【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
アスランの父親パトリック・ザラが思想は兎も角有能ではあるのですけど、ニコルパパのユーリ・アマルフィも技術者兼政治家を兼ねる人なんですよね。
一芸だけで何芸にも長けるコーディネイターってやっぱ滅ぼさなきゃ(ブルコス脳)
第22話 望まぬ帰還
ヴェサリウス艦内の艦橋で通信兵から本国の電文を受け取ったクルーゼは不敵に笑う。
そしてその電文をアデスに渡した。
「本国への出頭命令ですと!?ここまで足付きを追い詰めたというのに」
アデスは無念の思いを口に出したが、出頭命令を受け取ったクルーゼは涼しい顔で笑みを浮かべる様な余裕があった。
アデスの上官はいつも冷静沈着で動じることがまず無い。
先ほどのMAの奇襲では憤怒していたがあのような事は今までなかった。
本国へ出頭させられたら査問にかけられるのは明らかなのにだ。
「どちらにしろヴェサリウスは本国で修理しなくてはならないし、地球軍のMSの戦況報告も必要だろう。アスランを連れて行く。足つきはガモフに追わせよう」
「地球軍のMSならニコルのほうが経験豊富ではないですか?」
「ニコルでは弱い」
「は?」
「気にするな。アスランを本国へ連れて行く」
アデスはクルーゼの意図を掴み損ねた。
クルーゼは査問会の後ろ盾にプラント最高評議会議員で国防委員長のアスランの父親パトリック・ザラを選んでいた。
パトリック・ザラは反地球反ナチュラル派でこの戦争の実質的指導者だ。
またクルーゼはパトリック・ザラと懇意にしている。
お互い利用しあう関係でもある。
ニコルの父親のユーリ・アマルフィはプラント最高評議会議員で科学者、技術者も兼ねる政治家だが意志が弱い。
プラント最高評議会議員のオーソン・ホワイトが開発した核分裂を阻害するニュートロンジャマー(長いので以後はNジャマー)の開発にも携わっているが、けして過激な反地球反ナチュラル派ではなく、どちらかというと地球との融和とナチュラルとの共存を模索するラクス・クラインの父親シーゲル・クラインの思想に近い。
ユーリ・アマルフィはNジャマーの効果を打ち消すNジャマーキャンセラーの開発も行っているが、その秘密を知るのはごく限られた人物のみ。
ユーリ自身も開発はするが使うつもりは無く、これ以上の戦火が広がらない事を願っていた。
クルーゼにとってパトリックとユーリのどちらが後ろ盾になるか。
思想実力ともにパトリック・ザラが適任だった。
◆◆◆
「私が本国にですか?」
クルーゼの私室で一緒に本国へ帰還する事を告げられたアスランは困惑した表情を浮かべた。
クルーゼ隊には他にイザークやディアッカといった面々も居るのだが、ストライクとの交戦経験はけしてアスランに劣るものでは無い。
まして一番交戦経験があるのはニコルだし彼が適任だと思う。
クルーゼと自分の父親の関係を知らないアスランにとって不可解な命令であるのに加えて、アスランには予想される最悪の事態が思い浮かんだ。
ニコルのキラへの殺意が尋常ではないのだ。
もしアスランが止めなければ、自爆もいとわずニコルはキラを殺すだろう。
アスランにとってキラは大切な幼馴染の親友で、ニコルはザフトアカデミーで知り合い秘密を共有した親友で弟のような感情を抱いている。
二人ともアスランにとって大切な存在だ。
どちらかを選ぶなんて出来るはずがない。
アスランはニコルを戦死させたパイロットはキラではないと淡い期待を抱いている。
常識で考えて、一般人の学生であるキラをストライクの専属パイロットにする事はありえない。
どこかの基地で地球軍の正規パイロットと交代させられる筈だし、キラはコーディネイターだ。
地球軍がコーディネイターをパイロットのままにしておく筈がない。
その場合、キラにはもっと過酷な運命が待ち受けているが。
(だから早く降りろと言ったんだ!!)
コーディネイターだと知られた時、キラがどのような目に合うか考えるだけでもおぞましい。
親友のそんな未来は想像したくなかった。
命令に背く事は出来ない。
たとえ階級が無くても上下関係が無ければ軍隊ではない。
アスランはクルーゼと共にプラント本国への帰還が決まってしまった。
◆◆◆
出発前にアスランはニコルと話をしようと格納庫へとやってきた。
ニコルは無重力下の格納庫で整備主任と話をしながら、ブリッツガンダムの調整と修理の打ち合わせをしていた。
「ニコル、少しいいか?」
「どうしましたアスラン?」
そう言ってニコルは振り向くと、いつもの優しい笑顔でアスランを見つめる。
その笑顔を見ると胸の奥がきゅっと締め付けられるような感覚を覚えた。
しかし今は感傷に浸っている場合ではない。
この先、自分や仲間達がどんな運命を辿るのか分からないのだ。
だが、それでも今は自分の気持ちを素直に伝えておきたかった。
だからアスランも精一杯の笑顔を作ってみせた。
それは傍から見ればぎこちなく映ったかもしれない。
「すみません。少しだけ離れます」
そう言ってニコルは整備主任と別れてアスランとパイロットルームへ向かいロックをかけた。
アスランの様子に秘密の相談を持ち掛けてきたのを察したのと、その話題がキラ・ヤマトの事だと気が付いたからだ。
ニコルもストライクのパイロット、キラ・ヤマトがアスランにとって幼馴染の大切な親友だと知っているしアカデミー時代はよくキラの話を聞かせて貰った。
もしこんな出会いでなければ友達になれたと思う。
ニコル自身もキラとこんな出会いを望まなかった。
「ニコル。俺はXナンバーとの戦闘記録と証言の為に、クルーゼ隊長と一緒にプラントに戻る事になった」
「そうですか。ラクス様も喜ばれますよね。必ず」
「わかっている。式典の警備は万全にしてもらっている」
ラクス・クラインはプラントの歌姫だ。
ふわりとしたウェーブのかかった長いピンクの髪と可愛らしい容姿、そして類まれな澄んだ歌声でプラントで彼女を知らない人はいない。
アスランの婚約者であり、仲睦まじいというイメージがある。
実際は男女というか友達くらいの関係なのだが。
ラクスが血のバレンタインの惨劇の場となったユニウスセブンで追悼式典を行う事は既に決定されている。
彼女が行方不明になる事も、後に救出される事もニコルは知っている。
勿論アスランにも伝えてあるが国家行事を止める手立ては二人には無い。
せめて護衛の数を増やすという対策をアスランの父親のパトリック・ザラに懇願するくらいしかできなかった。
「ラクスの警備を強化してくれと頼んだから、きっと父上は俺に失望しただろうな」
「婚約者を大切に思う良いパートナーだと僕なら思いますよ」
ニコルは真面目な口調で返す。
前世より式典の警備を強化すればラクスの災難も回避できるだろう。
そう信じるしかない。