【完結】僕のピアノよCEに響け。逆行したニコルが絶望と悲しみの世界をやりなおします。 作:屠龍
第25話 アルテミス陥落
ニコルのブリッツが発進したあと、ガモフはアルテミス要塞の防空圏内を離脱した。
アルテミス要塞にとってはいつもの事だ。
敵はアルテミスの傘がある限りこちらを攻撃できない。
基地司令ジェラード・ガルシアの怠惰さはアルテミス要塞内部の士気を低下させていた。
防御に秀でているが戦略的に無価値な位置にあるアルテミス要塞は攻略する意味さえない。
ただ宇宙に拠点があるという政治的宣伝にはなっている。
プラントと戦う難攻不落の要塞。
存在する事だけが唯一の価値となれば部下が緊張を保つのは難しい。
「定時哨戒、近接防空圏内に敵影なし」
「よしもういいだろう。全周囲光波防御帯収容第二警戒態勢に移行」
アルテミスの管制室はいつも通り敵艦が攻撃を断念したと判断した。
いつもの事だ。
アルテミスの傘は出力を停止し、傘が消えた。
「経験済みとはいえ、この油断には敵ながら呆れますね」
ブリッツに搭乗するニコルがため息をつく。
敵が無能なのは歓迎するべきなのに、無能の上官のせいで死ぬ部下は災難だ。
すぐ意識を切り替えてニコルはアルテミス搭載の岩壁に取り付いた。
誰にも気づかれた形跡はない。
前回は警戒しすぎていてミラージュコロイドを余分に使用して電力を消耗してしまった。
てっきり防御機銃などがあると思っていたのだ。
だがそんな立派なものさえ配置していない事を知っているニコルは、右腕に装備されたトリケロスという、ビームサーベル、ビームライフル、ランサーダートを装備した盾を構える。
光波防御帯を作り出すリフレクターをビームライフルで撃つと同時にミラージュコロイドを解除した。
これで前回より長く動けるし、今回は足つきを港から追い出すだけなので電力に余裕が出来た。
◆◆◆
キラがコクピットに入りキーボードを走らせながらOSの解除を行っているとアルテミス要塞が激しく振動した。
キラの周りにいた技術者と兵士が狼狽した瞬間、キラは近くにいた技術者を蹴り飛ばしコクピットハッチを閉める。
兵士の一人が銃を構えるが当然無意味だ。
「下がってください!!攻撃されてるんでしょう!!」
そう言ってキラはストライクを起動してソードストライカーを装備して、カタパルトレーンへと歩き出す。
ストライクを操縦しながらキラは親友たちの事を思い出していた。
ナチュラルのトールもサイもカズイもミリアリアもキラがコーディネイターだと知っても差別しなかった。
それはヘリオポリスがナチュラルもコーディネイターも等しく受け入れる中立国家オーブに所属している事が大きかったが、それ以前に変化を受け入れる若い柔軟な心を持っていたからだ。
コーディネイターのキラは能力が高く、トールなどはキラに宿題のレポートを代筆して欲しいと冗談交じりに言うほどだった。
そんな彼らだからこそ、アスランの説得に応じず戦いたくもない戦いに身を投じたのだ。
それなのに。
『君は裏切り者のコーディネイターだろう?』
基地司令ガルシアの言葉はキラの心をナイフでえぐるように深い傷をつけた。
裏切り者…裏切り者…裏切り者。
キラの心を何度もガルシアの言葉が傷つける。
「僕は…僕は…裏切り者なんかじゃない!!」
◆◆◆
貴賓室から逃げ出したマリュー、ムウ、ナタルらはアークエンジェルの艦橋に上がった。
そのまま待機していたブリッジクルーと一緒にアークエンジェルを緊急発進させる。
港の中は大混乱でアルテミスの傘が破られた事に狼狽し逃げ惑う兵士と士官はまともな対策を取れないでいた。
その光景を見ながら、ニコルは停泊しているユーラシア連合の艦船を次々に破壊していく。
狼狽した艦はまだ機関部の稼働さえ行っていない。
油断という生易しいレベルじゃない。
「あなた達は冬眠していたんですか?」
呆れながらも艦船の機関部を破壊しミサイル発射管や弾薬庫をビームライフルで狙撃した。
ニコルは連合の艦船の弱点を良く知っている。
ザフトの知識だけでなく、実際に戦った記憶で知っているのだ。
一発のミスもなく弾薬庫を破壊された艦船が爆発する。
そしてイザークのデュエルも到着し、一緒に港の破壊を行った。
「絶好調だなニコル」
「はい。このまま足つきを倒しましょう」
イザークの言葉にニコルが返す。
前回は戦果に興奮したものだが、もう一度戦ってみると地球軍の兵士の顔を見る余裕も出来ていた。
皆怯えて狼狽えて、我先に逃げ出そうとしている。
あの人たち一人一人に家族や友人や恋人がいる。
そう考えたら戦果自慢などする気がおきない。
ニコルは射撃のたびに心の中で祈りつつ引き金を引いていた。
そんなニコルの戦い方をイザークは驚きつつ見る。
まるで沢山の修羅場を潜り抜けたような戦い方だ。
クルーゼ隊ではミゲルが最古参だが、彼でさえ戦果に興奮していただろう。
既に港は管制室から武器弾薬の貯蔵施設まで正確にニコルの射撃で破壊されている。
「俺も負けてはいられないな」
イザークのデュエルもビームライフルで、今更迎撃に飛んできたMAメビウスを撃ち落としていく。
MAメビウスはザフト赤服のイザークにとって只の的でしかなく、唯一の利点の機動力は港の爆発と船の残骸のせいで飛び回れず。
否応なくイザークに正面から攻撃するしかない。
メビウスのパイロットに憐れみさえ感じる。
イザークはデュエルの高機動を生かしながら破壊されていく艦船やメビウスをかいくぐり、軍港の奥で係留されているアークエンジェルに迫った。
「見つけた。ニコルどこにいる?」
「今攻撃中です」
アークエンジェルに取り付こうとしているニコルのブリッツはストライクと交戦中だった。
イザークはニコルと組んでストライクとの戦闘に入る。
ビームライフルからビームサーベルに持ち替えて、ストライクへと切りかかった。
だがその瞬間、ストライクが突然加速してイザーク機との距離を離す。
そしてイザーク機の背後へ回り込むように動き始めた。
それを察したイザークはスラスター全開で回避行動に移る。
しかし完全に振り切る事は出来ず、背中にビームサーベルの一撃を食らってしまった。
コクピット内が大きく揺れる。
だがイザークはその衝撃に耐えつつ、素早く反転すると再びビームサーベルを構え直した。
「やるじゃないかストライク!!」
「イザーク援護します」
「ニコル、援護は任せたぞ」
ブリッツがランサーダートを発射するとストライクが避けようとしてバーニアを吹かした。
その隙を狙ってデュエルが接近する。
そしてすれ違いざまにビームサーベルを振るった。
だがストライクも咄嵯に反応したのかシールドを構えるとビームサーベルを受け止める。
そのまま鍔迫り合いの状態に入った。
デュエルはバランスタイプの機体なので、無理に押し合いをせずストライクのビームサーベルを受け流す。
実戦経験の差で狭い軍港の戦いはイザークとニコルの優位に進んだ。
デュエルはストライクから距離を取るとビームライフルを構えた。
それを見たストライクが回避行動に移る。
だがそれは予想済みだったらしく、イザークは即座にトリガーを引いた。
放たれた高出力ビームがストライクに迫る。
それを横っ飛びして避けると、同時にブリッツが攻撃を仕掛けてきた。
ブリッツの斬撃を避けながら反撃の機会を探る。
だがデュエルの攻撃が激しくて中々反撃出来ない。
アルテミス軍港は炎と爆発と叫びの業火に包まれた。