの攻撃を無視してニコルがキラに挑むので狙い撃つ事もできない。
「くっ……あいつ何者なんだよ」
ムウは歯噛みするしかない。
次第にストライクのエネルギーが限界に近づく。
コクピット内に響く警戒音に焦るキラと警戒音さえ耳に入っていないニコル。
「エネルギー残量が!?」
「うおおおおっっ!!」
ニコルは絶叫しつつ斬りかかる。
その攻撃をかわした瞬間にキラはストライク頭部に装備された75mm対空自動バルカン砲塔システム「イーゲルシュテルン」を撃ち込んだ。
本来地上や艦船に装備されている武装をMS頭部に装備しているので、弾数は少ないがフェイントには十分だ。
一瞬だけブリッツがストライクから離れた瞬間をムウは見逃さなかった。
メビウス・ゼロから放たれた砲弾がブリッツのバーニアに直撃した。
「うわぁああああっ!?」
直撃を受けブリッツは大きく弾き飛ばされる。
ブリッツはバーニアの損傷が激しくて機動力が大きく低下していた。
「くそぉおおおおっ!!」
それでもニコルはすぐに体勢を立て直すと再びキラへ挑みかかった。
だが先ほどまでの勢いはない。
ムウも射撃を止めない。
そして遂にエネルギー切れを起こしたのかシュベルトゲベールを構えていたストライクの動きが止まった。
フェイズシフトダウンをおこしてストライクは元の鋼鉄色になる。
その隙を逃すことなくニコルは再び突進してサーベルを振り下ろしたが、その攻撃が届く前にブリッツのバーニアが爆発してしまった。
コクピットで激しいGに耐えながらそれでもニコルは操縦桿を手放さない。
殺意を込めた瞳でストライクを、キラを睨みつける。
ストライクをフェイズシフトダウンまで持ち込んだ。
刺し違えればキラに勝てる。
「ニコルーーーッ!!」
機体各部の駆動系に異常が発生して満足に動けないブリッツを守るように、後方からアスランのMA形態イージスが突っ込んできた。
イージスはムウのメビウスゼロをライフルで牽制しながら、ニコルのブリッツを鉤爪で掴みヴェサリウスへと退却する。
「アスラン離して!!今ならキラを!!ストライクを倒せるんです!!」
「冷静になれニコル!!ブリッツはもう戦える状態じゃない!!」
「必要なら自爆してでも倒します!!」
「馬鹿な事を言うんじゃない!!」
「───うあああああっっ!!」
アスランに助け出され戦域を離脱したニコルはコクピットの中で号泣しつづけた。
◆◆◆
ヘリオポリスの残骸が漂う宙域でストライクのコクピットに乗ったキラ。
コクピットの中でキラは手の震えが止まらなかった。
周りにも家族にも愛されて生きて来たキラは、あんな悪意に晒されたのは初めてだ。
けして命を軽んじて来たのではないけど、MS同士の戦いはまるで他人事のように思えていた。
相手も同じ人間だという事を忘れていたのだ。
キラにも大切な家族や友人や故郷があるのと同じで、ブリッツのパイロットにも大切な人がいるのだろう。
ほんの数時間前まで民間人だった少年に、戦争に参加させられたという事実を受け止めるには時間が無さ過ぎたのだ。
「X105ストライク!!キラ・ヤマト!!」
自分を呼ぶナタル・バジルール少尉の声が遠くの風音のように聞こえる。
目の前にはかつて暮らした平和なコロニーの残骸が浮いている。
「どうしてっ!!どうしてこんな事に!!」
震える手で操縦桿を握りながら、キラは嗚咽しながら俯いた。
出会いが違えば親友になれた少年たちの戦いはまだ続く。
◆◆◆
ヴェサリウス艦内でクルーゼに事情説明したアスランがニコルとアスランの部屋へと戻ってくる。
ニコルは損傷したブリッツの修理をみて帰ってきた所だ。
「……ニコル」
アスランは悩んだ末にニコルへと声をかける。
ニコルは生気の無い瞳をアスランへと向けた。
「アスラン先ほどはありがとうございました。アスランが来てくれなかったら、間違いなく僕は死んでいました」
そう言って無理に微笑むニコル。
ブリッツはいつ爆発四散してもおかしくない損傷だったのだ。
「でもどうしてあの時、僕を放っておいてでもストライクを撃墜しなかったんですか?あのメビウス・ゼロが邪魔したっていう言い訳なんて聞きたくないです」
「……それは」
「そんなに親友が大切ですか?戦死した仲間たちよりキラ一人が大切なんですか?」
「……」
アスランは何も言えなかった。
確かにあの場でストライクを落とす事は可能だっただろう。
だがアスランはキラを撃てなかった。
それを言葉にして伝える事は出来なかった。
自分がどうしたいのか、何が正しいのか。
アスランにもその答えがわからなかった。
「キラは僕が倒します」
「───ニコル」
「アスランは優しい人です。だから親友を殺すなんて出来ないでしょ?」
そう言うとニコルはアスランに微笑んでから部屋を出て行った。
格納庫で整備スタッフとブリッツの修理について話をするのだろう
残されたアスランは呆然と立ち尽くしていた。
ニコルの笑みはアスランの親友を殺さなくてはいけない、親友の親友を殺さなくてはいけない、やりきれない悲しみに満ちていた。